#16 衝突
「へ、へぇ……なるほど。あながち噂も……大げさって訳じゃなかったようだね」
髪をかきあげながら余裕ぶった口調。主が花美と月美の間を通り抜けて朝日の前へと出てきた。
――がくっ。
「外国人、とは聞いていたけど……これはボクも驚いたよ」
少しオーバーアクション気味な手ぶりをみせつつ腕を組む。
――ずるっ。
「ふん、その身体つきなら……なるほどあの記録も――」
――ずるりっ。
「……のう、坊ちゃん。足腰が立っておらぬぞ?」
その態度とは裏腹に動揺は隠せなかったようだ。
ふんぞり返った体勢のまま、後ろへと倒れて込んだところを花美に支えられ、しゃべりながらもズルズルと体がずり下がっている。
「う、うるさいぞ花美! こ、これはアレだ。体力測定の疲れがでたんだ」
なんとなく面倒そうな人たちだな、が朝日の感想。そうは言っても、無視をするのもまずいだろうと考える。
「え、えーと……あの――」
愛想笑いで恐る恐る声をかけながら近づく。が、そこで体勢を直した主に話をさえぎられた。
「おっと、すまないね。それにボクはこんな所で立ち話をするつもりは無いんだ。さあ、待合室にでも入ろうじゃないか。――おいっ、誰か飲み物を買ってこい!」
こちらの意向確認など無し。主はなかば強引に待合室への移動をすすめてきた。
一瞬対応に迷ってしまったが、ここは深夜子に確認だ。
朝日は視線でうかがいをたてる。すると、深夜子が無言で頷き返してきた。
とりあえず様子見と判断したらしい。
後を追って待合室に入ると、先ほどまで話をしていた男性たちが、主たちの登場に気づく。
あまり関わりたく無い相手なのか、誰もがそれとなく距離を取る。
いっしょにいる自分を気にはしてくれているようだが『触らぬ神に祟り無し』なのだろうと朝日は理解した。
まるで王様的態度で、ぞろぞろと警護官たちを背後に連れだって主は奥に進む。
広めのテーブルを見つけると、備え付けのソファーにドカッと腰をおろした。
両横に花美と月美が、後ろ側に他のメンバーがずらりと整列する。
朝日が向かい側のソファーに座ると、深夜子がかばうように左前側に立つ。
お互いが座って一呼吸。ソファーにドンと背もたれ、両手を肘掛に乗せた主が、大仰な態度で切りだした。
「やあ、さっきは急に声をかけてすまなかったね。神崎クン――」
(か、神崎様! あの神崎様がこんなにお近くに!)
「実はちょっとキミの噂を耳にはさんでね――」
(ヤバい。マジヤバい。近くで見ると超ヤバい)
「キミの体力測定記録。なんでも相当に凄かったらしいじゃないか――」
(濡れる。見てるだけでマジ濡れる)
「ま、だからと言う訳じゃないけれど、是非ともボクが作ってるグループに入らないかと――」
(あ゛ぁ~、神崎様に心がぴょんぴょんするんじゃぁ~)
「うるさいぞおおおおっ! おまえらあああああっ! ボクの後ろでボソボソと気持ち悪い話をするなあああああっ!!」
どうやら朝日のファンも何人か来ていたようである。
デレデレとした表情を見せていたが、主に怒鳴られ慌ててビシッと姿勢を正している。
「クソッ、まったくこいつら……誰に雇われてると思ってるんだ……」
不満気に主がブツブツと呟く。
そんな横で無関心を装いながら、花美と月美もチラチラと朝日の顔に視線が向いている。
主に気づかれそうになる度に目を逸らす。やはり美少年には興味津々らしい。
「おっと失礼、自己紹介がまだだったね。ボクは海土路主。家はママが造船業を経営していてね。海土路造船って聞いたことあるかな? いやね、国内シェア二位の小さな造船会社さ、ハハハ。ま、それはともかく。実はボクが主催している男性コミュニティグループがあって――――ああ、もちろんメンバーだって凄いよ! みんな有名企業の社長や、政治家、それに名家の息子なんだ。おっと本題がずれたね。本来なら、特になんでもないキミを入れることはないんだけど、今回は特別にボクの目に留まったってことで、直々にスカウトに来たってことなのさ! どうだい、ラッキーな話だろう?」
「へ、へぇ……」
あっ、そうなんですか。
朝日にはまったく理解ができないし、興味もない話だった。
むしろ、日本の某国民的猫型ロボットアニメの金持ちキャラが『実はボクのパパがね――』から始まる自慢話をしている場面を見ているかのごとき自己紹介。
なんとなく理解できたのは、あやしげな男性コミュニティなるサークル勧誘? 朝日が首をかしげていると、深夜子が間に入ってきた。
「ちょっと待って! 朝日君は特殊保護男性。外国人扱いだからそういうのは――」
「おい、なんだオマエ。ボクは女なんかに話しかけて無いぞ! ふん……Mapsか、いちいち面倒臭い連中だね。キミらにそんな権限はないだろ。邪魔しないでくれ」
聞く耳持たず。主は不愉快そうな口調で言い放つ。
この強気な反応に深夜子も困った。いかにMapsであろうとも、男性相手では権限は恐ろしく制限される。
役に断てず申し訳ない、と気持ちを込めて朝日に視線を送って横に下がる。
――と同時に、すばやくスマホを操作して五月に緊急メールを送信した。
「気にしないで深夜子さん。大丈夫だから」
まずは深夜子を気遣う。そして、朝日にとってはどうでもいいお誘いだ。
何より主の女性に、いや、深夜子に対するぞんざいな態度。あまり好意的な感情はわいてこない。
ここは無難に断ろう――これが結論であった。
さて、どう断ったものかと悩んでいる間にも、主はせっせとスカウトアピールを続けてくる。さらには――。
「どうしたんだい? 悩む必要なんてないだろう。さあ、ボクのグループ『主星十字会』へ入会させてあげるよ!」
「「!?」」
痛恨のグループ名だった。
「グラッ!? ぶふっ――うっく!」
「ちょっ、ちょっと!? 深夜子さんダメだよ……うぷっ……わ、笑っちゃ……ふぐっ」
誰か止めてやれなかったのか? ネーミングセンスが、ど真ん中に入ってしまった。
深夜子に至っては顔を真っ赤にし、吹き出す寸前で必死に堪えている。
その反応に主がキッと深夜子へ目を向けた。
しかしながら、笑いを耐える深夜子の目つきは人を殺しそうな勢いのソレだ。
目を合わせた瞬間に「ヒエッ」と怯えた声を出して、主が目を反らしていた。セーフ。
一方、朝日は月美たちに気の毒そうな視線を向ける。
すると、全員が一斉に目をそむけた。……このネーミング、誰も止めれられなかったんですね。わかります。
「あっ、その、ごめんなさい。えーと、せっかく誘って貰って申し訳ないけど……僕はいいかな?」
とりあえず語尾を濁して断ってみる。
「ふふん、そうだろう。いいに決まってるよね! なんせボクの…………えっ!?」
「えっ?」
「「…………」」
断られる。主はそんな結果を全く想定していなかったのだろう。
鳩が豆鉄砲を食らった顔とはこうあるべき、と言わんばかりの表情になった。
しばらくそのまま停止していたが、何かにハッとしたかのように再び動き出す。
「ふぅ……ちょっと……ボクとしたことが、聞き間違えをしてしまったようだね。神崎クン。今のはもちろんボクのグループに入りたいって意味のいいってことだよね? ね!」
「あー、えーと。結構ですって意味のいいです。ほんと、ごめんね」
今度はバッサリ。
深夜子はこっそり右手を朝日に向けてサムズアップ。グッジョブ!
「んなっ、なななななぁ!? ボッ、ボクのっ、ボクのおっ――――うぐっ!?」
「ふわあああっ、主様!? き、気を確かにですよぉーーっ!!」
あまりに衝撃を受けたのか、主は呼吸困難になるほどの狼狽えてぶりだった。
月美があわてて背中をさすり始める。
「けほっ……ふおっ……はほっ……ふひゅう。ふ、ふふふ――――ちょ、ちょ、ちょぉーっと神崎クンにはコレがどれだけラッキーなことか、理解できない感じかな? はは、ははははは」
どうやら朝日が本気で拒否していることが理解できていないらしい。
呼吸を整えた主は、引きつった笑顔でしつこく勧誘を続ける。ついにはとんでもない事を言い始めた。
「あっ、そうだ! よし、じゃあ、こうしよう。キミも男性保護省に管理されて肩身がせまいだろう? そこでさ! ボクがママに頼んで自由に――」
「ストップ! 男性でもそういうのはダメ。国の指定は絶対」
これはアウト。深夜子は間髪いれず指摘する。
いかに男性でも、法を曲げることを堂々と宣言するのは許されない。
「はぁあああああっ!? オマエはさっきから本当にしつこいよな。Maps程度の分際でボクに指示をするなよ。神崎クン。こんなめんどくさいMapsなんて使わずに済むようにさ、ボクがママに頼んで優秀な警護官を探してあげるよ。もちろん! こんな目つきが悪くて気持ち悪い女じゃなく――」
「ちょっと待って!」
聞き逃せない言葉。朝日は語気を強めて割り込んだ。
「僕はそんな紹介なんかいらないよ。それよりも……海土路君。今、深夜子さんに酷いことを言ったの謝って貰えないかな?」
「「「!?」」」
「うえっ!? ちょっと、あ、朝日君!?」
深夜子を含むその場にいる警護官たちに緊張が走る。
ここで主が朝日の地雷を踏んでしまった。女性への――特に警護官に対する二人の感覚はあまりに溝が大きい。
一気にあやしくなった雲行きに深夜子は焦りを覚える。
「なっ、なっ、なんだとえらそうに! だ、誰に向かって言ってるか、わかっているのか? よりにもよって女なんかに謝れだって!? た、体力測定でちょっといい記録出したからって調子に乗るなよ?」
「主様! そ、そんなに怒らないですよ。身体に悪いですよ」
すぐさま月美が主の腕にからみついて、落ち着かせようとなだめる。
深夜子も同様に朝日を――しかし、このやりとりを皮切りに朝日もヒートアップしてしまった。
そのまま二人は口論へと発展していく。
待合室は騒然。朝日、主の関係者以外は巻き添えを恐れて退室。
渦中では深夜子が朝日に、花美と月美が主に、多少強引にまとわりついて落ち着かせようとする。
とにかく男性同士のトラブルは非常にまずい。深夜子たちの必死の努力でなんとか口論はおさまった。
と言っても、気まずい沈黙と空気が場を支配している……その時。
「あ、あのぉ……主様。ジュースを、買って来ましたぁ……」
ちょうど部屋に入る前にお使いへ行った女性が戻ってきた。
黒髪のショートカット、前髪で目が隠れている。おどおどとやたら気が弱そうな雰囲気。
武闘派揃いと呼ばれるタクティクスメンバーとは思えない。
急いで戻って来たらしく、肩で息をしている。いそいそとテーブル近くに進み出ると、そこで朝日と目が合った。
自分のお使いではないにしても、ご苦労様でした的意味合いで朝日は軽く微笑んで会釈する。
「えっ!? ふっ、ふええええええぇっ、かかか神崎様ぁ!?」
彼女は驚きの声をあげると固まってしまった。
そう、朝日は知るよしもないが、体力測定を見学してファンになったメンバーの一人である。
頬を真っ赤にして、呆然とした表情。さらには手からジュース缶が抜け落ちて床へと転がる。
「あっ、ふええっ、ジュースが……ご、ごめんなさい! ごめんなさいぃ」
ごめんなさいを連呼しながら、床に這いつくばって缶ジュースを拾い集める。
突然の卑屈な行動と態度に朝日が困惑していると、不機嫌な顔をした主がツカツカと近づいていった。
「あ……主様ぁ、すっ、すすすみません。お待たせして、ご、ごめんなさい」
「ちっ、ふざけるなよオマエ! 相変わらずグズだな!」
主が声を張り上げて罵る。『相変わらず』という言葉、どうやらそういう評価のメンバーなのだろう。
まわりのメンバーたちの視線も冷たい。
イライラが収まらない様子の主が、彼女の手から缶ジュースを乱暴に取り上げる。
「オマエ、ほんとバカなの? 床に落ちた缶ジュースをボクに渡すつもり? こんなの飲めるわけないだろ!」
そして、それをそのまま彼女の顔めがけて投げつけた。
「あうっ!?」
ゴツンと鈍い音が鳴る。
彼女の額に当たった缶が宙を舞い、ゴトン、と再び床にへ転がり落ちた。
「ごっ、ごごごめんなさいっ! ごめんなさいっ! えと……すぐに、新しいのを買ってきますぅ」
額から血がにじみ、少しづつ下へと伝って赤い線を描き始めている。
にも関わらず、彼女は額に、顔に傷ができたことなど関係無しに平謝りだ。
女性の顔にキズが、あまりの出来事に朝日は呆然と立ち尽くす。
かろうじてその場にいる深夜子や他の警護官たちに目をやるも、彼女を見つめる眼差しには憐れみも同情も感じられなかった。
まるで、さほど特別な場面ではないと言わんばかりだった。
実際、深夜子たちにとってはよくある話だ。
御曹司など、裕福な家庭の男子を担当する警護官であれば、普通に起こる得る。
いやらしい話。こういった役目は、彼女のような、立場の低いものに割り振られてしまう。
悲しい事実ではあるが、これがこの世界の女性たちの感覚だ。
しかし、朝日の目にはどう映っただろうか? どう感じただろうか?
それは即座に行動に反映された。
「海土路君!! 君は……君はっ、どうしてこんな酷いことをするんだよっ!?」
先ほどまでとは比べ物にならないくらい、朝日が感情的に、大きく、声を荒げた。
思わず息をのんだ深夜子であったが、知っている。
あれは出会って初めて過ごした夜、一度だけ朝日が見せた感情を爆発させた姿と同じだ。
かたや主にとって見れば、まさに驚愕。
同性と言えど、面と向かって怒鳴られた経験など皆無。何を言われたかすら理解が追いつかない。
ただ唖然と朝日を見つめるだけで精一杯である。
「ちょっと、そこをどいてよ! その女性怪我しているでしょ!」
「え? ――――――はわっ!?」
朝日は怪我をした彼女を介抱するために、目の前にいた主の左肩を掴んで払いのけた。
そう、払いのけただけだ。
大して力を入れたわけでも、突き飛ばすつもりだった訳でもない。
「はぐぅ!?」
「おっと、坊ちゃん。大丈夫かの?」
朝日の腕力に耐え切れず、主はバランスを崩して倒れそうになった。寸でのところで、花美が抱きとめる。
「うわあっ、はっ? えっ? なっ?」
衝撃に混乱する主。月美と他のメンバーたちは、はるか想定外の光景に凍りつく。
「……ボ、ボクを、ボクを突き飛ばした? このボクに暴力を振るった?」
朝日と主。二人の体力差が、悪夢のようなトラブルを招き入れようとしていた。
◇◆◇
そんな周りの動揺に目もくれず、朝日は床にへたり込むメンバーへと駆けよった。
「大丈夫ですか? ごめんなさい。僕のせいで缶を落としてしまったんですよね?」
彼女の手を取り、目を見つめながら謝罪を口にする。
「ふ、ふええええっ!? 神崎様が私の前に? ――――って、おっふ! て、てててて手をおぉお!?」
彼女は、自分の身に何が起こっているのか理解できなかった。
つい先ほどまで、いつものようにヘマをして主に怒られていたハズだ。
なのに、突然。自分には、きっと、一生縁が無いであろうと思っていた美少年が、憧れの神崎様が、手を握って声をかけてくれている!
ふわああああ、手……やわらかい。あったかい。
理解が追いついた瞬間。顔が湯沸かし器にでもなったかのように蒸気が噴きでてしまった。
「あの、額から血が出てますけど……大丈夫ですか? 痛くないですか?」
「はへっ!?」
なんと神崎様が、すぐさま自分のポケットからハンカチを取り出した。
背中を支えて寄り添そわれ、かぐわしい美少年の甘い匂いが鼻をくすぐる。
さらには、額の傷口をそっとハンカチをそわせ、やさしく血をぬぐわれた。
え? これは天使? 天使様なの? 私……もしかして死んじゃったの?
「はへぇ……ふへぇ……むへぇえええええ」
「えっ? ちょっ、ちょっと大丈夫――」
自分の人生で、きっと関わることは無いと思っていた美少年。
それが手を握り、傷を気遣い、背中を支えて、やさしい言葉をかけてくれた。もう無理。
あまりの幸福感に彼女の思考は混乱していく。焼き切れんばかりに脳が、脳が震える!!
「あっ……あっはあああんっ! あわわわわわわわわわ」
「――たっ、大変! み、深夜子さん。この女性痙攣してるよ!? だ、大丈夫ですかっ!?」
その変化に驚いた朝日は、心配して支えていた彼女の身体をぎゅっと抱きよせた。
「は、はぐ? はぐうっ!? ――――あばばばばばばばばばば」
「えええええっ!? し、白目をむいて、これはまず――――あああっ、く、口から泡もっ!? これ、もしかして缶の当たり所が悪かったんじゃ? だ、誰か、救急車を!」
死んじゃうんじゃないかな? などと、あたふたとする朝日だが――――深夜子、花美、月美たちの視線は微妙。
光の消えたジト目で生暖かく見守っている。
「朝日君。それは……そっとして置くべき。ただちに健康には影響しない」
「なんて言うかですよ……これはひどいものを見たですよ」
「こりゃまた……恐るべき天然の傾国じゃのう」
こうして、幸せそうに? 意識が天に召された彼女。
羨ましそうにブツブツと呟く他のメンバーの手によって無事退場となった。
そんな間に、当然ながら主の怒りは収まるどころか悪化の一方。その矛先は朝日に向かう。
「おいっ! キッ、キミがボクに暴力を振るったんだからな――」
(ああっ神崎さまっ! あのお優しさ、まさに男神!)
「か、覚悟しておけよ! ママに言いつけてやるぞ――」
(ヤバい。わたしも神崎様に気絶させられたい)
「それだけじゃない! キミのMapsたちを万里に潰させてやる――」
(濡れた! これはマジ濡れた!)
「もう謝る時になってから、泣いて後悔しても遅い――」
(あれこそが天使……いえ、大天使カンザキエル様! 爆、誕!)
「だ、か、ら、うるさいって言ってるだろおおおおおおおっ、おまえらああああああっ! なんで毎回ボクの後ろで、気持ち悪い話をするんだあああああああっ!!」
背後のメンバーたちに向けて主の怒号が響いたと同時に、その場へと声をかけながら加わる人影があった。
「ははっ、こりゃあ賑やかだねぇ~? ねぇ、主坊ちゃ~ん。何か楽しそうじゃな~い!?」
「朝日様あああああっ、ご無事ですかっ!? 五月がっ! 貴方の五月が参りましたわっー!!」
「くそっ、デカ蛇女。帰り道までちょっかいかけやがって……あっ、おい朝日! ……んだ? ……あちゃー、こりゃいかん感じだな」
ここで万里、五月、梅が待合室に合流。
すると、待ってましたとばかりに主が万里へと詰めよった。
「おい万里! ちょうどいい! アイツがボクに暴力を振るったんだ。そこの取り巻き連中を潰してボクに謝らせろっ!」
これには朝日も顔色を変える。
「ちょっと! 何を言ってるの? 海土路君の方こそ謝ってよ。君だって、深夜子さんに酷いこと言ったでしょ!」
「はい!? あ……朝日様? これは一体?」
「おいおい、朝日が怒るって珍しいな……? 深夜子。こりゃあどういうこった?」
穏やかではない二人の反応とやり取り。
五月と梅は、即座に朝日をかばうため側につく。
かたやそんな五月たちを尻目に、万里はと言うと……何やらいやらしげな笑みを浮かべ、ズカズカと近づいてきた主をガシッっと抱き上げた。
「ん……あれ? おっ、おい万里!? 何やってんだ。ボクの言うことが聞こえなかったのか? おいっ」
お尻部分を手でがっちりと抱えられ、主は肩の上でジタバタとしながら文句を言う。
しかし、万里は軽く笑って受け流し、一言二言を耳元で囁いた。
渋々ながら大人しくなった主を抱えたまま、万里が五月の前に進み出てその巨躯をさらす。
「……どうされまして? 万里さん」
「いやなぁに、まあ、経緯はともかくさぁ。ウチの坊ちゃんと、そこのオタクの美人さん。ちょっとよろしくない状況じゃない」
「はい? いきなり何をおっしゃら――」
「こりゃあ『男事不介入案件』ってヤツになるじゃない。お、じ、ょ、う、さ、ま」
男事不介入案件。その一言で五月の顔色が変わる。
「なっ!? そ、それは……くっ! そういうつもりですか……万里さん。貴女という人は相変わらずですわね」
ニヤリとよりいやらしい笑みを見せる万里。苦い顔でにらみ返す五月。二人の視線が、火花を散らした。




