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9.育った配下が強すぎて、魔王(俺)の出番がないのだが。


 自分のステータスを確認する前に、チャチャッと剣歯虎を魔力吸収することにする。これ以上ボスは現れないと思いたいが、二度あることは三度あるというし、さっさと戦える状態に戻しておく方がいいだろう。


 まずは子どもの方から吸収していく。いつも通り剣歯虎の身体が空気に解けていく途中で、キラッと光る何かが地面に転がり落ちた。剣歯虎から右手を離さず、左手で拾い上げてみる。


 『剣歯虎の魔石(小):リーリアの森奥地に棲む魔物、剣歯虎からとれた魔石。子どもからとれたその宝石はまだ小さいものの、良質な魔力を含む』


 その後成獣も同じように吸収すると、『魔石(大)』が取れた。どちらもタイガーアイの様に縞目模様だが、成獣のものには金色の筋も入っている。いつか金が必要になった時のために持っておこう、宝石とあるくらいだし幾らか金にはなるだろう。


 また、剣歯虎に刺した角兎の角は、剣歯虎と一緒に吸収した。代わりに、今は成獣を吸収する前に折っておいた2本の牙のうち、1本を装備している。


 全ての作業が完了したところで自身のステータスを確認してみる。



 『 魔王 Lv:3

 名 前:トール

 体 力:40/40

 魔 力:160/200

 攻撃力:25(+25)

 防御力:23(+20)

 素 早:9


 スキル:鑑定

     ダッシュ

     火魔法Lv.1

     風魔法Lv.2


 装 備:剣歯虎の毒牙(攻撃力+25)

     初期魔王のローブ(防御力+10)

     初期魔王のブーツ(防御力+10)


 固有スキル:歪なる祝福

       魔力吸収 』



 素早さは相変わらず1桁のままだ。でもダッシュのスキルもあるし、そう悪いステータスでもない気がする。


 湖に向かう前に、風鹿を一頭狩って食事を摂った。そのまま湖まで戻り、のんびり昼寝をすることにした。



 ☆



 『――ま、とーさま。にんげんがくる』


 「……ぅえっ!?」


 寝始めてそんなに経っていない頃、シュヴァルツの声で目を覚ました。そのまま草の上から急いで起き上がる。が、すでに遅かったらしい。

 樹々の向こうに数人の人だかりが見える。彼らは辺りを慎重に見回していたが、俺が起き上がったことでその先頭の人物とバッチリ目があってしまった。


 「う、」


 明らかに憎しみが籠る眼差しを向けられて、一瞬息が詰まる。やはりどこの世界でも、人間と魔物は相いれない関係らしい。


 だが、俺個人が何かしたわけではないし、見つかった上で逃げだすのも逆効果な気がする。案外話せばどうにかなるかもしれない。ダメな時はダッシュで逃げよう。



 しっかり立ち上がって、ローブについた草を払って相手を待つ。

 ――しかし、彼らがこっちに近づくにつれてその判断を後悔した。


 男たちは全部で5人いた。全員剣や槍を手にしているが、そこまでは良い。問題はそのうち4人が、丸太の様な腕と、服の上からでも分かるムチムチな胸板をお持ちだということだ。パーティー内の筋肉密度が高すぎる。

 彼ら4人だけならそういうものかと流せないこともないが、残りの1人がまた問題だった。


 日光に瞬く金の髪と、透き通る様な碧眼。スラリとした体型に、絵本に出てくる王子様の様な甘いマスク。しかし意志の強そうなその瞳。

 かなりのイケメンである。一般人といても目立つだろう彼が、4人の筋肉たちと相まって、このパーティーの異質度を底上げしている。


 俺の前までくると、イケメンが他の4人より一歩前にでた。彼がこの集団のリーダーのようだ。

 憎々し気に声を放たれる。


 「魔族……それも上位魔族か」


 「……は?」


 「この森に狩人がいただろう。犬を連れた若い男だ。そいつをどうした?」


 ――既に俺が狩人をどうにかしたことは決定済みらしい。


 「いや、あの、知らんけど……」


 「ノモルの村を襲わせたのもお前の仕業だな?」


 後ろにたたずむ筋肉たちが気になり過ぎて思わず素で返したが、青年は気にしていないようだ。

 というか俺の話自体聞いていない。


 「いや、だからそれも知らな「嘘をつくなよ!」

 「そうだそうだ! お前がやったんだろう!」

 「他に誰がいるのだ!」

 「ゼオリアーディオンさん、やっちまってくだせぇ!」


 青年の後ろから掛けられる野太い野次と声援に俺が引いたところで、ゼオリ……何とかと呼ばれた青年に目を向ける。

 若干戦意喪失気味の俺と違い、声援を受けた青年はやる気に満ちているようだ。


 「フッ、答える気はないということだなッ!」


 「おわっ!」


 突然槍で切りかかってきた青年から、ダッシュで距離をとる。

 筋肉たちから歓声が沸く――って、あんたらは戦わないのかよ! 筋肉無駄か!


 『ヴヴォンッ!』

 「っな……!」

 「シュヴァルツ!」


 今まで成り行きを見守っていたらしいシュヴァルツだが、青年が俺に攻撃を加えだしたことで敵認定したらしい。牙をむき出しにして唸る魔物に、青年含めた全員が凍り付く。


 「……く、魔物を使役するのか……それも未成体でこの【威圧】力とは」


 どうやらこのパーティーの中で、青年だけ実力が抜きんでているらしい。固まる筋肉たちを尻目に、いち早く拘束から解放された青年が、今度はシュヴァルツに対して槍を構えなおす。


 『にんげん、とーさまに刃むけた……ころす』

 「!? ちょ、シュヴァ、殺すのは待」

 「これでもB級冒険者の端くれ――ゼオリアーディオンが受けてたつ!」

 「びっ、B級冒険者ぁ!?」


 突然の宣言に驚くが、どちらを止める間もなく戦いが始まる。


 青年が槍で突けばシュヴァルツは寸前でかわし、そのまま青年の足場に突っ込む。前脚で軽く薙いだ地面はごっそりと抉り取られ、土煙が舞った。足場を取られバランスを崩しかけた青年の首元を狙ってシュヴァルツが飛びかかる。が、今度は槍を地面に突いた青年が寸前で体勢を変え、攻撃を躱す。


 身の軽さで翻弄するB級冒険者と、攻撃力の高さに物を言わせる黒狼。


 残された俺と筋肉4人は静かにそれを見守っていた。

 というか、俺にとっては戦いのレベルが高すぎて巻き込まれたら間違いなく死ぬ。大人しく見ている以外にやることがない。滝の様な冷や汗を見る限り、筋肉たちもこの戦いにはついていけていないようだ。なんだかちょっと親近感が湧いた。



 ――1時間は経過したかというところで、高い金属音がした。

 最初は心配し、止めるか参戦するか、いやでも逆に邪魔になるんじゃとオロオロしていた俺と男たちだったが、30分過ぎたくらいから隅の方で小さく座って観戦していた。周りはクレーターと土埃まみれだ。自分の横に穴が開く度、いつか巻き込まれるのではとガクブルしていたが、戦いが長引くにつれて観戦組の目は達観者のそれになっている。


 「なっ……!金剛蜥蜴(ダイアモンドリザード)から作られた槍が!?」


 どうやら勝負あったらしい。

 そこには、元の半分の長さになった柄を持ち呆然とするB級冒険者と、残りの半分を咥える黒狼の姿があった。『おいしくない』とでもいうようにペッと湖の中に柄と槍先を捨てるシュヴァルツ。


 『とーさま、勝った』


 「おー、お疲れシュヴァルツ」


 嬉しそうに跳ねて戻ってきたシュヴァルツを撫でてやる。全力で戦ったことですっきりしたらしい、尻尾が満足げに揺れている。


 「ちゃんと殺さないでいてくれたんだな」


 『とーさま、まってって言ったから』


 耳の良いシュヴァルツには、途切れた俺の言葉がしっかり聞こえていたらしい。全体をワサワサ撫でて褒めてやると、更に尻尾の揺れが加速した。

 そんな俺たちの前に、青年が近づいてくる。呼吸は荒いが、出会った頃よりは落ち着きを取り戻しているようだ。


 (男は拳で語り合うっていうしな……俺の出番なさすぎだったけど)


 納得して一人頷いていると、青年が話し始めた。


 「悔しいが完敗だ。武器がなくなった以上、俺には戦い様もない。煮るなり焼くなり好きにするがいい……だが、出来ればこいつらは村に帰してやってくれないだろうか」

 「ッそんな! ゼオリアーディオンだけ残して行けるわけないだろうがっ!」

 「そうだぞ! 死ぬときは一緒だ!」

 「我々は一蓮托生なのだ!」

 「そッスよ! 天国でも地獄でもお供しまさぁ!」


 そうだそうだ!と野太い大合唱が始まる。そんな熱い友情を前にして、俺は感動のあまり引いていた。そこの筋肉一人、あんたの槍を貸してやるという選択肢はないのか。

 咳払いをしつつ、周りが見えず盛り上がっていく人間たちの会話に口を挟む。


 「いや、別に俺あんたたちをどうこうしようとかないし……むしろ帰って、誰にも言わないでいてくれるならそれが一番いいんだけど」


 「……ノモルの村は襲うのにか」


 「ってかさ、最初にも言ったけど。それ俺まったく心当たりないんだけど?」


 その言葉に、暫し青年が黙り込む。男たちも困惑しつつ、視線を交わしあっている。


 「狩人の男に心当たりは?」


 「それもさ、途中で気づいたんだけど……探してるのって黒い仔犬を連れた男じゃないか?」


 「っ!何故それを……!」


 俺はため息を吐きながらシュヴァルツを抱き上げる。

 そのまま立ち上がってシュヴァを青年の目の前まで掲げると、言いたいことは伝わったらしい。


 「狩人の話ってさ、“メリオ”と“イッシュ”とかいう、三人組のパーティーから聞いたんじゃないか?」


 「……なるほど。どうやら、俺は凄まじい勘違いをしていたらしい」


 この森でメリオ達パーティー以外の人間を俺は見たことがなかったし、犬の鳴き声も聞いたことがなかった。“狩人”に当たる人物なんて、自分以外に思いつかない。

 そうして風鹿から助けた時の、子どもたちの苦渋に満ちた謝罪の言葉を思い出した。あの後、残した俺のことを心配して上級冒険者を派遣してくれたんだろう。

 ――まさかその冒険者に逆に襲い掛かられるとは露程も想像してなかったと思う。俺が魔物だと知らなかったわけだし。


 状況を理解してくれたらしい青年が、俺たちに向かって深く頭を下げた。


 「本当にすまなかった……今まで魔族とは、その、争ったことしかなかったせいで――いや、言い訳は辞めておこう。本当に、すまなかった!」


 青年に合わせて、4人の男たちも頭を下げる。

 俺は地面に下ろしたシュヴァルツと目を合わせた。


 「もういいって。別に俺たち気にしてないし。な?」


 『シュヴァは、まだゆるしてない』


 プイッと顔を背けるシュヴァルツに苦笑しつつ、「気にするな」と再度青年たちに告げる。

 青年は俺をじっと見つめている。そして静かに口を開いた。


 「……なぁ、」


 「ん? なんだ」


 「お前の名前、聞いてもいいだろうか」


 予想外の言葉に一つ瞬きをする。目を開けると、真摯な眼差しとかち合った。

 暫く見つめ合った後、俺は笑顔を浮かべた。


 「勿論! 俺はトールだ、こっちはシュヴァルツ」


 「俺はゼオリアーディオンという。B級冒険者だ。こっちはボゾ、ダブル、ジェイド、ノートル、俺の仲間たちだ」


 ゼオリ……の後ろに目を向けると、筋肉、もとい彼の仲間たちに良い笑顔を向けられた。白い歯が眩しい。青年に認められたことで、彼らにも受け入れられたようだ。ちょっと複雑な気持ちだが。

 青年に差し出された手を握り返し、握手をする。しかし、ここで一つ問題があった。


 「えっと、悪い……あんたの名前、もう一回教えてくれないか?」


 「ああ、ゼオリアーディオンだ」


 「ゼオリア……?」


 「ゼオリアーディオン」


 「ゼオリアーディ……」


 聞きなれない名前のせいで、上手く頭に入って来ない。体力は全快だが、剣歯虎との戦いで残る精神的な疲れも影響しているのかもしれない。

 焦る俺に気づいたらしい、青年は少し笑うと、「好きに呼んでくれて構わない」といった。

 俺は少し考え、その言葉に甘えることにした。


 「悪いな……じゃあ、【お前のことはゼオと呼ばせてくれ】」


 その瞬間、覚えのある眠気が一気に襲ってきた。


 (おい、これって……!?)

 

 嫌な既視感を感じつつも、俺はその場に倒れこんだ……。



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