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やりたい事をやる為に … 序章   作者: 千月 景葉
23/33

23. 夢枕・少年へ 1

お読みくださりありがとうございます。


23話目です。


又2話になりました。


子供が一番鋭くて賢いです。


どこからか子供の泣き声が聞こえる。

胸を衝かずにはいられない、悲痛な泣き声。


(泣いてる…。克真くんなの?)


雅は克真を探す。


(お願い、出てきて?お話したいの。)


辺りに目を凝らすと、うっすらと前方に小さな背中を見つけた。

俯いて背中を丸め、泣きじゃくっている子供。


その背中に駆け寄る。


(…克真くんね?)


小さな背中がビクッと震える。


(…お姉ちゃん、誰?俺の名前…なんで?)


克真は顔をあげ、振り向いて泣き濡れた瞳で雅に問い掛ける。


(初めまして。アタシは羽海乃 雅。…わかるかな。)


克真は一瞬訝(いぶか)しげな顔になり、やがて驚きに顔を強張らせた。


(……まさか、俺を助けてくれた…お姉ちゃん?)


雅が頷くと、みるみる内に顔を歪めて後退(あとずさ)りする。


(俺を連れに来たの?お姉ちゃんが死んだのは俺のせいだから…。だから怒って連れに来たんでしょ?…俺も死んじゃうの?)


顔を青くし、イヤイヤをする様に首を横に振る克真。


(…なぜそう思うの?)

雅が静かに尋ねる。


(だって謝りに行ったけど、俺はお姉ちゃんに会っちゃ駄目って、迷惑だって…!皆俺を見たくないだろうからって…!)

唇を震わせ、怯えた瞳で雅を見る。


(…あんなことになるなんて思わなかったんだ。お姉ちゃんが早く出ろって言ったけど、言うこと聞いたら俺は弱いってタケ達に思われるから…。だから悪口言ってお姉ちゃんなんか、大人なんか怖くないってカッコつけたかっただけなんだ!)


言っている内に池に落ちた事を思い出したのだろうか。

克真はガタガタ目に見えて震えだす。


(池に落ちちゃったのは、バアちゃんが言ってたバチが当たったんだ…。悪いことしたらバチ当たるんだよってバアちゃんが怒って言ってたんだ。俺、バアちゃんにそんなコトあるもんかって言い返した。…アレは嘘じゃなかったんだ!)


克真には雅が既に見えていない。


溺れた時の恐怖が甦ってきたのか、克真の息が荒くなり苦しそうに胸を押さえている。


(カッちゃん!落ち着いて!)

雅は思わず克真に手を伸ばし、ギュッと抱き締める。


(バチなんて当たってないよ!大丈夫、大丈夫…。ゆっくり息を吸うの…。次は吐いて…。ゆっくり…。)

克真の背中をゆっくり擦りながら言葉を掛ける。


(大丈夫、大丈夫…。怖がらなくて良いんだよ。アタシは克真くんを連れ去ったりしない。お話したかっただけなの。)

まだ体を強張らせ、怯えた顔の克真にニッコリ笑う。


(お話…?なんの?)

雅に抱き締められたまま、克真が聞く。


(アタシが死んだのは克真くんのせいじゃないからねってコト。)

雅は抱き締めた克真の頭を撫でながら言う。


(…俺の、せいじゃない?)

克真が雅を見つめながら、理解できないと言う顔になる。


(そうだよ。アタシが死んだのは、アタシのせいなの。カッちゃんや他の誰のせいでもないのよ。)

雅が克真の瞳をしっかり見つめて、頷きながら言った。


(…どうして?俺を助けに池に飛び込んでくれたんでしょ?お姉ちゃんそれで溺れたんでしょ?俺がふざけて池に落ちたから…!)

克真が言いにくそうに反論する。


雅は首をゆっくり横に振って、克真の反論を否定する。


(良い?カッちゃんよく聞いてね。君を助けようと池に飛び込んだのはその通りよ。でもね、アタシが死ぬことになったのは、アタシに君を助けるための力が足りなかったせい。アタシが君を簡単に救助出来ると自惚(うぬぼ)れたせいなんだよ。)


雅が真っ直ぐ克真を見つめて言う。


克真はまだよく理解できていない様だ。


(なんで、お姉ちゃんのせいなの?お姉ちゃんは悪いことしてないじゃないか。俺を助けようって、良いことしたんじゃないか!)


雅は克真に優しく説明する。


(君を助けるために飛び込んだ事自体は間違ってなかった。良い事したと思ってる。…ただ、アタシ一人で助けた訳じゃないのは君も知ってるわよね?後からアタシの先輩が、君とアタシが池の真ん中で暴れてるところに来てくれて、結局君はその先輩に助けてもらったんだよ。アタシは少しの間君を溺れないよう支えていただけなんだよ?)


(お姉ちゃんと、男の人が助けてくれたって聞いたよ。それでなんで、お姉ちゃんが悪くなるんだよ。)


克真が雅に問い掛ける。


(…君を先輩に渡した後、アタシも泳いで岸まで戻ろうとしたわ。そしたら、アタシが履いてたブーツの紐が緩んでしまってて、池の底に沈んでいた自転車に引っ掛かってしまったの。…アタシは自分で何とかしようって紐を引っ張ったり、自転車蹴ったりした。アタシが蹴ったせいで自転車のバランスが崩れちゃって、池の底に更に沈んで、アタシも引き摺られて…それでアタシは溺れたの。)


雅は苦笑いしながら克真に説明を続ける。


(アタシが溺れたのは、君を先輩に渡した後。それも泳いだ事で疲れたせいでも、君と池の中で暴れたことでアタシが怪我したせいでもない。アタシがブーツ脱がないで飛び込んで、それが原因で溺れたのよ。)


自嘲しながら肩をすくめる雅。


克真が話を聞いて、おそるおそる聞く。


(お姉ちゃん…お姉ちゃんのブーツの紐が緩んでいたのは池に入る前?俺がお姉ちゃんにしがみついて暴れた時じゃないの?紐が緩んだのは…俺のせいなんじゃないの?)


克真の疑問に雅が目を丸くする。


(分かってたけど…。カッちゃんはやっぱりスゴく賢い子なんだね。今の説明で思い付くなんて。アタシより賢いや。)


雅が感嘆してると克真が噛み付く。


(ごまかすなよ!ブーツの紐を緩ませたのが俺なら、やっぱり俺のせいでお姉ちゃんが溺れたんじゃないか!)


(違うよ。池に飛び込む前にブーツ脱がなかったのはアタシだよ。脱いでたらそんなこと起こらなかったんだから。)


雅が克真を(なだ)める様に言う。


そんな雅に克真が再び噛み付く。


(お姉ちゃんは俺が子供だから庇おうとしてるだけだ!お姉ちゃんが助けに来てくれた時、俺苦しかったからお姉ちゃんに捕まって息しなきゃって、お姉ちゃんを台にしたんだ!お姉ちゃんが何か言ってたのも聞こえたんだよ。でも無視した!息できなくなるの怖かったから、お姉ちゃんから離れるのがイヤだったんだ!)


克真は雅を見ながら、告白する。


(そりゃそうだよ。だってカッちゃんは溺れてたんだから。助けが来たらその人に掴まるのは当たり前じゃないの。)


雅が頷きながら肯定する。


(ねぇカッちゃん…アタシは君を助けて良かったと思ってる。全く後悔なんてしていないわ。ただ…アタシが油断していたの。溺れていたのが子供の君だったから、アタシ一人でも助けられるってね。)


雅の自嘲を込めた告白が続く。


(アタシ泳ぐの得意だったし、君位の大きさの子だったら大丈夫、助けられるって考えたの。君はあのままじゃ他の助けが来るまで保たないと思って、ブーツを脱ぐ手間も惜しくてわざと脱がなかったわ。すぐ飛び込んで君に近づいた。…まさか子供の君があんな物凄い力でしがみついて来るだなんて、思いもよらなかった…。)


雅はその時の光景を思い出しながら話す。


(助けて岸に戻るどころか、その場で君を支えるのが精一杯だった。溺れる者がどれ程必死にしがみついてくるか、それこそ化け物じみた力で頼ってくるのか、アタシには分かっていなかった…。それがアタシの甘さ。大きな油断だったのよ。…カッちゃん、君は何も悪いことなんてしていない。少なくとも、アタシが溺れたのは君のせいじゃない。溺れる君が暴れるなんて、当たり前の事だったの。なのにそんな危険性をもったブーツを履いたまま助けようとしたアタシがそもそも悪かったのよ…。)


雅はそういうと俯いて一瞬黙りこんだ。


自身が死してから突き付けられた、自らの過信・油断・(おご)り。


その事実を見つめ直すのは、やはり解っていても苦しい。


黙って俯いてしまった雅を見て、克真が不安げに問う。


(お姉ちゃん、どうしたの?まさか苦しいの?)


そう言うと、克真はさっき雅が自分にしてくれていたように、彼女の背中をおずおずと擦る。


雅はハッと顔をあげ、驚いたように克真を見る。


克真を見ている雅の顔がみるみる歪み、目に涙が溜まる。


(カッちゃん…!ごめん、ごめんね!アタシが自惚れたから、子供の君にとんでもない苦しみを与えてしまったわ!アタシを死なせたって、カッちゃんが泣き叫んで気を失ったのをアタシ見てたの。なんて辛い思いを君にさせたんだろうって、アタシ自分に腹が立った!)


泣きながら雅は克真に詫びる。


(助けに行ったアタシが君を助けるどころか、逆に苦しめてしまった。俺が死んだら良かったってカッちゃんが叫んだとき、アタシ自分を呪ったわ!こんな小さな君に、アタシの死の責任を負わせたなんて…なんてひどい事を…!アタシが自惚れたから…!)


克真は泣きながら自分自身を(なじ)り続ける雅を、慌てて止める。


(お姉ちゃん止めてよ!お姉ちゃんがひどいなんて、あるわけ無いよ!お姉ちゃんは俺の命の…えと、恩人…って言ったっけ?それなんでしょ!)


克真は必死に雅を庇う。


(お姉ちゃんが居なかったら俺絶対死んでた!だってもうお姉ちゃんが助けに来てくれた時には俺苦しくて諦めかけてたんだ。泳げないのにふざけたから、注意してくれたお姉ちゃんにひどい事言ったりしてからかったから、バチ当たったって考えてた!お姉ちゃんが助けてくれたんだよ!)


克真が雅に抱きつく。


(お姉ちゃんが悪いことなんて絶対無い!そんな事言うの、俺が許さない!お姉ちゃんは今まで俺が会った中で一番優しい人だもん!ひどい事言った俺を助けてくれる人なんて他に居ないよ…!)


克真が又泣き出しながら、雅に言う。


(俺を助けてくれた世界一優しいお姉ちゃんに、これ以上ひどい事言ったら駄目だよ。たとえお姉ちゃんでも駄目なんだからね!)


克真が泣きながら雅を睨み、彼女を叱る。


雅は克真の思いやりに満ちた言葉に泣き止み、克真をじっと見つめていた。


克真が言い終わると、雅の唇が震え始め、又止まっていた涙が溢れだす。


(カッちゃん…!カッちゃんが優しいよ…。あんなひどい辛い思いをしたのに、アタシを許してくれるの?アタシを庇ってくれるの…?)


雅が震えながら聞くと、克真が大きく頷く。


(なんでお姉ちゃんがそんなこと言うの。お姉ちゃんは悪いことなんて何にもしてないじゃないか!お姉ちゃんは世界一良い人で世界一優しくて、世界一カッコいいんだよ!お姉ちゃんはヒーローなんだよ!)


克真がなぜか胸を張って答える。


(ひ、ヒーロー?!アタシが?!)


克真の言葉に心底驚いた雅は思わず聞き返した。


思いがけない誉め言葉に涙も体の震えも止まる。


(だってそうじゃん。ヒーローってピンチの人のところに急に現れて、助けてくれるだろ?俺のピンチにお姉ちゃんが現れて助けてくれたじゃないか!お姉ちゃんは俺のヒーローなんだよ!)


雅が驚いてるのを見て、克真は嬉しそうにニカッと笑う。


(カッちゃんって、ホント驚くことを言ってくれるわ…。スゴいなぁ。アタシ、言い負けちゃった…。)


雅はそう言うと克真を見て嬉しそうに笑うのだった。

次話も明日か明後日には投稿します。


いや、子供って口が達者です。


リアルでもそう思います。

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