2. 瀬音
§0では、
◎人間の耳は人間の声をいちばん良く拾うようにできている。
ということを書いた。浅く流れの速い川の「瀬音」、元々はホワイトノイズに近いはずだが、これにもそういう要素があるかもしれない。
ある日、川べりで作業をしていたところ、誰かの声がするような気がする。歩く音は全く聞こえず、そもそもどこで喋っているかもはっきりしない。当時はまだ沖縄の方言がよく聞き取れなかったこともあるが、話の内容もさっぱりわからない。
まあ当然の話で、これは川の音の中から人の声らしいものを、私の耳が選択的に拾っていて、意味づけをしようと四苦八苦していただけのことだったのだけど、非常に面白いと思ったのは、その川の下流の集落の方言と抑揚やリズムがほぼ同じだったところ。考えてみれば私の母語も、うちの集落の瀬音の抑揚に似ている気がする。隣の集落ではちょっと違う言葉が使われているが、やはり瀬音の抑揚に近く感じる。
それ以来、川の音とそこに住んでいる人の言葉の抑揚に気をつけて聴いてみるようになったが、そんなにはっきりとは相関が感じられない、はっきり言うと、科研費申請はたぶんそもそも無理だろうな。年金暮らしの人でいいから、今後の研究をゆっくり待ちたい。