広瀬洋と木枯心
ミステリーサスペンスです。
ホラーではありませんが、これから内容的に少し含む予定では、あるので苦手な方は注意して下さい。
もうすぐ警視庁二次採用試験がある。
警視庁に入るのは、俺の目標だった。
のに、今俺は薄暗い雑居ビルの3階にいる。
ため息をついて、ドアをノックする。
中から女性の声で、どうぞと聞こえた。
落ち着いたその声は俺の耳にスッと入ってきた。
ドアは金属製で錆びのせいか少し力を入れないと開かなかった。
ギイイと重いドアを開けると、眩しい光で目が眩んだ。
「どうぞ。こちらへ。」
逆光で顔はわからないが、手が椅子の方へと動いた。
部屋の奥にディスクがあり、客用のソファがあるだけで飾りっ気のない部屋だった。
ソファの奥に通路があるので、他の部屋もあるようだった。
「ごめんなさい。眩しいですか?カーテンとかあると鈍るので。」
「鈍る?」
「勘みたいなものです。秀、お客さんよ、お茶をお願い。」
「は〜い。」
奥の部屋から幼い声が聞こえた。
「お子さんですか?」
「いいえ、優秀な助手です。」
ドアが開いてお茶を持ってきたのは、どう見ても4、5歳くらいの子供。
「えっ?子供じゃないか。助手とかふざけてるのか?」
「いいえ。助手ですよ。」
「帰る。」
冗談じゃない。来るんじゃなかった。子供が助手とかふざけてる。
「帰られてもかまいませんが、無くし物はみつかりませんよ。」
「えっ、なんで無くし物だって…。」
「お座り下さい。」
女性は立ち上がり、セミロングのストレートヘアが光を反射させながら近付いてきた。
初めて顔が分かった。
色白で大きな瞳、整った顔はかわいい部類に入るのだろうけど、優しい口調してるのに微笑みはなかった。
「ごめんなさい。無愛想なのは元からなのよ。上手く笑えないの。さぁ、こっちに腰掛けて。話だけでも。」
少し気味悪さを感じながら、何故か断る事が出来ず座った。
先の子供はニコリと笑い、お茶を置いた。
子供はくりくりした目に笑うとえくぼが出来ていた。
女性とは間逆の愛想の良さ。
子供はお茶を置くと女性の隣に座った。
「えっと、君も話を聞くの?」
「助手だから。気にしないで。」
そういうと、ノートパソコンを広げた。
「この子は本当に優秀なんですよ。頼りになりますから。さぁ、話をどうぞ。」
半信半疑ながら、ゆっくりと話すことにした。
「私の名前は広瀬洋。今は警視庁採用試験の一次試験を通過できた。そこまでなんとかこれたんだが…。」
「二次試験の連絡をもらった紙を無くしたのですね?」
ギクリとした。
無くしたとは一言も言っていない。
「ふふっ。不思議に思ってますね?私がなんで無くし物か分かったのか。簡単です。私、あなたがこのビルに入るのを見ていたんです。入り口であなたはため息をついて、鞄を探っていた。鞄を探すのを止めるともう一度ため息ついてビルに入りました。そこで、ここが胡散臭いと疑っているのと無くし物をしているというのが分かったんですよ。当たりでしょ?」
そこまで見られていたなら、隠す必要もないなと思った。
「そうです。ここは知人の紹介でね。看板もネットで検索しても出てこないし、正直不安です。」
「ここはクチコミのみなので。元よりいつもは探偵の仕事はしてませんが。」
「普段は何を?」
「機密情報ですので、お答えは出来ません。秀、どう?何か分かった?」
「うん。広瀬洋さん。1988年4月24日生まれ。世田谷区育ち。親は2人とも教員だね。2年前に警察学校を卒業後、世田谷署に勤務。その後、警視庁採用試験を受け一次試験通過。こんなとこかな。」
「えっ、何でそんなことまで。」
「秀はハッカーなんですよ。あっ、でも安心して下さいね。個人情報は守秘義務で守りますよ。」
「そういう問題じゃないだろ!ハッカーなんて犯罪行為を見過ごせと?」
「なら、素直に話してくれました?私が女だとか秀が子供だとかで、まともに話してくれない方が多くて。胡散臭いと疑われるのはしょうがありませんが、仕事はしっかりします。隠されることがあると、こちらが困りますから。」
「もういい!こんなとこに頼もうとしたのが間違いだった!ハッカー行為は犯罪だ!立場上、黙ってはいれない。」
「別に警察にいってもいいですよ。取り調べであなたの立場も危ぶまれますから。試験結果を無くした人を警視庁が雇うとでも?」
「それは…」
「個人情報は漏洩は決してしません。秀は優秀ですから。無くし物を必ず見つけてみせます。」
その時、彼女の目が金色に光ったように見えた。
一瞬、目がチカチカして瞬きをした。
彼女の目は茶色の瞳になっていた。
気のせいか…?
「どうしました?話の続きをお願いします。」
「えっと…、通知が来た日は結果だけ見て鞄に入れた。同期と飲む予定だったから、一次試験通過の報告もしようと思って。だけど、同期は一次試験を不合格だったと聞いて、俺の話はしなかった。無くしたと気がついたのは翌日、家に戻って鞄を見た時だった。」
何故か、勝手に口が動いてるようだった。
意識はあるのに、操られてるように言葉が出てきた。
「ありがとう。良くわかりました。試験結果の通知はあなたの同期が持っています。」
「証拠もないのに?断定するのか。」
「証拠はいらない。だって、あなたは心当たりがあるでしょ?」
確かに俺がトイレ行った後、様子がおかしかった…。
「その同期の人の家に行ってみましょうよ。」
秀が口を挟んだ。
「そうね。そうすれば、はっきりするでしょ。」
「俺だけで行く。」
「嫌よ。解決しないとお金を頂けないし、逃げられたらたまったもんじゃないわ。」
「なっ、逃げたりしない。お金も払うから。」
「まぁまぁ、洋さん。1人じゃ行きにくいでしょ。」
秀に押され洋は無理矢理、同期の家に案内することに。
電車に揺られて、二駅。
歩いて10分程で同期の家に着いた。
中々古いアパートのようだった。
錆びついた階段。
壁の色も所々落ちていた。
「ところで、同期の名前って何?」
「…橋田恒興。」
「う〜んと、あったあった。確かに洋さんの同期だね。警視庁採用試験の為に勤務していた交番を退職してる。」
「えっ!そんなこと一言も…。」
「ここにいても仕方ないですし、さぁ行きましょう。」
二階の階段を登り、一番手前の部屋のインターホンを押す。
ピンポーン、ピンポーン。
「留守か?」
「電気のメーター動いてますし、いますよ。秀、お願い。」
秀は頷いた。
「漏れちゃうよ〜!洋兄ちゃん、もう我慢出来ない!ここでしていい?」
「えっ!」
ドアが勢いよく開いた。
「恒興。」
洋の顔を見て恒興はドアを閉めようとしたところ、彼女はドアに足を入れた。
「ごめんなさい、弟にトイレを貸してくださる?この近く公園もコンビニもなくて。」
秀は2人の僅かな隙間から、するりと中に入った。
「おじゃまします。トイレ借ります。」
秀はトイレに駆け込んだ。
「なっ、何なんですか。あなた、急に!」
「急にごめんなさいね。洋さんの親戚です。洋さんがあなたに用があるのを付いてきたんです。中に入っても?」
秀が中にいるので、恒興はドアを開けた。
「洋、困るよ。急に。」
洋は、こちらをチラッと見る。
目配りで話を合わせるようにと言われ、洋は話を合わせた。
「すまない。えっと、秀がトイレに行きたいというもので。」
彼女はキョロキョロと部屋を見ていた。
恒興はあまりの失礼な態度に彼女をねめつけていた。
「で、俺に用って?」
「あっ、えっと。」
「洋さんと恒興さんが飲んだ日に警視庁採用試験の結果の通知を無くしたので、恒興さんに何か知っているのか聞きに来たのですよね?」
「そう、そうなんだ。」
「…知らない。酔って落としたんだろ?交番に行けよ。」
恒興は明らかに目を逸らした。
「では、何でさっき洋さんの顔を見てドアを閉めたの?」
「それは…、知らない人もいたから。人見知りが激しいのでね。出来れば対応したくなかったんだ。」
「それだけ?お友達が訪ねてきたのに、知らない人がいたからって開けないのはおかしいですよね。何かやましいことでも?」
恒興はドキリとしたようだった。
「何もないよ。今日は休日だったし、ゆっくりしたかったんだ。」
「そうですか。急に失礼しました。けれど、これあなた宛てではないですよね。」
彼女はいつの間にか、洋の警視庁採用試験結果の通知を持っていた。
「なっ、なんでそれを!」
「恒興さん、私達を部屋にあげてから、チラチラと机を気にしているようだったから。洋さんに詰め寄ってる間に引き出しを開けさせてもらいました。」
「そんな勝手に!」
「勝手?人の物を奪っておいて、よく言えますね。」
「ぐっ…。」
「恒興…。」
「洋、すまない。飲んだ日、お前がトイレ行く時に鞄から、通知が見えたんだ。俺はお前が受かったのを知って動揺してしまったんだ。通知を鞄の中に入れてしまった。何度もお前に連絡しようとしたんだ。本当なんだ!」
「いいよ、恒興。俺も言うの遅くなったんだし。」
「いいんですか?許して。立派な窃盗罪ですよ?」
「君には関係ない。許すか許さないかは、俺が決めることだ。」
洋は恒興と話し合い、この事は水に流すようだ。
帰り道に洋はこう言った。
「一応、お礼を言っておく。ありがとう…。恒興との関係も壊れずに済んだ。君のおかげでなんとか二次試験を受けれるよ。」
「君じゃないですよ。心です。木枯心。また会いましょうね、洋さん。」
そう彼女は言うと、秀と街の喧騒に消えていった。
もう二度と会うことはないと思っていた。
俺は二次試験も受かり、警視庁採用となった。
配属部署は…
「特別不明事件捜索班…?あの、ここは?」
「トクジかぁ〜。君、災難だね。行き方は其処の奥の扉入ればわかるから。まっ、頑張ってね。」
「奥の扉って、非常口…。」
とりあえず扉を入ると、[特別不明事件捜索班はこちら→]と指示が書いてある。
手書きで画用紙に。
不安しかない。
階段を下り扉を幾重にもくぐり、今何階で何処なのかもわからなくなった頃、やっと辿り着いた。
パッと見、倉庫のようなドアに特別不明事件捜索班とかいてある。
プレートで少しホッとした。
ドアをノックし、部屋に入った。
「すいません、今日から配属になった者ですがー」
「そうだ!今日から1人配属あるって言ってた。皆、集まって。」
「課長、またですかぁ?管理くらい、しっかりして下さいよ。」
部屋の中は広く、課長と呼ばれた人の机が奥にあり、机がいくつかとドアのすぐ側にはソファがあった。
中央には階段があり、二階というよりはロフトのような作りだった。
二階から階段を降りてきた。
「あら、また会いましたね。洋さん。」
「えっ!なんであなたがここに?」
「僕もいるよ。」
奥の方から秀が駆け寄ってきた。
「心さんと秀くんとは知り合いかい?彼らはこの部署の手助けを依頼してるんだ。私は課長の加賀一味だよ。」
「手助けの依頼って…。警察がですか?」
「何も知らないのね。警察って専門家によく依頼調査するのよ。彼女達はその一つ。私は小林鏡。」
奥の部屋から誰か出てきた。
「恒興!?どうしてここに?」
「やぁ、洋。昨日の今日で申し訳ないけど、俺もここの一員でね。」
「恒興さんは一年前から働いてますよ。恒興さんから洋さんの話を聞いて、会ってみたくなったんで、恒興さんに芝居をしてもらったんですよ。」
「何で会うのに、あんな回りくどいことを。」
「私の事務所で洋さんには働いてもらうから。一度来てもらいたかったんです。話したって来てもらえないだろうし。」
「えっ?だって俺はここに配属…。」
鏡はパソコンで作業をしながら、話しだした。
「配属はね。勤務先は心さんの事務所よ。心さん、人手欲しがってたし。ね〜。」
「ね〜、鏡さん。私と秀じゃ非力で。力作業を頼みたかったんです。」
「探偵で力作業?」
「探偵は趣味みたいなもの。本当の仕事は特別不明事件の捜索になります。」
「その特別不明事件って?」
「特別不明事件、所謂未解決事件でも不思議な事件のことさ。」
一味が語りだした。
「不思議な未解決事件?」
「そうだね。例えば、神隠しであったり、人体発火、幽霊等の説明の出来ない事件のことだよ。」
「それは、、、警察のやることですか?」
洋の口元は笑ってなかった。
「これ見てくれる。」
一味は机から辞書ぐらい厚みのあるファイルと取り出した。
洋はファイルを開く。
19××年3月19日
長崎県○市
空からカエルが降ってくる。
19××年8月10日
大阪府○市
上空にて飛行機が突如消える。
瓦礫も見つからず、消息不明。
19××年9月25日
北海道○市
××山にて何人もの人が閃光を見る。
細かく書いてあるものから、簡潔な内容のものまでがひたすらかいてあった。
このような事件の最後には、決まって最後の一文で締めくくられていた。
詳細は不明。
「こんな事件を一つ一つ解決するんですか!?終わりなんてないじゃないですか!」
「いやいや、これらは一部であって、解決する事件は依頼がくるんだよ。過去の事件を調べることはそうないよ。全国にあるからね、
不思議な事件は。」
「馬鹿馬鹿しい。こんなのが事件だなんて言えるわけない!」
洋は思わず思っていたことを言ってしまった。
部屋の中が静まり返り、冷たい視線が洋に注がれる。
「嫌なら、部署変更してもらったら?あんたなんか必要ないし!」
鏡が声を荒げる。
心はファイルを悲しそうに撫でた。
「これらの事件は本当に起こったことです。以前、北朝鮮の拉致問題はこの中の一つでした。確かにどうすることも出来ない事件もある。けれど、事件には人間が絡む以上、無闇に未解決事件で片付けるわけにはいかない。その不思議に立ち向かうのが私達なんです。」
「拉致問題も…?」
「知ってます?拉致問題には多くの目撃者がいたそうです。北朝鮮だという噂もありました。それでも、警察も国も中々動かなかったんですよ。未だに解決はしてないですよね。もしかしたら、この中に同じ事件があるかもしれません。それでも馬鹿馬鹿しいですか?」
「…、すいませんでした。不適切な発言でした。」
洋は頭を下げた。
「分かってもらえたようでよかったです。話を戻しますね。ほとんどの依頼はここを通して私の方にきます。解決出来そうな事件は私と秀で。出来ない事件はこちらに要請を頼みます。」
「貴方は何の専門家だって言うんですか?」
「そうですね。超能力とか超常現象の専門家ってとこですかね?あっ、胡散臭いって思いましたね。まぁ、その内わかりますよ。」
「心さんはすごいんだから。解決率だって高いし、何より解決スピードが速いのよね。心さんに頼ってから、効率良くなったんだから。お陰で私達は他の事件を追えるわけ。」
「今じゃ、殆どを彼女に依頼してるよ。」
「ちょっと、僕もいるんだけど。」
秀は膨れていた。
「勿論、秀の力もあるわよ。」
鏡は秀のほっぺを手で覆い遊んでいた。
「さて、大体の流れは理解してくれたね。さっそくの依頼なのだが、この遊園地は知ってるね?」
一味はテーブルに一枚のチラシを置いた。
それは、有名な遊園地のチラシだった。
「これが何を?」
「遊園地の都市伝説を知ってるかい?」
「いえ…。」
「誘拐事件のことですか?」
「そう!それ。」
「誘拐事件?それなら管轄が違うのでは?」
「いやいや、誘拐事件と言っても噂なんだよ。」
「?」
「これだよ。読んでみて。」
秀がパソコンを差し出す。
遊園地の都市伝説
遊園地に来ていた親子がちょっとの隙に子供を見失う。
スタッフに言うと、『どんな格好をしていても、見逃さないで下さい。』と言われる。
出口で親とスタッフは帰る人をチェックする。
すると、ある親子を目がいった。
迷子の子は女の子なのだが、親に抱かれた子は男の子の格好をしていた。
だけど、足元から覗く靴下は迷子の子が履いていた靴下だった。
その子供は迷子になっていた子供だった。
子供は薬で眠らされ、髪は切られ、服装は変わっていた。
遊園地は人が多い為、誘拐されやすい。
子供は人身売買、臓器売買されるとの噂。
「なっ、なんだこれ!本当なら事件じゃないか!」
「あくまで都市伝説だけどね。ただ、依頼がきてね。事件の真相を確かめて欲しいとのことだ。」
「はい。分かりました。洋さん、秀、行きますよ。」
これが、俺にとっての初めての事件となる。
このときの俺は踏み込んではいけない一線を越えたことを、まだ知らない。
読んで下さり、ありがとうございます。
続く予定ですが、更新は遅めとなります。
ミステリーサスペンスが好きなので、研究しつつ面白い話にしていきたいです。