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男性保護特務警護官~あべこべ世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です!  作者: Takker
第二章 どうやら美少年との日常は甘くて危険らしい
13/69

#12 提出

 少し時間を進めさせていただく。


 ――六月下旬。


 朝日がこの世界に来て、約二ヶ月が経過。

 深夜子たちとの距離感もずいぶんと変わり始めている。隔絶していた常識(特に男女関係)など、少しずつお互いの理解も進んで関係性も進展していた。

 深夜子と梅に対しては友達っぽくずいぶんと砕け、一番年上の五月は姉的ポジション扱いになっている。

 もちろん警護任務(こんかつ)成功を目指す深夜子らにとって、優位的前進に間違いない。


 しかしそれは、神崎朝日の『超絶天然女殺し』が本領を発揮しはじめることも意味していた。


 深夜子たちMapsにとって、朝日との共同生活は恐ろしく甘美で、恐ろしく危ういものであることが明らかになっていく。

 その容姿や性格はもちろん。女性に対する好意的な態度、無防備な思考、などなどが悪魔的なまでに魅力……だけで終わ(・・・・・)らなかった(・・・・・)のである。


 ――最近、毎日が日曜日の神崎朝日さん(十七歳・男性)は「やることが無い!」とぼやき、家事をするようになった。

 それは自分のことだけに留まらず。深夜子たちの世話もあれやこれやと焼いてくる。

 当然、男性である朝日にそんな真似をさせるわけにはいかない。家政婦でもあるまいし、と三人は反対する。

 だが結局は朝日の希望に押しきられ「じゃあ一回だけ」から始まって、ある日は手料理。ある日は洗濯掃除。またある日は――。

 三人は美少年の甘い罠にどっぷりと()まる事となった。


 人間、一度贅沢を覚えると戻るのは容易ではない。

 気がつけばその甘美な魅惑に逆らえなくなっており、朝日主導の生活ペースとなっていたのだ。

 それでは、ここでその一例をご覧いただこう。


◇◆◇


 まずは五月の場合。


 とある日。ちょうど書類関係の仕事がたまって深夜まで作業が続いていた。

 ひたすらにキーボードを叩いているとノックの音。こんな遅くに誰かと思えば……。


「五月さん。今、大丈夫ですか?」

「えっ、朝日様!? ちょ、ちょ、ちょっとお待ちくださいませっ」


 なんと朝日である。五月は急ぎドアを開けて迎え入れた。


「あの……これ、コーヒーと軽い夜食を持って来たのでどうぞ」


 するとまさかの差し入れ。驚きと喜びに呼吸が止まりかける。


「はひゅっ――ん゛、コホン……まあ、まあまあ朝日様。こんな遅くに……でも、とても素敵なお気遣い。ありがたくいただきますわ」


 ああ、もう最高に最愛ですわっ! と内心は熱い抱擁と過剰なスキンシップに加え、たっぷりねっとり耳元で愛を(ささや)きながら感謝の意を伝えたい。それはもう伝えたい。

 だが、この二ヶ月間で変わったのは朝日だけではない。

 優しく微笑みをたたえ、冷静に、淑女的対応をできる程度に五月雨五月は進歩しているのだ。おほほほ。


「パソコンの横でいいですか? お盆ごと置いておきますね」

「ありがとうございます。いただいた後の片付けは自分で済ませておきますわ」

「はい。じゃあ、続き頑張ってくださいね! おやすみなさい」

「それではおやすみなさいませ。朝日様」


 笑顔で軽く挨拶もかわして余裕ある対応完了。朝日が寝室へと戻っていくのを見届ける。

 とりあえずは作業を一時中断、せっかくのコーヒー(朝日の愛)を温かいうちに味わうのだ。

 ほぅ……自然と心温まるため息がでる。しばし中空をながめ、余韻にふける。

 数秒後、だんだんとカップとソーサーを持つ手が震え始めた――おっと、これはいけない。五月はそれらを一旦デスクに置き、ゆっくりと、そして優雅に椅子から立ち上がる。

 少し足どりもフラフラとしているが、ともかく部屋の中央へと到着。そのまま床へと倒れこみ……せーの。


「うっきゃああああああああああっ!! あああ朝日様、朝日様、朝日様ああああ――――っ!!」


 あーもう無理。尊い。朝日への愛が爆発したのでゴロゴロと床で転げ回るしかない!


(コーヒーいれてきました)

(ええ、ありがとう)


「なーんて! どんな、どぉーんなお伽噺(とぎばなし)ですの!? ふ、ふふ夫婦ですらあり得ませんわっ! あ゛あ゛あ゛可愛い優しい可愛い愛しい! 朝日様素敵ですわああああああああ!!」

 

 嬉しい悲鳴とはこのこと。まさか歓喜で悶絶する日が来ようとは……なんだか不思議とメガネもハートマークなっている気がする。


「はあっ……はあっ……きっ、きっと、きっといつかは……(わたくし)のそばまで来てコーヒーを置いてくださった後に――」


『それじゃあ、お仕事頑張ってくださいね……えと、その、それから……(ぽっ)』

『あら? 朝日様。どうかなさいまして?』

『あ、あの……じゃ、じゃあ、おやすみなさい僕の愛しい五月さん(ちゅっ)』


「――とかっ! お、おおおやすみのキキキキキスを軽くしてくださったりなんかしたりなぁんてうひゃはあああああああでっすっわっ! ん゛っ、もう! 朝日様ったら、朝日様ったらあああああああ!!」


 改心の妄想にバンバンと床を叩く手が止まらない。

 部屋の右から左へと、もう何往復転がったことだろうか。ふと、廊下から凄い勢いで迫りくる足音が響いてきた。

 ん? 今度は誰――――バァンッと、勢いよく扉が開かれる!!


「うるっせぇええええええっ! 五月てめえ、今何時だと思ってやがる!? 変な叫び声上げながら盛ってんじゃねえぞちくしょーーめぇ!!」


 五月の部屋からちょうど壁一つ隔てたとなりは梅の部屋である。


◇◆◇


 ――続いて梅の場合。


 Mapsは定例業務として月一回、管轄区の本部がある男性保護省庁舎へ出勤する必要がある。装備のメンテナンスや警護任務情報のデータ更新を行うためだ。

 ある日の朝。今回の本部出勤担当である梅は玄関で出発の準備をしていた。

 ロリ猫娘な彼女に似合う似合わないかはともかくスーツ姿で革靴をはいているところである。


「うっし! んじあゃ、ちょっと行ってくらぁ」

 玄関から奥へと声をかける。

「あっ、梅ちゃんちょっと待って」

 すると朝日の呼び止める声が聞こえ、スリッパをパタパタと鳴らしてやって来る。その手には何やら手提げ袋が一つ。

「はい。これどうぞ」

 目の前に来るや笑顔の朝日が手提げ袋を差し出してきた。これは一体? 頭の中に”?”が浮かぶ。

「あっ、お弁当を作ったんだ。梅ちゃん夜まで本部でお仕事でしょ。お昼ご飯にって思って」

「なにいっ!?」


 まさかの手作り弁当。しかも男性である朝日のお手製――この世界においては伝説(レジェンド)と称されるアイテムだ。

 男性から手作り弁当の贈呈。それはつまり……降ってわいた突然のサプライズに、梅は顔がみるみる真っ赤になっていくのを感じる。


「ちょっ、おまっ、べ、べべべ、弁当……だと……!? ま、ままままさか……朝日。お、お前……俺に気でもあんのか? い、いや、そんな、まだ出会って三ヶ月も経ってねえんだぞ?」


 何せ夫婦であっても夫が妻に対して弁当を作る確率など限りなくゼロなのがこの世界。

 これは、まさか、愛の告白か!? などと、早とちりしたくもなる。

 

「あはは、もう! 梅ちゃんてば大げさだなぁ。たまのお出かけ仕事なんだからこのくらい普通だよ?」

「ふ、普通? へぇ……そ、そうなのか、普通なのか……あっ、まあ、朝日にとっちゃあそうなのか(・・・・・)。そっか…………おどかしやがっ――あ、いやっ、じゃなくて。まあ、あれだ! ありがとよ朝日。ちょうど昼をなんにすっか悩んでたからよ。ありがたくいただくぜ! と、とにかく行ってくらあ――――ぐぎゃっ!?」


 勘違いをさとられないよう強引に乗り切ろうとしてみたが、思いっきり扉に激突してしまう。これは恥ずかしい。

 ふらふらになりながらも、心配する朝日から逃げるように出発せざるを得ない梅であった。


 ――そんなこんなでMaps本部の昼休み時間。


「朝日の手作り弁当か……へへへ、やったぜ」


 手提げ袋をながめながら、ついつい喜びの独り言が漏れてしまう。職員用食堂までの足どりも軽い。

 今日は久々に後輩(しゃてい)と二人で食事をすることにしていた。

 食堂で合流してテーブルに隣り合って座る。しばし昔話に花を咲かせ、頃合いをみて弁当を取り出す。


「あれ? (あね)さん今日は弁当自前っスか? めずらしいっスね」

「えっ、あっ、ああ、ま、まあ……たまにはよ」


 口が裂けても警護対象(あさひ)お手製とは言えない。


 さも自作弁当であるかを装って弁当のふたに手をかける。大食いな自分を思ってか特大サイズの二段型弁当だ。

 期待と喜びに小さな胸もふくらんでしまう。

 まずは上段。そこには色とりどりのおかずが詰まっており見た目も美しい。後輩(しゃてい)も驚きの声を上げている。

 ちょっとした優越感に気分も良い、続けて下段のご飯も確認。すると……。


「んなっ!?」


 まず目に飛び込んで来たのは海苔で作られたハートマーク。さらにはふりかけで『うめちゃんラブbyあさひ』と器用に文字が描かれているではないか!

 朝日の辞書に『容赦』の二文字は存在しないらしい。よりも――まずい! 後輩(しゃてい)に見られてしまう。


「なっ、何いっス!? あ、(あね)さん、それはいった――」

 梅はとっさに高速裏張り手を後輩(しゃてい)の両目めがけて容赦なく放った。

「――うっ、ぎゃあああああっス!! め、目がぁ!? 目がぁ!?」


 今だ! すぐさま弁当をがばっと抱えて猛ダッシュで食堂脱出をはかる。


「おっと!?」

 急ぎ飛び出ようとした食堂の出入口で矢地とすれ違う。ここは気づかなかったふりをしてスルーだ。

「ん? 今のは梅じゃないか? 顔だけじゃなく耳まで真っ赤にして凄い勢いで…………ああ、トイレか」


 梅。本日はトイレで一人飯とあいなった。


◇◆◇


 ――最後に深夜子の場合である。

 

「朝日君ありがと。超感謝!」

「ううん。いつも深夜子さんの部屋で僕もゲームして遊んでるし……それに、掃除するのは嫌いじゃないからね」


 ある日、深夜子は自分の部屋を朝日に掃除して貰っていた。

 現在、清掃完了の立ち会い中というわけだ。

 もちろん言うまでも無いことだが、Mapsが自分の部屋を警護対象(だんせい)に掃除させる。完全に論外である。


 これを頼んでしまえるあたり、深夜子の朝日への甘えっぷりがうかがえる。


「ほらっ! ね、深夜子さん。お布団、どう?」

 ぽふぽふと布団を軽く叩きながらご満悦の朝日。どれどれ?

「んあ? ふおあああああっ!? こっ、これはふかふか! 超ふっかふか!」

「でしょ! 天気も良かったからね。しっかり干したあとで、布団用掃除機もかけたんだ」

「朝日君ヤバい。グッジョブすぎる! これはもう――」

 結婚してもいいんじゃないかな? おっと、口から本音が漏れかけた。危ない危ない。

 とりあえずサムズアップしてごまかしておく。


 この現状。もし世間一般の女性が目にしたならば、嫉妬と呪いで魂は黒く濁り砕け散ってもおかしくない。

 そして、天はそんな暴挙をもちろん許さなかったらしい。――朝日の口から、深夜子にとって聞き捨てならないキーワードが漏れた。


「それに布団だけじゃ無くて、ベッドも(・・・・)ばっちり掃除してるからね!!」

「は? へ? ベ、ベッド……も?」

 なんですと? これは心臓がドキンちゃん。自然と表情がこわばり冷や汗が吹き出る。

「うん。やっぱベッドマットも掃除しないとダメだからね。ついでにベッドの下も片付――――あっ!」


 朝日が口をふさいだ。そう! 年頃にして健全な肉食系女子である自分のベッド下には何があるのか。無論、夜のオカズなアレである!

 見ればなんとも気まずそうな朝日の表情。

 深夜子は一気に青ざめる。見られてしまった? アレ(・・)を? ヤバい、嫌われちゃう? 軽蔑されちゃう?

 焦りに冷や汗はだらだらとした脂汗に変わる。情けない話、引きつった笑みを浮かべるのが精一杯だ。


「あ……あ、あの、朝日君!? まさか……ま、さ、か、あたしのベッド下のモノ(・・)を……」

「ウウン。ボクナンニモミテナイヨー」


 朝日君。ごまかすのが下手な子!


「ああああああああ、そっ、その、あたし。いや、あの……あばばばばばばばばば」

 もう白目むいて泡吹いて倒れていいですかね?

「ちょっ、ちょっと深夜子さん。だ、大丈夫だから! その、少し整理しただけだから! 箱の中身(・・・・)なんて全然見てないから。えと、あっ! そ、それに僕ちょっとエッチなの(・・・・・)とか平気だから、全然平気だから」


 めっちゃ見とるやないか~い! これもうダメかもわからんね。


 真っ青だった深夜子の顔が急激に真っ赤に変色していく。だんだんと目にも危ない光が宿っていく。

 その危険な変化に朝日も焦ってしまう。

 実のところ、思いっきりチェックしてしまった深夜子のエロゲー&エロBDコレクション。

 しかし、自分も日本の健全な男子高校生。エロへの考え方はむしろ共感すら覚える。

 きっと深夜子は変な勘違いをしてるに違いない。逆の立場だったら……そうだ! ここは気の利いたフォローをするべき場面であろうと朝日は考えた。


「あのね深夜子さん! 女教師モノとか、姉弟モノってやっぱ定番だと思うんだよね。それからマッサージ系もあったし……うん、深夜子さんってなかなかいい趣味(・・・・)してると思う。ナイスチョイス! あっ、それと。僕、びっくりしたんだけど。この世界って痴漢ものがラッキースケベに分類されるんだね。まあこれは逆に考えれば――――」


 やめたげてよお!


「くっ、殺せ!!」

「ちょっ!? 深夜子さん?」

「うっ……うう……い、いやあああああああああっ!!」

「あれ? ちょっと? 逃げないでよ。みっ、深夜子さーん!」


 その日。晩ご飯での二人はそれはもう気まずかったそうな。


◇◆◇


  とまあ、Maps三人組はこんな有り様なのだが、朝日にしてみれば日本での生活環境に近づけた方が落ち着く。その程度の理由である。

 母子家庭だったので母親は仕事で忙しく、家を空けることも多かった。

 よって、家事全般は姉弟三人の交代担当制。そんな日々を送っていたので家事は一通りこなせるし、料理なんかはむしろ自信があるレベルだ。

 実は女子力高い系男子高校生だったりする。


 一方、深夜子ら三人にとっては落ち着く(・・・・)どころの生活環境ではすまない。

 警護対象であるはずの美少年にやたらめったら尽くされる。

 この世界における夫婦関係すら超越した甘い生活。至れり尽くせり状態になっていた。


 当然ながらリスクとリターンは裏表。もし、この警護任務(こんかつ)に失敗した場合。

 甘く危険で贅沢三昧な生活に慣れつくし、立派な廃人となっていること間違いなし。

 そこから社会復帰など不可能である事が容易に想像できる。

 それでも、それでも美少年に尽くされるという絶対的な魅惑には逆らえない。

 最悪な未来(バッドエンド)の可能性から目を逸らし、日々快楽を貪り続ける彼女らであった。


 しかし、そんな仮初めの春を謳歌している三人は現在そろって脂汗を流しつつ、机の上に置かれたとある小包(・・・・・)を見つめている。


「おい……これどうすんだよ?」

「ぶっちゃけ嫌な予感しかしない」

(わたくし)も……なんとも……ですわ」


 その箱には『男性健康診断通知書ならびに【重要】提出用精液採取キット同梱』と書かれてた紙が貼られていた。


 貴重な存在である男性は国の宝である。

 ゆえに男性の健康は国が細心の注意を払って管理をしている。

 男性健康診断は国家の重要行事の一つ。一月、四月、七月、十月の年四回実施される。

 もちろん男性の健康診断受診は絶対の義務。特殊保護対象である朝日も対象だ。とは言ってもこれは(・・・)問題ではない。


 問題なのは深夜子たちの想定外に同梱されていた包み『提出用精液採取キット』の存在。

 現在、朝日の待遇は特定文化圏外国人、かつ、特殊保護対象だ。国から多数の福祉補償を受けてはいるが、おおよそ一年間は国民男性としての義務はほとんど発生しないはずなのだ。


 すぐに矢地を通じて、男性保護省のしかるべき部署に猛クレームを入れた。――のだが、回答は『(うえ)からのお達しだ』の一点張りだった。

 五月があれこれと交渉するも『じゃ、一回だけ。ね、一回だけだから』と、どこかで聞いたことがある常套句で押しきられてしまう結果とあいなった。


「朝日様の常識感覚からしますと、これ(・・)はかなり嫌悪感があるものと考えますわ」

「同感。普通の男の人は当たり前って教えられて育ってるけど……朝日君は違う」


 五月、深夜子が文化の違いから危惧を口にする。

 なにせ『精液の提出は義務』という常識がある中で育ち、関連した教育を受けている。この世界の男性たちからですら、不満の声が上がるのだ。

 未婚者であれば母親。既婚者であれば妻たち(パートナー)がフォローしてうまく立ち回っている世の中。

 精液提出(こういった)義務が存在しない世界にいた朝日。それを思えば不安は尽きない。


「多分、朝日君にとってはありえない話」

「なんだよ? 朝日ンとこに持っていってたら『幻滅した』とか『変態』とか罵られるかもってか?」

「うん。とにかく――」

 義務ですよと要求するのはよろしくない。と深夜子は主張する。

「それに……あたし朝日君に嫌われたら余裕で死ねる」


 暗い未来を想像したらしく、この世の終わりとばかりの声色でぼそりとつぶやく。目から光も消えている。


「こら深夜子! そうと決まってもないのに絶望してんじゃねえよ! ま、つーかよ。そのまま『はい、よろしく』ってワケにゃあいかねえだろうな」

「そう……ですわね。(わたくし)言い回し(・・・・)を考えるべきだと思いますの。朝日様はお優しくて利発な殿方ですから……その、お渡しするにあたってうまく察していただければ――」

 オブラートに包んだ表現で朝日に察して貰おう作戦を五月が提案する。

「なるほどな。その方が(かど)が立たねぇって奴だな」

「んじゃ、みんなで考える」


 それぞれ自分の考えを口にしながらも、穏やかで優しい性格の朝日を思えば少し大げさな気もしている。

 しかし、職業柄それに関連する事件なども彼女らは知っている。


 過去に一度、ある男性が精液提出を苦に自殺した。との疑惑が持ち上がった。

 もちろん世論を巻き込んで大騒動に発展。ただし、当時の結論はあくまでも疑惑は疑惑であり、真相は判明しないまま闇の中に葬られた。

 そんな記憶についつい不安が頭をよぎり、慎重にならざるを得ない三人なのである。


 本日。Mapsリビングルームにてお茶と菓子を囲んでの対策会議が開始された。

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