一話
荒廃しても尚、高く聳え建つかつてビルだった建物の屋上…そこに漆黒の軍服に身を包み金の癖毛を風に遊ばせながら灰色に近い青空を仰ぐように寝転ぶ一人の男が居た。その男は起き上がると地上を眺める。
100年前までは大きな街があり活気が溢れ緑豊かだった地上は今や見る影もない程に荒れ果て人も少なくなった。今は亡きゼウスが魔族と人間に敗れた際に最期の力を使い荒廃させたのだと言われている。
どれ程そうして眺めていただろうか。男は近付いて来る気配に気付いた。純白の一対の翼を羽ばたかせ近付いて来た下級天使は屋上へと降り立つと男の前に膝を着いて頭を垂れた。
「リンキョウ様、やっと見付けました。メノウ様がお呼びです。」
「メーたんが?…どうせ説教だろ?俺パス。」
「そう仰らないで下さい。私が怒られてしまいます…」
リンキョウと呼ばれた男は下級天使の言葉に気だるげに答える。動く気も無くまた寝転ぼうとした時、不意に自分達以外天使の気配を感じた。それと同時に、悪魔の気配も…。
気配の方へと視線を向けたリンキョウに遅れ下級天使も気付き腰に下げた剣を抜いて構える。
辺りに緊張が走る中、リンキョウは思う…“何故今は、人間の気配しかしないのか”と……。
ゴクリと、下級天使が唾を飲み込んだ刹那…建物から屋上へと出る入り口から一つの影が飛び出した。
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