第13話「天才魔法少女」
そうして、俺たちは馬車に戻り、手土産の馬を持ち、過激派の集団と接触しに行った。それにしても、ここには風の精霊ヴァンが宿った像がないな。
あっさりとリーダーに接触することが出来た。あまりにもあっさり過ぎる。「過激」という割には、よそ者に対しては優しいのだろうか?まずは下手に出ていこうか。どうでもいいが、俺は国王のお抱えなのに、なんでこんな危険なことをしてるんだろう?イザリオとガエリオに任せても良かったな。
「ドゥバラ王国より、遊牧民に対する調査をするために、来させて頂きました。単刀直入に、あなた方が共生派と分離した理由はなんでしょうか?」
下手にと思ったが、雰囲気づくりみたいな台詞は嫌いなので、単刀直入に聞かせてもらった。しかしこの人顔怖いな。
「我々は彼らとは主義が違ったのだ。ただそれだけだ。」
「それでは、その主義主張と、そう考える理由をお聞かせいただけませんか?」
とりあえず今のところちゃんと会話になっているな。相変わらず相手の顔は怖いが…。
「我々遊牧民は、元々遊牧民同士で土地を争い、家畜を争い高め合い強靭になることで生き残ってきた。しかし、奴らは共生などと言い、それをやめてしまった軟弱者だ。我々遊牧民の伝統と誇りを失っている。それには我慢できないのだ。もう既に、ここより東の遊牧民は全て我らと同じ主張である。」
熱くなって語り始めた。しかし、最後のことは質問してないんだがな。熱くなって口走ったのか、どうしても伝えたい理由があったのか…。
「分かりました。それでは元の集団との融和の道はないということでしょうか?土地を分割して、住み分けするなどではダメなのでしょうか?」
「ダメだ。あの誇りを失ったものとは、もう同じ道を歩くことはない。そして、この草原全てが我々の生きて死ぬ場所だ。分割などありえない!」
おー怖い…早く逃げ出したいな。
「そうですか。ありがとうございました。」
リーダとの会談が終了したあと、すぐに馬車に戻って帰ることになった。さて、これはどう解決すればいいんだろうか。強硬手段しかないのか。いや、ここの情報が不十分だった可能性がある。やはり、ここの他の集団と接触すべきだ。
「これで情報は揃いましたね。早速王都に戻りましょう。」
「本当に酷い連中です。周りへの被害は考えずに、主義主張を掲げるなんて。」
イザリオとガエリオがそれぞれ、そういっている。やはり釈然としないな。
「良かったら、もっと情報を集めるために、東の過激派の集団と接触しませんか?」
「もう情報は揃ったと思いますが…行く意味はあるのでしょうか?早急に対応すべきかと。」
イザリオの言っていることは一応筋が通っている。何やら嫌な予感がするが、それでも主張し続けるか?もしここで俺が潰されては元も子のもない。やはら安全策で行こう。今なら大丈夫かもしれない。
「分かった。それじゃあ一先ず帰りましょう。」
馬車が王都に向けて走っている。10メートル横には他の馬車も走っている。今はまだ昼だ。今日中には帰れるだろう。異様に短い調査だったな。本当に疑問だ。
「っ!?なんだ!」
イザリオとガエリオで突然、俺を短剣で刺そうとしてきた。漫画じゃないんだ、わざわざ「覚悟」とかいう訳はない。初撃はなんとか避けたが、俺に大した身体能力もないし、馬車の中だから狭い。次はない!だったら…!
『ヴァン、この馬車を壊す勢いでこいつらを吹っ飛ばせ!』
魔法に頼るしかない!どれぐらいの反動かまだ試してもないが、こいつだ!
何とか馬車を破壊し、イザリオとガエリオ、そして馬車の運転手を吹き飛ばした。しかしまだ追ってくる。それに。結構脳への負担は大きいようで、既に疲れてきた。どうする?逃げ切れるわけがない。また吹っ飛ばすのもいいだろうが、あと2回も使えば普通では味わえないような苦痛を味わいそうだ。そういえば、隣の馬車は…?何で止まってるんだ?人が降りてる…ここで?
「せんぱーいっ!」
聞き覚えがある声だ。しかしそんな偶然はあるか?高校時代の2個下の後輩、白髪三日。だが危険だ、この状況で感動の再会をしても、仲良死まであるぞ!
「先輩、今助けますよ!もっとこっちに寄ってください!」
「危ないぞ!早く逃げろ!」
あの銀髪ショート、そして愛嬌のある顔立ち…ついでにそこそこナイスなボディ、白髪三日…間違いなく俺の知ってる彼女だ。くそ、逃げる気はないか。とりあえず一か八か彼女の近くに行こう。走るのは早くないが、何とかそこまでは距離を保てる!
「行きますよ!くらえい!」
ミカ…諸事情で彼女を呼ぶときはカタカナで呼んでいる。まあ心の中と手紙ぐらいだが、まさか女の子と手紙なんて俺にはあり得ないので、心の中ぐらいだ。とにかく、ミカの体から雷が出た。それはイザリオ達3人に命中し、彼女たちは動かくなった。
「やった大成功!先輩無事ですか?」
「あれはどうなってる?死んでるのか!?あ、すまん…助けてくれてありがとう。」
助かったのはいいが、殺すべきじゃない。それは間違いない。つい怒鳴ってしまった…。
「いえ、先輩はこんなところでも優しいですね。」
「優しくなんかないよ。ところであれは雷の魔法か?」
「ええと、あれ魔法なんですか?」
なるほど、そこからか。これは長い説明になりそうだ。だがこの状況、感電しててもいつ起きてくるか分からない。なるべく簡潔に。
「ああ、あれは魔法だ。ここはファンタジーな感じの異世界。魔法ってのもある。転移者は魔女に魔法を使えるようにしてもらうから、皆魔法が使えるんだ。」
「え?魔女?ちょっと会ってみたかったなー。可愛かったですか?アニメみたいでした?」
「会ってないのか?」
会ってないで魔法が使えるってことは、この世界の住民…例えばソレイユと同じように、自力で覚醒したってことか。
「まあその辺は後で話す。今はあの3人をどうするか。置き去りにするのが一番だが、どうやら俺は何かの陰謀にはめられたようだから、その真相を知っておきたい。」
「それじゃ縛っちゃいましょうか。実は私、遊牧民さんに結構お世話になって、縄も持ってるんですよ。もし危害を加えそうなら、また痺れさせちゃうので大丈夫です。」
「ふっ…頼もしいな。それに、あの加減の仕方…流石天才といったところか。魔法の扱いも天才か。」
こいつは実は俺の世界では天才少女だった。まあテレビに出たりとかする訳じゃないが、将来有望だったのは間違いない。ただまあ色々あるから、簡単な話じゃないけどな。
「やめてくださいよー。」
「そうだな、これは君によってはトラウマかもしれないしな…。」
「いや、先輩のなら大丈夫です。普通に冗談だってわかってますし。それに…先輩に褒められるのは嬉しいですから。」
中々可愛い台詞だな。こいつの場合は狙ってやってるようだがな。顔を背けたら、さらににやけやがった。こんなことしてる場合じゃないのに。それにしても、やっぱりミカと話していると心地がいいな。俺の理解者…いや、それは買い被りすぎかな。まあそれはいい。とりあえず、イザリオたちを尋問したら、こいつのことを面倒見る必要があるな。
やっと2人目のヒロインを出せました。