11. 理(ことわり)と罰
お読みいただきありがとうございます。
11話目になります。
爺、さらに語ります。
(教えて欲しいんですが…。)
雅は覚悟を決めて聞く。
(アタシは…もうすぐ消えるのでしょうか?)
『いや…。』
仙人が目を閉じる。
『…今すぐ消えることは無い。其方なら、肉体が消えても暫し魂のまま存在は出来るであろう。』
(ホントですか。あの、暫しというとどのぐらい…?)
雅は少しホッとしながら聞く。
『其方が考えるより短いとは思うがの。いくら力が増したとは言え、肉体の消滅後は魂の力を削りながら在り続けるのじゃ。其方の力が涸渇すれば終いじゃな。』
(力が涸渇すればどうなりますか。)
『魂も消える。それだけじゃ。後はなにもない。』
仙人はキッパリ言う。
『本来なれば其方のように魂でありながら意識を覚醒する事など無いのじゃぞ。』
(そうなんですか?)
レアなケースと言われてもピンとこない。
仙人は雅に又語り始めた。
『まず…死とはな、滅びゆく肉体の苦痛に耐えきれず、苦しみに喘いだ魂が自らの肉体に見切りをつけ離れるということなんじゃ。だからこそ魂は死の間際には自己防衛のため意識を奥底に眠らせて、死の記憶を自らに刻まないようにするのだ。意識が深い眠りにつくのには意味がある。』
仙人は更に言葉を重ねる。
『魂に苦痛の記憶を深く刻んでしまっては、輪廻し生を得ることが恐怖となる。生を得る事は死も得るという事じゃからな。死の苦痛を恐れるあまり魂が輪廻を拒むようになるのじゃ。魂が輪廻を拒めば生と死の営みが止まり、世界は死で淀み、いずれは崩壊する。それを防ぐ為の理とも言える意識の眠りじゃ。かくも世界は巧く出来ておるの。』
雅を見る。
『なれど其方は力故か意識を覚醒させてしもうた。既に理から外れておる。理に戻るためには意識を再び奥底に眠らせ、この世界の全ての魂の源…始まりの泉へ向かわねばならぬ。消え去ることを承知で其方は魂のまま存在し続けるのか、意識を再び眠らせ他の魂と共に輪廻の時を待つのか…選ばねばならん。』
(選べと言われても…どうしたらいいのか…。)
雅は途方に暮れる。
今聞いた話を全て理解できた訳ではない。それにまさか自分が世界にとってイレギュラーな存在になりつつあるとは。
雅の気持ちを大事な者達に伝えるまで消えなければ良いなと思っていただけ。
雅の死が先輩や聡や皆の悲しみや憎しみを生んだので、それを和らげるように魂の自分が何とかしなければならないと。
気持ちを伝えられたら、消えても悔いは無いはずだった。
なのに選択肢が出来た。
どうやら意識を眠らせる事が出来たら、他の魂と同じくいつかは生まれ変われるのだ。
消え去る一択ではないのだ。
雅は考える。
(アタシは…まだ生きたかった。)
それが本心である。
自分の死に関しては自己の過信・油断が原因なので受け入れているが、まだやりたいことが沢山あったのだ。
もしもやり直せるなら、こんどはきっと最期まで人生を生き抜きたい。
やりたい事をやる為にもう一度生きたい。
だが、今すぐ眠りにつくのは……。
(アタシ、今すぐは眠りにつけません…!大事な人達をあのままにはしておけない。輪廻のためには眠りにつかなければならないのは解りましたが、それでも…!)
雅はすがるように仙人に願う。
(お爺さん、あ、仙人様でした、すみませんお願いです。何か方法がありませんか?皆に気持ちを伝える方法!アタシの声も姿も皆にはわからない。アタシは何にも触れないから、何かを使って伝えることも出来ない…!)
必死に言葉を次ぐ。
(仙人様は違う世界の方なのに、他の世界にも行ったりできる方ですよね?色んな事も知っておられるし、アタシみたいな少し力が強くなっただけのモノなんかより、ずっとずっと知識も力をお持ちなんですよね?何か方法をご存知ではありませんか?!)
『其方、やはり面白いの。』
仙人が楽しいものを見る様に目を細める。
『この期に及んでも尚、其方の望みは他者の救済か。ワシに願うはその事のみか。』
雅は頷く。
(自分のやったことの後始末をしたいのです。それがアタシの為でもあるんです。)
『ほう?其方の為とは?』
(安心して逝きたいのです。アタシは我が儘なんですよ。)
雅は苦笑いをしながら仙人に告白する。
(解ってはいるんです。死は誰にだって急にやって来るもの。例え長患いで死を待つだけだったとしても、本当に死の時が解るわけ無い。思い残し、心残りが出来て当たり前なんだろうって。わかってる…。)
言葉が途切れる。
仙人が頷く。
『そうじゃ。魂が意識を眠らせる理由の一つはそれもある。意識が生前の自分や大事な者に執着しては輪廻出来ぬからの。其方のようにな。』
(はい…。)
『…ワシが方法を知らぬとしたら、其方は諦めるか。』
(…諦めません。探します。例え消えるとしても。)
『…それが消えるより酷い代償を伴うかもしれぬと言うてもか。』
(代償?)
『理を外れて動くものを世界は嫌う。秩序を乱すからの。又、其方が仮に伝える方法を見つけたとしたら、世界はそれを感じとりすぐさま其方に牙を剥く。』
(消えるだけじゃないのですか?)
雅が驚く。
『其方は幽鬼の類いの話を聞いたことは無いか?』
仙人が雅に問う。
(幽鬼?)
『其方には幽霊と言うた方が解るかの。』
(幽霊…聞いたことはあります。見たことないけど。え、今アタシは幽霊じゃないんですか?魂って幽霊と一緒じゃないんですか?)
仙人は首を横に降る。
『元は同じじゃ。だが今其方はワシ以外には誰にも見えぬであろう?アレはそうではない。全ての者に見えるわけでは無いが、生ある者に姿を現す事が出来、中には力を使って事象を動かすモノまでいる。』
そうだ、確かに。話なら聞いたことがある。
幽霊の話もそうだし、外国ではポルターガイストだったか、目に見えぬ何かが部屋のなかを物を動かしてむちゃくちゃに壊したりする現象があるらしい。
(TVとかでやってるアレですね。あ、そうか!アタシもあんな風になればいいのか。)
『馬鹿者!間違ってもそんな世迷い事を申すでないわ!』
怒鳴られ身を竦める雅。
(す、すみません。)
『いや、怒鳴ってすまぬな。其方は知らぬのだからしょうがないの。…アレはそんな悠長なモノではない。幽鬼とは世界が牙を剥き罰を与えた魂の成れの果てなのじゃ。』
(成れの果て?)
『アレ等には明確な意思は既にない。ただ力を使い果たすまでひたすら暴れ漂い揺らぐ哀れなモノ達なんじゃ。』
仙人は痛ましげに話す。
『死した後、本来ならば現世のモノに干渉などせず眠りについて輪廻を待つはずの魂が何らかのきっかけで意識を覚醒、姿を得、干渉し出す。秩序を保とうとする世界はそれを許す訳が無く、排除するために動く。』
(罰を受けると幽霊になるって事…?)
『死したるモノが意思を持ち、生ある者達に干渉するというのは大変な危険を孕む。一線を超えるのじゃ。生ある者達が死に引き寄せられる。生を全うしようとしている者に、死しても何かを成す事が出来る様を見せるのじゃから。生ある者の中には生を疎んじて、死に自ら飛び込む者も出てくる。理を大きく揺らがせるのじゃよ。』
(…アタシの考えていることは、理を外れた大きな罪になるのですか…。)
雅はショックを受けた。
『其方の優しさから出た望みとはいえ、世界にはそのような事情は全く関係ない。世界から見れば其方は秩序を乱す危うい存在なのじゃ。其方の望みを叶えると言うことは、世界に敵対するに等しい。』
仙人が雅に改めて問う。
『ここ迄話したが、どうじゃ。生まれ変わる事も出来ず、世界から罰を与えられ、意識をなくし、ただ力を使い果たして消え去るまで世に留め置かれる哀れな幽鬼に堕ちるのだと聞いても、まだ其方はそれを望むのか?』
雅は黙り込んだ。
『…諦めるか?』
雅は決意を込めて答えた。
(…諦めない。アタシが罰を受ける事になっても。それでもやらなきゃ…!)
『…其方、それ程迄にか…。恐ろしくは無いのか…?』
仙人が雅を探るように聞く。
(…怖いですよ。でもアタシのせいで大事な人達が苦しんだままなのはもっと耐えられない。アタシはアタシのやったことの後始末はつけたい。…例え悲惨な罰が待っているとしても…やるんです。)
『…其方、揺るがないのじゃな…なんとしても。』
(はい。)
仙人は雅をじっと見つめている。
雅も仙人を見つめ返す。
『…あい、わかった。』
仙人は雅に深く頷くとニヤリと笑った。
『其方、やはり面白い。決意も力も揺るがぬな。…ワシが力を貸そう、雅よ。』
(仙人様?!…良いんですか!)
自ら頼んではみたものの、罪咎が及ぶかもしれない自身の望みに力を貸すと言った仙人に雅は慌てて聞く。
『…言うたであろう。ワシは其方の道標じゃと。』
仙人は笑みを深めた。
次話は明日か明後日投稿します。
今回は長くなりました。




