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2.人生の転機

僕は言われるがまま、四つん這いで体育館に移動した。どうやら僕らのクラスが1番移動が遅かったらしい。廊下では他のクラスと顔を合わせる事はなかった。

静まり返った体育館……僕のクラスが入るとその静寂が崩された。

四つん這いの生徒を先頭に、体育館に入ったクラスなんて非常識だから当然の結果とも言える。


僕を指差し笑っている生徒……憐れんだ視線送ってくる生徒……見てはいけないものと判断し目を逸らす生徒……その反応は実に様々である。


きれいに並べられたパイプ椅子の先頭まで来た。これでやっとこの屈辱的な状況から解放されると思った僕は甘かった。


「ねぇ……まさかその椅子に座れるとか思ってたりしないわよね?」


僕の頭上から無慈悲な声が落ちて来た。見上げるとそこには……教室で最後に見た時の様に歪んだ笑みを浮かべる大神さんが居た。


「あ、そ、それは……「入学式の間、その格好してなさい。分かったわね……?」


最後まで言わせてもらえず、無情な命令が下された。

時折聞こえる僕を揶揄する声。それを聞きたくなくて僕は耳を塞ぎたかったけど、そうすると体を支えられなくなってしまうので出来ない。

僕は入学式の間中、好奇の目と嘲笑に晒され続けた。


入学式を終え教室に戻る。席に着こうとするが、先程と同じ様に大神さんから『座るな』と言われるかもしれないと警戒したが、今度は何もなくすんなりと席に座れた。

だが、ほっとしていた僕の前にすぐさま男子生徒の一人が駆け寄る。


「おい、お前何座ってるの?入学式と同じ様に席の隣で四つん這いになって授業受けろよ」


「いや……それはちょっと……」


「へぇ……逆らうんだな。じゃ、これ使ってみるかね」


そう言って男子生徒が自分の着けてる首輪に手を伸ばし電源を入れた。


「おい、お前今日はずっと席の隣で四つん這いになってろ」


ああ……レコーダーで録音されてるのか。ここで僕が拒否しようものなら、早速内申点に傷がつくのか。

退学するのは簡単だけど、親の悲しむ顔は見たくない。ここは耐えるしかない。

僕は跪く為に身体を前に倒そうとして、咄嗟に左腕を掴まれる。

僕の腕を誰が掴んでいるのか確認する為、左側を見れば、そこには何故かとても不機嫌そうな顔をした大神さんが居た。


「あの……手を離してもらえないかな」


僕は大神さんに申し出るが、彼女から否定の言葉が返ってきた。


「君にはプライドってものがないのかな?そんな事して恥ずかしいと思わない?」


辛辣な言葉を浴びせられたけど、僕は思った。


『入学式で今より大勢の人の前で恥をかかせた元凶のあなたがそれを言いますか!!』


と。もちろん言い返せるわけもなく、心の中で叫ぶしか出来ないけど。


「恥ずかしいとは思うけど、退学になるわけにはいかないから仕方ない……かな」


僕の返答が思っていた様なものではなかったのか、大神さんの目つきが更に鋭くなる。


「そう。この一年せいぜいクラス全員から蔑まれたらいいわ」


その言葉を投げかけられ、僕はこれから起こるであろう事を改めて認識した。


そうだ、僕は最下位なのだ。自分より順位の上の人の命令に逆らえないなら、下の順位の方の人は僕と同じ目に遭う可能性がある。

そんな下位のクラスメイトの虐げられた怒りの捌け口は間違いなく僕に向くのだろう。

これから向けられる悪意を想像し、思わず身震いをして俯いてしまう。


「どうしたの?まさか今頃になって自分の置かれた立場を理解したわけ?」


僕が想像して恐怖を抱いた事に気付いたのだろう。大神さんの声からは先程の不機嫌さが微塵も感じられなくなっていた。


「…………」


返事をする事が出来ないでいる僕に、彼女が近づいてきた。耳元で、彼女が囁く。


「あなたの学園生活、卒業まで続くといいわね。知ってるかしら?この学園は毎年、席次が下の生徒から退学しているらしいわよ。当然と言えば当然よね」


「…………」


「…………」


「…………」


何も答えない僕に、痺れを切らしたのか彼女は更に言葉を続ける。


「もし望むなら私の一言で、これからの地獄の様な学園生活を少しだけマシにしてあげる事も出来るんだけどね」


予想もしていなかった言葉に、僕は顔をあげると、彼女と目が合う。


「あの…あの…」


助けてほしい…その言葉を伝えなければいけないのに僕はうまく言葉に出来ないでいる。


なぜなら、大神さんの笑顔の裏に得体の知れない恐怖を感じてしまい、彼女に助けを求める事が正しいのか分からなくなってしまったからだ。


「どうしたの?金魚みたいに口をパクパクして?言いたい事があるならば、はっきり言えばいいじゃない」


このまま行動しなければ、待っているのは地獄の学園生活。 クラス全員から虐められる事態より悪い事なんてあるわけない……よね?とりあえず行動してみよう、僕は覚悟を決める。


「大神さん、お願いします。僕を助けて下さい」


その言葉を聞いた大神さんの目が細められる。


「助けてあげてもいいけど…条件があるわ」


やはり見返りは求められるわけか…。ギブアンドテイクは世の常だよな…。


「条件って何ですか?」


「先に条件を聞いて判断出来る立場にいると思ってるのかしら?」


「…………」


条件を教えてもらえず判断しろとか滅茶苦茶だ…こんなの呑める訳ない。僕の覚悟は早々に揺らいでしまった。


「そう…ならいいわ。この話はなかったこ…」


「ま、待ってください!!」


多分今がドン底だ、もう這い上がるしかないはず…。


「大神さんから出された条件を呑みます」


言ってしまった…もう後戻り出来ない。覚悟を決めた僕は大神さんの返事を待つが、暫くの沈黙が続く。そして彼女は重い口を開いた。


「これから先ずっと私の命令には絶対に逆らわない事。私がする事を学園には絶対に言わない事。あなたが優先すべきなのは私、私が言う事には嫌な顔をせず従いなさい」


どうやら僕は不特定多数からの虐めは回避出来たが、彼女に対して絶対服従を強いられた様だ。

この状況が吉と出るか凶と出るかは分からない。美少女に虐められる…特殊な性癖の方であれば、これはこれで喜ばしい状況なのだろう。だが残念ながら僕はこの状況を楽しめそうにない…。僕は抗う事を諦め小声で返事をする。


「はい、分かりました」


この日が僕の転機となった。

マイナーなこの作品を読んでくださる方々に感謝します。本当にありがとうございます。更新遅くてすいません。

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