9. 出逢い
お読みいただいてありがとうございます。
9話目です。
雅は屋根の上にいた。
ただ夜空を眺める。
星がいっぱい。
(死んだら人は星になるって、昔から言うよね…。)
瞬く幾千の星達。
小さく輝いているが、全て遥か遠く離れたところにある実在の星。
雅の様に在るかどうかも分からない存在では無い。
(…考えないようにしてたんだけど…。)
雅は1つの疑問について考える。
(アタシは…この状態でずっと存在できるのかな…。)
姿形の無い自分。
思考することと移動・透過することだけが可能な存在。
この自分になってからまだ半日も経っていない。
(…誰も見えてないみたいだし。…誰も気付いてくれないし。)
自分でもホントに自らの手や足がわからないんだから、他の人が見えてるわけが無いと思える。
(…確かに考えられるし、感情は有るし、思い通り言葉を発する事も出来てる。誰にも聞こえてないだけでさ。)
まだ時間がそれほど経ってないから、寂しい気持ちは湧いてこない。むしろ色々有りすぎて、今は感情が働かない。
却って冷静に現状を考える事が出来る。
(これでもずっと存在出来るならまだ良い…。)
もちろん色々問題はある。それこそ山のように。
だが一番怖いのは。
(…消えるかもしれない…。突然…。)
言葉にしてしまうと身に迫る。
今の意識すら無くなるかもという事実。
既に肉体の死は確かだ。
家族や先輩、周りの皆から羽海乃 雅を喪わせた。
母の乃理子の言葉を思い出す。
「突然いなくなってしまうなんて…。」と。
悪夢そのものだったろう。
ただ雅自身は、誰にも認識されないとはいえ、かろうじて今の空気のような状態でここにいる。
果してこれは死んだあと、誰しもがなる状態なんだろうか…?
溺れて死んで、意識もなにもかも消えてしまっていたのなら、当然そんなことを考えたりは出来なかったのだけど。
(でも、確かにいる…アタシ。)
他にも自分のような存在はいるのだろうか。
何気なく周りを見渡してみる。
どこにもそんなモノは見えやしない。
というか、雅自身自分が見えないのだから、居たとしても見えない可能性が高い。
(…オカルトには詳しく無いんだよ…。幽霊も見たこと無いし。)
今までの雅の経験、知識が全く役に立たない。
今の雅は雅自身にとって理解の外の存在なのだ。
(…溺れた時は苦しかったな…死ぬかと思った。いや、実際死んだんだけどさ…。)
最期の記憶が甦る。
思い出したら恐怖のあまり気がおかしくなっちゃうかもと考えたりしたが、案外平気なもんだ。
こんな存在になると、心も強くなるものなんだろうか。
(…消えてしまうのは怖いけど…もしかしたら今のアタシって完全に消える前のオマケみたいな状態なのかもね…。)
いうなれば雅の人生のロスタイムって所なのかもしれない。
(もし消えちゃうなら…急がなきゃ。消えない可能性もあるけど、あんまり期待はしない方が良いかも…。)
今の自分が存在する内にやらなくてはならない。
雅の死を悲しむあまり雅の大事な人達が、これ以上誰かを憎んだり己を責めるような事を止めるのだ。
雅が死んだのは誰のせいでもないのだと。
あの子達を助けるために行動した事を雅は後悔などしていないのだから。
そして上條先輩には本当に感謝していると。
家族、特に聡が雅の事を凄く悲しむあまり、先輩やあの子供達、親御さんに恨み憎しみをぶつけているのがとても悲しく辛いから。
どうか悲しみや憎しみに囚われすぎないでと。
どうにかして伝えたいのだ。
(死んだって死にきれないよ。あんな哀しい状態を放っておいたまま消えたりしたら、これ以上もっともっと皆の気持ちが荒んで、不幸にしてしまう…!)
原因を作ったのが雅なんだから。
それを止めるのは雅が最後にやらなければならない事だ。
(…どうすれば皆に伝えられる…?)
自分の体には近付く事すら出来なかった。生き返るのはどうやら無理なんだろう。
壁やドアは全て透過。木も触れなかった。多分人や動物にも触れない可能性が高い。
話し掛けたりもしたが、全く皆反応してくれなかった。
自分の姿はガラスには写っていなかった。やはり姿形は無いのだろう。
(正に八方塞がりだ。何か方法は…。)
雅の思考が堂々巡りする。
『…フム…。面白いの…完全に意識が在るようじゃな。』
(…へ…?今の?…アタシ何かしゃべったっけ…?)
雅は思わず固まった。
『……ワシの声も聞こえるか……なるほど。』
(違う…アタシじゃない!誰?!)
『……其方の前にいる。わかるかの……?』
雅は前を見る。
(今まで誰も居なかったのに!この人誰?!)
…いつの間にか、雅の前に長い白髪のお爺さんが立って浮かんでいる。
(仙人?!……え、て言うか……。)
雅の目の前に突然現れたお爺さんの見た目は、どうみてもアニメ等に出てくる仙人そのもの。
(このお爺さん、アタシが見えてる?!)
少しファンタジーが顔を覗かせました。
次話は明日投稿したく思います。