4. 悲嘆
初めて感想を戴きました…!感動です!
拙いお話を読んでくださった上、感想まで戴けて…手が震えました…本当にありがとうございます!
何とか4話目投稿です。
頑張ります。
(…え…今…アタシ…死んだって事…?)
母や姉の絶叫と、弟の怒声が響く。
「みやび!みやびー!」
「そんな!先生、雅を助けて下さい!まだ死んでないでしょ!まだマッサージやめないで、続けてよ!死んでない、死んでない!」
「姉ちゃんが死ぬか!早くマッサージしてくれよ!」
髪を乱し額に汗を浮かべた医師は、雅の体に重なるようにしがみつく母や、顔を強張らせ掴みかからんばかりに詰め寄る姉や弟を痛々しそうに見つめ、諭すように話す。
「……私たちも出来る処置は…。ですが、運び込まれた時には既に心肺停止状態でした。溺れた時に水を大量に飲んだのでしょう、肺にも水が入っていて…。力及ばず残念ですが、どうかご理解下さい…。つらい事を言ってしまいますが…これ以上の救命は…無理です。」
医師が静かに話す。
だが、つらい現実を受け入れられない姉や弟はその言葉を遮るように叫ぶ。
「何でよ、何でダメなのよ!雅は元気な子なんだよ?泳げるこの子が溺れるなんてない!お願いよ、お願いします先生!」
「姉ちゃん、目開けろよ!…このまんま寝てたら死んだって言われんだぞ!ナニやってんだよ…。早く起きろよ!」
そこに父の声が入った。
「…やめなさい…。綾、聡…。先生は出来る限りの事をしてくださったんだ…。」
「…父さん!雅を見捨てるの?!…雅がかわいそうだよ!」
「…姉ちゃんは俺より元気なヤツだぜ!死んだなんて認めるかよ!」
「みやび…みやび…お願い、母さんよ…?一緒に帰ろ…?こんなに濡れて…早くお風呂に入ろ?冷たいよ、死んだなんて…死ぬなんて…!」
母の震える声が見下ろす雅の心を抉る。
(母さん…!お姉ちゃん、聡…!)
雅の死を受け入れられない母の乃理子や姉の綾、弟の聡に対して父である慶市が絞り出すような声で話す。
「…雅は…もう雅は目を開けてくれないんだよ…。先生や看護士さん達がどれだけ助けようとしてくださったか、見ていただろう…?病院に来てからずっと、ずっと…。先生は汗をかいて、息まで乱れて…。これ以上、無理を言って迷惑をかけちゃダメだ。」
「……そんな、そんな!…雅はまだ25なんだよ…?死んだなんて、死んじゃったなんて……イヤよ、イヤ!」
「医者なんだろ?姉ちゃん助けてくれよ……。人助けて、姉ちゃんが死んだなんて……ひでえよ。何で助けてくれないんだよ…!」
「みやび…みやび……あ、あぁ!……うあぁ……みやびーー!」
(母さん……、母さん!)
母の乃理子の泣き叫ぶ声が処置室に響く。
姉の綾が乃理子にしがみつき共に泣き叫ぶ。
「雅……みやび、何でー!!!」
弟の聡はその横に立ちすくみ、雅を見て肩を震わせる。
「ウソだろ……姉ちゃんが死んだなんて……姉ちゃん……!」
後ろに離れて佇んでいた上條は、項垂れて身動きひとつしていない。ただ固く手を握りしめ、その手だけ微かに震えている。
「……君が、雅を助けてくれたんだね……?確か、上條さんでしたか……?」
父の慶市が後ろで項垂れる上條に声を掛ける。
ビクッと肩を震わせ、顔を慶市に向ける上條。
「……上條です。……助けられてないです……羽海乃さんを………助けられなくて、すみません………!」
低く、掠れた声で慶市に答える上條。
しかし、慶市は静かに頭を下げる。
「……こんな状態なので、又あとで君には話をさせて貰って良いかな……?君が溺れた娘を必死に助けようと頑張って下さったのは、警察から聞いています……。すまなかったね……父として雅にかわって礼を言いたい。ありがとう……。」
「……礼なんて……言わないで下さい……!俺が……もっと早く……!」
(…上條先輩……ごめんなさい…!)
上條の震える姿に雅は泣きたい思いで詫びる。
そのいたたまれない状態である羽海乃家の三人と上條に対して、近付いてきた警察官が話し出す。
「すみません、羽海乃さん。……羽海乃 雅さんは今から検死をさせていただかなければならないので……。こちらの病院から、検死の出来る監察医の医院に雅さんを運びたいのです……。非常に申し上げにくいのですが、廊下にてお話をさせていただけませんか?」
「……検死…ですか?それは何故……?」
「詳しい話は処置室を出てから……。こちらの処置室は他の救急患者さんが来られますから……。おつらいとは思いますが、皆さんよろしいですか?」
「……あ、あぁ……そうですね。わかりました……。みんな……行くよ。さぁ、乃理子……綾も。」
「あぁ……あ、あぁ……みやび……」
「……みやび……ごめんね……!母さん……行こう…?」
弟の聡は雅を食い入るように見つめてから、目を閉じ無言で廊下に出ていく。
聡が廊下に出ていく際、佇む上條にこう噛みつく。
「アンタには…聞きてぇ事がイッパイあんだよ……!廊下に出ろよ……居たって仕方ねえんだよ……。」
キッと上條を睨み付けた後、すぐに顔を背け廊下に出ていく聡。
その後を慶市、よろめきながら歩く乃理子、その乃理子の肩を抱くように寄り添う綾が出ていく。
その後ろ姿を目で追ってから振り向き、横たわる雅を見つめて上條が声を洩らす。
「羽海乃……ごめん、ごめんな……お前を……死なせた……!」
そう呟くと堪えきれないように雅から目を外し、廊下に出ていく上條。
ベッドに横たわる雅を看護士が囲み。雅の体に付けられていた色んな機器のコードを外していく。
そうして白い布を被せられた雅の体は処置室からストレッチャーに乗せられて別の部屋に運ばれていく。
その全てを見下ろしながら、意識の雅は動けないままでいた。
(アタシは死んだ……どうしたら良いの……アタシは……これから……)
全てが移動してしまい、ベッドや機器だけが置かれ、その音だけがする処置室に浮かんだまま、雅は何も考えられない状態で固まっていた。
(……どうするの……?)
誰も答えてくれるはずも無い疑問を持ち……
意識の雅だけがそこに残されたのだった。
読んでくださった方、ありがとうございます。
次話は明日には投稿したいです。
暗い内容ですが勢いに任せて書きたいと思います。