2.食料調達
ブックマークして頂いた方、本当にありがとうございます!
そして大変申し訳ないのですが、今回兎の解体話が少し入ります。
苦手な方はご注意お願いします……!
しばらくボーっとしてみたが、特に何事も起きない。
湖を挟んだ反対側で、小動物っぽいのが湖の水を飲んでいる。恐る恐る真似して飲んでみたが、ミネラルウォーター並みに美味かった。気候は日照りもよく温暖だが、水はよく冷えている。
よし、飲み水についてはこの湖にお世話になろう。この後も腹を壊したりしなければだけど。
そうしている内に、今度は空腹が我慢できなくなってきた。
「取りあえず食べ物探しにいくか……」
樹木の間を、出来るだけ肌が草に直接触れないように通っていく。
触るとそれだけで爛れる草もあるとか言うし。その点、顔だけは出ているものの身体全体を覆うローブとロングブーツは防御力抜群である。
「あー……ゲームみたいに『鑑定』スキルとかあればいいのに。『この草はこういう植物です~』みたいな」
口にした途端、目の前に生える草に、重なるように文字が現れた。
『メルの草:リーリアの森に生える雑草。磨り潰して患部に塗ると、微妙に体力が回復する』
「微妙ってまた適当な!! ってか鑑定スキルほんとにあったのか……」
気づいて良かった、これで少しは食べ物探しも楽に進みそうだ。
☆
――と思っていた時期が俺にもありました。
げっそりと辺りを見回す。目に入るものはどれも、この森広域に生える植物だ。
植物その1
『テトロンの木:リーリアの森に生える木。そこになる実は瑞々しく美味そうな見た目であるが、みっちり詰まった果肉は猛毒を孕む』
植物その2
『トロボラスの花:リーリアの森に生える花。その蜜は甘く優しい香りがするが、舐めると全身麻痺を起こす』
植物その3
『ザックルー茸:リーリアの森に生える希少な茸。口に含むとそのあまりの美味さに中毒になり、ザックルー茸を探して一生を終えるものが頻出した』
「どれも食い物じゃねええええええええ!!!!!!!」
どんな植物か分かったところで、食べられるものが一切ないとかどんな森だよ!?
鑑定スキルがなかったらテトロンの実とか絶対口にしてたぞ。
なんて恐ろしい森なんだ……ここ、別名『死の森』とかじゃないだろうな?
と、考え事をしていたのが悪かったらしい。
――ドゴォッツ!!!
「グハッ……!!! っなんだ!?」
背中に凄い衝撃が走った。思いっきり地面に倒れこんだものの、辛うじて顔面強打は避けられた。
振り返ると、そこには一羽の兎がいた。
「って、角が生えてる……?」
『角兎:リーリアの森に棲む魔物。尖った角は刺さるとかなり痛い。』
「そりゃ刺さったらなんでも痛いだろうよ!」
キシャーッ!!と威嚇してくる角兎の額には、白く捻じれた一本角。よく切れる包丁のような光沢を放っている。
急いで背中に手を回して状況を確認してみたところ、ローブには解れ一つなかった。ただ背中は痛い、間違いなく青痣が出来ている。
「――っと!」
再度角を向けて飛びかかってきた角兎を、右側に転がり慌ててよける。
そのまま勢いをつけて飛び起きると、走って距離を取る。
背を向けた俺にまた同じように飛びかかってきた角兎を後眼に見つつ、タイミングを見計らって止まり、
ただその場にしゃがみ込んだ。
バキィッ!!!!
『ギィィイイイ!!!』
――ボタッ!!!
「痛っ!!!」
急に視界から外れた俺を捕らえきれず、角兎はそのまま俺のすぐ目の前まで迫っていた木に激突した。
角が折れ、打撲の衝撃で絶命した角兎――までは計算通りだったが、その体は真下にいた俺に降ってきた。丁度折れた角の断面が、俺の頭にクリティカルヒットした。
痛む頭を撫でつつ、今はただの肉となった魔物を何とはなくじっと見つめる。
……じゅるり。
「うおっ! 涎がっ!」
慌てて口元をぬぐう。あれ、なんで急に涎が……
『角兎の屍:塩味の効いた身は柔らかく、少量の魔力を蓄える。その肉は多くの魔物に好まれる』
あ、もしかして本能的にこれ食べ物と認識された感じか?
確かに日本ではあんまり聞かないけど、前の世界でも兎の肉って食べるしね。
そして最後の文面……涎まで出るって、やっぱり俺は魔物ってことか。
☆
角兎から折れた角で本体の首元に切り込みをいれ、逆さにして血抜きをする。
角は鋭くナイフ代わりに使えそうだ。
「この角にあれだけの速度で衝突されて穴一つないローブって凄すぎだろ……」
そのまま暫く待って、血が止まった頃に元いた湖に戻った。あれから腹も壊してないし、体調も問題ない。飲み水確保場所に決定だ。
ただ角兎がぶつかった背中だけは痛むので、帰り際メルの草を少し摘んできた。
角兎を前に、暫し悩む。
前世でも多少料理はしたものの、捌かれた肉に塩コショウで味付けする程度だったので、ぶっちゃけ解体の仕方とか分からない。内臓を傷つけるとまずい的な話は聞いたことあるけど……。
「まあ、やってみるしかないか」
途中、若干気持ち悪くなりつつも、なんとか肉と呼べる状態まで捌き終えた。
問題は火である。元日本人としては、兎とはいえ魔物の肉を生で食べるのには少々抵抗がある。
「火か……鑑定スキルもあったし、都合よく火の魔法とかもあったりして」
火、炎、熱い、燃える――など少ない語彙力からそれっぽいものを連想し、指先に火を灯すイメージで唸ること十数分(その間肉は腐らないように湖につけている)。
「っ!! 出来た!」
小さいものの、なんとか火を生み出すことに成功した!
が、そこで気づいた。
「燃やすものがねー……」
湖にある枝や落ち葉は、水気の近くにあるため乾燥しきっていない。要するに燃えない。
仕方ないので指先の小さな炎で、表面だけ炙って食べた。
レアすぎる肉ではあったが、鑑定通りめっちゃ美味しかった。