2.救助
何とか間を空けずに2話目です。
「…プハ!…ボク頑張って!もう少しだから!」
バシャバシャ水しぶき上げながらクロールで半分位まで来たが、平泳ぎに切り替える。男の子を目視しながら近付く為だ。
急ぐためにクロールで泳いだが、平泳ぎの方が後は体力的にも都合が良い。因みに雅は平泳ぎの方が得意だ。
ガウチョパンツが水を吸って重く足にまとわりつく。構わず蛙の様に足で水をける。落ち着け、リズムが大切だ。この後、あの男の子を抱えて岸に戻らなければならない。無駄に体力を削らないためにも一番得意な平泳ぎで呼吸を整えつつ近付くんだ…!
今は10月中旬。気温は20度以上はあるが、水温が思ったより低い。外気温より3度以上低いのではないか…。だが泳げない温度じゃない。大丈夫、いける。
池の水は当たり前だが淡水だ。浮力が少ない。でも流れがない分流されずに近付ける。ねっとりした池特有の臭気のある水に逆らいながら自分の行動にとっての外的プラス材料を頭に思い浮かべつつ泳ぐ。
ボートが乗れる程の池だ。深さがあるはず。潜っても多分底は泥じゃないかと思われる。ましてや透明度も低い。危険だ。立ち泳ぎで対応しないと…。
男の子、カッちゃんに近付いた。バチャバチャまだ暴れている。…大丈夫、間に合った…!
「…カッちゃん!助けるから!…アタシのとこ来て…!」
声をかけながら近付く。すると…!
「…だ、たすけて…!し、…グボガッ…!し、じんぢゃう…!」
悲痛な声が聞こえ、必死に手を伸ばすと子供と思えない力で掴まれた…。いや、襲いかかるかの様にしがみついてきた!
「グッ…あっ!ま、ブクブク…プハ!ま、待っで…、のぼら……ない…ブクブク……でっ!」
溺れていた男の子カッちゃんは、漸く掴んだ雅の体を踏み台にして何とか空気を吸おうと彼女を押さえつけ、自らの体を上に上にと動く。
溺れるものは必死だ。とにかく暴れもがいて、生きるために空気を貪欲に取り込もうとする。
雅はカッちゃんを何とか落ち着かせようと、暴れる彼の腰を抱えて自分より上にと押し上げる。もちろん自分は息を留めて潜った状態だ。
(何とか息を思う存分吸わせなきゃ…、危険だけど落ち着いて暴れるのを止めないと…でも、アタシも限界が…!)
立ち泳ぎをしつつ、何とかカッちゃんに息を吸わせて落ち着かせようとするが、むせた彼は息が中々吸えない様で、1度雅も手を離して浮上する。
するとまだ水が近付いたのを恐れた彼が雅の首にしがみつく!
「あっ!…グッ…くる…し…。絞め…ない、で!」
「…だ、助けて…!おね、ちゃ…!」
(…まずい!パニックだ、聞こえてない…!)
ギリギリ…。必死にしがみつくカッちゃんの腕が雅の首を絞めていく…。
後ろにカッちゃんがしがみついているので、ちょうど絞め技をかけているような状態。雅の息も出来ない。
雅の目の前が赤く染まり始めた。カッちゃんの腕が彼女の頸動脈を押さえたらしく、顔がうっ血し始めたようだ。
(ホントにもぉ、ダメかもしれない…。)
「…二人ともしっかりしろ!今行く!」
(…え、誰…?助け…?)
すると、急に雅の首が楽になり体も軽くなった。
「…ゲホッゲホッ!ハァハァ…!」
「大丈夫か!羽海乃さん!」
「…先輩!…な、何で!」
カッちゃんの顎を掴んで仰向かせ、横泳ぎの姿勢で支えながら雅に声を掛けたのは、待ち合わせをしていた上條だった。
「公園の入口間違えてね…、走ってたら騒ぎが聞こえて。ビックリしたよ、羽海乃さんが池で溺れてるから。」
(違う!アタシ溺れてない~!…いや、アレ?結構ヤバかったりしたかな…?)
慌てて言い訳しようとアタフタしていると、
「わかってるよ。この子助けようとしたんだろ?後は引き受けるから、羽海乃さんは自力で泳げるか?」
「…大丈夫…ありがとうございます」
「じゃ先に行くぞ。羽海乃さんも慌てずにな。」
そう言うと上條はカッちゃんを連れて岸へ泳ぎだした。
上條は泳ぎが相当達者らしく、カッちゃんは雅の時とは別人の様にされるがままである。声かけをしながら岸に向かう上條を見て
「スゴいなぁ…。流石に大人の男性は違うか…。て、アタシも戻らなきゃ。」とボソッ。
漸く戻ろうとしたその時。
ツンッ!
「あ、アレ?足が引っ掛かってる…?」
右足を少し動かすと何かに引っ掛かったように止まるのだ。
左足は問題ない。
何度か右足を動かすが全く状況は変わらない。
(ブーツの紐かな…さっき暴れたから紐緩んだな?…ちょっと潜るか)
深呼吸して息を整え、思いきり空気を吸い込んで潜る。
潜って屈むように右足を見てみると、やはりブーツの紐が緩んで下に垂れてしまい、何かに絡まってしまったようだ。
(これは引っ張るよりブーツを脱いだ方が良いかな…いや、後困るよね…やっぱり紐引っ張るか。)
もう一度浮上し、息を整える。先に行った上條は岸の程近く迄進んだようだ。早い。
「早く戻らないと心配掛けちゃう…さっさとしなきゃ!」
急いで大きく息を吸い、又屈むように潜る。紐を力一杯引っ張るが思ったように外れないし、紐も切れない。
(しょうがない…脱ぐか…あ、アレ?ジッパーが下りない!…まずい!)
紐を手繰って引っ掛かりの原因となっている物体から直接紐を外そうと更に潜る。
(ゲッ…何か重いものだと思ったら自転車だよ…!何で池の底にあるの~!)
何と自転車とおぼしき鉄屑のハンドル部分に絡まってしまったようだ。自転車は妙なバランスでハンドル部分を上にして、底から立ち上がった様に沈んでいる。濁っていて下はよく見えない。
(ん~!…この!この!外れろ~!えい!えい!蹴ってくれるわ!)
息を留めてハンドル部分にケリを入れつつ、紐を引っ張る。
(冗談じゃない…マジで外れてよ~!この!この!エイッ!…ひゃ!)
微妙なバランスで立っていた自転車は雅のケリでバランスが崩れ、あろうことかグラ~ッと底に横倒しに沈んでいく。外れないブーツの紐を引っ張った状態で!
(い、いや…!ひ、引き摺られる…!ブーツ脱がなきゃ…!)
慌てて脱ごうとするがやはりジッパーは下がらない。足をバタつかせ、何とか脱出しようともがく。
(い、息が…ダメだ…!…ガハッ!)
ゴボォ…!ゴボッ…ゴボ…!
雅の口から一際大きな息の泡が上がる。
(…助けて……先輩…!誰か…!)
手を必死に伸ばすが明るい水面には届かない。
目の前が揺らいでよく見えない。足は右足がハンドル部分に当たっているのが感触でわかる。どうやら又更に絡んだようだ。
(く、くるしい…イヤだ……!死にたくない…!死にたくないよ…何で!何でなの…!)
上を見ると濁った先に明るい光が見える。ホントに少し上がれば水面のはず。でもその少しの距離が雅を苦しめる。
(……も、もう…息…ムリ…!)
…ガバァ!
又大きな息の泡が雅の口から漏れた。
しかしその後彼女の口から息の泡が上がることは無く、彼女の体は痙攣を起こしたかのようにビクッと震えた後、静かに揺れた。
(…ボート…乗りたかったな…先輩…)
…そして、雅の意識は暗い闇に包まれていった。
明日か明後日には
投稿したく思います。
ガンバります。