第5話「2人の太陽(序)」
さてどうするか、あそこでイヌ科の魔物の魔石を割るには…凍らせても意味はない。動きを止められるだけだろう。そもそもあの石の強度が分からない。くっ…逃げるのが正解だろうな。ん…待てよ、別に助け出すには俺があいつらを解放する必要はないな。要するに「逃げればいい」!
「グレイス!、あの魔物の足元を凍らせてくれ!そしてそこの人、こっちへ逃げて!」
俺は飛び出してそう叫んだ。グレイスは指示通りに動き、魔物の足元を冷やして凍らせて動けなくして、女性も指示通りに逃げてきてくれた。
「う…はぁはぁ…。」
作戦は成功だが…なんだこれは…魔法の使うと脳に負担がかかるとは聞いたが、これ程のバックファイアとは…。いや、訓練の時に皆はなっていなかった。もしや、俺の適性の低さ、あるいはこの精霊魔法の性質か?
「すみません、助けて頂きありがとうございます。ひとまず、この発電所から出ましょう。」
助けた女性が声をかけてくる。俺は疲れながらも提案通りに、逃げ出し、安全な場所に隠れた。
女性も同じ場所に隠れている。なんだが、ちょっと恥ずかしいな…。別にこういう展開を目当てで助けた訳じゃないんだが。
「あの…先ほどは助けて頂きありがとうございました。」
「それはさっき聞きました。それじゃ、俺は今から脱走するところなので…。」
具合が悪くてちょっとイライラしてたのもあって、とにかく早く逃げ出したかった。
「脱走?あの、その前にちょっとだけ話を聞いていただけませんか?あ、場合によっては恩返しできるかもしれません。」
「分かりました。」
そういうなら仕方ない。話を聞くか。といっても、あの状況の説明程度しか出てこないだろうが。
「私はドゥバラ王国の姫、ソレイユ・アディットと申します。あの、ちゃんとお聞きしてくださってますか…?」
「はい、聞いてますよ。」
なるほど、俺がそっぽを向いてるのが気に食わないのだろう。結構可愛いから、恥ずかしくて直視しないようにしていたのだが…。まあ見てみると、やっぱり美人だ。整った顔に、金髪の髪は下手な加工はなく、それでいて美しく伸びている。服装も動きやすくて、華美ではないが、どこか気品を感じられる。言うならば、自然と共に生きるエルフの姫君のような…。というか、姫って言ったなこの人。ああやっと、異世界モノっぽくなってきた。
「あ、申し訳ありません。聞いているか疑うなんて失礼なことをしてしまいました。」
「気にしないで、続けてください。」
「ありがとうございます。実は、私の国では、王の後継ぎは一人旅をし、各地を勉強して回らなくてはならないのです。その途中であの廃発電所の調査に行っていたのです。」
あそこは廃発電所だったのか。それにしても随分と熱心な姫様だ。好感は持てる。
「それが、あそこで襲われていた時の状況ですね。」
「その通りです。そしてここからが、貴方にとって重要な部分です。本来、旅の間は私は素性を隠していなければなりませんが、このように誰かにお助け頂いた場合は、王族としてできる限りのお礼をしなくてはなりません。そこで、脱走予定の貴方の身柄の保証をさせて頂きたいのです。」
あれ、これ大勝利ルートじゃないか。流石俺、ここぞという時の運は素晴らしいな。
「それは願ったり叶ったりです。実は行く先もなかったもので…。」
「まあ!私の命の恩人のお力になれて良かった!それじゃ早速出発しましょう!」
うわぁ…綺麗な女性と二人きりで歩いている。まあ精霊はいるけど、基本でしゃばってはこないし、二人きりだ。まるで、アニメから飛び出したような美しさだよ。しかもちょっと距離近いし。こんなの一人旅なんて無防備すぎてダメだろ。
「あの…そういえば、お名前を伺ってませんでしたね。よろしければ、教えて頂けませんか?」
「下野陽、陽って呼んでください。」
「陽さんというのですね。何故だかわかりませんが、親近感の湧く名前ですわ。あの、他にも色々と伺いたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「俺が答えられる範囲で。」
そういえば、色々と話してもらってばかりで、俺の方は何も彼女に話していなかったな。
「ああでも、いくらか俺から喋って方が早いこともあるでしょうから、先に言っておきます。俺は外来人で、アンバラ王国で兵士として強制的に働かされるところでした。」
「やはりそうでしたか…。私が一番聞きたかったところです。はい、外来人に関することも教育されていますし、アンバラ王国の横暴の話も聞いたことがあります。」
「それは説明の手間が省けて良かった。」
説明すると長くなりすぎるからな。
「じゃあ、陽さんの使ったあの凍らせたのは、魔法ですよね?どうして、体から発せられたのではないのでしょうか?」
「ああそれは多分…俺のは精霊魔法…らしくて、精霊から出るようなんですよ。」
「それも聞いたことがあります。とても珍しい魔法の種類だとか…でも、使用するととても負担が大きい魔法らしいですね。体調が悪そうなのはそのせいでしたか。」
「やっぱりそうだったのか…。」
どうやら、この姫様とはギブアンドテイクな関係が築けそうだ。
「あ、あの!よろしければ、真面目な質問は終わりで、もっと個人的なことも質問してもよろしいでしょうか?私、陽さんに興味があって!あ、違うんですこれは、陽さん個人じゃなくて、外来人全般という意味です!あ、でも陽さんのことも助けて頂いたし、お慕い申し上げておりますし!」
「……とりあえず落ち着いてください。そしてあまり気にしないで。」
くそっ、可愛いな。しかも特にイケメンじゃない俺にをちょっとでも好意を持ってくれるのは嬉しいな。
「ありがとうございます。恥ずかしい…。あ、お話の前に、歳も近いようですし、お互い敬語は止めませんか?」
「ああ…いいですよ。いや、わかった、止めよう。」
結構グイグイ来るなこの子。ちょっと怖くなってきた。可愛いけど。
「うん、ありがとう。それじゃ、私の国に着くまで、お話ししながら行こうか!」
「ああうん。」
こういうのも悪くないな。まあ……どうせこの子も俺のことが分かってきたら俺を嫌いになるだろうが。いや、そもそも身分的に接点はないかもな。とりあえず、話し相手が出来たからいいと思うか。
とりあえずヒロイン2人目登場。主人公の陽の性格上、戦闘要素は少なくなります。しかし、どうしても戦う時はあるので、それまでおあずけとなります、申し訳ありません。