6.固有スキルの使用方法
昨日、今後お礼は述べない方針でいくと宣言したのでいろいろ我慢しておきます……!
また今回の話には魔物との戦闘シーンが入ります。ご注意くださいませ!
「――やばいっ! 遅刻する!」
飛び起きて辺りを見回す。右手側には古い天使の像、左手側には小さな黒い毛玉と、白い毛玉が一つずつ。
ふきさらしの出入り口から見える空は快晴で、異世界は今日もいい天気だ。
「そうだった……俺、転生したんだった」
俺の呟きに、目の前の黒い毛玉からぴょこっと三角の耳が生える。そのまま頭を起こすと、黒い毛並みの中でも良く見える、2つの瞳が宝石の様に輝く。
『ごしゅじん、おきた』
「え?」
凄い近くから声が聞こえたが、もう一度周りを確認しても誰もいない。
視線を戻すと、黒い毛玉――もとい、小さな仔犬が伸びをしているところだった。
それが終わると彼の真横にあった角兎の肉を咥えて、俺に近寄ってくる。
『お腹すいた。ごしゅじん、お肉たべる』
「わーお……さすがファンタジー……」
パタパタと尻尾を振りながら、声の出所であるシュヴァルツが俺の目の前でおすわりをした。
☆
肉を食べる、というので捌いてやったら、どうやら「俺が、肉を食べる」という話だったらしい。
急に喋れるようになったんだ、まだ言葉が上手く使えなくても当たり前だろう。それでも話を聞くに、俺は何日も眠り続けていたようだ。
『夜がたくさんきたよ。ごしゅじん、おきたらお腹すく。お肉とって待ってた』
俺がいつ起きてもいいように、狩りをしてはここに持ってきて、時間が経ったら自分で食べて新しい獲物と入れ替えていたらしい。
俺は感動のあまりシュヴァルツを抱き上げた。
「シュヴァ……ッ! お前ほんとにいい子だなぁ!」
『! わーい!』
頭といい腹といい、全身を思いっきり撫でまわしてやる。黒い毛並みは柔らかく、お日様と獣の匂いがした。
そういえば、なんで夜急に眠くなったんだ?
祠まで戻ってたからまだ良かったものの、不用心に数日間も眠り続けるのは流石にやばい。
取りあえず、ステータスを確認してみる。
「うおっ、残り【体力3】に【魔力2】!?」
叫ぶと同時に「ぐー……っ」と腹が鳴った。数日飲まず食わずだったんだ、体力が尽きかけているのはこのせいだろう。シュヴァルツに礼を言って、思いっきり肉にかじりつく。
全て食べ終わるころには、ある程度動けるくらいには体力が回復した。しかし、魔力はほんの少ししか戻らなかった。
「腹はある程度満たされたんだけどな……」
魔力値のマックスは150らしいが、どんだけ食えばいいのかね。魔王からフードファイターにジョブチェンジしないと無理ではなかろうか。
自分のステータスには、それ以上おかしな点は見受けられない。自分の尻尾を追いかけてクルクル回って遊んでいるシュバルツに声をかける。
「なぁシュヴァ、お前のステータス見せてもらってもいいか?」
『すてーたす……? わかんない』
「強さとか体力とかが分かるやつだよ」
『……? いいよ』
やっぱり理解はしていなさそうだが、一応許可は貰ったので見てみる。
そういえば、鑑定してみればシュバルツの種族名も分かったんだよな。魔物は角兎一択しか見たことなかったんでうっかりしていた。
『 黒狼 Lv:3
称 号:魔王の第一配下
名 前:シュヴァルツ
体 力:14/14
魔 力:8/8
攻撃力:9
防御力:7
素 早:12
スキル:威圧
加護:歪なる祝福 』
「お前狼だったのか……」
そしてその称号と加護を見て推測するに。魔物に名前を付けることで配下とし、そうすると自動的に俺の固有スキルが発動して、加護を与えるらしい。その際に魔力を大量に消費するんだろう。で、もともとストックがなかった魔力が枯渇して昏睡、寝続けて少し回復したことで目が覚めた、と。これで正解な気がする。
その効果は分からないが、加護というくらいだからシュヴァルツをきっと護ってくれるだろう。
ただ今後は名前を付ける場合、もっと慎重に用意をしてからの方がいいな。魔物が襲ってこない場所だったとしても、体力が尽きたら二度と目が覚めない可能性が高い。今回はかなり運が良かった。
ってかしばらくは怖くて名付けとかできない。
「あと、今更だけど俺の名前トールっていうんだ。ご主人じゃなくてトールでいいよ」
『とー……? とーさま?』
「トール、だよ」
『とーさま』
なんかちょっと子持ちになった気分だが、シュヴァが気に入ったならそれでいっか。餌付けされた訳ではないが、全力で懐いてくれる初めての仲間が可愛いすぎて、些細なことはなんでも良くなってしまう。
☆
湖で水を飲んで、訓練を兼ねてダッシュを小刻みに使いながら森の中を進む。素早さはシュヴァルツの方が早いので、先を行く彼を俺が時折ダッシュで追いかけるかたちである。
これから探すのは角兎より魔力を含む、森の中頃に棲む新しい魔獣だ。シュヴァもいるし、狩りは今までより断然捗りそうだ。
途中見つけた小さな木の枝を拾って、幾つかローブのポケットに入れておく。
『とーさま、こっち。なんかいる』
地面の匂いを嗅いで、シュヴァが教えてくれる。
実際に喋っている訳ではなく念話の様なものなので、話し続けても獲物には気づかれない。
音を立てずに近寄ると、木の向こうに鹿の様な魔物が一頭見えた。大きさも見た目もそっくりだ。
『風鹿:リーリアの森中頃に棲む魔物。軽い身のこなしで、重い攻撃を繰り出す。尖った角は刺さると凄く痛い』
(やっぱり角の説明は入るのか……)
風鹿は角兎に対して首が太いので、狙っても一撃で仕留めることは難しそうだ。ここは逃げられないように脚を狙う。
『キュアッ!』
風の刃が脚に切り傷をつけたと同時に、シュヴァルツが飛び出し【威圧】で獲物の動きを止める。
その隙に俺が木の陰からダッシュで飛び出し、風鹿の首に切りかかった。再度ダッシュで距離を取る。
『キュアオオオオオオオオッ!』
怒った風鹿が威圧を振り切り、俺に向かって突進してくる。それから目は離さずに、ローブに入れていた小枝を取り出し魔法で火を点けると、走ってくる風鹿に投げつけた。
動物は本能的に火を怖がる、それは魔物も同じだ。風鹿は急ブレーキをかけてたたらを踏みつつも、火を避けた。
そこめがけて風魔法を放つ。
『キュオッ』
刃はその身に切り傷を一つ増やしたが、致命傷にはならない。しかし、狙いはそこじゃない。
慌てた風鹿が荒い呼吸を繰り返し、風刃で舞い上がった燃え尽きた小枝から上る煙を盛大に吸い込んだ。
そのまま突進してくるものの、目に見えて動きが鈍い。俺でも難なく避けることが出来る。
俺が投げて寄越したのは『呼吸困難を引きおこすミミの木』の枯れ枝だ。5秒までいかなくとも、少しでもその煙を吸いこめば、呼吸の辛さで身動きが取りづらくなる。
風上に移動していたシュヴァルツが風鹿の脚に喰いつき更に動きを鈍らせる。そこにダッシュで駆け込み、角ナイフで切りかかった。
☆
倒した風鹿を鑑定すると、【小量+の魔力を蓄える】と出た。
「この大きさでまだ少量範囲なのかあ……どうやったら魔力満タンになるんだろ」
休憩がてら風鹿の傍らに座り込み、シュヴァのふわふわな背中を撫でてやりながら悩む。今の戦いで、魔力の残りはまた底をつきかけている。折角なので風鹿の毛並みも確認してみると、シュヴァより毛足が短くごわっとしていた。
「【魔力だけ吸収】出来たらいいんだけどな――ってこういうことか!」
それを口にした途端、風鹿の体から淡い光が立ち上り、撫でていた俺の手に吸い込まれていく。
自身のステータスを確認すると、どんどん魔力が回復していくのが分かる。それと比例して、風鹿の体がじわじわと空気に溶けるように消えていく。
【魔力吸収】の固有スキルの使用方法はこういうことだったらしい。
しかも、少量+とあったはずなのに、角兎を食べた時より大幅に魔力が回復している。
しかし体力値には変化がない。
要するに、魔力を含む魔物の肉を食べると体力も回復するが、その分魔力の回復量は低い。
固有スキルを使って魔物を取り込むと、純粋に魔力を吸い出すことが出来るが、食べられない分体力の回復はないということだ。
これで魔物の死を無駄にすることなく肉を消費した上でレベリングも出来るし、戦いで使った魔力の量を上回る回復が見込める。
やっぱり固有スキルの名は伊達じゃないな。