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3. 樹木は悲鳴を上げる1
私が樹木医だからといって、比喩で言っているわけではない。物理的に音を出す。
個体標識をつけるために釘を打ったりするが、特に急斜面で斜めに生えているものなどが「ききくくくぐうううう」などと音を立てる。れっきとした物理現象である。
樹木の体の重さは、ざっくり言うと張力を支えるセルロース、圧縮応力に耐えるリグニンの2種類の物質が支えている。原理は鉄筋コンクリートとほぼ同じだ。樹木は部位や樹種ごとに配分を変え、複雑な形態を保っている。樹体と周辺の土壌に形成されている応力系が非常に複雑なものになっていることは想像に難くないだろう。実際複雑である。特に斜めに立っているものでは、ちょっとした損傷であっても、樹体全体に影響が及ぶ。これが釘一本で音を立てる原因である。
また、材には大量の空気も含まれている。樹体を形成する繊維同士の、ほんの少しの摩擦音が大きく響くことに不思議は無い。
なお、もちろん安定した応力系を形成するのに失敗する木もいて、枝や幹が折れてたり、根がひっくり返ったりしてるのがそれである。