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#56 寝待流・裏

今回はストーリーの都合上、前半がシリアス、アクションパートとなります。

※特に暴力的な表現が苦手な方はご注意下さい。

 ――だらり。深夜子の両腕が、再び力なく垂れ下がる。

 つられるように上半身も軽く沈み、ふり乱された黒髪のカーテンはうつむく顔の大部分を覆い隠している。

 血だまりに(うめ)き悶える者たち。

 あまりに対象的に、不気味に、静かに、異様な姿でたたずむ深夜子に組員たちは戦慄する。


「フヒッ!」

「「「うひいっ!?」」」


 突如として、深夜子の首から上がぐるりと動いた。

 その顔が、数名でかたまっている組員たちの方向へと向けられる。

 髪の隙間から、猛禽類を思わす瞳の片方がのぞく。真っ赤に染まったそれは、獲物を見つけたとばかりに妖しく(くれない)の光を放った。


 ――それから、影嶋一家にとっては正に悪夢の光景。


「うぎゃああああああっ!」

「くっ、くそおっ!? か、囲め! 取り囲め! な、なんで、あっ、ひぎいいいいいっ!?」

「ちくしょうがぁ!? はやく、捕まえて動きを――うげぇっ!」


 深夜子に近づく者、近づかれた者たちが一瞬にして倒されていく。しかも、ただ倒されるだけでは済まない。

 目潰しから顔をつかまれ、そのまま後頭部を床に打ちつけられた上、喉へと膝蹴りを食らったもの。

 腕を極められ、へし折られたと同時に、投げ技で脳天から床に叩きつけられたもの。

 ことごとくが”必殺”と呼べる攻撃を、疾風迅雷(しっぷうじんらい)の速度で決めていく。

 次から次へと、十数名の武闘派暴力団員ともあろう者たちが、すでに烏合の衆と化している。


 ――さらに、悪夢は簡単には終わらない。


 周りのものが蹴散らされ、残ったある一人の組員に深夜子が馬乗りになった。


「フヒヒッ! お前。朝日君ヲ、優しイ朝日君を売ル(・・)って言っタ奴だヨネ?」

「ひっ!? あがっ、はなっ、離せっ! うがぁ、ち、ちくしょ、いだっ、やめっ、顔がぎゃぶっ!?」

 ゆっくりと振り上げられた深夜子の拳が、無造作に顔めがけて振り下ろされる。

「あのネ。朝日君ハね。あたシのこと、怖くナイって、かっコいいって言ってクレるんだヨ? そんナ朝日君を、優シい朝日君を、売ルって、お前、売るっテ言っタよネ?」

 何度も、何度も、ただ乱暴に、左右の拳が叩きつけられる。

「ち、ちがっ、ぎゃう! あ、あああああああれは、がぶっ! 高値が付きそうだって、うがあっ! べ、別に売るとか、そんな大それた、つもっ、つもあぎぃ!? やっ、やややややめ、あぶうっ! あが、ゆ、ゆる、ゆるしひぎゃぶっ!」

 泣いて許しを請おうが関係ない。深夜子の拳はより強く、より速く、より乱雑に、組員の顔のかたちを歪めていった。

「フヒッ、フヒヒッ、壊レろ、壊れロ、壊レロ――――」


 恐怖は人から冷静な判断力を奪う。

 もはや組員たちどころか、不知火、土山も繰り広げられる光景に唖然(あぜん)となっている。


「ちっ、ちくしょおおおおおっ! このくそ女があああああ! しっ、死ねえええええ!」

 ここで一人の組員が拳銃を取りだし、深夜子へ向けて乱射した。

 数発の銃声。ゆらぐ硝煙(しょうえん)。だがすでに、深夜子の姿はそこに無い!

「なっ!? えっ? うがっ!?」

 突然、その組員の首に何か(・・)が絡みつき、両腕の関節は逆方向へと極められる。


 ――それが何かを認識した刹那。

「うげえっ!?」

 彼女は、己の骨が折れる鈍い音を耳にしながら意識を失った。


「ひいいいいいいっ!? な、ななななななんだよ……あれ」


 遠巻きに一部始終を見ていた者たちが、顔を真っ青にしながら呟く。

 ――銃弾が放たれた瞬間。

 深夜子が、まるでワイヤーアクション並の不自然な跳躍を見せた。それは、発砲した組員からワイヤーが伸びているのかと思える程の異常な軌道。

 組員の背後に飛び乗ると同時に、両足で首を、両手で両腕を、絡めとり、極める。


「寝待流格闘術――『頸輪断(くびわだち)(ヒエン)』」


 骨が折れ、砕けたであろう鈍い音が響く。

 その場に崩れ落ちた組員の上で、ゆっくりと深夜子が身体を起こす。そして、キョロキョロと次の獲物を探しはじめた。


「バッ、バケモンだぁーーーっ!!」

「「「いやあああああっ!!」」」

「「「ひいいいいいいっ!!」」」


 ついに瓦解(がかい)。恐怖に屈した組員たちが、我先にと逃走を開始する。


「フヒヒッ! 見つケタ!」


 その中で、妖しい(くれない)の光を(にじ)ませる深夜子の瞳が、不知火と土山をとらえた。


「ハッ……キャハハッ! なんなんだよぉ~? イカれてんのかよぉ~? キャハッ! まぁいいや、土山ぁ~。このおバカちゃんの動きを止めちゃいなよぉ~、今度こそぉ、不知火ちゃんがぶっ殺しちゃうからさぁ~」

「へい、わかりやした姐御。あっしが捕まえたら、そこにぶちこんでやってくだせえ」

「はいはぁ~い。それからぁ~、今逃げてるヘタレちゃんたちはぁ、後で死刑ねぇ~。キャハッ!」


 気を持ち直した二人。ここで、不知火の横から土山が駆け出した。


「うおらああああっ!」


 サングラスを投げ捨て、その巨体で深夜子へ覆い被さるように体当たりを仕掛ける。

 背後からそれを眺める不知火の目に、土山が深夜子の身体をしっかりと捕らえるところが見えた。

 ……いや、これは違う。避けようともせずにわざと(・・・)捕まった?


「はあああああああっ!? 舐めてんのかぁ~おバカちゃんはぁ~! 土山ぁ、そのまま逃がす――――なあっ!?」


 不知火が後を追って駆け出すも、その視界に映るのは、深夜子の身体にすがるように力を失い崩れ落ちていく土山の姿。

 角度が変わって認識できる。

 土山の目から、耳から、鼻から、口から、大量の鮮血がしたたり落ちている。首元と腹部、それぞれに深夜子の掌底打(しょうていう)ちが決まっていた。


「フヒッ!」


 力なく倒れこんでくる土山の巨体を、ゴミのように深夜子は投げ捨てる。


「てめぇ~、いい加減調子こいてんじゃねえぞぉ!」


 もはや怒り心頭。

 ピクピクと目元を痙攣させつつ、顔のあちこちに血管を浮き立たせた不知火が吠えたける!

 間合い近くまでせまったところで、嵐のように三節棍を振り乱して、深夜子の背後から襲いかかった。


 ――しばしの攻防。


 それでも闘いにおいて、不知火は冷静であった。

 三節棍と鉄棍の形態を駆使して、恐ろしく素早い深夜子を一切間合いに入れていない。

 そうして何度目かのやり取りで、不知火はふと気づく。

 深夜子の動きが所々で鈍っている。……これは、ダメージの蓄積(・・・・・・)だ。

 何よりガードが(おろそ)かになっているのがわかる。ふと目に入ったのは一度目の『龍のひと咬み(ドラゲナイッ)』で破れ、あらわになっている腹部。


 よし、ならば次のチャンスに、今度こそヤツの腹を貫き仕留めてやる。


 不知火は淡々と攻撃を、回避を、繰り返す。一方で注意深く深夜子の様子をうかがう。

 ……見つけた! 思ったよりも早くその好機を発見した。

 時々足が止まっている。――特に、左右への激しい回避の後は、動きが極端に鈍くなっている。

 これだ! 不知火は一気呵成(いっきかせい)に間合いを詰めた。


「やっぱぁ~足にキちゃってるぅ~? 残念さぁ~ん。これでぇ、簡単には逃げれないよねぇ~。キャハハッ!」

 鞭のように三節棍をしならせて、連続で打ちつけ攻撃をガードさせる。じわじわと間合いを調整。

 深夜子の足が動いてないの確認して、腹部が空くようにカードをしている腕を狙って弾き上げる。

「キャハハッ! もうかわせない感じぃ~?」

 そこから最終の一撃、必殺の高速中段突き『龍のひと咬み(ドラゲナイッ)』が深夜子の左下腹部を貫通した!!


「キャハッ! おっしまぁ~い。それじゃ――――あ゛っ!?」


 今、必殺の一撃は決まった。

 だのに、尖端が抜けない。微動だにしない。それどころか三節棍を握る手が引き戻される。

「へ? ……あ」

 気がつけば、深夜子の手が鉄棍を握っていた。

「フヒヒッ! こレで……もう、逃げらレナい!」

「なああああッ!? ば、か、な、そ、そん……な、ッ!? まさかぁ!? まさかあああああああッ!?」

 不知火の表情が凍りつく。


 そのまさか。深夜子は確実に不知火を捉えるため、確実に仕留めるため、あえて『龍のひと咬み(ドラゲナイッ)』をその身に受けたのだ。

 ひたすら距離を取られた場合、じり貧になることを見越して。こうなるように(・・・・・・・)、隙をつくって誘導したのであった。


「あたシの目ヲ見ろ!!」

「ひいっ!?」


 深夜子の深紅に染まった目と視線があった瞬間に、不知火の心臓がドクンと打ち跳ねた。

 武闘派暴力団として、常に前線に立って培ったその危機察知能力が最大の警鐘を打ち鳴らす。

 しかし、それでも、相手は瀕死。何より必殺の一撃は決まっている。

 ならば、深夜子に突き刺さっている鉄棍の接合をはずす。三節棍としての能力は落ちるが、もうこれで充分。

 頭を叩き割ってやる。不知火はニヤリと口元を歪め、長めのヌンチャクとなった鉄棍を振り上げた。

「このおおぉくされ死にぞこないがああああああ――――あぐぅ!?」

 ――が、左側頭部に衝撃が走った!

 鉄棍を振り下ろす間もなく。不知火の視界が揺れる。

 何も見えなかった。今、何をされた?

 見れば満身創痍(まんしんそうい)であろう深夜子が、蹴りを放った後の体勢になっている。


 蹴り? あの状態で?


 いや、それよりもこんな状態の相手の蹴りが見えな――――「へぶうっ!?」

 視界に火花が散る。まただ。今度は下から顎を打ち抜かれた?

「なぁっ、はっ、そ、そんなぁ。い、いつ蹴りを――ぎゃふっ!? げぶうっ!?」

 みぞおち、こめかみ、人中。威力はそこまで高くないが、的確に急所を鋭く突いてくる。

「はぁ、なんでぇ、なんで見えないぃいいい?」

「無理。『無幻脚(むげんきゃく)』はカわせナイ(・・・・・)


 蹴り技? わからない。だが、このままではマズい。

 不知火は決定的なダメージを受ける前に覚悟を決める。

 見えない攻撃なら、あえて受ける(・・・・・・)。もう相討ちでいい。強引に鉄棍を振りかかげる。


「くそっ、くそおっ、くそがああああああ!! このっ、この不知火ちゃんが、影嶋不知火がっ、お前みたいな――――ひいいっ!?」


 見えた! 今度は深夜子の放った蹴りが、不知火の目にはっきりと映った。

 それは襲いくる八匹の大蛇。

 これは先ほどまでとは別物。速度も、威力も、何もかも桁が違う。不知火がそう理解した時には全てが遅かった。


「朝日君の腕時計の敵! お前も、壊れろ。ほおおおおおわっちゃちゃちゃあっ!!」 

「あぐっ、がぎゃっ! ははばあわああぐばああああああ!!」


 深夜子から、しなるように放たれる左右交互の神速八連蹴り。それは八匹の大蛇が獲物に殺到して食いちぎるが如し!

 ――衝撃で、不知火の身体が豪快に宙を舞う。


「寝待流格闘術――『無幻脚(むげんきゃく)(オロチ)』」


 まだ終わらない! 唸りを上げる八匹の大蛇によるさらなる八連撃(・・・・・・・)

 宴会場をところ狭しと深夜子が蹴り進む。合計六十四の痛烈な衝撃が不知火を襲った。


「ひぃぎゃぶばああああああああげぶはああああああああああっ!!!!」


 最後に出口である扉をぶち抜く。

 ボロ雑巾のようになって、完全に意識を刈り取られた不知火は、廊下の壁へと吹き飛び、張りつくように激突した。



 数分後――気を失っている者以外は逃げ出し、宴会場にはもう深夜子以外に動く人影はない。

 その深夜子は床にしゃがみ込んで、何かぼそぼそとつぶやきながら手を動かしている。


「うっ、ひぐっ……ごめんね。朝日君ごめんね。……腕時計……壊れちゃった。これ、全部集めなきゃ、全部集めたら……五月(さっきー)なら、直してくれるかな?」


 腹部には、いまだに鉄棍が突き刺さっている。

 ポタリ、ポタリ、と少しづつ血がしたたり落ちていた。すでに深夜子の足元には血だまりが広がりつつある。

 しかし、深夜子はそれを気にも止めない。

 黙々と、腕時計の破片と部品をかき集め。朝日への謝罪の言葉をつぶやき、涙を流す。

 ひとしきり集め終わった朝日の腕時計だった物たちを、大切そうにズボンのポケットへと詰めると、そのまま座り込んでため息をついた。


「はぁ、お腹……空いたな。朝日君とデザート、いっしょに……食べた……かったな……」


 時折ふらりと、床に座って遊んだまま寝落ちする子供ように、かくんと頭が揺れる。


「……ん。眠いや。今、何時かな? ……あ、そだ。帰らないと、朝日君、きっと、待ってるよね」


 愛する朝日の笑顔を思い浮かべ、深夜子は少し微笑む。それから、そっと、そのまぶたが閉じられた……。


◇◆◇


 それからしばらく――。

 別館『海神(わだつみ)』八階、朝日たちの宿泊する『紫陽花(あじさい)の間』入り口にて。


「――という訳で五月(さっきー)。朝日の腕時計を直して、はよ」

「ひいいいいいいいっ!? みっ、みやっ、深夜子さんっっっっっっっ!? あ、貴女、その姿は、ちょっ、何があっ――ではなくて。きゅ、救急車をっ、びょ、病院をっ?」


 ボロボロを通り越し、むしろなんで生きてるの? とまで思える深夜子の姿に、悲鳴を上げて混乱気味の五月。

 ところが、当の本人は両手のひらに壊れた腕時計の部品らしきものを乗せて、あっけらかんと、よくわからないお願いをしてくる。


「あたし、平気。だから五月(さっきー)、朝日君の腕時計直して、はよ」

「あ、ああ貴女? そ、それの、ど、どどどどこが平気なんですのっ!? そ、そそそそそそそんなことよりも――――」

そんなこと(・・・・・)?」

「ひいいっ!?」

 それどころでは無い。と言いかけたら深夜子の目つきが死ぬほど怖くなった。超怖い。

「わ、わかりましたわ。あ、朝日様の腕時計ですわね? なんとか、なんとかしますから」

「ほんと? 朝日君が起きるまでに。はよはよ」

「はいっ? ……えええっ!? あっ、いや、わ、わかりましたわ。なんとか……してみせますわ」

 深夜子の目が『断ったら殺す! できなくても殺す!』と言っているように見えた。


「じゃあこれ。よろ――――ぷっしゅうー」

 五月に腕時計の破片たちを渡した瞬間。電池でも切れたかのように深夜子は床にぶっ倒れた。

「み、深夜子さあああああああんっ!?」

 焦る五月に対して、床で転がっている深夜子が右手でサムズアップを決める。どこにそんな余裕があるのか?

「……ところで五月(さっきー)救急車呼んで。ぶっちゃけ、あたし虫の息」

「当たり前ですわあああああああっ!!」

 ですよね。


 それにしても、大丈夫なのか、大丈夫で無いのか。

 いやいや、廊下をのぞけば、深夜子の血痕は点々と見渡す限り繋がっている。やっぱり大丈夫なわけが無い。

 五月は救急対応可能で、かつ、優秀な外科医がいる受入先を必死に頭で検索する。


 ――そこに。

『ほらやっぱり。ねえ、深夜子さん。帰ってきてるの?』

「「ふあっ!?」」

 あっ、これはまずい! 五月の動きが止まる。深夜子は危うく本当の意味で心臓が止まりそうになる。

 部屋の奥から、朝日の声と足音が響いてきた。それを追って梅の声も聞こえてくる。

『お、おい、こら! 朝日。ちょ、ちょっと待てって言ってんだろ?』


 現在の時刻は深夜二時を回ったところ。

 深夜子の戻りに不安を感じた五月が、朝日が起きてきたら引き留めるよう梅に伝えていた。

 読みはばっちりだったのだが、どうやら梅が失敗したらしい。

 五月は床に転がる深夜子の状態を見る。……アウトである。完全にアウトである。

 これは絶対に優しい朝日は心を痛める。どころか、パニックになる可能性も大。

 なんせ同じMapsである自分から見ても、余裕で事件発生と呼べる有り様。

 しかし、五月の頭脳を持ってしても、この場を無難におさめる手段は思いつかない。

 脳内では、すでに白旗が振られている。と言うか、すでに朝日は自分の背後に到着してしまった。

 その後ろにはあたふたするだけの梅。あーもう、この役立たず(のうきん)ッ!


「お帰りなさい深夜子さん! お仕事大変だったね。えへへ。僕、声が聞こえて目が覚めちゃ――――ひっ!?」

 深夜子の姿を見た瞬間に朝日は凝固する。――終わった。何もかも……五月は現場から目をそらす。

 この後、どう言い訳をすべきか。

 いやいや、その前に、深夜子を病院に連れて行かないと本格的にマズい気もする。


「ただいま朝日君。ちょっと仕事、遅くなっちゃったかな? ふひっ」


 なん……だと……!? 五月はあり得ないものを見た。

 なんと廊下の壁に手をついて、さらっと立ち上がり、深夜子が無駄に凛々しげな表情でしゃべっている。

 先ほどまで、どう見ても死にそうな状態。

 余裕ありげなポーズで立ってますけど、今もお腹から鉄棍生えてますよね? オマケに血もしっかり流れ出てますよね?

 五月は心の中で全力のツッコミを入れた。


「朝日君。あの、これ、おっ、お仕事中に流れ鉄棍に当たっちゃった。か、かすり傷! かすり傷だから――」

「あ……み、みや、みや……こさ――――ふうっ」

 もちろんこれで誤魔化(ごまか)せる訳も無く。朝日はあまりのショックに気を失い倒れこんだ。

「ひいいいいいいっ、あああ朝日様あっ!? お、お気を、お気をたしかにいいいいいいっ!!」

「うおおおおおっ!? し、しっかりしろ朝日っ! ん? ――おい、み、深夜子?」

「ぷっしゅうううう」

「お前もかあああああ!?」

 続けざまに五月と梅が慌てふためき、深夜子は再び床にぶっ倒れる。どう見てもやせ我慢の反動である。

「さっ、五月(さっきー)、梅ちゃん……朝日君に救急車を。あと、ついでにあたしにもよろ。そろそろ死にます」

「「ひえええええええっ!?」」

 大丈夫じゃない。大問題だ。



 ――結果。

 パニック状態の五月が、男性総合医療センターに『男性が腹を刺されて意識不明』と言う。歴史に残る痛恨の緊急コールをかけるに至る。

 不幸中の幸いか、ヘリ数台で現地に来たのは看護十三隊の隊長格。

 まあ、来ちゃったものはしょうがないと、深夜子も仲良く武蔵区男性総合医療センターへと搬送。

 そこはさすがの男性医療の最先端。腕利きの外科医による緊急手術で無事、命に別状なしであった。

 

 それから、もちろんお察しの通り。

 五月は五月で、これから約四十八時間。不眠不休のぶっ通しで、このやらかし案件(緊急コール)の火消し、影嶋一家たちの事後処理に追われる事になる。

 ――合掌。

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