表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

4.レベルアップと逃走用スキル

連日のご挨拶となりますが、ブックマークして頂いた方、並びに評価をつけて頂いた方、心より御礼申し上げます。

更新でお返しできるように頑張ります!


 この世界にきて、初めての夜が明けた。


 「んー! よく寝たなぁ……」


 寄りかかっていた壁から背を起こし、思いっきり伸びをする。

 今日もいい天気だ。


 この場所は昼と変わらず、夜の気温も快適だった。

 

 寝ている間に魔物が襲ってくる可能性も考えたが、俺がこの森で会ったのは未だ角兎のみだ。ここら辺は彼らのテリトリーなんだろう。

 弱い魔物である角兎が縄張りにしているということは、脅威となる魔物がこの辺りにはいないということだ。それは同格である俺にとっても同じことが言える。


 膝を立てて座りローブに顔を埋め、腕で頭を覆って出来る限り露出部分をなくす。

 カメが甲羅に頭をひっこめた様子に似ているかもしれない。

 この状態で寝ることで、角兎以下の魔物(いるのか分からないが)になら夜襲を掛けられても致命傷にはならないはずだ。怪我したとき用にメルの草も確保済みである。


 というわけで、この世界での安眠も確保された。

 昨晩は角兎の訪問もなく、睡眠時間もばっちりだ。むしろ前世より快眠だった。魔物より仕事の方が眠りを奪うものなんだな……。



 ☆ 



 湖で水を飲み、ついでに顔も洗う。タオルがないので仕方なくローブの裾で拭った。

 さて、本日の課題は『いかに延命するか』である。

 

 「敵と遭遇しても逃げられる、もしくは戦っても死なない程度には強くならないとな」


 全てはこれに尽きる。

 ということで、まずは自身のステータスの問題点について考えていこう。



 問題1

 『素早さが低い』

 これは昨日考えた通り、敵に見つかった時に取り囲まれてしまう致命的な弱点だ。

 ちょっとの数なら潜り抜けられる程度には上げておく必要があるだろう。


 問題2

 『固有スキルの使い方が分からない』

 固有、というからには強力でありがたーいスキルのはずだ。命綱にもなり得るかもしれない。

 しかし、“魔力吸収”の意味は分かるが、使い方が分からない。

 “歪なる祝福”については意味すら分からない。歪んだらそれもう祝福じゃないんじゃないか……?


 問題3

 『俺は魔王らしい』 

 ――らしい、と付けたがステータスに明記されている以上、避けようもなく魔王だ。



 ここまでをまとめてみよう。

 問題1については努力で補えるだろう。

 問題2と問題3については、今の俺ではどうしようもないので保留とする。どうしようもないことは考えてもどうしようもないのである。



 「朝からいい仕事したな」


 すがすがしい気持ちで額の汗を拭う。昨日に引き続き穏やかな気候のため、そこには水気一つないが様式美というやつだ。


 「しかし、素早さってどうやったら上がるんだ?走りこめばいいのか?レベリングでステータスアップを狙えばいいのかな?」


 防御力は高いが薄手のローブを脱ぎ、湖で軽く濯ぐと近くの手ごろな木に干しておく。

 これで昼までには乾くだろう。ローブの下には黒いシャツの様なものとズボンを履いていたので、全裸ブーツは避けられている。流石にローブ一着しか身に着けてなかったら、俺ごと湖に浸かるわ。


 出来ることからコツコツと。

 湖と並行に、俺は最初の一歩を踏み込んだ。

 


 ☆


 

 湖を挟んだ向こう側、水を飲みに来たらしい角兎2羽が生暖かい目で見守るなか、俺の走り込みは終了した。今のところステータスに変化はない。


 「スキルも付かないのか……」


 まあ人生そんなうまく行かないよな。魔王になってしまうくらいだしな!


 「よし、次だ。攻撃のレパートリーを増やそう」


 俺は学生の頃から趣味はゲームの、由緒正しいインドア派である。

 素早さの観点からもお察しだが、運動神経がいいとは言い難い。物理攻撃は向かないだろう。

 

 「魔法を練習してみるか」



 ここで問題。魔王に適性がある魔法とはなにか。

 


 パッと思いつくのは闇魔法だが、闇魔法って何が出来るんだ?明るい部屋を暗くする遮光カーテンみたいなイメージか?そんなのは攻撃にならない。ちょっと遅く寝た朝に嬉しいだけだ。

 闇魔法は想像力が乏しすぎて無理。

 

 火魔法はどうだろう。丸焦げになる敵、響く断末魔――却下だ。


 風魔法なら使いやすいかもしれない。昨日の少女の様に、風の刃とか扱いやすそうだ。

 近くの木から大き目の葉を一枚むしりとる。そっと顔をあおいでみた。


 「すこし涼しい……」


 風、空気、揺れる、ぶつかる――イメージを固定し、目の前の木に向かって腕を掲げる。

 そのまま空気を切り裂くように振り下ろすと、一陣の風が木に向かう。

 

 風はそのまま木に当たり、木の実を一つ切り落とした。その切り口はなかなかに鋭い。

 

 「これなら角兎とも戦えるかも!」

 

 少し距離を取って攻撃出来る為、奇襲にも持ってこいだ。

 

 ローブが乾いたことを確認し、元通り羽織る。

 散々走りこんで腹も減っているし、早速角兎のいる場所へ向かう。ちなみに湖は結構深く広い為、向こう岸にたまにくる角兎を狙うより、森の中に入った方が断然早い。


 

 森を進むと小さな足跡を見つけた。辿っていくと1羽の角兎を発見する。

 一度目を瞑り集中すると、再び目を開き呼吸を止めて、しっかりと標的を見据えて風の刃を放つ。


 「ギイッ!!」


 狙いは見事的中した。とその時、澄んだベルの様な音と共に、静かな声が脳内に鳴り響いた。

 

 『レベルアップ完了――魔王 Lv.2になりました』


 「おおっ!」


 ステータスを確認してみる。


  『 魔王 Lv:2

 名 前:トール

 体 力:30/30

 魔 力:16/150

 攻撃力:18(+5)

 防御力:16(+20)

 素 早:7


 スキル:鑑定

     ダッシュ

     火魔法Lv.1

     風魔法Lv.1 


 装 備:角兎の角ナイフ(攻撃力+5)

     初期魔王のローブ(防御力+10)

     初期魔王のブーツ(防御力+10)


 固有スキル:歪なる祝福

       魔力吸収 』



 「素早さ上がらなすぎだろ!」

 

 運動音痴を数値で見せつけられると結構めげるんだけど!



 「ん……でもスキルが増えてる? “ダッシュ”!?」


 風魔法以外に新たに表記されたスキルにテンションが上がる。

 走り込みも無駄じゃなかったのか!


 「レベルが上がるタイミングで付与されるスキルもあるんだな」


 それにこれなら使い方も分かる。ダッシュというくらいだから走ればいいんだろ?


 「【ダッシュ】!」


 口にしなくても良さそうだが、走りだす瞬間に唱えてみる。

 グッと足に力が加わったのを感じた。


 「おお!!早いっ!!」


 仕留めた角兎まで一瞬で駆け寄り、通り過ぎる。

 木々の間を危なげなく走り抜け、コントロールも問題なし。


 (これめっちゃ使えるんじゃないか! これなら人間に見つかっても……って、うわっ!?)



 体がガクッと重くなる。呼吸も急に荒くなり、立っていられず地面に滑り込むように膝をつく。

 ローブのお陰で膝の大根おろし状態は避けられたが、摩擦熱が凄い。


 「ッ! ッハ! ハァッ……ハアァッ!」


 数分掛けて、どうにか呼吸を整える。

 


 「これ……超単距離走用じゃん……」



 俺の運動音痴はスキルにまで影響を及ぼすらしい。

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ