3 . 思わぬ死
お読み頂きありがとうございますm(_ _)m
何とか空けずに3話目書けました。ホッ。
ただここからはしばらく暗いです……。
でも書きます。
読むのが辛い方は又展開が変わりましたら前書きに書きますので、無理なさいませぬ様にお願いします。
「……!……れ!…しっかりしろ…!」
(ン…あれ…?空が見える…?)
雅は空を見ていた。晴れた秋の空。顔の横には木の枝があり、何だか体が軽い。
(さっきまでアタシ…水の中だった様な…?苦しかったのに…。)
顔の横には木の枝。だが変だ。木の枝が顔に当たっているはずの位置にあるのに痛くないのだ。
(え…?木の枝だらけ…?つか、これ木の上だよ…?)
いや、もっと変だ。木が雅に刺さってるのに痛くないし、木が全く彼女を認識していないのだ。つまり木が雅を透過している。
(え、え、何?何なの?)
周りを見渡すと目線は空中。
雅はいま、木ほどの高さに浮いている状況である。
(ア、アタシ…どうしちゃったの?…夢かな…コレ…?)
雅は自分の手や足を見る。見るがしかし…。
(…手、見えない…体…どこよ?)
そう。確かに周りは見えているのに、自分の体がどうしてか全くわからないのだ。何か体が物体じゃなく空気の様な感じ。
(…え、え、これって…これって…!)
雅は軽くパニックになる。
(待ってよ待って!まさかアタシ…?)
一番考えたくない言葉が浮かんでしまった…。
(うそっ!夢よ、夢だよ。だって何で…?)
雅は必死に思い出す。
(あの子達助けに池に入って…先輩が助けに来てくれて…カッちゃんは先輩が…アタシはどうした…?)
下に目線をやると池が見える。ボートが何艘か岸に着けている。
岸には人だかりとパトカーや救急車。
(あれは…あの騒ぎは…)
雅はそちらに近づこうとする。
「…羽海乃!羽海乃!」
「君、離れて!」
「…早く運べ!急げ!」
忙しく動く救急隊員や警察官、そしてずぶ濡れのまま周りに抑えられて叫ぶ一人の男性。
(先輩!)
「羽海乃!頼むよ…目を開けてくれよ…!」
(え、先輩…誰に叫んでるの……やだ…アタシ…ここ…)
「羽海乃…羽海乃…何で…!」
先輩の絶叫が耳を突く。
なぜあんなに先輩は叫んでいるのか。
先輩は何を嘆いているのか。
なぜ雅は空中でそれを見ているのか。
こわい…先輩の見ているモノを見るのが。
こわい……救急隊員が運ぼうとしているモノが。
人だかりの一部が動く。
何かが運ばれようとしている。
救急車のストレッチャーに乗せられている何か。
(いやだ…いやだ…!)
……そしてソレは姿を現す。
…右足は破れたストッキングのみで靴は見えない。
左足は黒の編み上げブーツ。
キャメルカラーのガウチョパンツは水に濡れ、両足共にベッタリと絡み付いている。
上半身は救急隊員がストレッチャーに乗って心臓マッサージをしているので、影になりよく見えない。
だが下半身を見る限り、マッサージの振動で揺れているだけ。
全く反応が見られない。
…そして辛うじて見えた顔は。
全く生気の無い、羽海乃 雅の顔。
(……アタシ…だ。)
(…アタシ…アタシは…あのまま…溺れたんだ……。)
雅は運ばれる自らの体を見下ろしながら、現実を知る。
(アタシは…あの池の底で…もがいて…でもブーツは脱げなくて…。自転車は重くて…。紐は切れなくて…息が…息が…!)
雅は体を抱き締めようとするが体がわからない。手も足も目に見えず、感じることもできない。
(……アタシは…今…どうなってる…?このアタシは…何?なぜ、アタシを見てるの…?)
叫ぶ先輩の横をストレッチャーが通る。
駆け寄ろうとする上條を周りの人や警察官が抑え、声を掛けて落ち着かせようとする。
(あ、アタシが行っちゃう…!待って…!アタシ…!)
雅の体は救急車に運び込まれ、真っ青な顔をした先輩は同乗し一緒に病院へ向かうようだ。
慌てて空気状態の雅も救急車に近寄る。
(……アタシはここにいるんだから、今、体に戻れば…!)
救急車に運び込まれて心臓マッサージを受け続ける雅の体。
それを見下ろす状態で更に近付く。
(戻るんだ!絶対戻るんだ…!)
雅の体にぶつかるイメージで…!体に飛び込む…!
が、何故か体には近付けない。近付こうと気持ちも目線も動くのに、体とは一定の距離より近付けない。
(……え、…体に戻れない…?)
空気状態の雅は、今の自身の手や足が自覚できない。だから、イメージでしか近付く方法がない。
だが、今救命状況にある雅の体は、まるで空気状態の雅を拒むかのようだ。壁があるわけではない。何かに弾かれてるような感じもしない。でも近付けないのだ。
(何で戻れないのよ!アタシの意識はここにあるのよ…!体に重なれば、戻れるんじゃないの…!?)
「…頼む…頼む…!羽海乃…目を開けてくれ…!」
救命措置を受ける雅にひたすら祈るように声を掛け続ける上條。
(先輩…顔が真っ青…。体もびしょ濡れで震えて…)
再び雅の体に向かって、意識体とも云うべき空気の雅が重なろうと近付く…が、やはり一定の距離までしか目線は動かない。
(戻れない!…いや…いやよ…先輩にこんなに心配掛けて…。アタシは目を開けないとダメなんだよ…!)
救命の為、心臓マッサージを続けていた救急隊員が交代する。
グッタリしたままの雅の体に別の屈強な救急隊員が全力で再び心臓マッサージを始める。
(アタシがアタシに戻れないから、目を開かないのよ…!戻らなきゃ、このままじゃアタシが死んでしまう…!)
呼吸をしていない雅の口から紅い糸が出ている。
よく見ると、細く流れた血だ。
(血…!アタシ、アタシ本当に…!)
何度も何度も体に戻ろうと意識を集中して近付こう、重なろうとするが、全く目線が変わらない。見下ろす位置から動けない。
(どうして…!どうしてよ!お願いよ、アタシをあの体に戻して…戻りたいんだよ!)
泣き叫びたいが、声もでない。触ろうにも手や足がわからない。
焦る雅をよそに、やがて救急車は病院に到着した。
救急車から病院内へと雅を乗せたストレッチャーが急いで運ばれる。上條もそれに付いていこうとするが、救急隊員や病院のスタッフに止められ、別の場所へと連れて行かれる。どうやら雅は引き続き救命措置の為処置室に運ばれ、上條は関係者の待機室に案内されたようだ。
ずぶ濡れの上條に対して、気をきかせた病院関係者が着替えを勧めているようだ。首を降って断ろうとする上條に年嵩の病院関係者の女性が強くいさめ、着替えが出来る部屋に連れていかれた。
雅は自身の体に戻らなければならないと、処置室へと急ぐ。
処置室を見つけ中に入り、心臓マッサージを受けている雅の体に再び近寄ろうとする。
しかし結果は変わらず雅の体は、意識のみの存在・空気状態の雅に近付く事を許さない様だ。
(戻れないの…?戻っちゃダメなの……?アタシなのに…アタシの体なのにー!)
近付けない雅を後目に、医師や看護士が雅の体を救命しようと懸命に声を掛けたり医療処置を施す。
やがて雅の両親や姉、弟が相次いで到着した様だ。
処置室の外でガラスに駆け寄り、食い入るように中を見つめる家族達。いつしか着替えた上條もそこに立ち尽くすようにしている。
緊迫した時間が流れる…。
…そして…
……やがて救命の為にされていた雅への心臓マッサージの手が止まった…。
「……家族の方をここへ…。」
医師が呟く。
雅の家族が中に入ってくる。
上條もその後ろに離れて、佇む。
「……残念ですが…、自発呼吸が戻りません…。心臓も今までマッサージを続けましたが…鼓動を再開しません…。これ以上は、彼女の体を無意味に傷め続けるだけと判断しました…。」
「…そんな…!あの…ウチの雅は…?」
すがるような思いで、父が医師に問う。
「…○○時XX分…ご臨終です…。残念です…。」
(……!)
……羽海乃 雅、25才の死であった。
区切りはやはりこの場面まで行きたかったので…。すみません。
次も明日明後日には投稿します。