第6話「陥れられた国王」
ソレイユとお話(俺が質問責め)に合いながら、近くの町へ着いた。流石に、国の首都まではすぐに行けなかったようだ。ここで乗り物を使うらしい。世界観的には馬車だろうか?
「陽、あと2時間後に定期馬車が来るんだって。それまで、どこか近くで休もう。」
俺のことを呼ぶときは「陽」と呼び捨てにすることで落ち着いたようだ。
「そうだな。しかし、こちらに来たばかりの俺にはどこへ行けばいいか…。」
「あの宿屋、休憩もできるって。あそこに行こう。」
酒場とか食事処に行く展開だと思ったが、違うのか。しかし、俺のいた世界なら現代では、これは肉体関係を持つことの隠語なんだが…まあ深い意味はないだろう。
宿屋に着いた。結構広いし、綺麗だ。金はソレイユが持ってくれた。まあそもそも俺は文無しだから仕方ない。
「あ、そうだ、さっきの話の続きを聞かせてよ。」
やたら近づいてくる。そんなに俺の話が面白かったのだろうか。近すぎて恥ずかしい。
「分かったから…落ち着いて…もうちょっと離れて」
「あ…ごめん、ちょっと近すぎちゃったね。ごめんね、私ったらこんなに興奮しちゃって…。」
顔を赤らめながら謝罪してくる。ちょっと言い過ぎたかと思ったが、大したことなかったようでよかった。
「さて、何の話だったかな?ああ、さっき言ったゲーム機は、凄く拡張性が高くて、それ故に…」
このお姫様の知識欲はとても大きい。しかも、一見アホっぽかったが、俺の世界の女性よりも、話していてとても楽しい。如何にも接待をしているような相槌じゃなく、しっかり言葉を受け止めているからだ。
おや?今何か聞こえた気がするな。
「今何か聞こえなかった?何か岩でも落ちたような…」
「ああ聞こえた。窓から何か見えるかな?」
窓から外を見てみると、馬車が通る道路に大きな岩が落ちて、崩れていたようだった。よく考えたら、崖の近くの道路ってこういう危険があるのは当たり前だよな。だが…
「だが…これは何か作為的なものに見えるな。誰かが道路を塞ぎたかったような…」
「大変だ、あんなことをされたら、荷物を運ぶ馬車まで通れなくなる!」
「つまり、物量が滞る…そういうことか?」
「うん、こんなことをされたら、この町の人はもちろん、他の町の人まで被害が広がっちゃう。」
思った以上に問題だな。だがまあ、あの程度ならば多少時間はかかってもすぐにどかせるだろう。しかし、何のためにこんなことを?別に荷物は盗まれる訳ではない。
「お父様は何をやっているのかしら。こんなことを放っておく人じゃないのに!」
「王様に会いに行くんだ。このことも伝えておいた方が良さそうだな。」
ある意味でソレイユの勉強にもなった…といったところだろうか。
「こうしてはいられない!早く犯人を捕まえないと…!陽はここで待ってて。私は何か手掛かりを探す。」
「あ、おい…」
行ってしまった。はぁ…放っておく訳にもいかないな。追いかけるか。
駅周辺までやってきた。まあ聞き込みならここが一番だろう。しかし、外界でいう警察らしきものが捜査しているようだ。ソレイユは…あそこか。
「君、何か手掛かりは掴めたか?」
「ちょっとだけ。やっぱり人為的なもので、この近くの賊がやったとか…。あと、似たようなことが他の場所でもあったって。どうしてこんなことを…。」
そう、こんなことをしても得する者がいるとは思えない。
「愉快犯か?あるいは注目を集めたいのか。危害を与えるというどうしようもない衝動がある場合もあるな。」
「陽…私、捕まえたい。どうしてこんなことをしたか、聞いてみたい。それはもしかしたら、私にとって大事なことかもしれない。」
「確かに、君が王国の後継ぎなら、関係あるに決まってるか。」
しかし、だからといってどうも動きようがないな。
「どうやって捕まえるつもりだ?何も知らない状態から、何かできる程、それこそ俺の世界のゲームと同じようにはいかないぞ。それに、君が人並みより活躍できるかは別だろう。いや、厳しいことを言ってすまない。」
「うん、謝る必要はないよ。陽の言ってる通り。」
こんなに素直だと気が狂うな。
「確実なのは、また同じように、馬車の通行を妨害するところを捕まえることだな。」
「そうだね。でも私じゃ今はやっぱり力になれない。ひとまず、宿に戻ろう?」
言い過ぎたのだろうか。急に沈み込んでしまった。いや、これは俺の言葉によるものではないな。根拠は挙げられないが、そんな気がした。
宿に戻った。岩の撤去はそれほど時間はかからず、俺たちが乗る馬車も1時間遅れになっただけのようだ。結局、まだ2時間はある。
俺としては、宿に戻る途中でソレイユの父親…現国王に対する不満を言っている人がいたのが気になる。おそらく、ソレイユにもそれは聞こえていただろう。彼女の話を聞く限りでは、国王は王政でありながらも、国民のことをよく考え、平和を好む王らしい。彼女はそれを尊敬していた。ショックを受けているかもしれないな。
「今まではこんなことなかった…パパは最高の王様だって皆が言ってた。本当に国民の方も、皆幸せそうにしていたし、まだ救われていない人も少しずつでも救われてきていたのに…。なんで最近になって…。」
「こういうことは他にもあったのか?」
「うん、旅の途中でいくらかおかしなことがあった。馬車の妨害だけじゃない。今まではなかったのに、急にどこかが襲われたりもした…」
それはまるで…
「まるで…パパの評判を下げようとしているみたい。」
「……やっぱりまずは、王様の話を聞いてみたらどうだ?」
何て声をかければいいか分からなかった。仕方ないだろう。俺は漫画の主人公じゃない。ここでヒロインの心を鷲掴みにできるようなことなんて…。情けない。
このあたりから、ちょっとずつ政治的要素が含まれて行きます。ただ話が暗くなりすぎないように気を付けなくてはいけませんね