第4話「氷精降臨」
バタバタと忙しそうな足音が聞こえる何事だろうか?本国の兵士が近づいてきた。
「今から2時間後に遠征に行く。これから食事だ。早く準備しろ。」
いきなり遠征とは…まだロクな訓練もしていないのに、あまりにも酷くはないか。というか、俺に関しては魔法は使えない。
気にしていても仕方がないので、とりあえず準備して食事をしにきた。昨日の夜もだが、食事はやはり不味い。そして人がいっぱいで気持ちが悪い。まあ餌にありつけるのは、捕まった中で良いことではあるが。
食事中に遠征についての説明があった。場所は…名前はよくわからないが、海と森と草原があることは聞いた。魔物とやら、そういうところにもいる…いや、元が動物だから、そういうところにこそ居るのだろう。
遠征用の装備を渡された。軽鎧のようなものだろうか。俺の筋力では重い…。その他、食料等は個人に渡さないようだ。ちなみに武器は渡されなかった。いや、俺は魔法使えないんだから、武器ぐらいよこせよ…。と文句を言いたかったが、支給係に言っても仕方がないのでやめておいた。
そういう訳で遠征してきた。魔物は道中では見なかった。今回の遠征の目的は魔物討伐ではないのだろうか?遠征場所では、やはり魔物が多くいるのだろうか?おや、海の近くに何かあるようだ。明らかにファンタジーなこの世界とはイメージが合わない。しかしあれは…煙が立っているな。まるで発電所だ。そういえば、この世界は電気は使えてたが…もしや本当に発電所?
隊長が近づいてきた。嫌な予感がする。
「下野陽、貴様、精霊魔法の使い手だと言っていたな?それが嘘かどうか確かめる手段がある。我が国は氷の精、グレイスが守護している。その力が込められたという石だ。精霊魔法を使うものは、それに触れれば魔法を使えるようになるという。触ってみろ。どうせ、ただ戦うのを避けるための嘘だろうがな。」
やはりその話か。しかし、俺にとっても有益ではある話だ。触ってみよう。
これは…なんだ?まるで雪女のような女性型の何かが浮いている…。しかし、隊長はそれを見ていない。これだけ精霊魔法を疑問視しているのに、まさか当たり前のように無視なんて考えられない。ということは、俺にしか見えていないのか?
「こんにちは、マスター。氷の精霊、グレイシアと申します。これからマスターの魔法によって、何時でもこの世界に参上いたします。」
「あ…ああ、こんにちは。ありがとう。」
「下野陽、貴様何と話している?まさか、本当に精霊が見えているのか?ふん、演技だろう?」
まあ疑うよね。俺だって疑うさ。
「いや、隊長…本当に見えています。どうやら俺に協力するようです。」
「何を言っている?何も見えないぞ。さてはまた嘘をついているな。ふん…まあいい、貴様が精霊魔法を使える、信じてやろう。これでもう戦闘からは逃げられないからな。」
その後、意外にもあっさりと解放された。隊長は忙しそうにしていた。一休みした後、すぐにまた隊長がやって来た。
「そこのお前、ザンファン・ルベルト、あの建物が見えるな。アレの様子を見に行け。」
俺と同じ転移者が指示を出されていた。しかし、地理が分からない転移者に斥候をさせるとは、あまりにも非合理的だ。
「隊長、お言葉ですが、斥候なら専門の者、そうでなくとも地理にも詳しいこの世界の出身の者にさせるべきかと思います。」
「何だと、貴様、虚言だけでなく、反抗までするのか。よし、貴様が行け。貴様があそこを見に行くんだ。」
ああ、大体予想していたがそうなるか。だがまあいい、こんなところで他の奴と一緒に危険な目に合うぐらいなら…。逃げ出すチャンスだってある。
道中なので、グレイスについていくらか質問しよう。あまりにも簡単に協力すると言われると逆に気になってしまう。まさか精霊は奉仕種族か?
「あ、脳内で直接会話できます。私も魔法の類なので。」
ふむ…それは便利だ。しかし、会話だけでも異常に疲れる。これはつまり、「魔法を使っている」ことになるからだろうか?
「それじゃあ、グレイス…協力してくれるのは嬉しいが、まずはその理由を聞きたい」
当然だ。気になることはできるだけ追及するのが俺の主義だ。
「難しい質問ですね。私が貴方を気に入ったから…では納得して頂けないでしょうか?」
「いいやそれでいい。最終的に何かを決めるのは感情だ。それで問題ない。」
グレイスは俺の答えに少々驚いていたようだ。まあ確かに俺は勘違いされやすい人間だ。無理もない。
質問はまだある。むしろ、さっきのは最悪聞かなくても良かった。次が本命だ。
「それともう一つ、そもそも君はどんなことができるんだ?」
「私は冷気を出すことができます。温度に関しては…陽様の魔力次第…といったところですね。」
ふむ…よくある「氷」ではなく、冷気を出すのか。少し使用を工夫する必要があるな。まあでも、これこれで便利そうだ。
さてもう一つ…精霊そのものについて話を聞きたい。これからも精霊を利用するならば、俺には必要不可欠な情報だ。
「そもそも精霊ってのは何者なんだ?数はどのくらい?生態は?」
どうやら、俺にはかなりこのことは気になっていたようだ。
「ええと…まず答えやすい所から答えますね。数は数えきれないほどいます。それから私たち精霊は、普段は自然の管理をしています。生態というと、まあ人間のように飲んだり食べたり寝たりはしませんね。ただ、退屈になることはあります。」
「ということは、退屈だっていうのも、俺に協力してくれる理由の一つだな。そして、自然の管理ってことは、自然と関係のある精霊しかいないってことか?」
「そういうことになりますね。具体的には、炎、冷気、風、雷、水、光といったところでしょうか。他にもいるかもしれません。」
ふむ…一般的にゲームとかにあるような属性とはだいぶ違うな。
「そして精霊が何者かと言いますと…私にはわかりません。他の精霊ならわかるかもしれませんが…。とにかく、生物ではなく、自然の管理をするものだと覚えておいてください。」
「ああ、わかった。まあこの先、まだ聞かせてもらうこともあるかもしれないが…。」
その後、いくらか他にも質問をさせてもらっていた。
「私からも質問してもよろしいでしょうか?」
「ああ、答えたくないもの以外は答える。」
「このまま進むと、本当に指示通りに動くのではないでしょうか?それでもよろしいのですか?」
ああ、そういやそうだったな。正直忘れてた。
「いや、もちろんそんな危ない場所には行かずに逃げ出すよ。そろそろ見えない頃だろうしな。あと、この鎧も要らない。」
鎧を脱いだ。服は普通に来てるので大丈夫だ。
「すまない、やっぱりこのまま発電所らしき建物のところへ向かう。」
「何故ですか?」
「発電所の方からイヌ科の鳴き声、それから女性の悲鳴が聞こえてきた。放っておく訳にはいかない。」
そう言うと、グレイスの顔…精霊なのに人型の顔が笑っているように見えた。
「やっぱり、貴方に付いてきて正解でした。」
なるほど、そういうことか。気に入ってもらえたようで良かった。
中に入ると…人が…女性らしき人が狂った様子の狼に…そう、魔物に囲まれていた。さて、これを見ても放っておけるほど器用じゃない。とりあえず魔物も解放して、女性も助けよう。幸い、不意打ちできる。だが問題は戦闘方法だ。冷気を操ると言っても、それだけでどう戦ってもらうか。凍らせられても、それだけでは石を割ることはできない…
やっと精霊が一人出せて、主人公の見せ場直前まで来ました。ちなみに精霊はガンガン喋ります。