第1話「あんまり特別じゃない主人公」
気がついたら、記憶にない場所にいた。いや、思い出した。ここはそう、俺の記憶が正しければ山の中なはずだ。
じゃあ俺は何で山の中になんていたんだ?そもそも俺は引きこもり系オタクのはずだ。山の中にいるなんて異常事態だ。段々と頭がクリアになってきた…そうだ、俺の所属する大学のゼミで何故か山を登ることになったんだったな。もちろん、断ろうとした…しかし単位に関わっているようで行かざるを得なかったんだ。くそ、進藤…教授、恨むぞ。そしてもう言うまでもない、俺は…遭難している!あー、サボればこんなことにはならなかったのに!
過去を嘆いても仕方がない。確か、皆と登山中に疲れて足を踏み外した落ちたんだ。合流するか…いや連絡してリタイアすることを考えよう。あれ?最後まで登らないからラッキーの可能性もあるな!帰って、最近初めたネトゲやりたい。さあ、連絡だ…おや?通信出来ないな…。山だから…いや違う、さっきまでは4Gでバリバリいけてた…は?絶対絶命じゃないか。
ふぅ…とりあえずカバンの中のポカリを飲んだ。癖みたいなものだが、やはり落ち着く。さて、通信できないならしょうがない。闇雲に歩こう。闇雲に探して見つかるなら、俺が歩いていても見つかるさ。
おお、流石だ、俺はやはり悪運は強いな。鬱蒼としている草木がすぐになくなって、見晴らしの良い草原が…草原?そんなものはあるはずがない。ちゃんと周囲は確認した…ということは、まさか…異世界に転移?なーんてな…俺の見落としだろう。とにかく、草原を歩いてみよう、何か見つかるかも知れない。
お、人がいる。グラマラスなボディとピンク色のロングヘアとスリットの入ったローブが美しい。まるで妖艶な魔女のようだ。いいぞ、俺はコスプレは好きだ。いや、もし普段着にしているなら尚更面白い。しかし待て、相手は女性だ…この俺の状況から、まずは彼女から少しでも情報を得るべきだが、何を隠そう俺は超コミュ障だ!それに、もし話しかけるだけでセクハラで捕まったらどうする?
「あの、もしかして転移者かしら?あ、転移者っていうのはね、外界から……で魔力を……して、それで……そしてこの世界に来た人のことよ。」
見た目だけじゃない、声も美しい…20代半ばぐらいだろうか?どうやら本当に異世界に来たという説が有力なようだ。しかし、やけに接近して話しかけてくるな…恥ずかしい。しかし話が長い…学者気質か?
「要するに、俺は転移者。俺が来たのは貴女の魔法で開いたゲートによるもの。転移者は複数いるそしてその魔法は貴女のような有力な者にしか使えない。ゲートは山などの人がいない場所で開く。それは遭難に見せかけて、不自然さをなくすため。そして…ゲートを開く理由は『英雄』を探すため…こんなところでしょうか?」
「貴方…いいわね。素晴らしい理解力だわ。大体ここに来る子はまず話を最初から否定してくるから、話にならないし、オツムも残念な子も多いからね」
酷い言われようだ。俺の場合はオタク知識が役に立っていて順応しているだけだろう。にしても、余計に興奮して顔を近づけてくる…恥ずかしい…そしていい匂い…。
ここで他の転移者が目に映った。そして魔女はそちらへ向かうようだ。
「ええと…下野陽…だったわね?頭はいいけれど、残念なことに私の探している人材ではなさそうね。魔力が全然足りないもの。でも…不思議なタイプね。とにかく、もう話は終わり。それじゃ、じゃあね」
美しい女性だった…じゃねえ!ここで話が終わられたら困る。俺はこの先どうすればいいんだよ!そして、俺の名前を知っているのも魔法の力か?
「ちょっと待ってください。どうやったら俺は元の世界に帰れるんですか?さっきの話ではゲートは一方通行らしいし…。」
忘れていた…とでも言いたいような顔で、魔女はこちらへ振り向く。
「ああ、『英雄』が今回の異変を解決すれば帰ることは出来るわ。はい、話はおしまい。そうそう、魔法だけ使えるようにしてあげるわ。どんな魔法に目覚めるかしらねぇ…。」
そう言って彼女は俺に向かって魔法の…弾のようなものを撃ちだし当てた。特に何も感じない…本当に使えるようになったのだろうか?
「あらあら。貴方、珍しい魔法を使えるようになったわね。精霊魔法よ。それじゃ、今度こそさよならー」
あ、捕まえるまでもなく逃げやがった。その魔法についても説明されてないし、異変についても説明されていない。あのアマ…しかも目の前の転移者を連れてもの凄い早さで消えやがった。もしかして、あいつが彼女の探す『英雄』だったのか?
さてどうする…お腹は空くようだ。ということは、俺はここで「生活をする」必要があるのだろう。魔法は…出ないな。いや…そもそもどうして魔法を授かったんだ?魔法を使う必要があるからじゃないか?ということは、俺は「普通」の生活はできないってことではないか?謎だらけだ…情報と生活の手段が必要だ。食糧は我慢も含めて数日は何とかなるだろう。山登りしていたから、多少の準備はある。さて、どうしようか…とりあえずこの草原を歩いてみよう。もし「英雄」が見つかったならもう転移者は来ないはずだろうからな、彼女を待ち伏せるのは得策ではない。
どうも、神野皇極です。始めさせて頂きました。はい、処女作です。できるだけ読みやすくしたいと思っています。第1話ははっきり言ってあまり面白くないと思います。どうしても説明ばかりになってしまうので…。世界観をある程度描ききってから本番となると思います。また、最初のうちは多分タイトル詐欺になると思います。といより、タイトルがネタバレ?とにかく、ご覧になった方は、生暖かい目で見守っていただけると幸いです。