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異世界政治モノはいかが?  作者: 神野皇極
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第8話「ソレイユの決意」

 さて、精霊使い全般が使えるという、精霊の視覚と聴覚の活用…これを利用して賊のアジトを偵察してみる。

「…っ!」

思わずうめき声が出た。分かってはいたが恐ろしい負担だ。気持ちが悪くなる。だが耐えられない程ではない。ソレイユの心配そうな顔が見えた。やはり視覚が2倍は辛いな。目を瞑れば少しマシか。

 数は多くない。頭が悪いのだろうか。警戒している様子はない。いや、これは統率が取れていないチンピラだということか。しかし、何かしらの明確な目標があって行動を起こすならば、ここまで統率が取れていないのは不自然だ。

 いかにもリーダーという人物がいる。何かを手に持っているな。いや、それよりもこの状態、もしかしたらこいつらは逃げ出そうとしているのかもしれない。だがまだ準備は終わっていないな。とにかく手に持っているもの…紙のようだな。それを見てみよう。

 ふむ…言語魔法によってこの世界の言葉は母国語のように理解できることになっているが、それは文字も同じようだ。これは指令書か。差出人は「アイーダ・クルス」か。その人物がこいつらを雇ったということか。そして、こいつらが捨て駒扱いなら、この統率のなさも理解できる。そして肝心の指令書の内容は…残念だがあまり分からないな。まあこいつらから計画がバレないようにということだろう。しかし…今からの目的は決まったな。

 とりあえず、あまりにも疲れるので、グレイスを帰らせた。

「中に今回の事件の指令書がある。それを回収すると言い。アジトの状態としては、人数は10人程度で、統率が取れていないうえに、逃げ出す準備をしている。不意を突けば目的の達成ぐらいはできそうだ。うっ…げほっ。」

気持ち悪くて咳が出た。今までやったことが1分30秒。かなりの疲労だ。おそらくこの3倍もやれば廃人になるだろうな。2倍でもしばらく休息が必要だ。

「陽、動ける?本当に大丈夫?精霊魔法って、やっぱり辛いんだね…。」

「まあな。便利なことが分かってきたが、やはりこの魔法は外れかもしれん。」

 まずは焦らず息を整えよう。

「陽が大丈夫なようなら、突入するね?」

そう言って魔法剣の準備をしている。

「ちょっと待て、やっぱり戦うつもりか?」

「え、違うの?」

「ああダメだ。」

ソレイユはきょとんとした。どうやらしっかりと説明する必要があるようだ。最初は放っておくべきかと思ったがやはり大義名分は必要だろう。

「いいか、自衛は止めない。しかし、自分から攻撃はするな。」

「でも相手は…!」

「悪い奴……そう言いたいのか?」

俺はふぅ……とため息をつく。何が言いたいかこれから説明しようとするときの癖だ。

「もし悪い奴だから、何をしてもいいと思ってるなら間違っている。確かに君が指令書を取ってくることで結果的には他の大勢の人にとってプラスになるかもしれない。しかし、だからといって彼らに怪我をさせたりとかしていい訳じゃないだろ。」

「それって前に陽が言ってたこと?」

ああ、今までも俺の思想については少し触れたかもしれないな。

「ああ、勝手に人を罰することもできないし、それが罰じゃないというならただの加害者だ。まあ奴らの場合は現行犯ではあるから大義名分はあるかもしれないが、いきなり襲い掛かることはできない。」

「じゃあ私……直接話をしてくるね。」

「危険だ。」

「でもそれが理想でしょ?なるべく誰も傷つけたくない。私も陽に会ってから、心からそう思うようになった。」

「危険だ……だが分かった。君が理想を求めるなら、俺も協力する。もしも相手から攻撃してきた場合のみ、自衛として戦うんだ。わかったな?そして、俺が先に行くから、俺が襲われたら助けてくれ。」

これが理想のはずだ。目的も果たし、そして相手を極力傷つけず、自分たちの罪も軽くする。

「ダメ。私が先に行く。何かあったら陽が助けて。」

引き締まった顔でそういった。意志は固いようだ。

「わかった。でも1人で……2人で戦うにしても数が違う。厳しくなったら逃げるか、警察が来るのを待つんだ。それから権力を盾に警察から話を聞いても目的の達成はできるだろう?権力を掲げるのは好ましくないが、俺が見たところ、あの文書は君がまず手に入れてすぐにでも国王の報告すべきだ。本当に国のことを考えるなら、なりふりは構うな。わかったな。」

「わかった。無理はしない。ダメなら警察を利用することも考える。よく考えたら、大事なのは国民。私のプライドなんかじゃないから。」

ソレイユは素直に返事した。俺の言いたいことが理解できたようだ。

「最後に1ついいか?」

「何?」

うわ、いざ言おうとした恥ずかしくなってきた。

「俺の話を聞いてくれてありがとう。」

感謝の言葉はいい慣れてないので、赤面してしまう。

「ううん、私も陽が言っていること、正しいと思ったんだもん。」


 そうしてソレイユはアジトを訪ねた。俺は後を静かに追っていく。

「失礼します。先ほど馬車に岩を落としたのは、あなた方ですね?どうしてこのようなことをしたのか、お聞かせ願えませんか?」

ソレイユは決して自分から攻撃せず、平和的に、どうして馬車の進行を妨げたのかを尋ねた。自衛は出来ると言っても、数は違うんだ。戦いになったら非常に不利だ。まったく突っ走ったお姫様のために頑張るなんて俺らしくない。ことはもっとスマートに済ませたいんだが。そんなことを考えている場合ではないようだ。

 ソレイユの質問への返事は攻撃であった。すぐそばにいた3人ほどが襲い掛かる。

「はぁ!」

不味い……そう思った時には、3人が既に倒れていた。そしてそこには、ソレイユが魔法のオーラのようなものを棒状にして掴んでいる姿が見えた。自衛どころか、一人で倒したというのだろうか。

 ソレイユはその後、俺に目配せして、先へ進んだ。俺もそれを追う。すると、今度は7人……ボス含めて7人だ。流石にこれは不味い。俺もどうにか手助けしなくてはならないだろう。

「すみません、理由を……。」

「教えるか。それよりも、よくも子分を……。」

馬車について尋ねようとしたら、今度は先ほどよりも早く襲い掛かってきた。さっきの戦いで強かったといえども、流石のソレイユも危険だ。俺は何かサポートを……何ができる?

 少し考えて、俺は魔物を凍らせたことを思い出した。あそこで湿っていたとはいえ、足を凍らせられたなら、今だって凍傷ぐらいにはできるのではないだろうか。よし、これだ。

『グレイス、あいつらの手を狙うんだ!』

はぁはぁ……早くしなくては。しかし、照準を定めるのが難しい。それに加減もだ。凍傷は重症すぎれば治らなくなる。そんな攻撃をしてはいけない。上手く相手の手を冷やすのは中々難しい。ソレイユはどうにか今は捌いているようだが……すると、1人が手から武器を落とすのが見えた。冷えて持っていられなくなったのだろう。どうやら俺の攻撃が効いているようだ。続いて2人…3人……全員が冷えすぎたためか武器を落とす。

 こうして武器を持てないうちに、ソレイユは魔法剣で7人を一蹴して、指令書を持って帰ってきた。そうして俺たちはそそくさと逃げ出した。正直俺たちが見つかれば、俺たちも捕まる可能性があったからな。もうこんな危険なことはしたくない。

 

 そして、怪しまれないように自然に次の馬車に戻って旅に戻った。酔いとは別に、流石に魔法の酷使で疲れてしまった俺はぐったりしていた。

「さっきはありがとう、その……大丈夫?」

ソレイユは馬車に乗ってからも俺の心配をしている。

「ああ、何とかな。中々疲れたが、最初程じゃないようだ。」

「良かった。それに、本当に助かったよ。」

「君こそ、自衛と言っておきながら無双じゃないか。しかも、あの魔法剣は本当に便利だな。相手に傷は与えないのが素晴らしい。」

暴力でありながら、傷つけにくいのが素晴らしい。どうせ暴力なら、そういうのがいいだろう。

「いやいや、陽の力あってこそだって。」

「いやいや、君が……ふっ」

「ふふふ……」

俺とソレイユは笑いあった。ひとしきり笑うと、ソレイユは少し口を重そうに開く。

「陽、私が戦う前の言葉、あれも私にとっては大事だった。冷静になれてよかった。結局攻撃しちゃったけど、自分から攻撃しなくてよかった。」

「ああ、大義名分は大事だぞ。」

俺は自分の考えを語っていたことを思い出して、少し恥ずかしくなったので誤魔化した。

「もう、そうじゃないでしょ?誰だって傷つけるべきではないって話。今回は結局少し傷つける結果になったけどさ。私はあの時の陽の言葉の意味、陽から優しさが伝わったし、そうするべきだって感じたんだよ?」

「そうかい……。」

なんだか自分の考えを純粋に褒められるのは珍しいので照れてしまった。

「陽、これからも私に色んな事教えてね?」

「機会があればな。」

ソレイユは前よりも覚悟が決まった、そういう顔をしている気がする。

「良い顔になった。」

「私、そんなに綺麗?」

「そういう意味じゃない。綺麗ってのは否定しないけど。」

「じゃあどういう意味なの?」

「さあな。ただ……その道は険しいぞ。そう言っておくよ。」

何故か分からないが、俺は恥ずかしくなったので、意味深な言葉でお茶を濁した。ソレイユもちょっと恥ずかしそうにしていたが、真面目な顔に戻った。

 さて、話はひと段落ついたかな?

「あ、陽、ところであの魔法も精霊魔法なんでしょ?もしかして、アレで昨日私のお風呂とか覗いたりしてないよね?」

「そんなことするか!シリアスムードどこいった!?」

「冗談だよ。でもそんなに魅力ないかな?そんなことないよね?」

「ないよ。魅力は十分。もっと周りの人間を警戒しなさい!」

まったくこいつは…可愛いな。だが待てよ。魔法でツッコまれるべきは俺だけじゃないはずだ。

「なあ、なんでそんなに強いのに、狼みたいなのに囲まれている時は戦わなかったんだ?」

「狼というか、犬っぽいのが怖いの。私にだって怖いものぐらいあるんだよ?」

仕返しに言葉責めしようとしたら、なんだかその気が失せた。怖いなら仕方ないか。それにしても…本当に元気にさせてくれる姫様だ。だけど疲れたな。目的地到着までしばらく眠るか。

「悪いが、ちょっと寝させてもらう。」


 夢だったかな?何かソレイユが言っている気がした。

「陽の道が険しいのは分かってる、だって理想なんだから……だからこうやって力を結局使う必要があった。うん、大変な道……」

 


主人公というのは正しい者でもなく、強い者でもなく、人に影響を与えるものです。

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