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勇者召喚に巻き込まれたけど、僕、捨てられたので、魔王軍に付きます。

作者: 灰色蛍

自分の人生の主役は自分自身だ。

良く聞く言葉だが、それを実際に思えるのは難しいだろう。

どうしたって人は人と自分を比較する。

目の前に物語の主役めいた人がいれば、さらにそうだろう。


だけど、それに甘んじるのはダメだ。

甘んじて、自分は脇役、おまけのような存在なんだと諦めれば待っているのは誰かにいいように使われ、使えなくなったら棄てられる、そんな糞みたいな人生だ。


だから僕はーーーーー。





あの日、現実離れした事が起こった。

学校の昼休み、突然床が光った。

その光に一瞬にして意識を持っていかれ、気が付けばよく分からない場所にいた。

西洋風の変な鎧を付けた騎手風の人やローブやマントを付けた魔法使い風の人、ドレスを着たお姫様みたいな人やその付き人みたいな人。


そういった人に囲まれていた。


だが、誰も僕を見ていなかった。

皆が見ていたのは僕ではなく、僕の少し前にいる男。

クラスの人気者でサッカー部のエースで綺麗な幼馴染みの美少女にツンデレの美少女義妹がいる男、“帝 皇路 みかど おうじ”。

イケメンでモテモテで、ラッキースケベの化身。全男子の敵。


みんなの注目はそいつで、僕はおまけ。

『あぁ、』と理解した。僕はこいつのおまけ、ついでなんだと。


何がなんだか解らなかったが、それだけは直ぐに理解できた。


詳しく話を聞けばそれはふざけたような話だった。

ここは異世界で、魔族侵略を受けている。

このままでは人類は終わる。だから、異世界の勇者を召喚して魔王を倒してもらいたい。


物語なんかでは良くある話だ。


そして、異世界の人たちは勇者帝皇路を褒め称えた。誉めて煽てて乗せた。


特にお姫様の懇願に一もなく頷いた勇者。

女好きで、美少女のお姫様にお願いされれば必ず頷くだろうと思っていた。


僕?僕は本当におまけというか、勇者の召喚に巻き込まれただけの人だった。


でも、あの時の僕はまだ若かった。

浮かれて、簡単に乗せられた。


元の世界から異世界に移動する際に次元の海のような場所を通るらしく、そこを通ると大きな力を授かるらしい。


勇者はその際に手にいれた人外な身体強化能力と勇者しか扱えないと言われる聖剣の力であっという間最強に。


僕も力は手にいれた。でも、脇役な僕の力は空間収納。所謂アイテムボックスのような力だった。

そんな能力を持った僕がどう扱われるかなんて決まっていた。

勇者の荷物持ち。

魔王を倒すために旅をする“勇者”と勇者パーティーで魔法の使い手の“お姫様”、さらに元剣聖の娘でその名を若くして継いだ“剣聖”、教会からやって来た癒しの“聖女”。

そんなハーレムメンバーに、おまけのような僕“

斉藤 真太”


いくら乗せられて着いてきた僕でも、勇者とハーレムメンバーのイチャイチャを見ているのは辛かった。女の子全員が美少女だからこそ辛かった。女の子たちは言葉では僕のことを普通に扱ってが、その目は物を見る目だった。

僕のことは本当にアイテムボックス程度にしか思っていなかった。


そんな僕だが、僕なりに頑張っていたつもりだった。だけど、旅の間で勇者が魔法の袋と言われる本当のアイテムボックスを手に入れた。


しかも、僕の空間収納ではできない中に入れた物の時間が止まるという能力まで着いていた。


何が言いたいか。捨てられた。


いや、・・・・斬り捨てられた。


直ぐに、と言うわけではなかった。


魔族の四天王との戦いで劣勢になったとき、逃げるために僕の脚を斬り囮にして時間稼ぎにして逃げた。


勇者は『最後ぐらいは役に立て』と言って一切の罪悪感を感じてもいなく、他の女たちも、それは同様だった。『最後に役に立ったよかったですね』なんて言いやがった奴もいた。


いまさら考えても腸が煮えくり返りそうだったが。


そして、斬り捨てられた絶望した僕は四天王に捕まった。


勇者の情報を吐かせるため、というのをあとになって聞いたが、このとき僕は酷く絶望していた。

このまま捕まったら拷問の果て喰われるのではないかとすら思った。ここで死んだ方がとも思った。


そうして僕は魔王軍に捕まり、脚の治療を受け、魔王の元へと連れていかれた。


僕が暴れないように四天王が僕を拘束していたが、最早暴れる気など欠片もなかった。


絶望していた僕は魔王に聞かれるがままに勇者のことをしゃべった。この期に及んで勇者に義理立てする筋合いはない。もともと嫌いだったし。


その後魂が抜けたような僕は殺されもせずに捕まったままだった。しかも、牢屋などではなく客室のような立派な部屋だった。


いつ殺されるのかと戦々恐々としていたが、僕が殺されることはなかった。

それどころか三色昼寝付きで、お付きに魔族のメイドさんまでいる。

僕は思ったよ。ここは天国か、と。

しかも、メイドさん普通に綺麗だし。


魔族は醜悪な怪物だと言われているがそんなことはなかった。

メイドさんは魔族でいうところの一般的な種族らしい。違いがあるとすれば瞳が赤く耳がやや尖っているくらい。

魔族にはいくつもの種族があり、その総称を魔族と云うらしい。

中には怪物じみた種族もいればメイドさんのような人と変わらない見た目の種族もいる。


ただ、種族を通して体内に魔力を溜めるための器官があり、そのため魔法をうまく使える。


メイドさんは聞けば普通に答えてくれた。


メイドさんとの会話で僕の精神は少しずつ回復していった。


そうして半月ほどたった頃、再び僕は魔王の前に連れていかれた。


初めて見たときはとてつもなく恐ろしい化物のように見えたが、改めて落ち着いて見ればその姿は恐ろしい化物ではなかった。


しかし、恐ろしいまでに整った顔立ち。そして、銀髪に側頭部には赤い角。魔王の全身から感じる王の覇気とでも言うのか、見ただけでその場に膝を着きたくなるオーラ。実際に再び魔王にあったとき、僕は自然と膝をついていた。


その姿に僕をここにつれてきた四天王もメイドさんも少し驚いていた。


魔王だけは笑っていた。


それから僕は魔王と話した。


僕という存在のこと、魔王のこと、魔族のこと、そして戦争のこと。


すべてを聞いて、いままで不思議に思っていた謎も解けた。


魔族が人を襲う、と言われていたが、旅の間、魔族が理由もなく人を襲うところを見たことがなかった。

基本的に魔族は兵士や騎士、武器を手に取ったものたちと戦っていた。


小さな村や町が襲われたという話もあまり聞かなかった。


それどころか、魔族の名を騙った人間が小さな村を襲っているのを何度か見た。


それが勇者にはバレないようにお姫様や聖女が動いていたのを僕は知っている。


アレは魔族は恐ろしい存在だと、演出していたのだろう。


それに、この戦争。侵略などではない。むしろ侵略されたのは魔族の方だった。


ここ十数年で人間の魔法の技術が急向上し、自然から取れる魔石では生産や研究が追い付かなくなった。

そこで人間は魔族に目を付けた。魔族は死ぬと体内にある魔力を溜めるための器官が魔石のようになる。しかも、それは自然から取れる魔石よりも性質がいい。


だから人間は魔族を捕らえ始めた。


最初は密かに。だが、段々とそれは大胆になってきた。そして最終的に戦争にまで発展したのだ。


そこまで聞いて僕は無性に虚しくなった。


そんな奴等に協力していたのかと。


魔王の話が嘘ではないのか?そういう思いもあったが、聞いているうち、どんどんと人間側の粗が見てえきた。


思えば勇者が倒した魔族も国の兵士が回収していた?回収されていない魔族も何故か胸に穴が開けられていた。


つまり、そういうことなのだろう。



しかし、何故魔王は僕にそんなことを話すのか。そう思った魔王は僕に言った。


『私の仲間にならないか』と。


勧誘を受けちゃった。

それでも、僕は初め戸惑った。いくら人間がグズだったからと、同じ人間を裏切るなんて、と。


だが、


『お前とあやつ等、別に同じ種族ではないぞ』と。


うん。話を聞いてわかった。たしかに、僕や勇者とこの世界の人間はとても似ているが、違う。

たぶん、遺伝子とか滅茶苦茶違っているんじゃないだろうか。

性交を行っても子供はできないだろう。


というか、できなかった、らしい。


人間側にいる魔族の隠密が調べた。


人間側が行った召喚は何も勇者が初めてではなかった。


そりゃ、そうだろう。

異世界から勇者という欠け代えのない存在を呼ぶのに不確定な召喚などできない。


ならばどうするか?そんなの実験するしかない。


実際に人を召喚し、きちんと召喚されるか。


その実験は酷いものだったらしい。初めは喚ばれた人間が肉塊で現れた。


少しずつ改善されてきたがそれでも五体満足で喚ばれるまでに10人以上の僕らの世界の人間が犠牲になった。

五体満足でも頭や記憶に障害が出るなど、全体を通せば30人近くの人間が犠牲になった。


そのうち何人かの成功例はこの世界の人間の慰め者になった。反吐の出る話だ。


その情報からこの世界の人間と元の世界の人間では子供はできないと解ったらしい。



なけなしの罪悪感が召喚された成功例の人たちを助けたいと思ったが、既に殺されたらしい。


勇者にバレる訳にはいかないため勇者の召喚前に殺したそうだ。




すべての話を聞き、僕は決めた。


魔王の配下となると。



それから僕は魔族のもと魔法の修行を行った。

だが、僕にはあまり魔法の才能がない。魔法は下級・中級・上級・最上級の四段階あり、中級魔法までしか覚えることができなかった。


魔族の四天王はいくつもの上級魔法を扱い、それぞれが一つ最上級魔法を覚えていた。


その強さは見せてもらったが強い。純粋に強い。


だが、同時に、それと正面からぶつかっていた勇者の恐ろしさを思い出す。

しかも、勇者はまだ成長途中。これからどんどん強くなる。


僕に何か特別な才能はないのかと、四天王の一人と話し合っている中、たまたま空間収納から昔使っていた剣を取り出し、四天王に驚かれた。そう、なんとこの剣は・・・・ただの鉄の剣で、驚かれたのは空間収納の方だった。


僕は、それに勇者も人間たちも僕の能力はアイテムボックスだけだと思っていたが、どうやら違うらしい。


僕の能力は空間操作。十全に操れるようになればそれは強力な武器になる。


それから僕はこの能力を磨いた磨いて磨いて磨き続け、四天王といい勝負をするくらいに強くなっていた。この反則に近い能力のお陰で。


だが、その頃には勇者は四天王よりも強くなっていた。


四天王最強が勇者に殺されたと、僕に戦いや人生の色々を教えてくれていた四天王が教えてくれた。


僕は四天王最強の魔族とも話したことあったが凄く強く、そして優しいおじさんだった。


それから四天王は一人、また一人と失くなっていった。


僕に色々と教えてくれていた四天王は魔王の叔父に当たる人で、最後まで残っていた。


だが、勇者はついに魔王城までその脚を伸ばしてきた。


そして、魔王城の城門で、四天王のおじさんは勇者たちと戦った。既に勇者は四天王を完全に超えていた。


おじさんも勇者に殺された。

だが、おじさんは最後の力を使い、体内の魔石を爆発させ勇者を負傷させた。


一時的に勇者を行動不能にし時間を稼いだ。


それはたぶん、僕を逃がすための。


メイドさん。おじさんの娘であったメイドさんからおじさんの遺言を聞かされた。


逃げて生き延びて、元の世界に帰りなさいと。


僕は、首を横に振った。


そんなことできなかった。


このまま魔族が負ければ魔族は人間の消耗品として使われる。奴隷ですらない。


僕に優しくしてくれたメイドさんも、この城のみんなも、殺させる。


それを黙ってみていることなんてできない。


僕は魔王の元に向かった。

既に魔王は一人、玉座に座り目を閉じていた。


その姿から怒りと悲しみが感じられた。

僕は魔王に願い出た。


勇者が戦線に戻るまでの約10日で僕を強くしてくれと。


こんな大事なときに、僕のような者に時間を割く余裕はない。それはわかっていた。


だけど、僕は頼むしかなかった。いまの僕では勇者と対峙しても殺されるだけだ。


だが、魔王ならば、僕を強くしてくる。不思議とそんな予感があった。


僕の言葉を待っていたかのように、魔王は『ふっ』と笑い、着いて来いと歩き出した。



魔王の後を追うと、一つの扉の前で立ち止まった。


ここは?と聞くと封印の間だ、と答えた。


封印の間。何を封印していたのか、強大な怪物か何かか、そう思っていたが開かれな扉の向こうにあったのは剣だった。


武骨、だが、その剣に僕は言い様のない恐怖を感じた。なるほど、と。これなら封印していたのも頷けた。


この剣は先代魔王が使用していたモノだそうだ。

だが、その後この剣を持てる者はいなく、封印するに至ったそうだ。


僕は無理だと思った。

魔王は視線で告げる。持て、と。だけど。



だけど、僕はその剣の柄を握り締めた。


これ以上魔族を死なせたくなかった。これ以上、親しいものたちを殺させたくなかった。


だから、出来ることなら何でもやる。


その剣を握り締めた瞬間、理解した。


僕はこの剣を持てる。だけど同時に、扱いを間違えれば喰われる。


魔王はやはりと頷いたあとその場を離れた。


僕はその剣を握り締めたまま動かない。動けない。


これこら10日の間に、この剣を使えるようにならなくちゃいけない。



それから10日。僕は剣を使えるようになったが、右腕が剣に喰われた。


それでも、準備は整ったのだった。


勇者の前に立つ僕。


魔王の間の扉の前。


最後の守り手として、そこに立った。


彼らは僕を僕だと認識すると罵倒の限りを尽くした。自分達が斬り捨てたのを忘れたのか。


僕は反応しなかった。ただ、剣を構えた。


僕のようすに何かを感じたのか、勇者は聖剣を油断なく構えた。


その姿に聖女やお姫様は怪訝にしたが、その瞬間、僕は二人を斬り捨てた。



勇者と、辛うじて剣聖は防御したが、続けざまに放った一撃で剣聖も散った。


ただ、やはり勇者だけは反応した。


見えないはずの斬撃。

空間を裂くという斬撃。


たった一撃だが反応した剣聖は流石だ。

勇者は言わずもだが。


瞬く間に肉片になった三人、それに激怒する勇者。だけど、僕の心は冷めていった。


こんな奴等の所為で、たくさんの魔族が。


僕にもっと早く力があれば、そう思わなくもないが、・・・・きっと、力があれば僕は勇者と同じ道を辿っていただろう。


僕らは、そう、僕たちはこの世界に来るべきではなかったのだ。喚ばれるべきではなかった。


勇者が激怒しながら襲いかかってくるが、その一撃を僕の右手は為とも簡単に受け止めた。


受け止めたが、その反動は凄い。全身が粉々になりそうな衝撃。だが、僕の右手はピクリともしない。


その後も、勇者の連撃を平然と受け止め、受け流し、斬り返す。


勇者の左手首から先が宙をが飛ぶ。

血が吹き出し僕の顔にかかる。


勇者は左手を抱えて泣き叫ぶ。

これまでの旅路で勇者はほとんど怪我をしなかった。

そのあり得ないほどの身体能力と聖剣の加護のお陰で。それにプラスして聖女の祈りやお姫様の防護魔法。ほとんどの敵に一方的に勝ってきた。


それは四天王すら例外ではない。


四天王のおじさんの自爆はダメージを与えてその加護や能力をもろもろ吹き飛ばしたが、肉体的にはそこまでのダメージを与えられた訳ではなかった。


だから、勇者がまともな怪我をしたのはこれが初めて。


その初めてが左手の切断という大きな怪我で痛みとショックで涙と鼻水で顔面がぐちゃぐちゃだった。



僕はそれを見下していた。

こんなやつが、みんなを。怒りと悲しみと、空しさ。


勇者はぐちゃぐちゃの顔のまま聖剣を握り直し、滅茶苦茶な構えで向かってきた。



聖剣・・・・最強の剣。人間の希望の光。


僕はそれを平然と折った。

パキッンーーーと、半ばから折れた聖剣の剣先が端に転がった。


今度こそ勇者は動きを止めた。


いままでどれだけ乱暴に扱おうが折れず曲がらず、刃こぼれ一つしなかった剣があっさりと言うほどに折れた。砕かれた。


何が起こったのかわからないといった顔をし、そのまま表情を変えることなく身体から頭だけがこぼれ落ちた。


遅れたように首から血が吹き出し、ゆっくりと地面に転がった。


勝った。呆気ないほどに、簡単に。


僕は右手を、そしてそこに握られる剣を見つめた。


ゆっくりとその右手を下に下げる。


ーーーー


ふと、顔だけ振り返るとそこに魔王がいた。


ーーーーー行くのか?



そう、静かに告げる。


僕はそれに頷いた。


僕らはこの世界の異分子だ。

僕も勇者も、この世界にいてはいけなかった。


ーーーーー死ぬつもりか?


それには首を横に振った。


帰る。


ただ、それだけを言った。

色んな出来事があった。死にたくなることもあったし、死んだ方が良いかもと思ったりもした。でも、生きていたいとも、また思うから。


おじさんに、生きて元の世界に帰れと言われたから。


帰り方は、たぶん見当がついている。


僕は己の力を使った。


空間操作ーーーーー道を作る。


目の前の空間が歪み、別の場所へと繋がった。


僕はもう一度魔王へと振り返った。

今度は身体ごと全部。


振り替えれば、魔王のとなりにはいつの間にか着たメイドさんもいた。


最後の最後にびっくりなサプライズだ。


僕は彼らに頭を下げた。


「ありがとう、ございました。ーーーーお元気で」



「ーーーーーこちらこそ、ありがとう。君も、元気で」


返事を告げる魔王に、無言で頭を下げるメイドさん。


二人は優しげに微笑み、僕もそれを返した。


振り返り、繋げた空間へと歩き出す。


空間をくぐれば、直ぐに魔王たちは見えなくなった。

既に歪めた空間も元に戻し繋がっていない。



僕が立っていたのは、王城の前だ。


人間の、王の、城。



「ーーーーー僕らはいない方がよかった。それでも僕も勇者もここに喚ばれてしまった。だから、ーーーーー帳尻を合わせにきた」


僕は掲げた右手を振り下ろした。




ーーーーーーーーーー


ーーーーーーーー


ーーー


その場所は始まりの場所。

この世界に喚ばれた召喚の間。


僕の能力と、この場に残る繋がりを辿ればきっと、帰れる。


崩壊し瓦礫に満ちたこの場所で、空間魔法を使用した。



「ーーーーー繋がった」


予想は当たりだった。

元の世界にちゃんと繋がった。


召喚の間の地面に複雑怪奇な魔法陣が浮かび上がる。


強い光、その光が僕を飲み込んだ。






ーーーーーーーーーーーーーーー



戻ってきたのは僕ら召喚されたその日の夜だった。向こうには二年ほどいたはずだったけど。


僕らは学校の人が見ている前で突然消えたことで随分と騒がれたらしい。


ーーーーーこちらに帰ってきたとき、現れたのは同じ学校内だったため、校舎を出るときに警察に見つかった。


そこで事情聴取などもされた。僕一人が戻ってきて、もう一人が戻らないのだ。怪しまれるのは仕方がなかった。

怪しいも何も僕が殺したのだけど。


僕は消えていたときの記憶がないと言うことで貫いた。



翌日の学校では特別なことはなかった。ただ、消えたことを聞かれたりしたが記憶がないで押し通せた。


未だに帰らない帝皇路については知らないで通した。もともと、帝皇路と僕は関係性がない。


それでも彼の幼馴染みと義理の妹には睨まれた。まあ、男子たちにはよく分からないが良くやったと言われた。



それから、数日、僕はボーッとしながら生活した。

向こうで暮らしとこちらでの暮らしはずいぶん違う。それを直すのに時間がかかった。


日常が戻り、僕らが消えた事件も生徒間で噂にすらならなくなった。



あれから、僕は考えていた。

これからを。


これからも、僕の人生は続く。その中をどう歩んでいくか。

いまの僕には力がある。この力をむやみやたらに使うつもりはない。

でも、ーーーーー自由に生きる。


僕の人生は僕の物だ。


誰か何処かの脇役になるつもりはない。


僕の人生の主役は、僕だ。

それを譲るなんてことは、もう、しない。


悲しい出来事があった。苦しい出来事があった。辛く、どうしようもない過去は消えない。


それでも、だからこそ、僕は僕らしく、


ーーーーー自由に生きる。



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