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やりたい事をやる為に … 序章   作者: 千月 景葉
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8. 母親


お読みくださりありがとうございます。


母親って良くも悪くも強いですね。


「…母さん…。腹立たないのかよ…。」

小早川達が帰った後、乃理子に聡が不満げに呟く。


「…アイツ等のガキのせいで姉ちゃんが死んで…、連絡も無しに急に押し掛けて勝手なことばっか言ってるあんな奴等に、母さんが優しくすることなんか無いだろ?!」

聡は乃理子に顔を歪めて吐き捨てるように言う。


(聡…そうよね…、聡はアタシの為に怒ってくれてるんだよね…。聡の態度が当たり前…なんだろうな…。)


雅は落ち着いて聡を見ている乃理子とオロオロしている綾、乃理子を凝視する聡を見下ろしながら、聡の気持ちを思いやる。


「…あなたは…優しい子ね、聡…。」

優しく微笑んで聡の頬を手で撫でる乃理子。


「……!何バカな事言って…。」

思いも掛けない乃理子の言葉に戸惑った表情を浮かべた聡を、乃理子は愛おしそうに見る。


「聡は雅や私や綾、お父さんの代わりに怒ってくれてるのだもの…、ありがとうね…。」

乃理子はそう言って聡を労う。


「あなたが全て言ってくれた…。私だって本当に…全く納得なんて出来てないのよ…?雅を喪って…誰だって突然家族を奪われたら、理不尽な現実に対してあなたみたいに憎み怒るのは当たり前だわ。」

苦笑いしながら打ち明ける。


「…だけどね聡…、自分達を怒っているだろう私達の前に、罵られる覚悟をして謝罪に来たあの人達を、私は心底憎めないのも事実なの…。あの人達は、自分達の大事な子供を守ってくれた雅に対して誠実であろうとしてくれている…。それがわかるから…。」

乃理子は目を閉じて、聡だけじゃなく自らにも言い聞かせるように呟く。


「私も母親だから……きっとそうする。憎まれても罵られても、子供を守ってくれた人に誠意を持って気持ちを伝えるわ。そして、それしか出来ないから…その人達の怒りは受け入れると思う…。それが親なの…。」

乃理子は聡から手を離すと又微笑んだ。


「今はわからなくて良いのよ…。聡は間違っていないし、そのままで良いの。ただ雅が助けたその行動を否定だけはしないであげてね?お願い…。」

聡に消え入るような声で願うと乃理子は先程まで居た部屋へ戻っていく。


「母さん…。」

戻ろうと歩き出した乃理子を見ている聡の背中を綾が軽く叩く。


「…アタシもアンタと一緒よ…。アンタが馬鹿正直だから救われるわホント…。」

綾は聡にそう言うと乃理子の背中を見つめる。


「言うか言わないかってだけ…。母さんは強いよ。一番辛いのは母さんだわ…親って凄いね。」

「俺にはわかんねえよ…。雅姉ちゃんが大事なら何で…。」

俯いて堪える聡を綾は励ますように又背中を叩く。


「アタシやアンタは父さん母さんにまだまだ敵わないわよ…。雅があんな死に方をして泣き叫びたいのに…雅の気持ちを第一に動くのは…自分の気持ちすらもて余すアタシ達には荷が勝ちすぎる…。」

綾はそう言うと聡を見る。


「雅を休ませる準備をしなきゃね。さぁ母さんが動いてるのに、アタシ達がボーッとしてたらダメだよ。聡、行こ。」

綾は聡を促して自分もさっきの部屋に移動する。


聡は溜め息を1つ吐くと綾に続いた。


雅は誰もいなくなった玄関にフワフワと留まっていた。


(アタシの行動は…皆を不幸にしたのかな…。)


ずっと考えてた。


もちろん溺れていたあの子達を助けようとした事は間違ってないと雅は思う。

溺れて苦しんでいる子供を目の当たりにして

放っておける訳がなかった。


岸の近くにいたタケって子をまず引き上げた。

雅も少しは濡れたが、仲間の二人の子達も協力してくれた。

タケを助けあげるのには何ら問題はなかった。


最初に池に落ちてしまったカッちゃんが問題だった。


助ける考えは変わらないが、余りにも岸から離れてしまっていたカッちゃん。

ボートも近くになかったし、大人は雅ひとりしかその場に居なかった。


いや、厳密には後からおばさんが気付いて来てくれたから、その場に大人は二人居たんだけど。


だけどおばさんが飛び込めないだろうし、頼めない。

おばさんは雅が飛び込んで助けようとすると危ないと止めた。


(でも、カッちゃんがとても保ちそうに無かったんだよ…。)


だから制止を聞かず池に飛び込んだ。

ブーツも脱がずに。


カッちゃんを掴まえる迄は容易かった。

雅は泳ぎが得意だったし、割りとすぐに近付けた。


でもカッちゃんは溺れていた苦しさと恐怖からパニック状態になっていて、雅の腕の中で凄く暴れた。

雅の力だけでは彼を落ち着かせることは出来なかった。


彼にしがみつかれ、一時は首を絞められる羽目になった。


(既にあの時、アタシも不味い状況ではあったな…。)


幸い上條が通り掛かり、雅とカッちゃんに気付いて急いで飛び込んで助けに来てくれた。

雅には出来なかったカッちゃんの救助を上條が替わって引き受けてくれた。

カッちゃんは上條によって助けられたのだ。


(アタシは…カッちゃんを掴んだだけ…。先輩が来てくれなかったらカッちゃんだけじゃなくアタシも危なかった…。)


もちろん雅が先行していたから、カッちゃんは沈まずに上條の助けを待てたのだが。

雅だけでは救助は出来なかった。


(……アタシは…自分を過信していた…。)


何も考えずに飛び込んだわけではない。

あの切迫した状況で、他にとれる方法は無かった。


(…せめて…せめてブーツを脱いでいたら…。)


それが致命的なミスだった。


でも、それだけじゃない。


カッちゃんの、溺れている子供の力を見くびっていた。


雅では、無理だったのだ。


(じゃあどうすれば良かったの……?何が正しかったの…?アタシは…!)


雅は自分の行動が、こんなにも皆を悲しみに沈めることになるなんて、夢にも思わなかったのだ。


間違ったことはしていない。

絶対間違ってない。


でも、今…。


誰一人として笑えていない現実。


雅が死んだ事で。


(……どうしたら良いの……。)


とった行動が招いた考えもしなかった結末。


自らの甘さ、過信。


その罪の重さを自覚してしまった…。



(…アタシのせいなのよ…。せめて、せめて少しでも皆の悲しみや怒りを無くしたい…。このままじゃ…辛すぎる…。でも何が出来るの…!)


家にとてもいる気になれず、ドアをすり抜けて外へ飛び出す。

フワフワと漂い家の屋根の上に上がる。


すっかり夜になった空には満点の星。


(…アタシは…このまま星になるのかな…。何にも…出来ずに…。)


こんな時なのに、泣きたくても泣けない意識のみの自分が哀しい。


雅はただ空を見上げていた。



次話は明日投稿したいです。


漸く展開が変わる予定なんですが。


とにかく頑張ります!

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