酔っぱらいは自分以外の〇〇な話を聞きたい。
R15は保険です。
不幸話という事で嫌な気持ちになる方もいらっしゃるかもしれませんので自己責任でお願いします。
「あー、もうっ!! なんでもいいから不幸話が聞きたいっ!!」
ダァン!! と音が聞こえそうな勢いでジョッキを置いた私。
最近、心がささくれ立っているからか“他人の不幸は蜜の味”を欲していたりする。決して旦那とケンカしたからではない。決して。
「何々ー? ダンナとケンカでもしたぁ?」
「んん? 茜の旦那って、単身赴任中だったよね?」
すかさず返してきたのは久々に集まった高校時代からの親友たち、千花と圭子だ。しかも理由が合ってる。
「ケンカしたって訳でもないけどー……」
「あぁ、また一方的に拗ねて連絡くれなくなったの?」
「茜のダンナってすーぐ拗ねるよね、ウケるw」
自分の言った事を忘れて、小さな記憶改竄するのは止めて欲しい。
結果どうなったかの話はしてない、その前段階の話を覚えてるから注意してるのに何もなかったみたいに拗ねて連絡しなくなる。そうしたら困るのは自分であろうに……なんでいっつもこっちが気を使って連絡しやすい状況を毎回作ってやらないといけないのか。ほんっと愛を感じられないわー。
「で? お優しい奥様である茜は、いつものように『向こうが何かあったら連絡し辛いのは困るだろう』と怒りを押し込めて定期的に連絡を入れてあげてると」
「さすがに2週間ほど既読スルーはイラつくわー」
「うっわー、もう離婚待ったなしでよくなーい?」
「離婚待ったなしはとうの昔に越えてる。でもその時にいきなりの大雪で交通網が全ストップして実家に帰れなかったから諦めた」
「何ソレw なんでそんなコトになんのー?」
「きっと、結婚の挨拶の時の母さんが言った『返品不可だから』っていうのが効いてるんだと思うよ」
「茜のお母さんってホント強いよね!」
「否定できない……」
あの時は何だったかなー? 結婚して初めて大喧嘩してどうにも気持ちがおさまらなかったら、落ち着こうと思って実家に連絡入れてる最中に雪が降りだして外に出る事すらできなくなったんだっけ。
『仲直りしろって事よ。まだまだ結婚して少しなんだし、これで別れるのも勿体ないかもね』
しばらくはお互い無言で、私もストレスたまってたし雑誌をビリビリにやぶいてそのまま部屋の隅に山を作ってドン引きさせたっけ。どんどん積もっていく山に何かを感じ取ったのか、いつのまにか普通に話をするようになってたなぁ。1か月くらい山を残してたのはワザとだけども。
「私の話はいいの!! 千花は何かないの?」
「あたしー? 不幸話かぁ……駅からバス乗ってまでつけられた事ならあるよ」
「こっわ……」
「中々の距離ね」
千花は気軽にいうけどそれは軽いストーキングでは?
「えっとねー? 彼と駅で別れてー、帰ろうと思ってバス待ってたらんなとなーく『あ、こいつちょっと嫌だな』っていうスーツの人が近くにいてね? すぐバス来たから乗ったんだけど、その人も乗ってきて『良かった、離れて座った』って思ったんだけどおりないの」
「ん? どういう事?」
「そのバスの路線だとあたしの家って終点に近くって、途中でほとんどの人がバスおりちゃうの」
「なのに最後まで一緒だった……とか?」
「そう!! やっだー、あたしってば自意識過剰w って最初は思ってたんだけどねー。その後のコンビニはしごにもついてきた」
「意味わかんない、こっわ」
「とりあえずー、家までの間にコンビニ数件あるからそれぞれで時間つぶしてー、姿が見えなくなるの確認してから帰ったー」
「無事で良かったわね、千花」
ほんと何かあってもおかしくない感じはするけど、千花だからなー。たまに大袈裟にいう事があるから話半分に聞いておかないと。圭子も分かってるからか話をたまに逸らしたりしてる。
たまにはこんな風に集まって飲むのもいいなー。
「あ、そうそう着いてくるで思い出したー」
「まだソレ系であるの? 千花」
「いっつも彼が家の近くまで送ってくれてたんだけどー」
「それはさっきの彼とは違うの?」
「ちがうよー、バスのことあってから車もちとしか付き合わないことにしたの♪」
すっごい笑顔で言ってるけど千花……それもどうなの? そういえば千花は男が切れたことがないタイプだっけ。ちょっとその技を伝授していただきたい、いや結婚してたわ私。
心の中で一人ボケツッコミをしつつ話を聞く。
「家の近くって一通が多いから大きい通りでおろしてもらってたんだけどねー」
「前に住んでた所って確かに一方通行多かったわね」
「あたしだってさすがに? 悪いなって思ったからそうしてたんだけど……」
「千花にしては珍しい」
「茜ってばひっどーい!!」
「で?」
「その時に住んでた家ってマンションだったじゃん? 郵便受けに手紙ないかな? って確認してたら後ろから羽交い絞めされたよねー」
「え? 無事?」
「無事だからここにいるーw 乙女の荷物って重いからカバン振り回してひるんだ隙に逃げたよー。それからは一通だからっていう遠慮はなしにして家に入るまでは彼に見守ってもらうことにした」
「そんなヘビーな話は聞きたくなかった」
「えー? 不幸話を聞きたがったの茜なのにー!!」
不幸話を肴にお酒を美味しく飲もうと思ってたのに……ちょっとそれはナシな方向で。軽いのがいい、軽いの。笑えるようなヤツ。
「次は私かな?」
「圭子の話って滅多に聞けないから期待してる」
「期待はしない方がいいと思うけど、そうねぇ……」
この3人の中ではどちらかといえば真面目な圭子だからこその話って面白そう。
「朝方まで飲んでタクシーつかまらないから歩いて帰ってた時にかなりのご年配がコート広げてフルオープンしてたのなら見たことあるわ」
「「え!?」」
「スルーしたら別の道つかってもう1回見せてくれたわね」
「「え? 待って!?」」
「朝から元気ねー、朝っていう時間かしらー? って思ったけど」
「驚きもしない圭子が凄い」
「飲みが続いて、連日タクシーで出社してた時期があるんだけど」
「どんだけ飲んでるの」
「しばらくしてからタクシーの運転手さんに『最近お見掛けしませんでしたね』って言われて『そうですか?』って返したら『足で覚えてたので、思わず声かけちゃいましたよー』って乗車を促された事もあるわ」
「「待って? 『足で覚えてた』って何!?」」
「その運転手さんの好みの足だったらしいわ、私」
面白い処かこっちもほんのり怖い話だった……不幸話って言いながらちょっとした女の魅力自慢になってない? あれ? 最初からそうだった?
「私は笑える不幸話が聞きたかった……」
2人はそれを聞いて面白そうにお酒を飲み干していく。どんだけ飲んでるの……
「不幸話てそんなものよ、茜」
「あたしもそう思うw」
酔いがさめそうになってると携帯がなる。あれ? 旦那から?
「……なんかさー? いきなり〇〇日に帰るからって連絡きたんだけど」
「何々? ダンナから?」
「2週間も既読スルーでいきなりどうしたのかしらね?」
ほんといきなり何なのかしら。と思いながらも向こうからの連絡に安心してしまう私がいる。
駄目だなー、これだけで嬉しいなんて。
「茜が元気になったことだしお開きにしますか」
「そうだねー、もうイイ時間だし帰ろうか」
「……別に元気になったとか……」
「「はいはい、わかったわかった」」
千花と圭子に促されてお店を出る。
ささくれ立ってた心もいつのまにか元に戻ったような気がする、途中の話がアレだったけども。
「どうやって帰る?」
「まだ早い時間だからバスかな」
「あたしはー、お気に入りのお店に顔出してくねー。バイバーイ」
千花はそういうと近くで待ってたらしい男の人と一緒に去ってい……
「え?」
「今の彼、ホストみたいよ」
「いつのまに待ち合わせしてたの……?」
「ずっと携帯を触ってたじゃない」
確かに千花は携帯を触ってる事が多いけど、いつのまに?
「とりあえずバス停まで送るわね、私も方向は一緒だし」
「あ、うん。ありがと」
……気分転換には、なった……のかな?
……どこかに実話が混じっているかもしれません。
人生、何があるか分からないよね!!