#02 深夜子と朝日
――面談室。
「神崎君、紹介しよう。君の身辺警護と生活補助のチームリーダーを担当することになるSランクMaps、寝待深夜子だ」
「はじめまして、神崎朝日です。よろしくお願いしま……あれ?」
朝日の前には、だらしなく口元を緩め、あやしげな吐息を漏らしている女性がいた。
猛禽類を思わせる鋭い目つきなのだが、それも口元同様のだらしなさ。とろけるような表情で自分を見つめている。
「……おい、深夜子」
矢地が呼ぶも返事がない。どうやらメロメロ状態のようだ。
「おいこら深夜子!!」
今度は呼び声と共に拳が頭上に落ちた。
「ぐへえっ? ハッ! ……しっ、失礼。精神が別世界に」
やっと帰還したらしい。
――寝待深夜子の緊張は極限に達していた。
実物はまさに別格。移動中に穴があくほど凝視した写真の美少年が目の前にいる。
しかも、自分と目を合わせてもまったく物怖じしないのだ。さらには穏やかな笑みを浮かべ、挨拶もしてくれている。
普通の男性なら、初対面の女性に対して警戒的な反応を示して当然。過去、自分の見た目なら尚更であった。
ところが、彼はこの想定外な素敵反応。緊張に動揺が上乗せされる深夜子だが、ここは大事なファーストコンタクト。気を引き締めて挨拶を返す。
「ねまひみひゃこれす。よろひく」
噛みまくった。
「おい……深夜子。大丈夫か?」
まさに失態――あたしは処女か? いや、処女だ。深夜子自身も驚いてしまうほどのグダグダぶり。
もちろん職業柄、男性との面接経験は一般女性とは比べものにならない。
Maps養成学校時代には、男性学の一環として男性への対応、自制心強化の訓練もきっちりとこなしている。
はずなのに、これはまずい。非常にまずい。
――絶対に負けられない戦いがここにあった。
「すぅーはぁー、ひっひっふー……よし!」
深夜子は必死に深呼吸をして心を落ち着かせる。そして――。
「あたし、寝待深夜子。あなたの身辺警護と生活補助をまかされた。よろしく」
うん、バッチリ。これでいつものペースだ。
「寝待深夜子さんですね。これからよろしくお願いします。僕のことは朝日と呼んでくださいね」
挨拶成立。しかし、まだ序盤も序盤。将棋でいうなれば駒組みの段階だろう。
ここから――ち、ょ、っ、と、ま、て。今、彼は今なんと言った? 朝日と呼んでくださいね……だと!?
男の子から、自分を下の名前で呼んでいいよってか? なんですか、その最初からクライマックスの激アツイベント。
妄想じゃね? 夢見てる? 深夜子は自分が現実の世界にいるかを疑ってしまう――が、舌を噛んでみたら現実だった。ひゃっふう。
現実ならば呼ばない理由がない。むしろ呼ばせてください。さあ呼ぶぞ!
「んふぅん、ひんむははくひつにこなひゅ。あんひんひてあはひきゅうん(うん、任務は確実にこなす。安心して朝日君)」
「もう何を言っているのかまったくわからんぞ?」
こんなことは初めてだった。普通に、いや、好意的に接して貰えるとはこんなにも違うことなのか。
深夜子が今までに出会った男性たちとは全く違う。中身も、外見も。実物を見ればはっきりとわかる。
健康的な肌、適度に筋肉がついて引きしまっている身体。
ああ、なんと情欲を煽り立て――――ッ! しまった、やってしまった。
深夜子はあわてて視線をそらす。
ついつい朝日の足元から顔まで、全身をくまなく、下から上まで、舐めるようにガン見してしまった。
過去に同じような失敗を何度もしたのに!
「し、失礼。その――」
「ん? どうかしましたか」
「あっ、いや、なんでも、なんでもない」
どうしたことか。朝日は気にした様子も無く、ニコニコとした表情のままだ。
自分の目つきが怖くないのだろうか? やせ我慢をしているようには見えない。
それでも今までが今までなので、どうにも確信が持てない。悩んだ挙句、深夜子は勇気をふりしぼりストレートに聞いてみることにした。
「あの……あたしの……目。その、こ、怖くない?」
「えっ、目? ああ、そうですね。少しキツイ感じはしますけど、僕はそんなに気にならないかな。んー、なんていうのか……うん! それよりもカッコイイ目だなって思います。凛々しい感じがしますよ」
「んなあっ!?」
絶句。朝日からいともたやすく素敵すぎる感想が返ってきた。しかも、さわやかな笑みのサービス付きである。
深夜子はかつてない衝撃をうけた。
――かっこいい? かっこいい!? かっこいい!! 凛々しい? 凛々しい!? 凛々しい!! 深夜子さん素敵ッ、抱いてッ……脳内で甘美な言葉がこだまする。
もう、顔中の穴という穴から蒸気が噴出寸前だ。ついでに言うと、下の穴も別の意味で大ピンチ。
これは、女殺しなどというレベルではない『対女性無差別大量殺戮兵器』と呼んでしかるべき存在である。
こんな、このような素敵な男性がこの世に存在するなんて、心の底から感動を禁じえない。
深夜子の鼻や耳から蒸気が吹き出す。ついでに口から「げへおっふぇうえひへへへ」と感激のいななきが漏れかけた――おっと、危ない。
ギリギリで踏みとどまる。危うく再度の失態を犯すところであった。セーフ。
さあ、それではお礼を言わなければなるまい。この愛らしい天使に、自分を受け入れてくれて『ありがとう』と! 口べたで、目つきの怖い自分だけど、精一杯を伝えよう。
「あっ、ああっ、ありが――――ぷっしゅー」
轟沈。
「おい、深夜子? 深夜子!?」
まるで電池でも切れたかのように、深夜子の視界はそこで暗転した。なんたる体たらく。
「あはは。寝待さんは面白い人なんですね」
――それでも朝日は笑ってくれていた。
――薄れゆく意識の中で『なんて言いますか、もう宇宙は常に膨張して新しく産まれ続けているんですよね』と、悟りの境地に達した気がする深夜子であった。
こんなやり取りを何度か繰り返し、朝日とまともにコミュニケーションが取れるようになるまでに丸一日を費やした。
翌日。二人は朝日の生活拠点となる場所へ向け、国より支給された黒のセダン車に乗って任務開始となったのである。
◇◆◇
「――朝日君、本当に反省。あたしの説明不足」
「いや、僕も矢地さんから聞いてたことの認識が甘かったです。こちらこそごめんなさい」
出発してからしばらく。不覚にも、コンビニで朝日が暴女たちに囲まれる事態が発生してしまった。
とりあえずは事なきを得たが、朝日の精神的負担を考慮して、以降の寄り道は考えず。目的地への移動を最優先にした。
「ところで……深夜子さんって凄く強いんですね。僕、びっくりしました」
「あっ、いやっ、そのっ、あ、朝日君。もう……怖くない?」
「え? あっ、あの時は少し驚いただけで、その……怖くはないですよ。深夜子さんは強くてカッコイイと思いました」
「はうあっ!? そ、そそそそそうかな。むへっ、むへへ、ふひっ、でへへへへ」
喜びに両頬へ手をあて、身体をよじらせつつ照れる深夜子。無論、必然的にハンドルから手は――。
「うわあああっ、みっ、深夜子さんハンドル持ってくだい。前、前っ、また車線からはみ出てますよ!!」
「うへへ……ほあっ? うわったああああああ」
何分、深夜子は浮かれ気味だった。
朝日は下の名前で自分を呼んでいいと言ってくれた。その絶好のチャンスを逃すなどありえない。
恐る恐る自分も下の名前で呼んで欲しいな、とお願いしたら、あっさりオッケー。
世の女性にとって、男性と下の名前で呼び合うことは一生のうちに実現したいシチュエーションベスト10に入るイベントだ。これで浮かれない方がどうかしている。
――結果、まるでコントだな。と言いたくなる道中になってしまった。
そんな車中で二人の会話は続く。
「そうだ。僕、生活する場所のことってあまり詳しく聞いてないのですけど」
「えーと。この曙区の南に位置してる春日湊という街。男性特区だから治安はとてもいい。男性福祉も充実してる。男性人口も一割近いよ」
念のため、コンビニであったようなことは起きない場所だ。と深夜子は付け加えて置く。
「そうなんですね。それで、男性が一割……それって、この世界では凄いことなんですよね?」
「うん。男性は保護の意味でこういった地域に集められてることが多い」
「うっ……なんか微妙に闇を感じますね」
「そう? でも、そうじゃないと男の人には危険が多い」
「そ、そうなんですか……」
『曙区春日湊』
男性福祉対応型都市としてデザインされた国の重要管轄区――男性福祉特別区域。
人口は約三十万人。その一割が男性という通称『男性特区』だ。同じような区域が国内の各地域に点在している。春日湊はその中でも最大級の一つである。
深夜子の運転する車は、街の中心部にある大通りを抜けて郊外へ。
朝日の目に写る景色はだんだんと閑静な住宅街になる。少し先に見える小高い団地、その一部はゲーテッドタウンとなっていた。
どうやらそこを目指して進んでいるようだ。
団地の中腹にある、壁に囲まれた住宅街。
検問所を車に乗ったまま通り抜ける。壁の内側に入ると、外と比べ物にならない豪華な一軒家が建ち並んでいた。
贅沢に土地を使い、一軒ごとに数十メートルの距離が取ってある。深夜子がナビを確認しながら、その内の一軒に入って駐車場に車を止めた。
「到着。お疲れ様、ここが朝日君のお家」
目的地、いや自分が住む場所へ到着。朝日が車を降りるとそこには……。
「ちょっと!? これって、めちゃくちゃ豪邸じゃないですか」
日本の一般的な住宅の五倍はあろう敷地に、これまた二倍以上あろうサイズの二階建ての豪邸が建っている。
「このくらい当然。朝日君は特殊案件の保護男性だからむしろ余裕」
「いやいや……僕一人に、いくらなんでも……これは……」
豪華すぎる。あと、何が余裕かわからない。
「んー、資料で見たけど、朝日君の今までの生活環境。あたしたちからすれば虐待レベル」
「え???」
豊かな日本の一般家庭で育った自分の生活が虐待? これは常識の根本が違う。
ふと、朝日は思い返した。そう言えば、自分の生活環境の聞き取りをしていた女性調査員。途中、目頭を押さえて嗚咽を漏らしていた気がする……。
それはともかく、豪邸の外観をマジマジとながめる。どうやら男性が警護官たちと生活できるように、二世帯住宅に近い造りになっているようだ。
さらに、家の中へ入ってからは驚きの連続であった。
「なんだこれ……部屋多すぎでしょ」
なんと朝日一人が使う部分ですら5LDKの間取り。
「お風呂場も凄かったけど……キッチンもめちゃくちゃ充実してる。……この家、一体いくらかかってるんだろ?」
高校生の金銭感覚ではさっぱり計り知れない。
一部屋一部屋の家具や家電製品も、高級品に最新型と思われるものが遠慮なく揃っている。
そしてこの世界らしいと言うべきか。一部の部屋や出入口には生体キーも設置されており、ブライベートセキュリティも万全。果てはトイレは全て男女別など、徹底した作りとなっている。
もう、朝日の口からはため息しか出てこなかった。
一方、こちらは個人の持ち物をせっせと積み込み中の深夜子。
「ふおあああっ!? こ、これはGRAVIA最新の65v型液晶テレビ。いいの、使っていいの? いやっふぅ、ありがたやありがたや」
朝日の恩恵に預りまくり、最新家電の数々に歓喜の雄たけびを響かせていたのだった。
◇◆◇
――小一時間ほどで荷物(主に深夜子のもの)の積み込みは終了。
現在、朝日はリビングでソファーに腰掛けていた。
机の上にはお茶とお菓子に街の地図。その他、数枚の書類が広げられている。
その中の一枚を深夜子は手に取り、これからの生活に向けて説明を開始すると伝えてきた。
「朝日君。文字読むのは大丈夫?」
「はい。不思議と会話と文字は日本語――えと、僕の国の言葉で見えたり聞こえたりします。ただ、書くのは無理で……僕が字を書いたら、深夜子さんたちに読めない字になりますね」
「らじゃ。んじゃ地図を見て、今いる場所はここ。外出するときは最低一人、基本二人はMapsたちの同行が必要。まだ全員着任してないから、お出かけは少し待って」
「わかりました。ところで僕、学生なんですけど……学校ってどうなるんですか? 男性保護省で全く話題に出てこなかったんですけど」
「学校? んと、義務教育は十三歳まで。で、男性は危ないから、そこから学校に行く人はまずいない」
危ない? 聞き捨てならないキーワードが深夜子から放たれた。
「えと、それって――」
深夜子の説明によると、この世界の義務教育は、おおよそ第二次性徴が始まる十三歳まで、日本基準の小学校卒業で完了する。
もちろん男女共学もそこで終了。義務教育後の女性は、専攻に合わせた学校を選び進学。それから数年間の学生生活を経て社会へと進出する。
男性に関しては、上流階級のみで構成された地区に例外的な学校はあるが、ほとんどの場合は家庭的にも、社会的にも管理され、家から出ることも少なくなる。
そもそも二次性徴の終わった女性たちの中に、同年代男性が混ざるなど、バターを体中に塗りたくって雌犬の群れに飛び込むのと同義である。との事だった。
――あまりの内容に、朝日は自然と指でこめかみを押さえていた。
この世界では、男性に生活力は求められない。
求められるのは性活力なのだ!
◇◆◇
朝日は自身の今後について、深夜子の説明が進めば進むほど”何もすることが無い”ことを理解する。
学校にいく必要なし、働く必要もなし。身の回りの世話は……されてしまう。
手厚い保護という言葉では片付かない待遇であった。
「うーん。元の世界へ戻るために何かするのもあやふやだし。毎日が日曜日かぁ……嬉しいような、悲しいような。いざ、そうなっちゃうと悩みますね」
「大丈夫。この街には男性専用の娯楽施設やスポーツジムとかもある。あっ、家でゲーム! ゲームならなんでも深夜子さんにおまかせ、バッチこい!」
深夜子の目がキラン! とやたら輝いていた。
「男性福祉対応の街ですもんね。で、ゲームは深夜子さんの趣味ですか?」
「ふふふ、モチのロン。格闘ゲーム中心にオンライン対戦系もほぼ全機種網羅。あたしのコレクションをその目に――」
「それって深夜子さんがゲームで遊びたいだけですよね?」
「ソンナコトナイヨー」
深夜子の目がはわわ! と完全に泳いでいた。遊びたいんですね。
「……ところで、深夜子さん」
「ん、何?」
「さっきから気になってるんですけど……どうして僕の横にぴったりくっついているんですか?」
最初は向かい合わせにだったはずが、いつの間にか深夜子が隣に座っている。しかも距離がやたら近い。
軽く肩に触れてくるまっすぐで濡れ羽色の黒髪。そばで見ると、目つきはともかくやはり美人だなと朝日は思う。が――。
「はわっ! そ、それは……い、いいにおいで……」
「えっ、におい?」
残念、反応がアウト。
「い、いいいや、その、む……無意識に!」
「はっ、無意識?」
ツーアウト。
「うぼあー。ぼ、墓穴っ、墓穴ぅ」
ソファーの上にうずくまり、深夜子は頭を抱えて苦悩している。
その姿についつい朝日は苦笑いしてしまう。
この数日で理解したつもりではいたが、全然そんなことはなかった。男女間の感覚が違いすぎる。
仮に、自分が深夜子に手を出すのは簡単――ではなく、手を出される側なのだろう。
それでもさして問題ないと思えてしまうのだが、この世界の事情を知れば知るほど自ら踏み込むのは躊躇われた。
既成事実が発生しようものなら最後。好きでも無い複数の女性と強制的に婚姻させられて帰化。
日本に、家族の元に帰れる可能性が即ゼロになる事態は避けたい。
「お、おおおおお許しを……」
朝日としては強く言ったつもりもないのだが、深夜子は顔を真っ青にしてガクブルと震えていた。あれ?
「ちょっと深夜子さん。そんなに慌てなくても……僕は気にしてないから大丈夫ですよ」
なんだか気の毒なので、安心するようにと伝えてみる。
「ふえっ、ほんとに、う、訴えたりとかでなく?」
「はいっ? なんでこれだけで訴えるんですか?」
ありえないでしょ、が朝日の感想だ。――しかし、残念ながらそれがありえちゃうのがこの世界である。
「ほんとに? ふぉわあああああっ、なんたる慈悲深さ。……ハッ、と言うことは少しくらいなら、うへへへへ」
すると一転。手をわきわきさせながら深夜子はだらしない笑顔を向けてくる。これは安心しすぎでしょう。
「だ、け、ど、僕のことを押し倒したりはしないで下さいね」
なので牽制。朝日はジトッとした視線を送りつける。
「うはひいっ!?」
瞬間。深夜子が弾けるようにソファーから飛び跳ねた。
さらには空中で一回転。ずざざーっ! と正座姿のまま床に着地する。器用ですね。
「しっ、しないっ、しない!! そ、そそそれに、Mapsが朝日君に手を出したら、職業的でなく社会的に抹殺確定だから」
「えええ? はぁ……なんか、大変なんですね」
そんな感じで、しばらくやり取りが続く。
結果、朝日は深夜子の反応がだんだんと面白くなってきた。
そこでふと、軽いイタズラを思いつく。
「あっ、そうだ深夜子さん。僕の身辺警護って二十四時間体制なんですよね?」
ソファーの端に離れて座る深夜子に、自ら擦り寄って聞いてみた。
「おひょう? はへっ、え、ちょっ、近っ――あ、あああ、そ、そう。二十四時間」
「ふーん。じゃあ、深夜子さんも基本は僕といっしょに生活するんですよね」
さらに肩と肩をちょっと触れさせてみたり。
「おほひょう!? あ、肩がっ、ん……いいにおいが――じゃなくてっ、そ、そそそう、うんうんうんうん」
「それで他の警護官の人たちは、明日以降の着任でしたよね?」
「うんうんうんうんう―――へっ!?」
だんだん理解の追いつかなくなった深夜子が、朝日を見つめて固まった。
ここだ!!
朝日はわずかばかりの恥じらいを含ませ、とびっきりの笑顔を深夜子へと向けた。
「じゃあ、今夜は僕と二人っきりですね!」
「……………………ふえっ?」
どっっ、ジュウッッッッッッ!!!
煮えたぎる溶岩に大量の水をかけたかのような勢いで、深夜子の顔が耳まで真っ赤に染まっていく。
「あ」
「あああ」
「ああああああさひきゅん!? な、なにおおおお――ぷっっしゅーー」
【――大変申し訳ありませんが、復旧までしばらくお待ちください――】
「はふううううん。て、手加減……希望……亡くなったお祖母ちゃんに……再会した……」
容赦なしとはこのこと、まったくけしからん。なんて素敵なんだ。この天使さんめ。心はデレデレ、息は絶え絶えの深夜子である。
「深夜子さん、ごめんなさい。ちょっと悪ふざけしちゃいました。ほんとごめんなさい」
さらに朝日は心配そうな表情でイタズラを謝ってくる。
やだもう、この超ラブリーエンジェルさん。ここは「朝日きゅんてば、しょうがないにゃあ」と、抱きしめながらなでなでちゅっちゅして余裕を見せたいところだが……ぶっちゃけそれどころではない。
やたらめったら意識してしまった状態で、美少年と一晩二人きりとか――精神が持たない。倫理的に。
きっと今夜は眠れないであろう。
つい先ほど、二人目の到着予定は明日の午前八時頃とスマホに通知がきていた。
はやくあしたになーれ。と祈る深夜子であったが、まだ夕方にすらなっていない。合掌。