心と陽
とりあえず過去編はこれで終わりです。
また回想とかで過去編を書くつもりなので。
それでは、お楽しみ下さい。
心は夜中に起こされた。
「起きろ。今から施設を移動する。」
それだけ言うと、心の手を掴み暗い廊下を歩いた。
心は寝ぼけと疲れから、頭が働いていなかった。
あれ?監視の人が寝てる?
男の人に連れられ、何人かが車に押し込まれた。
何人乗せられたのかは暗くてわからなかった。
心は目が覚めたが何かを忘れていた。
隣に座った子の手に触れた。
「ごめんね、狭くって。」
「ううん、平気。」
声から察するに、小さい男の子のようだ。
「私は心。あなたは?」
「秀って呼ばれてる。」
「秀ね。昔、一度だけ見かけたことがあったわ。」
歪が、今注目されているのは秀だと言っていたのを思い出した。
「僕、他の人とは違って部屋から出してもらえなかったから。」
「そっかぁ。」
秀は注目されていただけあって自由がなかったのだろう。
車はカーブの度大きく揺れた。
「大丈夫?酷い運転ね。何処に行くのかしら?」
「さぁ?何処に行っても変わんないと思う。」
秀は歳の割りに大人びた感じがした。
「秀はいくつなの?」
「4歳。」
「4歳?本当に?」
「うん。本当だよ。」
心は秀の手を握った。
秀の手は確かに小さく子供の手をしていた。
「本当だ。私より小さい手をしてる。怖いの?少し震えてる。」
「…うん。だって何処に行っても実験の日々でしょ。僕は産まれてすぐ誘拐されたから、両親の顔も覚えてないんだ。まだ目が見えてなかったんだと思う。」
「赤ちゃんの時の記憶があるの?」
「僕の能力は一度見たものは忘れない能力なんだ。だから、見えていたら、覚えていると思う。」
「凄いわ。じゃあ約束しましょ。いつか秀の親を私が見つけてあげるわ。それまで私が秀を守ってあげる。ほら、指を出して。」
「指?どうするの?」
心は秀の小指以外の手を握らせ、自分の小指を絡ませた。
「約束するときはこうするのよ。指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ま〜す。指切った。」
秀との小指を離した。
「へぇ。初めて知ったよ。誰かと約束なんてしたことなかったし。」
心なしか、秀の声は少し明るくなった。
その時、車が激しく揺れた。
「キャー!」
車内に悲鳴が鳴り響き、車ごと回った。
心は秀を抱き締め守った。
気がついたら、心達は外に投げ出されていた。
どうやら崖から落ちたようだった。
心と秀は運良く投げ出され場所が木の上でクッションとなっていた。
「秀、怪我はない?大丈夫?」
「うん、平気。ありがとう。」
「他に助かった人はいるのかしら?」
心は木の下を覗いた。
「他に人いた?」
心は秀の目を覆った。
「秀!見ちゃ駄目!」
酷い有様だった。
車は潰れ、その下敷きに何人かいる。
周りの人たちも手や足があり得ない方向を向いていた。
「秀、助けを呼びに行こう。私の背中に乗って!良いって言うまで目を瞑っていてね。」
心は秀を背負うと、木を降りた。
周りを見渡して動ける人を探した。
「心…?」
背後から声がして振り返った。
少し離れた所に記が座っていた。
「記?記!よかった。記もいたのね。大丈夫?」
「ああ、足が折れてる。」
「大変!助けを呼びに行くわ。待ってて。」
「いや、追っ手がくるはずだ。その前にここを立ち去りたい。」
「追っ手?私達は違う施設に連れてかれるんじゃないの?」
「違うよ。車を運転してた奴は最近まで、子供達を誘拐してた奴だ。組織を裏切り子供達を逃す為警察に向かっていたんだ。」
そういえば、運転手は私がさっき心を読んだ人だった。
思い出した!
あの人は最後に子供達を逃すと言っていた。
でも、心は誰にも言っていない。
「記、なんでそんなことを…?」
「逃す協力をしたからだよ。捕まれば俺たちもただじゃすまない。心も肩を貸してくれるか。警察に宛てがある。」
秀を下ろし、心は手を肩に回した。
記は山を下るよう指示した。
「警察の宛てって?」
「誘拐犯の知り合いだよ。警視庁の鬼瓦朔太郎。他の警察は組織と繋がりがあるかもしれない。」
「どういうこと?」
「組織がどれだけの子供を誘拐していると思う?年間で100人くらいはいる。それなのに、大きな事件となっていない。警察が関係してもみ消してる可能性が高い。」
「それ本当なの?」
秀が喋った。
「秀だっけっか?」
「うん。記兄ちゃんだね。話は聞いたことある。それより、さっきの話って本当なの?」
「あくまで推測だけどな。でも可能性は高い。」
「その警察だって信用できるかわかんないんじゃ…。」
「いや、信用できる。組織を唯一追ってる奴だからな。どうやって知ったのかは知らないが、誘拐犯が信用してた警察だ。」
「でも、透がいるわ。」
「透を知ってるのか?」
「誘拐犯の心を見て知ったわ。千里眼の持ち主でしょ?」
「千里眼って言っても何でも見える訳じゃない。誘拐する子供の居場所と能力、それと断片的な未来だけ。今日のことが分かってたら止められてたはずだしな。」
「でも、何が見えているのかはこちらには分からないわ。」
「いや、内容は掴めてる。透は寝てる間しか予知出来ない。その日見た夢を書き留めとくノートがある。そのノートを盗み見たことがある。今日のことは書いてはなかった。」
「でも、その後見た可能性もあるんじゃないの?」
「いや、透は時間軸で夢を見てる。今日より先の夢を見たならば、今日の夢を見ることは出来ない。」
「記兄ちゃん、詳しいね?」
「それだけ信用されるよう演技してきた。かなりきつかったけどな。」
「ごめんね、記。1人で背負わせてしまって。」
心は悲しくなり下を向いた。
記は微笑んだ。
「心が気にすることじゃない。だけど、こんな事故になるなんて…。」
「随分荒い運転だったし、私達だけが生きてるだけでも奇跡ね。」
「焦っていたんだと思う。いつ追っ手がくるかわかんなかったし。鬼瓦朔太郎との待ち合わせの時間もあったしな。」
「何処で待ち合わせしてるの?」
「この山の麓にある廃屋だよ。」
「場所わかるの?」
「崖から落ちたから獣道になるだろうけど、大体はわかるよ。その先から暗くなる。秀は逸れないようにな。」
「うん。頑張る。」
木々が鬱蒼となって月明かりも届かなくなってきた。
心は人を支えてることもあり、より慎重に進むしかなかった。
山の麓に出れたのは、朝日が昇り始めた時だった。
「もう…居ないかもしれない。」
「けど、少し休まなきゃ。」
足は泥だらけの傷だらけになっていた。
秀も途中で倒れそうになりながら、何とか付いてきていた。
廃屋の手前に車が止まっていた。
誰かが駆け寄ってきた。
「大丈夫か?君達!話は聞いている。この子は足が折れているな。他に怪我している者はいるか?」
「…大丈夫。」
記も一言言うだけで精一杯の状態だった。
全員を車に乗せ走り出した。
「私は鬼瓦朔太郎。警察だ。とりあえず、私の家で匿うことになってる。まだ警察全体が安全とは言えないのでね。事故があったのは連絡を受けたので知ってる。君達以外に生存者はいないそうだよ。残念なことだ。少し眠るといいよ。」
流石に山を一晩で下りきった為、心達は眠ってしまってた。
気がつくと、ふかふかの布団の上で擦り傷だらけの足は手当てされていた。
隣には秀が寝ていた。
秀を起こさないように、心はソッとドアを開けた。
20畳はあるリビングで、記と鬼瓦朔太郎は話していた。
「あの…、手当てありがとうございました。」
「ああ、おはよう。今は夕方だけどね。何か飲むかい?」
「えっと…。」
心が戸惑っていると、記は手招きした。
「こっちへおいで、心。お茶でいい?」
「うん。あの骨折してた子は?」
「知り合いの医者に任せてあるよ。大丈夫。信頼できる医者だから。」
心は差し出されたお茶を一口飲んだ。
「さて、心。君達のこれからについて話さなければならない。まず、君達の親はできる限りの力を持って探し出す。安全を確認でき次第親元へ帰す。組織のことはこっちに任せてくれ。」
「心が望めば、組織での記憶は消すからね。」
「記はどうするの?」
「ん〜、親元に帰れるなら帰るつもりだよ。平穏な暮らしをしたい。捜査協力をするけど、もう二度と組織とは関係を持ちたくない。」
「私は記が1人で今まで耐えてきたのを知ってる。記の望むように過ごして欲しい。記の望んだ通りにさせてあげてください。それと、私の家族は最後でいいので、先に秀の家族を探し出してくれますか?」
「もちろん、皆の家族を探し出すよ。心も親元に帰れるようにするさ。」
「私…、私はまだ家族の元に帰るつもりはありません。」
「どうして?」
「私にも組織の捜査の手伝い出来ませんか?私の能力は人の心を読むことなんです。きっと役に立ちますから。」
「心!そんな危険なことしなくていい。もう組織に関わる必要ないんだ!」
「記、あなたが1人で組織から子供達を守ってきたのに、私は何もしてない。私も少しでも子供達を救いたいの!」
心は声が震え段々大きくなっていった。
「心、そんな立派なもんじゃないよ。組織から離れられた途端、自分を守ることでいっぱいになった。怪我をしたのが自分じゃなくて、良かったって思ったんだ。今までのことだって全て偽善だったんだ!」
記は声を荒げて本音を言った。
「記はそんな人じゃない!あなたの心の中を見たことがあるの。辛くて苦しいって、ずっと叫んでた!なのに、1人で人身売買されそうな子供達を救ってきたんじゃない!それが偽善な訳ないよ。救われた子供達だって、そんなこと思うはずがないわ。」
「心と記も落ち着いて。心、捜査協力は頼むかもしれないが、組織に関わる捜査はこちらに任せて欲しい。何より君達は未成年だ。今まで組織に奪われた分、幸せな人生を歩むべきだよ。さぁ、話は終わりにしよう。ご飯の用意をするから、心はお風呂に入るといい。」
鬼瓦が心の背中を押して、お風呂場まで押しやった。
「ゆっくり入っておいで。記は今疲れているんだよ。先に休ませるから。」
「…はい。怒鳴ったりしてごめんなさい。」
鬼瓦は心の頭を撫でた。
「君達が優しい心を持って育ってくれたのが何よりの救いだね。後は大人に任せて欲しい。」
鬼瓦はお風呂場のドアをソッと閉めた。
記と声を荒げて怒鳴りあったことなどなかった。
感情的になったのは良くなかった。
記は今、初めて組織から解放されて気持ちの整理が出来ていないのだろう。
記の心の中を見たからこそ、記が1人で悩み味方のいない中どれだけ不安に駆られながら耐えてきたか知っていたから偽善で片付けて欲しくなかった。
今までは記を救いたいと思い組織と対峙しようと考えていたが、心は子供達を救いたいと改めて思った。
自分に出来ること、それは私の持ってる人の心を読む能力。
それを発揮出来れば、組織を壊滅することも出来るかもしれない。
心は密かに決心をした。
あれから1週間、記は部屋に閉じこもってしまった。
鬼瓦が言うには、今は1人になりたいとのことだった。
心の家族はすぐ見つかった。
心が本名と住所を覚えていたからだ。
けど、秀の家族が見つかるまではと、心は帰ることを拒否した。
そのすぐ後に、記の家族も見つかった。
記はまだ気持ちの整理が出来ていないといい、ここに残るようだった。
秀だけは産まれてすぐ誘拐されたので、中々足取りを掴めずにいた。
「心ちゃん、僕は大丈夫だから、お家に帰っていいんだよ?」
「秀、約束したでしょ?秀が帰れるまで、私はここにいるよ。」
「でも、僕のせいで心ちゃんが…。」
「秀のせいじゃないよ。全ては組織が悪いのだから。それに、私は私の意思で秀と居たいの。私と秀は家族みたいなものでしょ?」
「心ちゃん!」
秀が抱きついてきた。
ここ来て数週間の間に、秀と随分仲良くなっていた。
秀は少し子供らしさを取り戻し笑うことが増えた。
心は秀を本当の弟のように感じてきていた。
「鬼瓦さん、骨折していた子はどうなったの?」
「まだ家族は見つかってはいないけど、もうすぐ退院だから、こっちに来るよ。名前は“陽”だよ。仲良くしてほしい。」
「陽…。」
これが心と陽との出会いだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
中途半端ですが、次の話で補足します。
それでは、また次回をお楽しみ下さい。