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やりたい事をやる為に … 序章   作者: 千月 景葉
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28. 子供達

お読み下さりありがとうございます。


28話目となります。


予告ミスです。花の名前出ませんでした。


長くなりすぎて次です。すみません。




聡が克真達に声を掛ける。


「カッちゃんって…どの子だ?」


「あ、俺です。初めまして。小早川克真です。」


克真がその場でペコリと深くお辞儀する。


克真のしっかりした自己紹介に面食らった聡が、しかし平静を装いつつ自らも名乗る。


「初めまして、羽海乃 雅の弟で聡です。えと、確か貴方が克真君のお父さんでそちらがお母さんですよね。奥に居られるのは一昨日一緒に来られていたご夫婦ですよね?間違いないですか?」


聡が確認すると、克真の両親が恐縮し頭を下げる。


タケの両親である武中 健人と由布子夫妻も自己紹介を再度行い、頭を下げた。


克真の父である小早川 拓真が話す。


「先だってはご自宅に押し掛け、大変失礼を致しました。今日羽海乃さんからご連絡を頂戴しまして、武中さん達にも直ぐお伝えしたんです。そうしましたら、武中さん達も雅さんとご家族にお会いしてお礼とお詫びを仰りたいと伺いましたので…。ただあまり人数が増えてもご迷惑ですので、あの事故の際に雅さんにお世話になった子供達全員と私共だけこちらに…。羽海乃さんからもご了解頂いてはおりますが…よろしいでしょうか?」


小早川が話し終わり、武中が後に続く。


「武中です。先だっては私共も大変失礼致しました。何卒直接雅さんにお会いしてお礼とお詫びをさせて頂きたいのです。大変な時に恐縮ですが…お願いします。」


聡が頷き、二人に頭を下げる。


「ありがとうございます。姉も喜びます。…一昨日は俺も頭に血が上って、皆さんに大変無礼な事を致しました。…姉の雅は優しい人です。だからあの時の俺の態度は姉の気持ちとは全く外れたものだったと思うんです。今日皆さんにお会いしたら、謝罪しなければと思っておりました。本当にすみませんでした…。」


聡の謝罪を小早川、武中夫妻が慌てて止める。


「いえ、とんでもない!貴方が謝られるような事は何一つありません!寧ろ私共は、こんな風に丁寧な応対をしていただける立場では無いのです。なのに、ご連絡迄していただいて…。ご温情に深く感謝します。」


大人達が謝罪の応酬をしているのを黙ってみていた子供達だったが、やがて埒が明かないと悟ったのか克真が口を開いた。


「すみません、聡お兄さん!俺の友達を紹介して良いですか!」


大人達はビクッと背筋を伸ばすと、克真の顔を見て苦笑した。


「ああ、悪かった。君がカッちゃん、克真君だろ?で、後の子達だな。順番に名乗ってくれないか?」


聡が克真達にそう言うと、子供達は顔を見合わせて頷き合って、順番に名乗り始めた。


「初めまして!お姉さんに助けてもらいました!武中宏太、タケです!ありがとうございました!」


「初めまして!お姉さんに頼りました!桜井雄介、ユウって呼ばれてます。ありがとうございました!」


「え、えと、初めまして!稲葉誠です。マコっちゃんて言われます!お姉さんが来てくれたから嬉しかったです!ありがとうございました!」


次々に名前と渾名(あだな)を大きな声で名乗っていく子供達を見て、聡は不謹慎にも噴き出しそうになる自分を必死で抑える。


「…よ、よろしく。じゃあ、中に入って下さい。姉の雅の元に案内します。」


聡はそう言うと先を歩いて、斎場の中の祭壇まで一行を連れていく。


ゾロゾロと聡にくっついて子供達と親達が動くと、さしづめ社会見学か何かの様だ。


事情がわからない親族も中には居るので、皆首をかしげたり不審な目を向けたり、反応は様々だ。


すると斎場の中央付近で子供達が急に止まった。


「この匂い…!」


まず最初に声を出したのは克真だった。


「これって…そうだよ!」

「うん!この匂いって…!」

「うん、俺も覚えてるよ!絶対そう!」


子供達が口々に騒ぎだす。


親達は落ち着かせようと子供達を叱る。


「こら、失礼だ。静かにしないか!」


聡も子供達の異変に(いぶか)しげな顔をして、一番前にいた克真に聞く。


「どうしたんだ?匂いって…何か匂うのか?」


「…聡お兄さん…教えてくれる?」


克真が急に顔を強張らせて、聡をすがるような目で見つめる。


「雅お姉ちゃんは…今、薄い黄色のお姫様みたいな服…着てませんか?」


聡は驚愕し、克真の肩を掴んで聞く。


「…何で知ってるんだ…?誰に聞いた?」


克真は目を見開き、震える声で話す。


「やっぱり…そうなんだ…。この匂い…助けて貰ったときも、昨日の夢で会ったお姉ちゃんからもこの匂いがしてたんだ!」


克真が必死に聡に説明する。


「スゴく甘くて優しい匂いで…。そのお姉ちゃんが夢で言ってた!動かないアタシもこの薄い黄色のドレスを着てるから、カッちゃんが今会ってるアタシと一緒だってわかるよって!」


克真の言葉に聡だけではなく、親達も克真以外の子供達も驚く。


「克真…お前一体何を…?」


「カッちゃん、夢って?!俺達はお姉さんの足とか腰を押さえてた時にこんないい匂いがしたから…!」

「俺も助けて貰ったとき、お姉さんにくっついたらこの甘い匂いがフワァって!」


口々に質問する親達や子供達には反応せず、克真はひたすら聡を見つめる。


聡は克真を睨み付けるように見ていたが、やがて目を閉じゆっくり息を吐くと克真の手を握る。


「…自分でちゃんと確かめてみるといい。こっちだ、さあ。」


克真は聡に付いて棺の前に立つ。


棺の前には雅や聡の父である慶市が居て、克真はペコリと頭を下げた。


目を閉じて深呼吸をし、決意を固めて棺の中を見る。


「……!おねえ…ちゃんだ…。」


花に囲まれて眠っている美しい女性(ひと)


今にも目覚めそうな優しい(かんばせ)


その身に纏う香りも衣装も、夢の中のあの女性(ひと)と同じ。


「やっぱり…雅お姉ちゃんだったんだ…。」


克真はそう言うと、拳を握り締めて俯く。


「…雅お姉ちゃん、俺…ちゃんと来たよ…?聞いて…。」


ポツリ、と話し出す。


「…会いに来てくれてありがとう…あの時、言う事を聞かなくてごめんなさい…ひどい、こと…言ってごめ、んなさい…。」


俯いていた顔をグッと持ち上げると、涙に濡れた瞳で雅を見つめしゃくりあげながら言葉を絞り出す克真。


「…なのに…!ひどい、こと言った…のに!た、助けて…ぐれて!ありがどぉ…雅おねえぢゃん!ごべん、なさい!!」


しゃくりあげながら、涙を拭いながら、克真はその後も何か必死に雅に語りかけようとするが、全く言葉にならない。


止めどなく流れる涙を必死に拭い、口を開いて声を出そうとすればするほど、その声は引き付けたようにくぐもり、小さな悲鳴の様な声しか出せない。


漸く聞き取れた言葉は、悲痛でしかなかった。


「…俺…謝るから!…ぜったい言う事聞く、から!…なんでも、するから…お願い…!雅おねえちゃんを、戻して‼雅おねえちゃん!あの時に戻して!……うああーー!!!」


聡と慶市は小さな少年の悔恨に満ちた慟哭を真横で、なすすべなく見つめていた。


雅を失った彼等にとって、雅からの言葉があったにせよ、まだ正直この少年には少からぬわだかまりがあった。


しかし今、その少年の悲痛な慟哭を目の当たりにし、彼を責める気持ちは消えていった。


おそらく雅にはとうにこの情景が見えていたのだろう。


自らの死によって、図らずも小さな少年が背負ってしまった十字架が彼を押し潰すかもしれないと言う事が。


そしてそれを少しでも引き受けて去ることが自らが最期にせねばならない務めだと。


彼等を助けた雅なら、そう考えたに違いない。


雅自身の気持ちはすでに聞いていたが、少年の姿を目の前にして漸く彼等自身も本当に納得出来た気がする。


彼等とて好きでこの少年を責めたいわけでは無いのだから。


大人達に囲まれて、嘆き悲しむ一人の小さな少年。


そこにそっと近づく一人の女性がいた。


女性は少年の横に屈み込むと、彼の体をフワッと抱き締める。


「もう、もう充分よ…。偉かったわね…。もう自分を責めるのはやめなさい…。」


克真は尚も泣きじゃくり、顔を横に振る。


「おねえぢゃん!ごめんなさい!!俺…おれ…どうしたら…!」


克真の言葉に女性は優しく諭す。


「もう、誰も貴方を責めたりしないわ。だから貴方も…自分を許してあげなさい…ね?」


克真はその女性の言葉を聞き、漸く女性の顔を見る。


「おばさん…誰なの…?」


女性はニッコリ微笑み克真の頬を撫でながら名乗る。


「あたしは羽海乃 乃理子。雅の母よ。…雅が言っていた通りね。克真君はとても賢い子なのね…。」


克真は驚いて、自分を抱き締め慰めてくれる女性(ひと)を見る。


「俺…賢くなんかない!俺がバカだから…あんなことに…。ごめんなさい、ごめんなさい…。」


また顔を歪めて俯く克真に、抱き締める腕の力を強めて囁く。


「いいえ、貴方は立派よ?よく、よく会いに来てくれたわ。昨日も、辛かったでしょうに…。貴方は強くて賢い子だわ。…私も貴方を見て気持ちが漸く落ち着きました。…貴方以上に貴方を責める人は誰も居ません。だから、自分をもう許してあげて?小さな貴方がこれ以上苦しむのを見るのは雅も私達も哀しいし、辛いわ…。ね?」


克真は乃理子の言葉を聞き、唇を噛み締めて彼女を抱き返す。


「俺…自分を許すなんて…出来ないよ。お姉ちゃん…あんなに優しいのに…お姉ちゃんの代わりに俺が、俺を怒らなきゃ…。お姉ちゃん…!」


克真の言葉に乃理子達は更に驚く。


少年の気持ちは乃理子達の考えを超えていた。


優しい雅。


あの時どんなにか苦しかったろう、生きたかったろう。


でも、原因を作った自分を本当に許してくれていた。


ならば。


せめて自分は優しい雅の分まで自分を責める。


優しいあの女性(ひと)を図らずも苦しめた自分。


許される道理など有るものか、と。


とても僅か7才の子供の考えではなかった。


しかし哀しいかな、克真にはそれだけの思考能力が既にあった。


優秀過ぎる子供が、自分の軽い気持ちでやってしまった過ちの結果に関して、実は己自身が一番苛烈で一番過酷な処罰感情を持たざるを得なくなったという皮肉な現実。


許されたい、だがそんな自分を許してはならない。


相反する気持ちが小さな心を責め(さいな)む。


彼を見ていると乃理子は雅の気持ちが痛いほど理解できる。


この子はこのままとても放っておけない。


救えるのは雅と雅の家族だけ。


乃理子は決心した。


「じゃあ、こうしましょう…。貴方が貴方を許せないのなら、私はそんな貴方に一つ約束をしてもらうわ。それが貴方が雅にするべき贖罪(しょくざい)…。良い?」


「しょくざい…て何?なにをすれば良いの…?」


克真が乃理子をすがるように見る。


許されざる自分にどうか罰をとでも言いたげな瞳。


「これから貴方がどんな風に大きくなるのか、雅が気にかけた貴方がどんな大人になるのか、私達に見せてほしいの。いつでも良いわ。貴方が思うときに雅と私達の前に来て話してくれる?それが貴方にしてほしい約束…。どうかしら?」


乃理子の言葉を聞き、体を硬直させ目を見開いて驚愕する克真。


あまりの驚き様に周りも乃理子も心配する。


聡が心配のあまり声をかける。


「どうした?!体が苦しいのか?克真?!」


心配のあまり礼儀を欠いて、つい呼び捨てにしてしまった聡。


しかしそれを聞き咎められた者はいなかった。


それ程克真の様子の急変ぶりが異常だったのだ。


「…雅お姉ちゃん…が言ったの?…おばさんに…?」


「どうしたの?!克真君、何が言いたいの?」


漸く口を開いた克真から(こぼ)れた言葉。


「昨日の…夢の中で…雅お姉ちゃんも同じ事を言ったんだ…。俺の…大人になるところ、気になるって。…いつでも良いから話してって。大好きなカッちゃんの声なら……聞こえるからって!!約束したんだっ!!」


そう言うと克真は乃理子に又抱きつく。


「約束する!…お姉ちゃんやお姉ちゃんの家族の人に、俺、ちゃんと話に行く!お姉ちゃんが助けたのを後悔するようなバカなヤツにならない!いっぱい努力する!頑張る!…だから、ごめんなさい…。ごめんなさい…!許して…ください…!」


克真の言葉に乃理子も泣きながら頷く。


「許すわよ…貴方を許せない筈が無いじゃない!こんなに健気に…こんなに辛そうに…誰が貴方を責めれると言うの!約束してくれたでしょ?だから、もう良いの。もう、貴方は自分を許してあげなさい!」


幾分強く克真に言い聞かせる乃理子。

抱き締められた克真は乃理子を抱き返しながら何度も頷き、返事する。


「うん、うん…!わかった…!うん…!ありがとぉ…。」


周りで二人を見ていた大人達、そして子供達も泣いていた。


不幸な事故…。それしか言葉は見当たらない。


その事故で若く美しい命が消え、それ故に更に若くいたいけな命が苦しむ事になった。


小さな間違いが、大きな悲劇を生んだ。


でも、もうこれ以上の責め苦は誰も望まない。


ただ、今は喪われた命を心から弔う。


その気持ちだけ有ればそれで良い。


そして喪われた命が必死に守ろうとした、いたいけな幼い命をこれから見守っていく。


それが喪われた若く美しい命が望んだことだと思うから。




時は…どうあがいてももう、戻らない。


そういうものだから。



克真の一人舞台でした。


後の子達ごめんなさいです。


次話も明日か明後日投稿します。


葬式入って、主人公そろそろ出します。

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