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木枯心の過去1

心の過去の話になります。

更新のペース遅めですが、お楽しみ下さい。


タクシーで事務所に向かう中、心は一言も話さなかった。


ずっと空を眺めていた。


秀は横目で心配そうにチラチラと心を見ていた。


歪の言っていた早く目覚めろとは、どういう意味なのか…。


何で俺を知ってるんだ。


記って奴は一体…。


「ーさん、洋さん!着きましたよ。」


「あっ、ああ。悪い。」


さっきまで別世界にいた為、何処か地に足が着いてないというか、本当に現実なのか?


足元がふらつく洋を心は支え、事務所のドアを開けた。


洋をソファに座らせた。


「大丈夫ですか?洋さん。」


「ああ、この世界は現実だよな?」


「そうですね。ここにいる洋さんのいた元の世界っていうのが正しいかと。」


「いくつもあるのか?」


「パラレルワールドってわかりますか?この世界と平行してある世界です。」


「映画とかではよくあるな。」


「作り物ではなく、実際存在します。」


「ああ。体験したから嫌って程わかる。」


「まず歪について話ますね。歪は空間を歪める能力です。たまたま歪の広げた空間の入口に関係のない人が迷い混むことがあります。今回は洋さんが迷い混んでしまったようですね。」


「電車だったぞ。帰りは歪が指を鳴らしたら帰れたけど。」


「今回は電車だっただけで、歪が空間を歪めて作る幻覚みたいなものです。洋さんにしか見えなかったのは、たまたまか狙ってなのかはわかりません。」


「俺を見たとき、驚いてはいるようだった。」


「なら、空間を歪めたとき波長があってしまったと考えられます。その証拠に私と秀は電車を見てないですし。」


「なら、他の奴が行くはずだったってことか?」


「その他の人も行っているはずです。その人が本当の狙いでしょうから。洋さんはもらい事故のようなものですね。」


「もらい事故って…。」


「言い方が悪かったですね。洋さんは巻き込まれた被害者ですね。歪はそうそう空間を歪めたりはしません。体力を使うので、余りやりたがりはしません。歪は他に何か言ってましたか?」


「俺も早く目覚めろとか。記って奴がどうとか…。」


「…そうですか。なら、少し昔の話をしましょう。私が誘拐されていたときの話を。」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


真っ暗な部屋。


灯りもない。窓もない。


ドアの覗き窓が開き外の光が射す。


覗き窓から、声がした。


「おはよう、心。起床の時間だ。」


ドアが開き、心の1日が始まる。


ドアから漏れる光を頼りに心は着替えて身支度を整える。


支度が終わると、ドアの外へ出て白衣を着た大人達に連れられ、朝の検診をされる。


血を抜かれ、脳波をみる機械を付けられ質問をされる。


「今日も異常なしです。」


「よし。心、偉かったね。また昼頃に呼ぶから朝ご飯を食べておいで。」

白衣の大人達は優しい声をかけるが、目は笑っていなかった。


「…はい。」


心は朝ご飯を食べに食堂へと向かう。


食堂は朝の検診を終えた子供達で賑わっていた。


「よぉ、おはよう。心。」

声をかけてきたのは歪だった。


「おはよう、歪。」

心は列に並び箸と皿をトレーに並べた。


「相変わらず暗い奴だなぁ。ここに来てもう四、五年くらい経つだろうに。」

歪はパンを手で掴み口に運んだ。


「ここは嫌い。私達はどうなるの?」


歪はニヤリと笑った。

「そうか?俺には天国だ。好きな物食べれるし、俺を嫌な目で見る奴はいないしな。」


「歪、私達は利用されるのよ。きっと悪いことを手伝うことになる。」


「いいじゃねぇか。俺の能力を必要としてくれんなら、それでいい。俺の親は化け物を見るような目をしてきた。俺は必要とされる今がいい。」

歪はもう一つパンを掴むと何処かに行ってしまった。


歪はいつもそうだ。

ここは居心地がいいと周囲に語って聞かせていた。

何人かは歪に共感していたが、殆どは誘拐されてきてるので元の生活に戻りたいと望んでいた。


心は朝ご飯を揃えて、空いてる席に座った。


「おはよう。ねぇ、聞いて。心。私ねもうすぐ家に帰れるかもしれないの。」

隣にいたのは心と同い年のとおるだった。


心は驚いて隣を見た。


透はにこにこしていた。


「本当なの?ここの人達がそう簡単に帰してくれるとは思えないけど。」


「あら、本当よ。私の能力、透視でしょ。私の書類に不可の印が押されてるのを見たのよ。不可が押された子達はみんな、ここから居なくなっているでしょ?きっと家に帰されるのよ。」

この施設で流れる噂を透は信じきっていた。


ここの人達が一人一人にランクをつけているのは知っていた。


上位の人は、監視が強化され部屋からは出されることはほぼなかった。


歪は上位だが、逆らうようなことがないので比較的自由にさせてもらっているようだった。


「それは噂でしょ。どうなるかなんてわからないよ。」


「心、私が帰れるからってそんな言い方しなくてもいいじゃない!」

透は心が喜んでくれると思っていたようだった。


思っていた態度ではなく不満のようだった。


「透、心配してるのよ。不可の印を押された子達がどうなったかなんて誰も知らないのよ。」


「もう、いい。」

透は不機嫌にトレーを持って行ってしまった。


「透…。」

最近の透は成績がイマイチだと言っていた。


成績とは、能力者にあった問題が出され、その成績結果によってランクは決まっていた。


透視の能力が落ちてきていたと前話していた。


分かるときとわからないとき大体半分くらいだと。


不可の印はこの施設に不用と判断された子達のことだ。


噂では、家に帰されると聞いたが真相は誰も知らない。


心は誘拐までして連れ去った子達を家に帰すとは考えてはいなかった。


この施設のことを話されでもしたら、施設で働く大人達にはいいことはないだろうし。


「大丈夫だよ、心。」

優しい声が聞こえ、心は顔を上げた。


「記…。何か知ってるの?」


「監視の人が見てるよ。透は大丈夫だから安心して。」

記は心の一つ上の10歳になる優しい男の子だった。


記はそう言うと、食堂から続く奥の部屋へと消えていった。


暫くして、透は大人達に囲まれ記が行った奥の部屋へと連れていかれた。


この施設には自分達の部屋と検診室、食堂、浴場、多目的室、遊具など部屋がいくつもある。


奥の部屋は関係者以外立ち入り禁止されていて、心も行ったことはなかった。


不可の印を押された子達が通され、決まって記が奥の部屋へと向かっていた。


記を疑うことはないが、何が心配要らないのかはわからなかった。


記は能力を語ることはなかったし、いつも人の輪の中には入らず、外から眺めるような存在だった。


けれど、ここの生活に疲れ果てた子達や泣き出した子達を誰よりも早く見つけて、よく話を聞いているのを見る。


心も最初は不安やストレスからおかしくなっていたとき、支えてくれたのは記だった。


記は心がこの施設に慣れるよう友達作りを手伝ってくれたりした。


心はこの施設で一番記を信用していた。


透は心配だったが、記に任せることにしようと決めて深くは考えなかった。


昼頃の検診の後、昼ご飯を食べ終わると年齢ごとに授業を受ける。

学校でやるような算数、国語、社会、理科などを年齢ごとの部屋に集められ勉強する。


授業が終わると夜の検診まで自由時間だった。

部屋に戻る者もいれば、多目的室で話してる者もいるし、運動する中庭で遊んでいる者もいる。


それぞれの時間を過ごし、順番に検診を受けて夜ご飯を食べて風呂に入り寝る。


それがここに来たときからの毎日だった。


次の日、透を見かけることはなかった。


心は記を見つけ話しかけた。

「透は?今日見ないんだけど。」


「心、詳しくは話せないけど透は大丈夫。心配要らないよ。」

記は心の頭を撫でた。


透はそれ以来、施設で見ることはなかった。


そうやって、施設の中は入れ替わりがあった。


それから数年経った。


「心、古株は俺らだけになったな。」


「歪と記と私ね。他にもいるの?」


「鏡て奴がいる。なんでも誰にでもなれるらしい。」


「誰にでも?鏡なんて子見かけたことないけど。」


「そりゃそうだ。部屋からほぼ出してもらってないし。誰にでもなれるってことは大人達に成りすます事もできるってことだ。そんな奴、野放しにはしないだろ?」


「そうだね。」

心は適当に相槌を打った。


「それより、今一番騒がれてるのは秀だろ。」


「秀?」


「知らないのか?僅か一歳で教えた三ヶ国語を話し、問題を解かせれば全て正解のとんでもない天才児だよ。」


「それも私達と同じ能力者なの?」


「さぁな。でも大人達は俺らを『switch』って呼んでる。」


「『switch』?」


「能力使う時に頭の中でスイッチを押すみたいだからって誰かが言ったからみたいだぞ。」


「ふ〜ん。ねぇ、その秀って子は見ることできないの?」


「ん〜、俺も殆ど見かけたことないからな。あっ、あそこ!」

歪が指を指したのは多目的室の廊下だった。


いつも以上の大人達に囲まれ、1人下を向いて歩く小さい人。


それが秀だった。


見た目は3歳くらいだが、その表情からは子供らしさは微塵も感じなかった。


「あれが秀って奴!」


「まだ小さいじゃない!」


「今3歳とかだったはず。」


「そんな、酷い…。」


「心、何年ここにいるんだよ?お前ももう16歳になるんだろ?他人に同情とか辞めろよ。秀だってこれから先はここに居なくちゃならないんだぞ。お前に何が出来るんだよ。」


「それは…。」


「ここに来た以上、不可の印が押されない限り外には出れない。外に出たいなら、お前も従うことだな。」


「歪、最近見かけない時あるけど、何処に行ってるの?」


「それは言えない。けど、俺は必要とされてるってことだ。」

歪ははぐらかし何処かに行ってしまった。


歪は大人達と何かを話してることが増えた。


話しが終わると歪は施設から暫く見かけなくなる。


何かを頼まれているようだった。


帰ってくると歪はいつも疲れた顔をして、自分の部屋に戻っていく。


歪も記も何かを頼まれ手伝っている。


心は2人の動向を観察するようになった。


そんなある日、心は大人達に呼び止められた。


「心、君は人の心が見えるんだったね。お願いを聞いてくれるかい。」


心はいつの間にか大人達に囲まれ、逃げることも拒むことも出来そうにないことがわかった。


「…はい。」


「助かるよ。ついてきて。」


食堂の奥の部屋へ連れてかれると、壁の前に椅子が一つ。壁に向かって座るように言われる。


薄暗い部屋に窓はなく、ドアが一つと椅子が一つ。


ドアの前には大人達が陣取り、心は壁に向かって椅子に座っているだけだった。


すると、壁が透けて向こう側が見えた。


壁だと思っていたのはマジックミラーだった。


向こう側に座るのは、心も見たことのある大人達の1人だった。


すると、心の肩に手を置き白衣を着た大人が話し出した。


「彼はね、見たことあるだろ?ここの職員だよ。でもね、彼は困ったことに仕事のデータを無くしてしまったみたいなんだよ。心、彼の心の中を見て、仕事のデータは何処にあるのか見つけてくれないかい?」


向こう側の彼の頬や目には殴られた痕があった。


きっと口を割らなかったのだろう。


断れば私も殴られるのだろうか。


心は恐怖心から固まってしまった。


職員は優しく言う。

「彼は転んでしまってね。何、大丈夫だよ。心には細心の注意を払っているからね。忘れていたよ。指にこれをはめて。」


心の指には脈拍を見る機械を付けられた。


嘘は言えないようにだろう。


心は大人達を見つめる。


大人達は優しく微笑むが、目は笑っていない。


心は出来るだけ落ち着こうと深呼吸した。


いつも能力を使う時は、どうしていたっけ?

落ち着いて、何かを考えては駄目だ。

出来るだけ頭を空にして、頭のスイッチを入れた。


心の目は金色に輝いた。


向こう側の彼が強く思っていることが流れてきた。


『狂ってる。ここの奴らはみんな。子供達を実験動物だとしか思ってない!』


『もう沢山だ!こんなとこ。おかしくなる。』


『殺される。殺される。』


恐怖や嫌悪などの彼の色んな感情が流れてくる。


心は彼の感情の飲み込まれそうになるのを必死に堪えた。


堪えたが、次々押し寄せる感情に心が限界を迎える。


「うっ、うえっ…、ゴホッ、ゴホッ。」

心は吐いてしまった。


気持ち悪い。


人の感情を読み取る練習はしてはいたが、あくまで練習だったのだと思い知った。


身構えてる人の心を読み取るのは簡単だった。


感情に支配されることもない。


だけど、これは自分の感情ではないのにまるで自分自身のことのように感じて、この感情は誰のものなのかわからなくなる。


頭の中がグルグル回るような、自分ではないものに支配される感じは気持ち悪いとしかいいようがない。


大人達はそんな様子を冷静に見ていた。


誰一人、心を心配するものはいなかった。


心は何度も吐き、床に倒れた。


薄れゆく意識の中、聞こえた声は淡々とした大人達の話し声だった。


「まだ無理だったか。」


「期待外れですね。」


「もう少し様子を見ようー。」


心が気がついたのは、自分の部屋だった。


真っ暗は部屋の中、心は久しぶりに泣いた。


次の日、起きるとまたあの部屋に連れていかれ、吐いて倒れた。


それが三日続いた。


四日目、心身共に疲れていた心に感情はなかった。


早く終わりたくて、見えたままを大人達に伝えた。


「よくやった。」


「すごいわ、心。」


「いいデータがとれた。これからも頼むよ。」


大人達の賞賛の声も心にはどうでもよかった。


部屋で一人でいたくなくて、多目的室にいった。


だけど、人の輪に入りたくなくて隅に座り外を眺めていた。


「心…。」


「記…。私ね、人の心を読んだの。練習で読むことはあったけど、こんなに恐ろしいなんて知らなかった。自分の感情が支配されて、誰の感情かわからなくなるの。今の哀しい感情は私の感情なのかな?」


記は泣きじゃくる心を抱き締め話を聞いてくれた。


心は記の腕の中泣き疲れ眠ってしまった。


久しぶりにゆっくりと眠ることができた。


気がつくと心は記に膝枕されていた。


「わぁ、ごっ、ごめん。記。ずっと膝枕してくれてたの?重かったでしょ。」


心は飛び起きた。


「はは、確かに足が痺れてる。けど、大丈夫だよ。少しは元気でたか?」


記は足を撫りながら、笑った。


「うん。ありがとう、記。」


心は久しぶりに優しい気持ちになれた。


「心は笑ってるほうがいいな。」


心は顔が赤くなり下を向いた。


お読み頂きありがとうございました。

次も過去の話になります。

では、次回もよろしくお願いします。

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