洋と陽
久しぶりの更新になります。
洋の記憶がないことがわかります。
それでは、お楽しみください。
静まりかえった室内で、洋は頭の中のピースがカチッとはまるのがわかった。
「陽って…。」
「はい…。洋さんのことです。あのとき骨折して、私達と逃げたのは洋さんです。」
「じゃあ俺の記憶がないのも?」
「記の能力ですね。洋さんは組織から逃げ出した後、精神的なショックで病んでいました。今の洋さんのご両親は里親です。組織のことも知りません。事情も知りません。」
「本当の親ではない事は知っていた。そうか…。」
「黙っていて、すいません。本当のご両親は見つかってません。それに、洋さんの記憶を消したのは仕方ないことだったんです。能力が暴走仕掛けていたから。」
「俺の能力って…?」
「洋さんの能力、それは…。」
「続きは俺が話すよ。」
洋と心はドアを振り返った。
そこには1人の優しそうな青年がいた。
「記!どうして、ここに?」
心が立ち上がり、青年に歩み寄った。
青年は心に笑いかけ、頭をポンと優しく叩いた。
「鬼瓦警視から連絡があった。心の力になって欲しいってね。初めまして、それとも久しぶりかな?陽…今は洋か。」
「あっ、えっと。初めまして?でいいのか?」
「まぁ、記憶はないんだから初めましてが正しいかもね。俺は記。今は他の名前でサラリーマンやってるけど、記でいいよ。」
記は洋の肩を押さえて座らせた。
「記はたまに捜査協力してくれてます。普段は普通の生活を送っています。監視はあるけど。」
「監視?」
「秀が開発した街中の監視カメラから怪しい動きがある人を見つけるとアラームが鳴って報せてくれるシステムで監視しています。いつ組織に連れ戻されるかわからないから。」
「街中の監視カメラにアクセスって違法じゃ…。それに、そんなシステムあったら、秀が誘拐された時、わかったんじゃないのか?」
「違法の件はオフレコで。まだ試験段階なので実験も兼ねて記にやってもらってます。」
「では、改めて記です。能力は記憶操作。主に消すことかな。得意じゃないけど、記憶の書き換えも出来るよ。」
「書き換え?」
「事実じゃない架空の出来事を記憶に上書きすること。洋の記憶は小さい時の記憶がないだろう?それ以降は俺が作った記憶だ。本当の記憶はここ一年くらいだね。」
洋は混乱している。
「まぁ、いきなり記憶が偽物だって言っても混乱するよね。これは、時間をかけて消化してもらうしかない。それと、能力にも弱点がある。」
「はぁ?弱点??」
「例えば歪だと、空間の歪みで関係ない人を巻き込んでしまう。俺は一回記憶操作した人は二回目の記憶は弄れないかな。」
「僕は脳が発達してないから、情報の処理が追いつかなくなったら、いつどうなるかわかんない。」
心と記が秀の頭を撫でた。
「私は明るいとこじゃないと能力が使えないってとこでしょうか。真っ暗な空間では、相手の目は見れません。薄暗い中、心を読んでもうまく見ることが出来無いことがあります。」
「どういうことだ?」
「う〜んと、なんていうか、靄がかかってしまったような感じで、はっきり見えない感じとしか言えません。」
「俺の能力にも弱点があるのか?」
「洋の能力は特殊でね。俺たちもどんな弱点があるか詳しくはわからないんだ。」
「俺の能力ってなんなんだ?」
「洋の能力は平たく言えば、天気を操れる。」
「…、…はぁ??」
「いやいや、かなりすごい能力なんだって。名前からわかる通り俺たちの能力に合わせて名前が付けられている。俺は記憶から記。心は透視して見るから心。秀は瞬間記憶能力で優秀の秀。陽は太陽の陽だ。」
「太陽が天気を操ると?」
「正確には操るのは、天気だな。天気次第で異常気象は起こせる。」
洋は首を傾げた。
「簡単に言うとね。異常気象で作物は育たず、わずかな食べ物で争いが産まれ人は死ぬってことだよ。それだけ天気は重要ってこと。わかった?」
「なるほど。わかった。」
秀は満足そうに頷いた。
「実際組織から抜け出した後、洋さんが入院中、能力の暴走であっちこっちで異常気象が起きてます。それを治める為、記憶操作をしたんです。」
「今も俺は能力使えるのか?」
「俺は記憶操作しか出来ないから。能力はあるはずだよ。使い方を忘れているだけだろう。陽の能力は使い方次第で世界を滅ぼしかねない危険な能力なんだよ。」
「なら、このまま能力の使えないほうがいいんじゃないのか?」
「言いましたよね。精神が参ると能力が暴走すると。出来れば能力の操作が出来たほうがいいんです。記の記憶操作は二度と使えませんから。今の洋さんなら能力の操作が出来るはずです。」
「ただでさえ今の話でいっぱいいっぱいなんだが…。」
「そうだね。能力の操作はゆっくり練習してけばいいよ。記憶が戻る可能性もあるし。」
「戻るのか?」
「記憶の上書きされた部分は、どうしても曖昧でね。周りの人との会話で矛盾が生まれる時がある。その時のフッとしたことから記憶が戻るかもしれないし、事故などの衝撃で戻ることがあるかも。あくまで可能性だけど。」
「戻った人っているの?」
「さぁ?組織にいた時は聞いたことないけど。」
「僕は完璧な能力はないと思うよ。弱点があるように、記兄ちゃんの能力にも穴があるはず。心ちゃん、洋兄ちゃんの心を読んで記憶を取り戻すことって出来ないかな?」
「洋さんの心を弄るってこと?」
「下手したら廃人になんない?」
「駄目かなぁ。」
「廃人になったら、能力の暴走は止めれませんよ?」
「確かに、俺の能力は使えないし。」
「鬼瓦警視にも相談しないと。」
心達は洋の記憶を取り戻すことに意見を言い合っていた。
洋、本人を置き去りにして。
「おーい、俺も話に入れてくれ。っていうか、廃人って!そんな可能性あるなら嫌だぞ。」
その時、記の携帯電話が鳴った。
「あっ、会社からだ!今日のとこは、とりあえずこれで帰るよ。仕事抜け出してきたし。鬼瓦警視にも相談しといてくれ。」
「記兄ちゃん、またね。」
記は秀の頭をぐしゃぐしゃと弄った。
「またな、秀。心も。」
「はい。気をつけて。」
記は部屋を出て行った。
「洋さんにも監視をつけますね。歪に暴露ているなら洋さんも危ないので。」
「ここだって危ないんじゃないのか?」
「ここは秀のお陰で登録した人しか入れませんよ。何かあれば、鬼瓦警視に連絡いって、すぐ警察が来ます。」
「俺、入ってきたけど。」
「一階に監視カメラがあるので、お客さんは判断してます。洋さん登録まだでしたね。指紋認証と虹彩認証と顔認証と暗証番号ですね。秀、お願い。」
「はぁい。僕の部屋に入って。特別な機械があるから、洋さんの全身のデータを撮るんだ。」
秀の部屋は奥にある。
秀は部屋の前で慣れた様子で指紋認証と虹彩認証と顔認証をした。
「この部屋がこの事務所で一番重要な場所だから、僕と心ちゃん以外は入れないんだ。」
中はパソコンが数台と壁一面には色んな場所が映ったモニターで埋め尽くされ、手前には秀の発明品だと思わしきものが積み上げられていた。
「まるで指令室みたいだな。」
「そうだね。あっ、その辺のは触らないでね。この更に奥の部屋。」
「なぁ、この資金ってどこから?鬼瓦警視が?」
「主に株と投資信託とかかな。違法には稼いでないから大丈夫だよ。」
「秀は投資家でもあるの。主な資金源は秀の稼ぎよ。年上としては情けないけど。」
「えっ、もしかして億万長者だったり…する?」
「そんなこと聞くの?う〜んとね、秘密かな。」
「恐ろしい子!」
「まぁ、深く突っ込まないほうがいいですよ。凹みますから。」
心はガックリと肩を落とした。
それを見て、洋は考えるのをやめた。
「この奥か?」
「そう。ドアを開けて入るとカメラが360度あるから真ん中に立って。」
洋は秀の言われるまま動いた。
指紋と虹彩はまた別の機械を使いデータを取った。
「暗証番号は毎週変わるから覚えてね。」
「厳重だな。」
「念には念をっていうでしょ。暗証番号は僕と心ちゃんとお父さんしか知らない。記兄ちゃんは登録はしてあるから、暗証番号はお父さんから聞いたんだろうね。」
「他の仲間も知らないのか?」
「うん。基本はここには来ないし。来る時は連絡くれるから登録もしてないよ。」
「あまり登録出来ないようにしてあるんです。秀の負担を減らす為に。」
心がコソッと耳打ちした。
「僕はまだやる事あるから、研究室にいるね。」
「ええ。たまに休憩してね。」
「うん。」
事務所に心と洋の2人っきりになった。
洋はさっきの記と心を見て聞きたいことがあった。
少しもじもじしてると、心が眉を寄せた。
「何かありました?」
「あの…さ、一個聞きたいんだけど。」
「何ですか?」
「記と、その…、つ、付き合ってるのか?」
「えっ?」
心の動きが止まった。
「…そんな風に見えますか?記とは、兄弟みたいなものですよ。記は面倒見の良い人ですから。」
「そうか…。いや、付き合ってんなら、ほら、俺と一緒にいるの気にするかなとか思ったから。」
「恋愛してる暇なんてないですよ。どうなるかも分からないのに。」
心は絞り出すように言った。
「いや、そんなことないだろ。幸せになる権利はある。苦労した分、報われないと!損した気分になるだろ?」
「えぇ?何ですか、それ。でも…洋さんの理論、面白いですね。」
心は大きな目をぱちくりした。
「心にもその内いい奴が現れるだろうよ。」
「そうですね。その時は協力して下さいね。」
「ああ、いいぞ。」
洋は心に想い人が居ないことにホッとした気持ちでいることに、まだこの時は自覚していなかった。
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
中々ストーリーが進みませんが、次話で事件が起こります。
では、また次回。