25. 葬儀の朝
お読み下さりありがとうございます。
25話目です。
少し力を抜いた回としたかったので、軽い感じにしています。
ゆっくりと稜線が赤に染まり始める。
やがて赤は橙に、そして黄になり。
辺りが見えてくる頃には白く光り始めた。
雅が見ることの出来る、この世界の最後の夜明けである。
(夜が明ける…。アタシがこの世界に居られる最後の日。もう、この太陽が沈むのを見ることもないんだ…。)
仙人の配慮により姿を一時ではあるが与えられた雅は、ヒンヤリとした朝の空気を思いきり吸う。
(アタシの体が荼毘に付される迄、ほぼ半日。葬儀までの間、辺りを散歩しようかな…。未だ早いから、皆も寝ているだろうし。)
屋根からスッ…と降り立つ。
魂のみの雅と違い今の姿ある雅が着ている、死出の旅路衣装となったクリームイエローのドレスがフワァ…とはためく。
実在ではなく、あくまでも雅の魂の記憶にある自分自身の姿を投影した幻、云わば幽鬼に等しいものであるから、現実の人々にはまるで見えない。
(意識ある幽霊って居るのかな?ま、今のアタシがそれらしいけど。居たらちょっと怖いな。自分が怖いって言ってる様なモノだけど。)
幽鬼・幽霊の類いは、仙人曰くこの世界より罰されし、意識を消滅させられた魂のなれの果て。
本来今の雅のような在り方をするはずがないのである。
仙人の加護により存在せしめる今の雅は、全く現状にそぐわない呑気なことを考えつつ地面を踏みしめる。
(おお、飛べるわ立てるわ…飛ぶ以外は普段当たり前に出来てたことだけど、今は出来たら感動の連続よ!)
今の魂だけの状態になったのはたかだか2日程前なんだが、もう随分と昔の様な気がする。
(ちゃんと感触も匂いも感じられるのに、いざとなれば魂だけの時と同じように物を透過できるってんだから、この体ホントに便利だよね!)
斎場の前にある植え込みの花壇を見ながら気分よく歩く。
時期的に未だ紅葉には早く、木々の葉は緑が濃い。
いたずら心を起こした雅は少し飛び上がり、木々の上に乗るように立ってみる。
(ふおぉ!スゴいスゴいー!アタシ今誰よりも身体能力高いよ、きっと。なんでも出来ちゃう!まるで漫画の忍者みたい。CG・スタント要らない、正に忍者よ!)
調子に乗った雅は木から回転しながら飛び降りたり、半分浮きながら考え付く最高のスピードで斎場の周りを走り回る。
(たっのしーい!不可能無しって感じ!んー、誰かにこの勇姿見せてやりたい!特にアタシを鈍クサ姉ちゃんと嘲笑った聡に!)
余人に彼女の姿が見えなくて幸いであった。
もし見えていたとしたらさぞかし異様な光景だったろう。
ドレスを着た若い女性が斎場という場所ではしゃぎまくって、ところ狭しと大暴れしているのだから。
(しかし、ホントにハイスペック!こんなに暴れまくって息が全くキレないなんて。生きてるときにこの体使いたかったわぁ!)
ここ2日体を動かすという行為自体不可能だった雅は、箍が外れたようにはしゃぎまわる。
(ん、空気も風も自然の匂いも温度も全部分かる!感じる…。て、事はよ?もしかして、もしかするかも?!)
雅は手をポンッと叩いて、斎場の建物内に入る。
(建物の壁は透過…と。いやん、アタシ今怪盗になれるわ!)
雅は鼻歌を歌いながら、斎場内の控え室に入る。
手前の部屋に親族の男性、奥の部屋に女性達が休んでいる筈だ。
目指すは女性部屋である。
(ごめんなさい、通りま~す。あ、義紀叔父さん踏んじゃった…。でも透過してるし、ま、いっか!ごめんなさ~い。)
詫びる気ほぼ無しで男性陣が休んでいる寝具を越えていく。
(…と、襖透過。じゃ~ん!女性陣の控え室に入りましたー。きゃあ、手口鮮やか!誰も気づいてませ~ん!)
襖を通り抜け、乃理子達が休んでいる女性の控え室に入ると、両手を挙げ体操演技の最後の決めポーズのようにカッコつける雅。
(うふふ、誰にも気付かれないで部屋に入り込むなんて今のアタシには児戯にも等しいんだからね?さぁ、目的のブツを探すわよ~!)
部屋内を見渡し、端に寄せられた座卓を見る。
休んでいる女性達を先程と同様に乗り越え、座卓の前に立つ。
(どれにしよっかな~?絶対にお菓子の食べ残しが有るって践んでたんだよ~ん!綾姉ちゃんが食べないわけないもんね。あ、マドレーヌ有る!さて、掴めるか…?)
おそるおそる手を伸ばす。
目当てのマドレーヌを触ろうとして一瞬躊躇し、思いきって掴む。
何とマドレーヌが雅の手に掴まれて、微かに宙に浮いた!
それを見て心底驚いたのは雅自身である。
(!!…マジで…?うそぉ…。ホントに掴めたよ…。仙人様、ホントにスゴすぎですよ、この体。冗談じゃないレベルでハイスペック過ぎる。ヤバいよ、これは…。)
マドレーヌをゆっくりと持ち上げ、しっかり胸元に持ってくる。
包んでいる袋をそっと破り、マドレーヌを取り出す。
(え、えと、もしも見つかったらマジでシャレになんないから…ど、どこで食べよう?!…あ、そ、そうだ!!)
座卓の前に正座した後ゆっくり寝そべり、頭をモゾモゾと座卓の下に忍び込ませる。
手はマドレーヌをつかんだまま先に伸ばし、座卓の下に完全に上半身が隠れた状態だ。
雅は動いていないはずの心臓がドキドキしている錯覚に陥る。
(う、うわあ…アタシは今、禁断の行為をしようとしている!ゆ、許されざるマドレーヌの実食…!いっいただきますっ!)
ガブリッ!…モグモグ…。
(……た、食べれた!あ、甘いよ、甘い!うう、バターの薫り…ホントにマドレーヌだよぉ~美味しいよ~!)
一口味わってしまえば、後は止まらない。
あっという間に手にあったマドレーヌは跡形無く消え失せた。
(食べちゃったよ、ホントに…。お腹は全く空いてないけど、甘い物は何故か食べたくなるもんなんだよね…。いや、問題はソコじゃない!アタシ今体どうなってんだろ?実在の物を食べて、で、ソレはどこに消えちゃうの…?うわ、なんかもう、アタシの頭で理解できる範囲超えちゃってるよぉ!)
這いつくばって座卓の下に隠れながら、頭を抱えて自問する雅。
すると隣の男性陣の控え室から人が身動きする音が聞こえてきた。
その音を聴き、乃理子達女性陣も起き出す。
(ヤバい!皆起き出した!うう、暫く外へ…いや待て!ヘタに動かず隅に一時避難して、部屋からある程度人が捌けたら出よう。透過出来るとは思うんだけど、マジでこの体は理解できない位スペック高過ぎて、何が起こるか予測が出来ない!)
頭を抱えたままこれからの自身の行動をシュミレートして、雅は一つ頷くとソロソロと移動を開始する。
(忍び込んで警備の人に見つかりかけてる怪盗の気持ちがもっのスゴく理解できるわ…。これはスリル有り過ぎ!見つからず逃げ切る自信はあるけど、メチャクチャ心臓に悪いっ!)
今更心臓に悪いも何も無いのだが、ハラハラしている雅にそんな事は思いもつかない。
座卓から上半身を引き摺るようにして抜け出し、壁際に直立して動かず暫く待つ。
(アタシは壁!皆早く部屋出てね!でないとアタシが困るのよ~!)
その時である。
モゾモゾと起きた姉の綾が布団から出て、座卓に近寄り何かを探し始めた。
一瞬首をかしげ、座卓の周りや部屋に備えてある液晶テレビの台周りを又探す。
見つからなかったのか又座卓に戻り、卓上をゴソゴソ探し始める。
お手洗いから戻った乃理子が綾を見て声を掛ける。
「綾、どうしたの?なにか探し物?」
綾が乃理子を見上げ、考え込むようにして尋ねる。
「母さん、昨日淑子伯母さんが持ってきてくれたあのマドレーヌ、まだ残ってたよね~?」
ギクッ!!
(なんですと?!)
雅が硬直する。
乃理子が不思議そうに綾に答える。
「ああ、アレ?有るでしょソコに。貴女昨日朝起きたら食べるって、1つだけ横に除けておいたじゃない。」
ギクギクッ!!
(わお!綾さま取り置きスイーツってか!)
綾さま取り置きスイーツとは、スイーツ大好き綾が自宅でお気に入りのスイーツを家族(特に雅と聡)から護る為、(アタシの!取るなコロス!)の一文を貼っつけて台所に置いてある、羽海乃家では絶対に手を出してはならない禁断の果実と云われる代物である。
因みに過去に手を出した事のある聡は綾の逆鱗に触れてしまい、それから一ヶ月間もの間、自身の少ない小遣いから毎日○ーゲン○ッツのアイスクリームをコンビニで仕入れて綾に貢ぐという、涙無しには語れない罰を受ける羽目に至った。
雅は硬直しながら作戦の変更を余儀無くさせられる。
(イカン!これは直ぐにこの場より撤退せねば!綾姉ちゃんの犯人探しの嗅覚、半端ないんだよ!)
しかし、それは遅かったのである。
「ん?何か甘い匂いする。え、この辺…?」
嗅覚鋭い綾が鼻をくんくんさせながら、雅の方に近寄ってきた。
(ゲッ!綾姉ちゃん、アンタは警察犬か?!くっそ、このまんまじゃマジでヤバい!)
雅は焦り、自分の背中の壁を後ろ向きのまま透過して、建物の外に文字通り転がり出た。
(うあぁ!マジでビビった!駄目だ駄目だ!これ以上ムチャしちゃイカン!あんな鋭い綾姉ちゃんがそばに居る限り、アタシの存在がバレてしまう確率が高い!)
地面に座り込み息を整えつつ、頭をブルブル振って気を落ち着ける雅。
『何をやっとるんじゃ、其方は。』
呆れた風情で仙人が雅に声を掛けた。
綾姉ちゃんは強いです。
設定上男女どちらからも人気有りとしてます。
次話は明日か明後日投稿したいです。
葬式始まる直前です。




