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やりたい事をやる為に … 序章   作者: 千月 景葉
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21. 夢枕・先輩へ 1

お読み下さりありがとうございます。


21話目です。


先輩、結構ヘタレです。


結局先輩も2話になってしまいました。


おまけに又々長いです。


(…ん、ここ何処だ?俺はまた目が覚めたのか…?いや?)


上條が辺りを見回す。


何だか懐かしいような、でも全く見覚えの無い処に上條が居る。


体は触れる。体温もある。


でも妙に現実味がないのだ。夢と現実の間とでも云うべきか。


(…上條先輩…、分かりますか?アタシです。羽海乃です。)


上條が硬直する。

まさかという思い。


この2日どれ程聞きたいと思っていただろう、その声が今間近で聞こえたのだ。


(羽海乃?!何処だ?どこに居る!)


慌てて辺りを又見回す。


するといつの間にか目の前に雅が笑って立っていた。


(…羽海乃?本当に…君なのか?)


(はい、羽海乃です先輩。…ごめんなさい…先輩には沢山謝らないと…ひゃっ?!)


雅が驚愕する。


上條が突然走り寄って雅を抱き締めたのだ。


(羽海乃…羽海乃!本当にお前なんだな!…良かった…。お前が死んだと、助けられなかったと、俺は…俺は!)


上條が雅を抱き締めたまま、震えている。


雅は突然の抱擁に焦ってジタバタし始めた。


(せ、せんぱい!落ち着きましょ、ね、落ち着きましょ!)


上條は腕の中の雅が焦っていることも気付かない様子で、ひたすら雅を抱き締める。


(…離したら消えてしまうかもしれないだろ。羽海乃を二度と喪いたくないんだ!…池の底で意識をなくして揺らめいていた、あの君がずっと目に焼き付いて離れないんだ!…羽海乃!)


雅の動きが止まった。


上條を苦しめているモノがなにかわかって、愕然としたのだ。


彼は雅の最期の姿の目撃者。


雅自身も記憶がない、溺れて苦しんだ後の雅の姿を目の当たりにしていたのだ。


雅は自分の浅はかさに舌打ちをしたい位だ。


上條に助けてもらっていたあげく、まさかこんなひどいトラウマまで植え付けていただなんて、と。


上條が自らを責めているのも無理はない。


最期の姿の雅自身が彼を苛みつづけていたのだから。


どうすれば、彼を癒せるだろう。

何をしたら、その悪夢の雅を彼から消せるだろうか。


とにかく今は上條の気が落ち着くまで、抱擁を止めない方が良さそうだ。


雅は暫くされるがまま、上條の腕の中にいた。

時折、彼の背中をトントンと宥めるように優しく叩く。


漸く上條の震えが止まった。


(羽海乃…。もう消えたりしないんだろ?ずっと居てくれるんだよな…?)


おそるおそる腕を緩めて、中の雅の顔を覗き込み尋ねる上條。


雅はすがり付くような表情の彼を優しい眼差しで見つめていたが、やがて目を伏せ首を振った。


(いいえ、ごめんなさい…先輩。アタシはもう戻ってこられないんです。こんなに…こんなに貴方を苦しめてしまって…本当にごめんなさい。)


雅の静かな、しかし辛い言葉に上條は狼狽える。


(どうして!今、君はここに居るじゃないか。俺の腕の中に居てくれる、この温かい君が何処へ行くっていうんだ!)


狼狽える上條を雅はただ見上げ、優しいが哀しげな瞳で見つめる。


(なあ、頼むよ。何処にも行かないでくれ。もしどうしても行かなければならないのなら…俺も、俺も一緒に連れていってくれ。)


(何言ってるんですか先輩!いつもの先輩らしくないですよ?)


雅は上條の言葉に驚く。

雅を再び喪う事に対して、怯えきっているようだ。


(もう、たくさんなんだ。君を喪ってから、どうして助けられなかったっていう声と、何で目を離したんだっていう声がずっと頭の中にこだまして…。目の前に揺らめく君が現れて…。君を助けようとしても近付けない…!そんな光景がずっと続くんだ…。)


上條は雅から手を離すと、自分の両手をみる。


(漸く助けあげた君は、目を閉じたまま冷たい体で何の反応もしてくれなくて…。必死に人工呼吸をしたけど、君は全く目を開けてくれなかった。全てが冷たくて…。大事な君が目の前で…!)


そう言うと上條は又雅を抱き締める。


(…俺にとって君がどれ程大事かわかるか?ずっと君を見ていたんだよ。君は知らないだろうけど。)


上條が雅にささやく。


(君を最初に見たのは会社のエレベーターの前だった。俺は先に乗っていて、閉まる直前に君が走ってきた。君が乗ろうとした時、後ろから君より後輩になる女の子が走ってきたんだ。エレベーターは君で満杯になる筈だったから、その子は乗れない。すると君は1歩下がってその女の子にエレベーター譲って扉を閉めた。俺は馬鹿みたいにお人好しな子だな、と思ったんだ。)


(え、そんなこと…あったような気もする。)

雅は馬鹿みたいにお人好しという表現に少し複雑な面持ち。


(次は君の総務課の部屋でだ。いつもならそんなに騒がしくないはずの総務がバタバタしていて、何か突発の案件が発生したようだった。俺は書類を出しに来ただけだったんだが、とても話し掛けられる雰囲気じゃないし、又改めようと思って帰りかけたんだ。)


雅は頭を傾げ、いつの話か思い出そうとした。


(バタバタしている総務の人達の中でエレベーターの君を見つけた。ああ、あの子だって思っただけだった。すると残業で誰が残れるかって話になった様で、見てたら他の女子が皆用事があるって辞退するなか、オロオロと君が残業引き受ける羽目に陥っていた。要領悪いなって思った。)


残業を引き受けてしまうのは、間の悪い雅には日常茶飯事だ。

どの案件かもわからないので、雅は思い出すのを止めた。


(三度目が総務課の応接室のドアの前でだ。何だか気難しい顧客がクレームを入れてきたらしく、廊下にも声が響いていた。総務も大変だって通り過ぎようとしたら、総務の女子達に背中を押され、お盆のお茶を持った君が応接室に入ろうとしていた。押し付けられたんだな、ホントにお人好しで要領が悪い子だって思った。)


いつも厳しい客のお茶出しは雅に回ってくる。

先輩に言われたら仕方がない。


(何だか…アタシが物凄く鈍臭いって話しか聞こえませんが。)


雅が上條の腕の中で膨れる。


(ごめん。でも流石にそれだけ君のそんな場面に遭遇してたら気になるだろ?それからついつい総務に行くと君を探すようになったんだ。今日は又お人好しな君を見られるかもって。)


少しばつが悪そうに上條が笑う。


(すると、次はなんと俺が係わって来た。俺急遽商談相手の会社に向かわなきゃならなくて、書類とプレゼン用の資料を持って走っていたんだ。会社を出てタクシーつかまえて、相手の会社前に着いたら、もう1台タクシーが停まったんだ。不意に「すみませーん!○○商事の方、待って待って!」って声が聞こえて、見たら君が書類の封筒を持って走ってきた。)


上條が思い出して笑う。


(「これ、この封筒、貴方のじゃないですか?」って息切らせて渡してくれた。確かに俺の封筒だった。「ありがとう。でも何で?」と尋ねたら、会社の玄関で俺の後ろを通り掛かったらしいんだ。俺が自動ドアの前で封筒落としたの見て、後ろから追っ掛けてきてくれたんだけど間に合わなくて、すぐ後ろのタクシーを捕まえて追ってくれたんだよ。流石に覚えてるかな?)


雅は覚えていた。

但しタクシーで追い掛けた事実だけ。

…相手の上條の顔はすっかり抜け落ちていたのだ。


(ちゃんと名乗ってお礼を言おうとしたら、君が急に慌てて「しまった!誰にも言わないで会社飛び出しちゃった!まずい!」って、回れ右して乗ってきたタクシーに飛び乗って帰っちゃったんだ。スゴい早業だったよ。俺、ありがとう以外何にも言えず終い。)


上條が堪えきれないように噴き出した。


(あの人は上條先輩だったんだ!)

雅は自分の手をポン!と叩いた。


(…てことは俺だって気付いてなかったんだね。道理で…。あの後廊下で会っても総務課で会ってもよそよそしくて、良くて会釈位でそのまま通り過ぎていくだけだったし。…そうか、やっぱりな。中々声も掛けられなかったんだよ。)


上條がガックリと肩を落とす。

腕の中の雅はばつが悪そうに笑う。


(それからだよ。君が凄く気になって、俺の課の総務課への用を俺が引き受けて、総務課に行っては何とか話し掛けようとした。なのに君の課の女子の先輩が何かと寄ってきたり、君が不在だったりで…スッゴい間が悪いというか…。)


頭をかく上條。

雅は思いがけない話に目を丸くするばかり。


(でも、目敏い人が居たんだよ。君の友達の永峯さん。俺が君を追いかけてるのに気付いたんだ。君と永峯さんが給湯室から出てきたのをたまたま俺が見てたの分かったみたいで、君と別れた永峯さんが俺に声掛けてきたんだ。「何かご用ですか?ずっと見てましたよね?」って。)


上條が恥ずかしそうに言う。


(まるでストーカーの様に疑われたから、もう必死になって説明したよ。君の事が前から気になってるけど、中々話し掛けるチャンスが無いって事まで。そしたら永峯さん「ヘタレですねー!」って呆れて。でも色々と話す内に永峯さんが「悪い人じゃ無さそうだし、一肌脱ぎましょうかね。合コン、セッティングしたげますよ。」って。…後は君も知っている通りだよ。)


上條が腕の中の雅に笑いかける。


雅は戸惑っていた。

上條がそんなに自分を気に入ってくれていたとは。


なんと言うか【カテゴリー・珍獣?】的な乗りを感じるが。


(漸く君との繋がりが出来て、君は俺を見てくれるようになった。

これからは君と一緒に過ごせるように、君が俺と付き合ってくれるように絶対にこのチャンスをモノにしようって決めたんだ。)


上條が真剣な瞳で雅を見つめる。


(…なのに昨日。二人で会う筈だったのに、まさかあんなことになるだなんて。初めてのデートが永遠の別れになるなんて、そんなひどい話があるかい?初めてこの腕に抱き締めた君が、冷たい亡骸なんてそんな(むご)い話があるかい?)


上條が苦し気に話を続ける。


(君を喪うなんて嫌だ。これからだったんだ。君に俺を分かって貰って、君が俺を好きになってくれるように頑張ろうって…。君と一緒に生きていきたいんだよ。)


雅を又抱き締める。


(だから頼む。又喪うなんて耐えられない。君が戻れないなら、俺が一緒に行くよ。羽海乃…!)


雅はじっと考えていた。


上條の気持ちは本当に嬉しい。


だが今の上條は罪の意識に苛まれ、雅に執着して赦しを乞おうとしているかのようだ。


上條の目を覚まさなければ。


上條から間違った自責の念を取り払わなければ。


雅は息を吸うと、上條に言った。


(先輩…。先輩とは一緒に行けません。アタシはもう、死んでるんです。アタシは一人で行きます。先輩はアタシを忘れて、現実を生きるんですよ。)

次話は明日か明後日投稿します。


夢枕・先輩へ2です。

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