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やりたい事をやる為に … 序章   作者: 千月 景葉
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16. 斎場

お読みくださりありがとうございます。


16話目です。


とても長くなりました。騒ぎが起こります。




斎場に着いた。


すでに祭壇が置かれ、遺影も用意されている。


遺影の写真は、友人の結婚式でブライズメイドをした際のものだ。

姉の綾が選んだのだろうか、件のドレスを着て茶目っ気たっぷりにカメラに楽しそうに笑っている雅がそこに居た。


(この写真は割合上手く撮れてたんだよね。流石お姉ちゃん、よくぞ見つけてくれた、グッジョブ!)


雅も最近の写真の中では気に入っていたので満足だ。


このところ写真となると、スマホで撮ってデータのみで保管しているだけなので、新しい写真の現物が中々無い。


スマホはロックを掛けているから、家族であれ中のデータを見ることが殆んど不可能だ。


たまたま最近ブライズメイドをしていたので、雅の場合は写真を見付けてもらえたんだろう。


(アキちゃんに感謝だよ。まさかこんな事であの写真を使うことになるなんて夢にも思わなかったけどね。)


雅は苦笑する。


メイクの得意な綾にばっちりメイクしてもらっていたから、普段のノーメークに近い雅より遺影の雅は華やかだ。


(お姉ちゃんのメイクって、華やかなくせにナチュラルなんだよね、ほぼ詐欺だよ。特にアイメイク。アタシじゃ無理だ。)


そういえば雅の遺体も清めてもらった後、葬儀会社のスタッフと綾によってメイクして貰えたようだった。


遺体のメイクはエンジェルメイクと言うらしい。


生前に近い状態に見せれるように工夫されたメイクらしく、今回お願いした葬儀会社にもそういう技能を持った方がいるようだ。


(凄いよね、ホント。自分が体験?してはじめて知ったよ。世の中色んな技があるわ…。アタシなんて何にもそんな特殊技能無いもん。)


棺が祭壇に安置され、家族や親族が控室や斎場を行ったり来たりしている。


(忙しそうだなぁ、家族葬でもやることは何かしらあるんだね…。)


その姿を祭壇の百合の花が飾られている付近にフワフワ浮かびながら眺める。


通夜は夜7時からなので、まだ何時間かある。


なにもすることがないので斎場の中や外をフワフワと行ったり来たりしていた。


そんな中、事件は起こった。


夕方、家族や親族のために仕出しの折り詰め配達があり、皆交代で食事をしていた時だった。


何だか斎場の入口付近で話声がした。


(あれ、揉めてる?え、子供の声…?)


親族の叔父の声がする。


抑えてはいるが怒っている様子だ。


対するもうひとつの声は女性で、後小学生と思われるくらいの男の子の声がする。泣き声混じりだ。


(誰だろう。聞き覚えがない声よね…。)


雅はフワフワと近付いていく。


叔父が話している女性に見覚えがあった。


女性は土下座せんばかりに謝り、何かを懇願している。


横で立っている男の子が叔父から目をそらさずに見上げて、泣きながらなにかしゃべっている。


あの子は…!


(え?あの男の子って…カッちゃん?!入院していたんじゃなかったの?!てか、大丈夫なの?!)


必死に何かを懇願している母子。


母とおぼしき女性は昨日夜、夫と連れ立って羽海乃家を訪れ謝罪していた小早川遥香だった。


男の子はあの溺れていた子、小早川克真だろう。


ときどきしゃくりあげるように泣き声を漏らしながら、それでも必死に何かを訴えていた。


(何であの子が?何を言ってるの?)


「すみません、すみません!…羽海乃さんが暫くそっとしておいて欲しいと話されていたのは重々分かっています。昨日も無理矢理押し掛けご迷惑をおかけしました。ですので夫とも話して、せめて明日の葬儀に斎場の前で御冥福を祈るつもりだったんですが…!」

遥香が頭を深々と下げて謝る。


「お願いします!お姉ちゃんに会わせてください!」

克真が大きな声で叔父に頼み込む。


「アンタ達…分かっているのか。昨日も乃理子さんが言ったんだろう?!迷惑だ、帰ってくれ!」


叔父の厳しい言葉に怯えたのが、ビクッと体を強張らせ震える克真。

だが克真はそれでも叔父を見上げて、すがるように懇願する。


「お姉ちゃんは俺の…俺のせいで死んだから。俺がお姉ちゃんの言うこと聞いてたら、お姉ちゃんは死ななかった!だからお姉ちゃんに謝りたいんだ!ごめんって、自分で謝りたいんだ…!」


(カッちゃん?!貴方、そんな風に…。)

雅は克真の叫びを聞いて驚く。


「アンタ達はそれで気が済むかも知れんが、慶市や乃理子さんが只でさえ辛い中で、何でアンタ達の事で今又辛い思いをする必要がある?!アンタ母親だろうが!子供を諭すのが親だろう!」


叔父は子供の克真を前に何とか激情を抑えながら話そうとしているが、どうしようもなく声が荒ぶってしまうようだ。


「本当に申し訳ありません…!克真には昨日から言って聞かせようとしておりましたが…克真の気持ちを聞いて…お怒りを覚悟で…。」

遥香は叔父の尤もな抗議に体を縮こませて話す。


「父さんも母さんも俺を止めたんだ。お姉ちゃんが死んで皆が悲しんでいるから、俺が行くと迷惑になる。静かにお通夜やお葬式をするんだから、行っちゃ駄目だって。」

克真は俯いて固く拳を握り締めながら、声を絞り出す。


克真の顔色が悪い。

昨日の今日だ。

未だ体が回復してはいないのだろう。


雅はハラハラしながら見ていた。

(カッちゃん、体がまだ辛いんだろうに…。カッちゃんのせいじゃないよ、早く休んでって言ってあげたいのに…!)


「でも、でもお姉ちゃんは明日のお葬式終わったらいなくなっちゃうんだろ?!もう、会えなくなるんだ!そしたら、そしたら俺…もうお姉ちゃんに二度と謝れない!」


克真は顔をグッと上げ、目からポロポロ涙をこぼしながら、それでも顔を強張らせている叔父を必死で見つめて訴える。


「お願いします!お姉ちゃんに直接謝りたいんです!俺のせいでごめんなさい、言うこと聞かなくてごめんなさい、ひどいこと言ってごめんなさい、代わりに…代わりに死なせてしまってごめんなさい…!謝りたいんだ…。」


(カッちゃん…!カッちゃん……!)


雅は言葉を失った。


克真の後悔、謝罪…とてもあんな小さな子の言葉とは思えない。


元々とても頭の良い子なんだと感じる。


恐らく病院で治療を受けたその際に誰か大人から、救助しようとした雅が亡くなった事を図らずも知ることになったのだろう。


その時の克真の心情を思うと察するに余りある。


あの年くらいの子なら、事実を受け止めきれずに泣くだけでも無理はない。


ましてやそれを自分のせいだと考えたりなんて、とても耐えられないはずだ。


だけどあの子は自分の体すら未だ回復していないのに、その事実を知るや、自分の責と受け止めて、体を押して母を説得し此処へやって来たのだろう。


雅は克真を抱き締めて慰めたい衝動に駆られる。


(カッちゃんがそこまで思うこと無いんだよ!アレは…アレはアタシの油断が原因なの!カッちゃんのせいじゃない…!)


叔父も小さな少年の訴えに驚きながらも、雅の家族の事を思い、幾分声を和らげて諭す。


「なぁ、坊主の気持ちは俺だってわかるよ。坊主はしっかりしてるんだな…。だが、堪えてくれないか?今とてもとてもお前を助けた雅の親や姉弟は、お前の謝罪を受けられる状態じゃ無いんだよ。」

叔父の言葉を聞き、克真は目を見開く。


「…会えないの?……謝りたいだけなんだ…。」

見開いた目から又大粒の涙が溢れた。


遥香が克真の肩を抱き寄せて言い聞かせる。

「克真、これ以上は駄目…。もう沢山ご迷惑を掛けているの…。さぁ母さんと帰りましょ?」


「俺なんか…俺なんか助けたから…。俺が死んじゃえばよかったんだ!」

克真は遥香を振り払うと堪えきれなくなったように叫んだ。


「ふざけて、お姉ちゃんが危ないって言ってくれてたのに、全然聞かなかった!お姉ちゃんが柵から出ないと駄目って言ったのに池に近付いてからかった!だから…だから池に落ちたんだ!」

克真の叫びが止まらない。


「泳げないのに池に近付いて落ちた!だから溺れたんだ!俺が死んでたら良かったんだ!お姉ちゃんが、お姉ちゃんが死んだのは俺のせいだ!俺が悪いんだ!」

克真は一気に叫ぶと肩で息をした。


回復していないのに興奮して叫んだせいか、克真はフラフラとよろめいた。


(カッちゃん!危ない!)


「克真!」

よろめく克真を遥香が抱き止める。


抱き止められた克真は、それでも遥香から身を捩るようにして離れた。


「一人で立てる…。お姉ちゃんは…お姉ちゃんに…。」

そう言うと、ガクッと力なく又遥香の腕の中に倒れ込んだ。


「坊主!大丈夫か!」

「克真!」

(カッちゃん!)


克真は気力が尽きたのか、遥香の腕の中で気を失っていた。


遥香は叔父に手助けしてもらい克真を背負うと、心配する叔父に頭を深々と下げて詫び、斎場前に停めた車に戻っていった。


(カッちゃん……。貴方のせいじゃない。貴方が悪いんじゃない。アタシの代わりに自分が死んだらよかったなんて…絶対に言わせちゃ駄目だ!)


雅は克真と遥香が出ていく姿を見ながら、決意した。


(仙人様!仙人様!居ますよね?お願いがあります!)


雅は仙人に叫んだ。





次話は遅くとも明後日迄には投稿します。


早ければ明日です。

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