3.ステータスは魔王
ブックマークして頂いた方、重ねて御礼申し上げます!
少しでも楽しんでいただけますと嬉しいです。
腹ごしらえが済んだところで、寝床を探すことにする。
この世界が一日何時間で回っているのかは分からないが、日の高さを見る感じ正午過ぎくらいだろうか。
今は暖かいが、夜の気候がどうなるかは分からない。出来るなら雨風が防げるような場所が希望だ。
食料探しとは逆の方向へ歩いてみる。
途中見つけた新しい植物を鑑定しつつ暫く行くと、遠くに小さな建物が見えた。
他にめぼしいものもないので取りあえず近づいてみる。そっと辺りを見回すが、他に人や魔物の姿は見当たらない。
目の前までくると、それがかなり古いものだと分かる。
大きさは俺の身長より少し高く、横幅は両手を広げて届くか届かないくらいかだ。
「祠かあ……」
木造の壁や屋根は、元は塗装してあったようだが経年の劣化でほとんど色が剥げている。
正面には扉がなく、中を覗くと奥に小さな天使の像があった。
「……」
自分の頭に手をやる。そこには相変わらず立派な2本の角が生えていた。
目の前の祠を見る。天使の像以外何もないその空間は、手前が広めに空いている。かつてはこの場所にお供えものが置かれたりしていたんだろう。
腕を組んで考えること数分。
――俺、今魔物だし、多分天使は信仰対象じゃないよな?
そして、対する天使はどこの世界でも博愛主義者なはずである。
結論。
俺がここに同居させて貰っても、信仰的に問題ないし、心優しい天使様は許してくださるだろう。
八百万の神を信仰する日本人の気質はこの際置いておこう。
取りあえず天使像に手を合わせ、心の中で同居のご挨拶だけしておいた。
☆
さて、寝床は決まった。あとは晩飯と、敷き布団代わりの落ち葉を集めよう。
角兎の毛皮はなかなか毛並みがいいものの、寄生虫や腐敗が怖いので残念ながら布団としては使えない。
湖を経由し、先ほど角兎に激突された場所まで戻る。
思えば、さっき先制攻撃されたのって俺が叫んだせいで場所がばれたからだよな?
どっちにしろ兎なので耳はかなりいいとは思うが、今回は出来るだけ物音を立てないように進んでいく。
――もう少しで目標の場所に着くというところで、鋭い金属音がした。
「こっちは俺に任せろ! お前はイッシュを守ってやれ!」
「うん! 任せて!」
「……!」
この世界で初めて耳にした人間の声に、慌てて一番近くの木の陰に滑り込む。
木の幹からあまり頭を出さないようにしつつ、そっと向こう側を覗きこむ。
そこでは、3人の人間と2羽の角兎が対峙していた。
1羽の角兎が飛びかかったところを一人の少年が盾ではじき返し、もう1羽は別の少年が切り倒した。
2人に守られる少女は杖を構え、何やら呪文を唱えているらしい。
フワッと彼女の髪が風に揺れたと同時に、残りの1羽の首が落ちた。風の魔法だろうか。
「よっしゃ! これでクエスト達成だな!」
「初めてにしては上手く行ったんじゃない!?」
「うん! これで私たち、正式にⅮ級冒険者だねっ!」
3人は嬉しそうに手を叩き合わせると、持っていた麻袋に角兎2羽を仕舞い去っていった。
「なんだと……? さっき、あの子たちはなんて言った?」
『初めてにしては上手く行った』
『これで正式にⅮ級冒険者』
この世界には、魔物を狩ることを生業とする“冒険者”がいるらしい。
そして、最下級はⅮ級なんだろう。
初めての戦闘で、まだ子どもと呼べるだろう人間がたった3人で、
(俺と対等に戦った角兎を、それも2羽一気に倒しただと……!?)
角兎 = 俺と同格。
最下級冒険者 = 角兎あっさり倒す。
魔物の俺 = 討伐対象。
(まずい、これはまずいっ! 人間に見つかったら俺、もしかして即死なんじゃないの!?)
そこで、俺ははたと気づいた。
(そういえば、ステータスとかってどうなってるんだ?)
鑑定スキルがあるのである。
ゲームみたいに、自分を鑑定してみれば今のステータスも分かるのではないだろうか。
よし、やってみよう!
現状を数値として客観的に見られれば、対処法とかも考えやすいかもしれないし!
自分の体を見下ろしてみる。すると、すぐに文字が現れた。
『 魔王 Lv:1
名 前:トール
体 力:18/20
魔 力:10/100
攻撃力:9(+5)
防御力:8(+20)
素 早:5
スキル:鑑定
火魔法Lv.1
装 備:角兎の角ナイフ(攻撃力+5)
初期魔王のローブ(防御力+10)
初期魔王のブーツ(防御力+10)
固有スキル:歪なる祝福
魔力吸収 』
「素早さ低っ!!」
装備のおかげで防御力だけは高そうだが、これは逃げきれず袋叩きにあって討伐されるのがオチじゃないか!?攻撃力もないわけではないが、多勢に無勢ともいうし。
ってか、魔王がこのステータスとか、勇者とかいらない……
「ん?」
もう一度、チラッとステータスに目をやって、すぐに逸らす。
「大丈夫だ、落ち着け……よーく見るんだ」
先ほどとなんら変化のないステータスを、覚悟を決めて睨み付ける。
『 【魔王】 Lv:1 』
「俺が魔王とか嘘だろおおおおおおおおおお!!!!!」
こうして俺は本日2度目の角兎の奇襲を受け、死闘の末、晩飯を手にしたのだった。