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妖精島の妖精の日常  作者: 紅夜阿灸
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第三話~ターミシャルイハミサ~

「ん?」


ぼろぼろになった服のポケットを漁ろうと、手を動かすとそれは空振り。そちらに目をやるとなんとポケットが破れて消えていた。


「まさか…あの時…」


私の頬に冷や汗が流れる。おそらく、あのちびっこどもにもみくちゃにされた際破れてしまった。


「まずい…ことになった…」


私は狩りをする以外、凶悪な獣や輩が現れた際に追い払う。または殺している。

そして、その輩が持っていた宝石。ターミシャルイハミサ。指の一関節ほどの大きさをしている緋色の宝石なのだが、それは持ち主との相性が悪いと呪いを憑依させる。

その相性とは私と同じ、緑髪の者なのだ。緑の髪を持つ者は昔から呪いの力を無効化するという言い伝えがある。

だから、ターミシャルイハミサが他の妖精の手に渡り被害が拡大してしまう前に私がずっと身に付けていたのだ。

だが、これをあのちびっこどもが拾ってしまったら。大変なことになる。


「退け!国王がお通りになるぞ!」


その声で私は我に返った。キタラマの蹄が地を踏み締め、軽快な音が伝わる。そして、その上には青、朱、緑の装飾を施した鎧を身に付けた武妖。そのキタラマが引く車の中にはこの国の国王が乗っていた。


「悪いが…少し止まってくれ」

「はっ!」

国王、カナミラ・カテワヒが武妖に声をかける。それを聞いて、武妖は手綱を引いてキタラマを制止させる。

そして、カナミラ・カテワヒは車から降りて地面に手をやった。


「この宝石がきれいだったからな。よいぞ」



「っ!」


私は息が止まった。国王が今手にした物。緋色の光を放つ宝石。ターミシャルイハミサだ。


「うおっ!?っぐふっ!?」

「カナミラ様!?」



刹那、車に乗ろうとしていたカテワヒが背中から地に落下する。そして、そこに群がり始める武妖達。

ざわめき始める周囲の妖精達。

私は慌ててカテワヒに駆け寄り、宝石に目をやった。色が茶褐色に変化している。


「まさか!お前!カナミラ様に何をした!?」


が、宝石に手をやろうとした瞬間に武妖に肩を掴まれてカテワヒから引き離される。


「宝石をっ!」

「貴様ぁ!!」

「っ!」


さらに武妖が集まり、私を引き離そうとする。そのあまりの力に私の肩や腕から赤い液体が滲み始める。

あと少し、あと少しでターミシャルイハミサに手が届く。それなのに、邪魔をされ届かない。


「止めろ!その宝石のせいだ!その宝石のせいで呪いが!」

「黙れぇぇ!」


一人の武妖が剣を抜いた。そして、その柄で私の頭を殴り付ける。

とてつもない頭痛と共に私の意識は消滅した。










「う……」


額に一滴の水滴が垂れた。その冷たさを感じ、私は目を開けた。

薄暗く湿った空間。鉄格子の無効に、微かな炎の明かりが揺れている。


「っ!」


立ち上がろうとしたが、腕にかけられ鉄杭に固定された鎖によりその行動は無意味な物にされてしまう。

鎖が互いに擦れあい、じゃらじゃらと音を立てた。

どうやら捕まったらしい。剣と弓が無くなっている。

カテワヒはどうなったのだろうか。ターミシャルイハミサの呪いには段階がある。初日にはさっきのような体の急な脱力感。二日目には吐き気や発熱。三日目には手足の麻痺。四日目には体の痙攣。そして五日目には意識が朦朧《もうろう》とし、六日目には死に至る。

たとえ、宝石を手放したところでそれが収まるわけでは無い。呪いを完全に浄化するためには、ある特別な術式を組まなくてはならない。


「起きたか…お前、カナミラ様に何をした?」


鉄格子を挟んで、一人の武妖がゆっくりと歩み寄ってきた。その声はなぜか落ち着いていた。


「あの宝石だ。あの宝石はターミシャルイハミサ。呪いの宝石。私のような緑の髪をした妖精でなければ持つことはできない。その国王とやらは緑の髪をしていないのだろ?」

「ああ、カナミラ様は藍色の髪をしていらっしゃる。藍色は富と名誉を捧げると言われている」

「緑の髪は呪いを無効にできると言われている。あの呪いはそう簡単に解けるものじゃない。さっさと私を解放しろ」


武妖を睨み付ける。


「そう簡単にはいかん。お前のその言い分に根拠が無いからな。疑いが晴れるのが先か、罰を宣告されるのが先かってとこだろう。だが、罰といってもだてな罰じゃない。死刑は確定だろうな」

「…まずいことになったな…」


冷や汗が頬流れる。


「じゃあ、俺は行くぞ。あまり長居できる身分ではないんだ」

「なら、頼みがある」

「なんだ?」

「あの宝石、ターミシャルイハミサを誰の手にも渡すな!」

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