33. 新たな日常
お読みくださりありがとうございます。
一応この33話目でこの章が終わります。
次はこの話のA・S(Another Story)か、次章のプロローグです。
ですので、近日中に又再開します。
活動報告でお知らせします。
雅が葬儀の後、この世界を旅立って二ヶ月。
時は12月半ば。
町はクリスマスムード一色だ。
どこもかしこもクリスマスツリーやらクリスマスリース、電飾などで装飾され、賑やかな雰囲気。
そんな町を克真はリュックを背に走る。
今日は土曜日だが、克真は毎日忙しい。
学校が休みでも彼には全く関係ない。
何せ習い事が山積みなのだ。
今日は午前中スイミングの練習で、ちょっと都合でいつもより遅く夕方から剣道の稽古にも行く。
普段は昼過ぎから稽古なのだが、月半ばのこの日だけは必ず午後からある予定をいれている。
友達との遊びも勿論大事だから週に2日は友達と遊ぶ。
しかしそんな日は今日のように夕方から又習い事に走るのだ。
因みに彼の両親が無理矢理やらせている訳では決して無い。
寧ろ心配して、習い事を減らした方が良いと忠告している。
しかし彼は断固として譲らず、自分のお小遣いを全て習い事の月謝に充ててくれとまで頼んだ。
毎日家事のお手伝いもするから、やらせてくださいと。
結局今習っているのはスイミング、剣道、合気道。
実は空手か柔道をしたかったが、家の近くに道場が無かったり、有っても克真が気に入らなかったりと中々通える状況が整わなかったのだ。
又、克真はずっと同じ習い事を続けるつもりはないらしい。
各目標設定が有って、それをクリアしたら一旦辞める。
一通り武術は習い、自分が認めた師匠に自分に見込みが有るかを問い掛け相談し、その時の師匠の話の内容で続けるかどうか決めるそうだ。
何事も、特に武道は一朝一夕には身に付かないと諭したが、何を選ぶかは自分次第だと克真は言う。
スイミングはあの事故があったからと周りは理解したが、何故武道をと聞くと、アッサリと前から興味が有ったからと言った。
何か考えてる風ではあるのだが、賢しい子なのであまり周りが煩く言わない方が良いだろうと静観している。
習い事をする上で両親と約束した家事もしっかりこなし、送り迎えも要らないと、頑張って自分で通っている。
遥香が事故以来克真が変わってきたと話していたが、今では大人の言うことを良く聞く子になったと言う。
あまりの変わりぶりに周りの大人も子供も最初は戸惑っていたが、今では全く問題なく素直な子になったのだと受け入れたようだ。
但し、全員ではない。
克真が大きな猫を被っていると考えてる者も居る。
あの事故に居合わせた遊び仲間の3人と、羽海乃家の人達、あと克真の両親である。
両親は克真が無理をしているのではないかと気を揉んでいたが、今では本人のやりたいようにやらせて、もしも本人が心折れたら二人で徹底してサポートをしようと夫婦間で決めている。
遊び仲間の3人は、あの克真がそんなにすぐ大人に恭順するとはハナからてんで信じちゃいない。
ただ頭の良い克真の事だから自分達には理解出来ないけど、何かスゴい事を企んでいるんだろうと考えている。
だから克真がそのスゴい事を教えてくれるまで待とうと3人で話し合った。
いつか来るだろうその日まで克真をサポートしようと決めたらしい。
…おそらくそんな日は来ないのだが。
また羽海乃家は少々違う。
まず、以前の荒んでいた克真を知らない。
話に聞いているだけだ。
慶市はどうであろうと克真は克真だと、あまり気にしていない。又接触も少ない。
乃理子は、本来の克真はこういう子だと信じているので、別段何も不審に思ったことはない。
綾は可愛い克真なら全て許せると全然気にしていない。
聡は、完璧に克真は猫を被っていると考えている。
実は克真は聡にだけ態度が違うのだ。
聡にだけは、以前の克真に非常に近い舐めた態度を取る。
だが以前の克真と違うのは、聡とはじゃれあいをしたがっている様に感じられる事だ。
多分夢枕での雅が聡について話していた事で、良くも悪くも親近感が一番有るのだろう。
聡が今19歳なので実に12歳差なのだが、言い合いをしていると全く歳の差を感じさせない。
聡が幼いのか、克真が大人びているのか。
とにかく一番距離が近い。
スイミングが終わった後。
午後から予定がある克真は、その用がある場所に向かった。
その場所に着いて呼び鈴を押す。
「あら、いらっしゃいカッちゃん。」
中からその家の女性、乃理子が顔を出す。
克真がやって来たのは羽海乃家。
今日は雅の月命日だった。
克真は月命日に必ず羽海乃家に顔を出し、雅の仏前にお参りさせてもらう事になっている。
あの葬儀の後いつでも来て良いと言われたが、中々そうは言っても来づらいだろうと思んばかった慶市が、克真に提案したのだ。
克真が嫌がるような素振りがあれば、それはそれで来なくて良いように巧みに話を誘導するつもりだった。
この子が心穏やかに過ごせれば良い、雅を忘れた方が幸せならばそれで構わないと羽海乃家の者は皆思っていた。
しかし、克真は嬉しそうにその提案に乗った。
何度も良いのかと念押しまでしていたくらいだった。
そういった訳で月命日には羽海乃家を訪れるのは彼の大事な予定になったのである。
雅の仏前にちょこんと座り祈る少年。
その後ろ姿を見ながら乃理子はリビングに温かいココアを準備する。
雅の遺影と位牌、遺骨はリビングの一角に鎮座している。
とても奥の和室の仏間に一人居させるのは可哀想だという、家族全員の希望だった。
やがて祈りを終えて、リビングのソファにトコトコとやって来た。
乃理子が用意してくれたココアを美味しそうに飲む。
「カッちゃんはクリスマスプレゼント、何をお願いしたの?」
大人びた子だけど、万一サンタクロースを信じている様なら迂闊な事は言えないので、乃理子は気を付けながら聞いてみる。
「おばさん、大丈夫だよ。サンタクロースは卒業してるから。」
克真は苦笑いして乃理子に答える。
「あ、あら、ごめんなさい。そうよね、カッちゃんなら。」
乃理子がばつ悪そうに笑う。
「父さん達は何かリクエストはって聞くんだけど、今習い事いっぱいやらせて貰ってるから要らないって言ったんだ。それにもうクリスマスプレゼントは貰ったんだよ?」
ちょっと嬉しそうに克真が言う。
「え?何を戴いたの?」
乃理子が克真に聞く。
「俺に弟か妹が出来るの。来年。」
乃理子がまあ!と破顔した。
「良かったわね!おめでとう!」
嬉しそうに克真がありがとうと言う。
だが、急に顔を曇らせた。
「…おばさん、ごめんなさい。」
克真が少し哀しげに俯きながら乃理子に謝る。
「どうしたの、急に?」
「雅お姉ちゃんの事があったのに、こんな話を俺がして。…イヤだよね、ごめんなさい。」
乃理子は思わず克真を叱る。
「何を言ってるの!バカな事言うんじゃないの!おばさんスゴく嬉しいわ!本当よ?本当に素敵なプレゼントだわ!なのに何でそんなこと思うの!怒るわよ、カッちゃん?」
克真が乃理子を見て、顔を歪めて笑う。
「やっぱり雅お姉ちゃんのお母さんだよね…。おばさんはスゴいや。俺、怖かったんだ…羽海乃の家の人達にこの話したら、皆俺をどう思うかって。…バカだよね、ホント。でも俺、羽海乃の家の人達には絶対嫌われたくないから。…来ちゃダメって言われるのが怖いんだ。」
克真がココアを見つめながら告白する。
乃理子は痛々しそうに克真を見つめ、横に座り彼の背中を優しくあやすように叩く。
「誰もそんなこと言うわけないわ。皆喜ぶに決まってる。新しい命が生まれるのよ?そんな素敵なプレゼント、喜ばない人が居るもんですか。…良かったわね、本当に。」
「ありがと…おばさん。」
克真がココアを握り締め、声を震わせる。
こんな小さな子なのに、大人以上の気遣いをみせる。
それがとても痛々しく、哀しい。
雅の事がやはり影を落とす。
無理もないが、賢しい克真はどうしても考えすぎてしまうのだろう。
少しずつその影を薄くしてやりたい。
彼がそれを望んでいないとしても。
克真は子供なのに、既に子供ではないと感じる。
哀しい程早く大人になってしまった。
乃理子は新しい命が克真を子供に少しでも戻してくれたらと願う。
優秀過ぎて、子供時代をなくしてしまったこの子が哀しい。
乃理子がそんな克真と話していると、雰囲気をぶち壊す声が聞こえて来た。
「たっだいまー!今そこで愚弟を捕まえて帰ってきたわよ~!カッちゃん来てるー?綾お姉さまのご帰宅よー!」
「痛っ!叩くなイチイチ!ただいまー、克真いる?マジ信じらんねー、綾姉が荷物持てって街中追っ掛けてくんだよ!何であんな高っけえヒールで全力疾走出来んだよ…。バケモンだ。イテッ!叩くなってバカッ!」
乃理子と克真は顔を見合わせ、お互い同時に笑いだす。
克真は乃理子に頷くと、ココアを置いて玄関に走り出る。
「お帰りなさい、綾お姉ちゃん、聡兄ちゃん!」
克真が綾や聡と一頻りお喋りをした後、剣道の時間だからと聡に送られて帰っていった。
クリスマスプレゼントをおねだりしてほしい綾が、克真に何が欲しいか聞いたところ、驚く答えが返ってきた。
「雅お姉ちゃんの写真と羽海乃家の人達皆の写真が欲しい。」と。
面食らった綾がどうして?と聞くと、顔を赤くして
「いつも見られるように…。皆にそばに居て欲しいから。」と、恥ずかしそうに消え入りそうな声で言った。
綾は嬉しそうにスマホを出すと、克真の子供用スマホに画像を転送させた。
雅一人の写真と羽海乃家全員の写真、そして何故か自分一人の写真も。
克真は感激して、綾に抱き付いてお礼を言った。
本物の写真は今度克真が来るまでに綾が、フォトスタンドに入れた物を用意してプレゼントしてくれるそうだ。
又綾は克真を説き伏せて、自身のスマホで克真の写真を何枚も撮った。
可愛い克真が撮れて大満足の綾。
これは乃理子も欲しがったので乃理子の簡単スマホにも送った。
完全に羽海乃家女性陣のマスコットである。
そうこうしている内に克真を道場近くまで送った聡が帰ってきた。
「お帰り聡。ちゃんと送った?」
綾がソファで寝そべりながら聞く。
「…ああ。」
聡が難しい顔をしながら返事した。
「何よ、暗いわね。カッちゃん帰って淋しいの、アンタ?」
綾が茶化すと
「…ああ。」と又簡単な返事しか帰らない。
「…聡?アンタどしたの?なんか変よ?」
綾がソファからむくっと起き上がる。
「あいつンとこ…今度兄弟が生まれんだろ?勿論本人は喜んでんだけどさ、何か変なんだよ。」
ソファに腰を降ろし、腕組みをして呟く。
「変?カッちゃんが?」
綾は聞き捨てならないとクッションを抱え座り、完全に聞き取りモードになった。
「さっきさ、克真とその話したんだよ。良かったなってお祝い言ったら、うんって笑ってたんだけどな。」
「…別におかしくないじゃん。なにが変なのよ?」
綾が突っ込む。
「…これで安心できるって言ったんだよ、アイツ。」
「安心…?嬉しいだけじゃなくて?」
「ああ。で、しまったと思ったんだろな、バツが悪そうに笑って、俺今までワガママだったからさって。」
「ああ、なるほどね。」
綾が何となく納得できたと言う風に頷く。
だが、聡は首を振る。
「…あれは誤魔化したんだよ。そういう意味じゃない。克真の代わりが出来たって事じゃねーか…アイツの親にとって。」
「…何ですって?」
綾が眉をひそめる。
「自分の代わりだよ。…アイツん家、大丈夫なのか?何であんな台詞が出んだよ…。アイツ、なに考えてんだ?」
聡の顔が険しくなる。
綾も考え込む。
だが、一つため息をついてクッションを軽く叩き、聡を見てこう言った。
「アンタだから言ったんだよ。アンタは今のまま、カッちゃんと接しなさい。アタシじゃ言ってくれないわ…悔しいけど。」
「…わかってる。アイツ、ちっこいくせに頭良すぎんだよな。もっと歳相応のバカなら苦労しねーのに。賢すぎて、バカだよな。」
「バカはアンタよ。他に言い方無いの?…言いたいことは解るけどさ。」
聡は憮然としたが、又顔をしかめて考え込む。
克真は何かを考えているが、それを追及するのは躊躇われる。
恐らく雅絡みだと何となく思う。
だが今の態度といい、やり始めた事といい今すぐ何かを仕出かす様な雰囲気ではない。
彼なりの覚悟があっての長期に渡る考えかと思う。
聡は歯痒い思いはあるが、あえて何も言わず見守るつもりだ。
雅が助けた命を、アイツが無駄にする筈がないから。
それがわかっているから見守る。
綾も同じだろう。
「あんまり無茶すんなよ、克真。まだガキで良いんだよ、お前は…。」
聡は呟く。
そんな彼らの気持ちを知ってか知らずか、雅の遺影は変わらずリビングの家族に笑い掛けていた。
この章をどうするか決めかねています。
もしかしたらこの話は分離させるかもしれません。
登場人物は使いますが、次章になる部分はガラッと変わりますから。
となると異世界転生は次章からだから、又ジャンルを変える必要が出ますね。
分離させた方が良いかも。
少し整理しますm(_ _)m




