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1.スクールカースト最下位からの学園生活

僕がこの優恩学園に入学したのは約2年前。

全国的に見ても、有名な進学校。優恩卒業の肩書きだけで大手企業に就職できるという噂まである程だ。

全寮制で卒業まで一切敷地から出れないという閉鎖的な環境にも関わらず、毎年競争率100倍以上という人気校である。


僕がそんな競争率の高い学園に受かるとは思わず記念受験のつもりで試験を受けてから……もう2年が経つのか……。



分相応……。この世の中を端的に表現するとても素晴らしい言葉だと思う。

そして、この言葉はこの学園にこそふさわしい言葉だと思う。


そう……僕は世の中の怖さを知らなかったのだ。この学園に入学して、僕はそれを知る事ができた。

若くして経験出来たのはある意味では幸運だったのかもしれない。

そんな事を言えるのも、今目の前の掲示板に張り出された結果を目にしたからだけど。


【三学年 クラス分け試験結果】


3-A


1芦屋 隆

2大神 由奈

3白井 美咲

4小鳥遊 梓

…………

…………

…………

30高山 公


3-B

1 …………

…………

…………

30…………


3-C

1 …………

…………

…………

30…………


この学園は一学年に3クラス、1クラス30人の合計90人。

学年が上がる際に試験が行われ、その成績順でA〜Cクラスに振り分けられる。


周囲は掲示板の結果に騒然となるが、僕にはその光景が愉快で仕方ない。


やっとだ……。この時をずっと待っていた。隣を見れば試験結果のAクラスの2〜4番目に名前の書かれていた生徒達が呆然とした顔で掲示板を見ていた。





〜2年前〜


「受かってる……マジか……」


「隆!!やったじゃない!!お父さんに早く知らせないと。学費なんて心配せず3年間しっかり学んでらっしゃい」


母親と合格発表を見に来た。受かってるなんて全く考えていなかったので正直困惑している。

全寮制……しかも卒業まで出れない……これは……嫌だな。よし、滑り止めで受けてた方にしよう。

母親にその旨を急いで伝えようとした矢先、僕は見てしまった……。


「由奈、美咲やったね!!三人とも受かってるよ〜」


「梓、騒がないでよ。まったく……恥ずかしいじゃない」


「ごめん、由奈。でもまた3人で通えると思うと嬉しくてつい……」


「そんな事を言ってるけど由奈も3人でまた通えるから本当は嬉しいのよ。素直じゃないのだから」


「ちょっと美咲?私の気持ちを代弁している風に言うのやめてよね」


そんなやり取りをしている3人組に、僕の目は釘付けだった。

3人とも……とても可愛い。


由奈と呼ばれる子は、サイドテールの腰ぐらいまである黒い髪。少し気の強そうな感じがするが、それも彼女の見た目を引き立てているとさえ思えてしまう。


美咲と呼ばれる子は肩まで伸びたストレート。前髪は眉毛のすぐ上でまっすぐ揃えられていて、お人形みたいな感じだ。着物とか凄く似合いそうな美人だ。


梓と呼ばれた子は、少しだけ茶色がかった緩やかなウェーブロング。目元が少しだけ垂れていて優しげな感じがする。


どうやら三者三様の彼女達を注視しているのは僕だけではなかったらしい。

周りを見れば男女問わず見惚れている。


せっかく受かったんだし、この学園に入学しよう。あわよくばあの中の誰かと同じクラスになれますように……。


そうこの日こそが、僕の運命が決まった瞬間だった。




あの決意の日から1ヶ月程して、僕は優恩学園に入学した。


合格発表が張り出された掲示板に足を運ぶ。最初のクラス分けの張り出しがされているのだ。


「確か…由奈さんと美咲さんと梓さんだったよな……」


彼女達の名前を思わず口に出してしまった。急いで周囲を見渡すが周りに誰も居なかった。

流石に知らない男から名前を呼ばれたら気味が悪いだろう。

そんな話が本人達に届くと……いきなり学園生活お先真っ暗になってしまうかもしれない。

誰にも聞かれてなくて良かった事に安堵の息を漏らす。


僕は気を引き締めて…クラス分けの貼られた掲示板に近づく。


あ……。3人ともすぐに見つかった。1-Aの頭から3人が並んでいた。

でも変だな……普通こういうのって名字のあいうえお順とかだよな?

そんな事を考えながら自分の名前を探す為、掲示板に再度目を向ける。


1-A


1大神 由奈

2白井 美咲

3小鳥遊 梓

…………

…………

…………

30芦屋隆



あった!!やった!!彼女達と同じクラスになった。せっかくのチャンスだ、なんとかしてお近づきになりたい。

僕はこの時、そんな甘い幻想を抱いていた。



クラスに移動し席に着くと、暫くして担任らしき女性が教室に入ってきた。美人だが、目つきが鋭い。苦手なタイプかもしれない。


「このクラスを受け持つ事になった、谷川薫だ。入学式の前に、この学園の仕組みについて簡潔に説明しておく。まず、他クラスの生徒との交流を禁止する。これを破った者にはペナルティーが課せられる。なので、そういう光景を見たら先生に報告する様に心がけてくれ。通報してくれた生徒には内申点をやる」


他クラスの生徒との交流禁止だって!?先生の言ってる意味が分からない。そんな事、問題視する様な内容ではないと思われる。

しかも通報だって??内申点をやるとか言われても、告げ口してもらえる内申点って意味ない気もするけど……。そんな事を考えている僕を尻目に先生は話を続ける。


「それと、今お前達が座っている席順だが、教室の前列……先生から向かって左側。そうそこのお前だ」


そう言って先生が僕を指差す。


「お前がこのクラスの序列最下位だ。この1-Aの底辺だ。クラスは入試試験の1〜30番までがAクラス、31〜60番までBクラス、61〜90番までがCクラスとなっている」


て事は、僕は入試試験の順位が30位だったという事らしい。

半分より上だったのは、悪くないポジションだ。むしろ予想以上とも言える。


「そして各クラスは独立しており、干渉はしてはならない。よってそこのお前がこのクラスの序列で言えば底辺だ。そして他の奴らも自分より序列の上の者の発言には逆らってはならない。シンプルだがこれがこの学園のただ一つのルールだ。反抗するなら内申点がマイナスになる。内申点のマイナスがある一定に達すれば強制退学になるから注意しろ。とは言っても……犯罪行為は行ってはならないから、何でもしていい訳ではないがな。だが、多少の事なら……虐め程度の些細な事なら容認されると思っていい。だからと言って羽目を外さない様にな。何故なら毎年やり過ぎて数人は退学者が出ているからな」


なんかとんでもない物騒な事を言ってるがこの先生頭大丈夫なんだろうか?話を聞いてそんな事を考えてしまった。


「説明は以上だ。それでは全員、この首輪をつけろ。これはレコーダーの役割を果たしている。普段電源は落ちているからプライバシーは守られているが、誰かに命令する時には電源を入れろ。もし拒否してもバレないとか思うなよ。いいか?学園内は監視カメラが設置されているし、このレコーダーがある限り嘘は通じない。退学になりたければ自分の立場を受け入れろ」


教室内が騒然となる。そりゃいきなりこんな話をされたら困惑するよな……。


「先生、この序列はずっとそのままなんでしょうか?入れ替わったりするのでしょうか?」


クラスメイトの1人が質問した。確かにそこ気になるよな……。おそらく他の皆も気になったのだろう。騒然としていたクラスが一瞬で静かになる。


「一学期の最後に序列試験がある。その結果に内申点を加減して二学期の序列が決まる。毎学期入れ替わると思えばいい。入学式の時間だ、体育館に移動する」


そう言って席を立たされた僕達は廊下に出ようとした。


「あ、ちょっと待て。一つ忘れていた……大神。このクラスのトップはお前だ。芦屋……お前がこのクラスの最下位だったな。大神、芦屋に一つ命令しろ。全員、学園のシステムがどういうものかそれで理解しろ」


先生から思わぬ声がかかる。大神さんを見ればいきなりそんな事を言われたものだから困惑している。


「先生、いきなりそう言われましても私には命令なんて出来ません」


「何でもいいんだぞ?お前が言ってやった方が芦屋の為にもなるんだがな。まー仕方ない、拒否するなら大神に代わって今回は私がしてやろう。芦屋、お前体育館まで四つん這いになって移動しろ」


「えっ……!?」


この人本当に先生なのか?告げられた言葉は先生という立場の人の発言とは思えないかった。


「先生!?それはいくら何でも度が過ぎてると思います!!」


抗議の声を上げてくれたのは大神さんだった。ああ、顔だけじゃなく性格もいいのか……。僕は大神さんに見惚れてしまう。


「大神……お前が些細な命令をしておけば芦屋はこんな目に合わなかったのにな。芦屋、お前もぼーっとしてないでさっさとやれ。他の者の迷惑になるだろうが。私の言った事に逆らうのは構わないが、内申点に大きく響くからな。学年が上がる前に退学になってもいいなら逆らっても構わない。今すぐどうしたいか決めろ」


従わないだけで、退学が視野に入るっておかしいだろうと思うものの、入学初日で退学の心配をしなくてはならないという異様な事態のせいで僕は冷静な判断が出来なくなっていた。


「分かりました、四つん這いで体育館まで移動します」


そう言って床に膝をつく。こんな惨めな所を大神さんに見られてしまうのか。彼女は一体どんな顔で僕を見ているのだろう。気になってしまった僕は大神さんを見やる。


彼女は……俯いていた。だけど、膝をついて下から見上げる格好だった僕にだけは彼女の顔が見えた。彼女は……




笑っていた。愉悦に顔を歪ませていたのだ。


僕は彼女の本質をすぐに知る事になるのだが、この時はそんな事は露ほども思っていなかったのだ。

読んで下さってありがとうございます。

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