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10分で胸キュン恋愛短編集

キスは明太マヨ味

作者: ニコ・タケナカ

「彼氏ほしいねー」

友達がため息交じりに呟く。

「ねー」

私は食べていた明太フランスを飲み込み短く応えた。


「ただし、イケメンに限る」

「フフフッ、だよねー」

「でもアンタには無理だろうなぁ」

小さい頃からの付き合いだが、お互い浮いた話など一度も無い。沈みっぱなしだ。そのどっこいどっこいの友達から見下した言い方をされ少しムッとした。


「なんでよー」

「だって明太フランスをお昼に大きな口開けて食べてる子にいい男が寄って来るとは思えない」

「いや、いや、おいしそうに食べてる女子を見るとこっちまで幸せな気分になるって、どっかのアレで聞いたことあるから」

「どこの何よ?どうせネットのありもしない情報でしょ?そうじゃくて、食べてるものがダメだって話」

「これの何が悪いのよ」


私のお昼の定番「明太フランス」

明太子をマヨネーズであえたソースが小ぶりのフランスパンに挟まれただけのシンプルな代物。

そりゃあ、好き嫌いは分かれるかもしれない。明太子は生臭くて嫌いな人はいるし、マヨネーズがくどいと言う人だっている。それにフランスパンは皮が固くて食べにくいと避ける人だっている。


しかし、その全てが逆にいい。固いフランスパンを食いちぎる様に頬張って、アゴが疲れるほど噛んでいるうちに明太子の生臭さはマヨネーズのコクが打ち消してくれ、程よい風味となる。

よく噛まないと飲み込めないから半強制的に明太マヨのハーモニーが口の中を満たし続けてくれるのだ。


そしてよく噛むことで、飲み込んだ時に得られる達成感!焼肉やラーメンといった重い食事でなくても、こんな手軽な食べ物で達成感を得られるなんてなかなか無い。

それに、よく噛んで食べるから腹持ちだっていい。このお手軽な万能食の何がいけないというのか?


友達がイスに座り直して言う。

「もし男子から昼休みに”ちょっといいか?”って言われて、人けのない校舎裏に呼ばれたらどうする?」

「え?何それ怖い。私、なにされるの?」

「ごめん。言い方が悪かった。・・・・・・もしイケメンの先輩に「ちょっと時間いいかな?」って笑顔で言われて、誰もいない教室に呼ばれたらどうする?

「付いてくよ!断る理由がない」

友達はニヤリと笑った。


「二人きりの教室で先輩から言われるの”一目見た時から、これは運命だと思った”って!」

「やだーぁ、そんなの、ある訳ない」

そう言いつつ友達の妄想に少しときめいた。

「もしの話だよ。それで、いきなりの告白に戸惑っていると、先輩が近づいてきてまだ返事もしていないのに少し強引に唇を奪われるんだよ」

「ふふっ、何それ。漫画の読み過ぎ」


私が笑い飛ばすと友達は少し怒ったように言った。

「無いとは言い切れないでしょ!その時にだよ、ああ、なんでお昼に明太フランスなんて食べたんだろうって後悔するんだよアンタは」

「なんでよ」

「だって明らかにバレるでしょ?明太子の味が!”あぁ、この子お昼に明太子食べたな”って思われるんだよ。ときめくシュチュエーションが台無しだよ?」


そんな事、考えた事も無かった。

「ねぇ・・・・・・そういうのって分かるものなの?」

「は?・・・・・・そりゃあ、分かるんじゃない?」

友達は言葉を濁し、飲みかけのジュースを口にした。


ズズーッ


「まぁ、私はその点大丈夫だけどね」

「何でよ?」

何を食べたかバレてしまうと言うのなら、彼女は今さっき焼きそばパンを食べていた。私とそうたいして変わらない。

「これよ。」

見せたのは、飲んでいたイチゴオレのパックだ。


「私のキスの味はイチゴ味だから。いつその時が来ても大丈夫よ!アンタはいくらイチゴオレを飲んだところで歯に残ったつぶつぶでバレるとは思うけど」

「くだらない」

そう思ったが、後ひと口残った明太フランスを私は食べるのをためらった。

「どうしたの?食べないの?」

友達が私の顔をニヤニヤしながら覗き込んでくる。


私は席を立った。

「次の授業、移動教室でしょ?私、先生にプリント持って行くように頼まれてたんだった。先行くわ」

残りの明太フランスを食べたい気持ちを堪えてパンをしまい、私は教室を出た。



先生に渡されたプリントを抱え、廊下を歩きながら私は考えた。

(そんな少女漫画みたいな事あるわけない)

けど、友達に言われたことが頭から離れない。気になるものだからずっと舌を動かして歯に挟まったつぶつぶを取ろうと私は躍起になっていた。


ドン!

「きゃ!」

廊下を曲がった所で、歯に気を取られていた私は人とぶつかってしまった。


目の前にいた男性は3年生だった。私達1年生とはネクタイの色が違うので分かる。

(先輩だ、)

「大丈夫?」

「はいっ、大丈夫です。失礼しました!」


私は駆け足で教室に逃げ込んだ。

まだクラスメイトは来ておらず誰もいない教室で胸をなでおろした。

(やばい、イケメンだった・・・・・・)

先輩という言葉には妙な憧れがある。不思議な事に先輩というだけでフィルターがかかって見え、3割増しでイケメンに見える気がする。やっぱり年上の男性にリードしてもらいたいと思う気持ちがあるのかも知れない。

ただ、部活にも入っていない私には先輩達と交流する場などなく憧れるだけで、実際には今の様に緊張するばかりだ。友達の妄想ではないが強引にキスされるぐらいでないと私には彼氏なんて無理かもしれない。


「ちょっとキミ。いいかな?」

不意に声をかけられドキッとした!

振り返ると今ぶつかった先輩がそこに居た。


「あ、えっ?なっ、」

教室には誰もいない。先輩と私の2人きりだ。

さっき友達と喋っていたシュチュエーションそのままで、私は緊張から上手く言葉が出なかった。


彼はゆっくりこちらに近づいて来る。

(え!?ウソだよね!!)

私は早くも後悔した。歯に詰まったつぶつぶは取れないままだ。


先輩は私の目の前まで来ると、にこやかに笑って言った。

「コレ、落としたよ」

手に持っていたのは私が食べ残した明太フランスだった。


(やっちったーーーっ!!)

得も言われぬ恥ずかしさに、私は明太フランスを食べていたことに絶望した。

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