13. 代償
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13話目です。
爺、漸く語り終わります?
(え?)
雅は仙人の言葉が一瞬理解できなかった。
(アタシを別の世界に連れていく…?)
『そうじゃ。連れていく。』
(…なんで?)
雅は仙人を呆然と見つめる。
(仙人様…アタシに力を貸してくれるって言いましたよね。…力を貸してもらう代償なんですか?アタシは…拐われるんですか?)
何も解らない自分に優しく接してくれている仙人に対して、失礼な事を言ってるのは百も承知だ。
だが聞かずには居られない。
この【夢枕】が終わると、自分は眠りについて輪廻を待つんだと思っていた。
仙人もそんな話をしていたのに。
別の世界へ連れていく。
全く思いもよらない話に雅は仙人に説明を求める。
(アタシは、この世界に居たいです!別の世界になんて行きたくないです…!急に何でそんな話になるんですか?!)
『…落ち着くんじゃ、雅よ。』
仙人は雅の取り乱した言動にも動じた様子はなく、彼女の求める説明を始めた。
『…ワシが其方をこの世界から拐ったところで、ワシに何の得があるんじゃ?』
(それは…わかりませんけど。)
雅はモゴモゴと言う。
『さっきも話したが、死者が生者に干渉することはこの世界の理を大きく揺るがせ、それを許さぬ世界がその者を排除しようとする話を覚えておるか?』
(はい。アタシがその方法に辿り着くと世界がアタシに牙を剥くと…。)
雅は思い出しながら頷く。
『…既に世界は、其方がその方法を知ってしまったと感じておる。【夢枕】という方法をな。』
(!)
雅は驚愕する。
(な、何で!アタシ、い、今知ったばかりじゃないですか!)
雅は信じられないと狼狽える。
『其方はこの世界の一部。世界を構成する1つの部品とも言えるんじゃ。其方だけではない。この世界で生まれしモノは全てこの世界の部品。世界は部品の不具合を敏感に感じとる。其方は既に意識を覚醒し、輪廻の理から大きく外れている。それだけでも世界にとっては脅威。その其方が、理をさらに揺るがせる行動をとろうとしているのに、世界が気づかぬはずがないのじゃ。』
仙人が雅に説明を続ける。
『ワシが力を貸し、其方を守る間は問題ない。この世界はさらに高位の存在であるワシには何も出来ぬ。其方に言うた【夢枕】も問題なく行うことが出来る。』
(仙人様…。)
『だがワシはいつまでもこの世界に留まっておる訳ではない。ワシは世界から世界を行く渡り。其方の望みを叶えたら、この世界を去る。そういう存在なんじゃよ。』
仙人は雅を見据えて言う。
『しかしワシが去った途端、世界は大きな危険を孕む其方をけして見逃しはせぬ。例え其方が全ての生命の始まりの泉にて大人しく眠りにつこうが、見つけ出し其方を消しにかかる。必ずな。』
(そんな!…じゃあもう、アタシは…。)
雅は仙人の酷な宣告を悲痛な思いで聞く。
『…そういうことなんじゃ、雅よ。其方がこの世界で在り続ける事は既に不可能なんじゃよ。』
仙人は感情を見せないで語る。
『雅、其方は魂のみの存在となってそれほど時間は経っておらん。しかし其方の肉体は崩壊を始め、既に戻ることは出来ぬ。意識を覚醒した魂の其方はこの世界には危険な存在でしかないのじゃよ。』
雅は固まったままで話を聞く。
『其方がワシの話を聞いて消えることを恐れて望みを諦めていたなら、ワシは其方を眠らせ始まりの泉へと送るつもりじゃった。暫し意識を覚醒しただけの魂だったなら、世界も何ら動くことは無かったじゃろう。しかし、其方は揺るがぬ意思をワシや世界に見せつけた。看過できぬ存在であったのじゃよ、既に。』
(あ…。)
『覚悟をな、雅。ワシは縁有って出会った其方がみすみす消えるのを放っておくつもりは無い。道標として其方を導かねばならぬ。違う世界であれば消え去ることなく、再び生を得る事が出来る。自らの行動により、図らずも力をつけ成長している其方は、そうすべきなんじゃよ。』
(仙人様…。)
仙人の話は思いもよらぬ辛いものであった。
だが同時に雅への思いやりも感じられた。
道標としての責任感からかも知れなかったが、それでも出会ったばかりの雅に対して真摯な態度で接してくれる。
雅は自分の望みは取るに足りない小さなものと勝手に考えていたが、実は世界から見れば罪深い望みである事実にも衝撃を受けた。
何故と言う思いが込み上げる。
だが、理解は出来る話だ。
死者が生者に関わることは、本来あってはいけないんだろうと。
だって雅は霊感も無いし、幽霊なんて見たことない。
そんな話だって殆ど聞いたことがない。
禁忌だからこそ生者で在ったときには知ることがなかったのだ。
考えたくもないが雅のような存在となったら、世界は容赦なくその魂を排除してきたのだろう。
そうやって世界は秩序を保ってきたのだ。
仙人もあれ程に雅の望みの危険性を指摘していた。
聞かなかったのは自分だ。
諦めないと言ったのも自分だ。
ふと思い出す。
そもそもこの望みを持つことになった理由を。
子供を助けようとして自分の力を過信したが為に命を落としたことを。
結果、大事な者達に悲しみ憎しみを持たせ心を荒ませた。
それが哀しく辛いから、何とか気持ちを伝えて皆の心を慰めようとしていたのだ。
過信、油断、自らの力不足。
全てはそこから始まっている。
望みを叶えるには自分の知識、力だけでは無理なのだ。
仙人の力を借りねばそもそも方法すらわからなかったはず。
望みを叶えるために禁忌を犯すのであれば、過信せず油断せず覚悟をしなくてはならない。自らの杓子定規で大丈夫だと考えてはならない。
望みを諦める気がないのなら、自分は仙人の提案を受け入れなければならない。
それが代償。覚悟だ。
まだ恵まれているのだ、仙人と出会えたのだから。
例えこの世界から離れることになろうとも、輪廻の機会を得られたのだから。
これ以上意思を貫こうとする自分が、勝手な事を言ってはならない。
(…ありがとうございます。知らなかったとはいえ、恵まれている状況でまだ我が儘を言っている自分が恥ずかしい。)
雅は仙人に思いを込めて答える。
(アタシの願いを叶えるため、力を貸してください。その後は仙人様の仰る様にこの世界と離れ、お連れくださる別の世界へ行きます。ご迷惑をお掛けしますが、よろしくお願いします。)
仙人は優しい表情で雅に言う。
『やはり其方は強く面白いの。ワシの目に留まっただけの事はある。見事に理解し覚悟を決めたか。全てを受け入れた其方の願いはワシが力を貸し、必ず叶えようぞ。その後も悪いようにはせぬ。安心せよ。』
次話は明日か明後日に投稿します。




