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天草四郎の呪い

作者: 紀々野緑

閑話休題。

 天草四郎は寛永15年2月28日(1638年4月12日)に島原の乱で戦死した。生年は不明である。彼の父は益田好次という男で、島原の乱の首謀者の一人だ。洗礼名はペイトロ。

 洗礼とは、キリスト教徒になるために教会が執行する儀式のことだ。その際に与えられるのがキリスト教徒としての名、すなわち洗礼名だ。

 好次の息子である四郎も、父の影響を受けたのか、キリスト教徒として生きることを選んでいる。カトリックだ。四郎の洗礼名はジェロニモだ。しかし、島原の乱が起こる直前にフランシスコという名に変更している。そして亡くなった。

 今回の物語は、筆者が経験した出来事で、すべて真実である。歴史の授業で学んだ天草四郎という人物が、現代を生きる者に呪いをまき散らす物語。

 あれは2009年の夏、筆者が13歳になったばかりの頃だ。中学生になってから初めての夏休みを迎えていて、毎日部活動のために登校していた。体育館は一つしかなく、しかも狭い。当時通っていた中学校で体育館を使用していたのは、男子バレー部と女子バレー部、それから男子バスケ部と女子バスケ部だ。ちなみに筆者は男子バレー部に所属していた。

 夏休みの練習スケジュールは、午前練習と午後練習を交互に繰り返すだけで、練習内容に変化はない。変化するのは練習時間だけ。今日はバレー部が午前なら、明日はバスケ部が午前といった具合に、折り合いをつけて体育館を使用していた。

 バスケ部は男女共同で練習するので、広いコートを使用できる。しかし、バレー部はそうはいかない。狭いコートを二分割して、それぞれにわかれて練習している。ネットの高さが違うのだ。中学男子は230センチで、女子については忘れてしまった。女子は男子のネットでは練習にならず、逆もまた然り。

 この日は午前練習だったので、練習後はそのまま同じバレー部に所属している友人の家に遊びに行くことになっていた。その友人が本当に変わっていて、練習中にスライムのモノマネをしたり、変なダンスを披露したりするのだ。しかも、彼はバレーが嫌いなのだ。親が無理やり始めさせたそうで、中学一年にしてバレー経験は5年以上ある。技術も高く非常に優秀な選手なのだが、とにかくバレーが嫌いなのだ。

 いつもと変わらないといったが、それは違った。夏休みの練習はとてもつらい。なぜなら、二日に一度シャトルランがあるからだ。しかも練習の最後に。今日はそのシャトルランの日だ。だんだんリズムが速くなるあの電子音は忘れられない。

 「きょーつけ、礼」

 「おねがいしまーす」

 顧問は二人いて、今日は終礼が長いほうの先生だ。

 「夏休みだからといって羽目を外しすぎないように。夏休みが終わる一週間前には宿題チェックするぞ。あと、来週の練習試合は少し遠出をするけ、把握しといてな。今日はこれで終わりや。お疲れ様」

 「きょーつけ、礼」

 「あじゃじゃしたー」

 今日はいつもより早く終わった。先生も夏休みはゆっくりと休みたいのだろう。理由はどうあれ、部活から解放されたことで気分がよくなった。

 「早く帰ろうや」と友人に声をかけられ、午後は一緒に遊ぶことを思い出した。

 その友人の家は学校から歩いて10分もかからないところにある。当時はやっていたエナメルバッグを肩に提げて、友人と一緒に歩いた。

 学校の近くに神社があって、そのそばに友人宅へと続いている近道がある。夜は明かりがなく真っ暗で、幽霊でも現れるのではないかと思うほど、恐怖心を煽られたことがある。幸い、まだ太陽が昇っていて明るいので、その近道を通る際には恐怖心なんてものはなかった。

 友人の家は二階建てで、一階は応接間といった感じだ。生活空間は二階に集中している。

 「ただいまー」

 「おじゃまします」

 友人は靴をそろえないが、客人である筆者は自分の靴を丁寧にそろえて、そろそろと会談をあがった。

 当時、スマートフォンは普及しておらず、インターネットは中学生にとって遠い存在だ。だが、この友人は自分専用のパソコンを持っているのだ。この変人はよく練習中にスライムのモノマネをするのだが、よくわからない知識をもっていて、それについて語ることもあるのだ。インターネットで得た知識に違いない。

 中学一年の夏休みはこの友人宅のパソコンで、ニコニコ動画をみていた。特に「青鬼」というホラーゲームの実況動画が好きで、毎日のように閲覧していた。しかし、いずれは飽きてしまう。

 「青鬼の動画も飽きたね」と訴えた。

 「じゃあ今日はオカルトサイト巡りでもしようか」

 この友人、オカルトとか心霊とかよくわからん分野にも詳しいのだ。ネットで地元周辺の心霊スポットについても調査しているらしい。例えば、地元では避暑地として有名な菅生の滝は、北九州を代表する心霊スポットなのだ。菅生の滝が恐ろしい場所だと聞かされたので、決して行くことはないだろう。

 彼はお気に入りのブログを紹介してくれた。背景は黒で、文字は赤といった、いかにも心霊とかを扱っているブログだと一目でわかる配色だ。

 「これなんかおもしろそうじゃない?」

 そういいながら、友人はカーソルで一つの記事を指した。「天草四郎の魂が宿る人形」というタイトルだったと思う。正直、そんなものには興味もないし、今晩眠れなくなるような情報に触れたくなかったが

 「いいじゃん。おもしろそう」といってしまった。今思えば、このときに断ることができていれば、天草四郎に呪われることはなかっただろう。

 さっそく記事へのリンクをクリックすると、モザイク加工された画像が出てきた。画像の下から本文が始まっている。要約すると、長崎のどこかに天草四郎の魂が宿る人形が存在しており、その人形にかかわった人には不幸が降りかかるらしい。写真を撮影したこの記事の筆者は、撮影後しばらくして交通事故にあったと書いている。命に別状はなく、これまで通りの生活ができているようなので一安心。

 直接人形に関わらなくても、画像を見るだけでも呪われる可能性があるため、モザイク加工をして掲載したという注意書きもあった。本文の最後にURLが記載されていて、そのページを開けばモザイク加工が施されていない画像を閲覧できる仕組みになっている。

 「別におもしろくなかったけど、画像をみるのはやめようね」と友人に念を押した。

 「俺も呪われたくないな。ネットも飽きたし、ゲームでもしよう」

 そういいながら友人は、文末のURLをクリックすると同時に部屋の外に逃げ出した。

 何が起こったのかさっぱり理解できなかった。数秒だけパソコンの画面を直視してからやっと理解できた。モザイク加工が施されていない画像をみてしまったのである。アニメのキャラクターのフィギュアは好きだが、日本人形は不気味で気持ち悪い。

 呪われてしまった!すぐに友人の後を追って部屋の外に出た。

 「うひゃひゃ。かわいかった?」

 「かわいいわけない!早くあのページを閉じてこい。この家まで呪われるぞ」

 「呪いなんてあるわけないじゃんか」

 中学生の頃、筆者は霊的なものを信じていた。だから、あの画像をみてしまった自分はどうなるんだろうと心配していた。天草四郎に魂を奪われはしないかという不安。

 「呪いはある!早く行ってこい」と友人を促した。

 「でもやっぱ怖いじゃん。行きたくない」

 なんという男だ。自分の行いに責任を持たないのだ。でも憎めない。

 「それならお前の親に頼もう」と提案した。

 この友人の母親に怖いものはない。霊的なものは全く信じていないらしく、きっとこの状況を打開してくれる。

 「今日は仕事でおらんわ」

 結局筆者が対応した。画像を視野に入れないように気をつけながら、ブラウザーを閉じる。今では大したことはないが、テレビの影響で幽霊を信じていた中学生の頃の筆者にとって、とても大変な作業だった。

 「これで我が家は呪われなくてすんだ」と友人が安心したような表情でつぶやいた。

 「呪いなんか信じていないんじゃないの?」

 「でも、もしかしたらあるかもしれないじゃん」

 この男はよくわからない。でもこのよくわからないところが、人を引きつけるのかもしれない。

 その後は、天草四郎のことを忘れてゲームをして過ごした。何のゲームだったのかは憶えていない。

 この日は太陽が傾き始めるまで遊んだ。そして家に帰るころには、天草四郎のことは頭になかった。翌日の練習のことや、まだ終わっていない夏休みの宿題のことを考えていた。

 後日談。呪われた人形をみてから、たくさんの不幸な出来事が起こった。中学一年の夏休みから中学三年の夏休みまでの約二年間、右手首骨折、右手薬指骨折、ジャンパー膝を患った。まだある。大学の推薦入試不合格、それから就職活動も順調に活動できなかった。まだまだある。大学四年の時に読んだ『ジョジョの奇妙な冒険 第六部 ストーンオーシャン』では空条承太郎が敗北してしまった。これも天草四郎の呪いだろう。

 興味本位でオカルト的なものにのめりこむ時期は誰にでもありますが、できればそのような情報に触れることは避けよう。そうすることでよくわからん呪いをもらうことはないし、楽しく毎日を過ごすことができますよ。


本当はカンボジア旅行記でも書こうと思いましたが、少し疲れたので休憩。

短編を書いているのに休憩になるのか、とつっこまれそうですが休憩になったと思います。

ネットサーフィンするときは、怪しいサイトにいくのはやめましょう。

呪いはないかもしれませんが、フィッシング詐欺にあうかもしれませんよ。

次の作品はカンボジアでの出来事を題材に書きます。

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