最強の侍【村雨】~我は安住の地を求める~
はい。久しぶりの短編!
今回もバトル。主人公が『おろ?』のあの有名なキャラクターに見えるかもしれませんが、全くの別人ですので気にしないで下さい。
最後まで楽しんでいただければ幸いです。
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はるか昔の戦国時代。その時代は、弱者は喰われ、強者が喰い、哀れ者は泣き苦しみ、賢者はほくそ笑み、領主は笑う。そんな時代だった。しかし、そんな時代に一風変わった侍がいた。
最強の名を欲しいままにするその侍は戦を嫌い、切傷を嫌った。その時代にその者を知らぬ者はいないほどの強さを持っているのにだ。
もはや伝説と言っていいその侍は鉄を切り、あらゆる攻撃を見切り、空を駆け、大地を割る。
その侍、名を【村雨】という。
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草原の中、二人の侍が向かい会っていた。
一人は短髪の青年で、刀の柄に手をかけ居合いの構えをとっている。もう一人は短髪の侍に比べて幼く、色素が抜けた茶色の長髪で、後ろを紐でまとめている。さらに構えも取らず、刀すら抜いていない。いつ、『おろ』という言葉が出てもおかしくない、まさに何処かの剣○を髣髴とさせる外見をしている。
「貴様、國を裏切る気か!」
短髪の侍は顔から怒りの色をあらわにし、刀のつばを弾く。
「何を言っているのでござろうか? 流翠殿。拙者、一度もそんな事を言っていないのでござるが(まあ、味方になった覚えも無いでござるが)」
長髪の侍は頬をポリポリかく。
「ならば何故、逃げようとしている」
「逃げる訳ではないでござる。拙者、戦の無い場所でひっそりと暮らすため、どこか静かな場所を探す旅に出たいだけでござる」
左手に持っていた、荷物と傘を見せる。
「それを逃げるというのだ! 今の時代、死んでも逃げたと言われる時代に貴様は――!」
「そうなのでござるか? しかし拙者、戦は嫌いゆえ」
どこか、とぼけた姿勢を保ったまま、長髪の侍は傘と荷物を背負う。
「戦が嫌いだと……? 貴様ほどの剣の腕、強者との戦いに喜びを覚えんのか!」
「あ――。拙者にもそういう時代があったでござるよ。しかし、拙者、気付いてしまったでござる。戦は悲しみと憎しみしか生まないことを」
長髪の侍のその言葉を聞くと、短髪の侍から禍々しい気があふれ出る。
気がつくと、短髪の侍の体は二メートル近くに膨れ上がり、体は赤い紋章が走り、頭には二本の角が生える。その姿は、まさに【赤鬼】その物だ。
「貴様は【村雨】の名を忘れ腑抜けた。故に我が貴様を打ち滅ぼす」
「流翠殿。鬼人である貴方との決闘を、拙者は望まぬのでござる……。出来ればこのまま、見逃して欲しいでござる」
長髪の侍はクルッと後ろを向く。
「断る。今頃、命乞いとは、つくづく腑抜けたな。ならばこそ貴様を殺し、【烏目】を奪い、我が、新たな【村雨】を受け継いでやろう」
「見逃すという選択肢は無いのでござるね」
「くどい!」
「そうでござるが……なら先に誤っておくでござる」
そう言って背を向けたまま、長髪の侍は歩き出す。
「逃がすか!」
鬼と化した短髪の侍は、刀を抜き放ち、長髪の侍に斬りかかる。
しかしそのとき、長髪の侍の左目が、鋭く黒く輝いた事を、短髪の侍は気付かなかった。
「拙者、加減を知らないゆえ」
一瞬の事だった。短髪の侍が気付くと刀は、ぽっきりと折れていた。それに気付くと左手がポトリと落ち、肩から腰にかけて切り傷が走った。
短髪の侍は何が起きたか理解も出来ず崩れ落ちた。
「な……、何が……」
長髪の侍の手には、血が一滴もついていない美しい黒色の刀身が特徴の刀が、握られていた。
「拙者。たとえ戦は嫌いでも、一応【村雨】ゆえ」
その瞬間、短髪の侍は理解した。
【夜咫烏】の左目と言われている【烏目】を左目に持つ最強の侍。
剣技を極め、常識を超えた侍。
最強の称号であり、真名であり、強さの証明、それが【村雨】。
そんな化け物たかだか鬼に止められる訳も無い。
「せめて介錯してくれ」
短髪の侍は潔くそう言った。
「嫌、と言いたいところでござるが。承ったでござる」
長髪の侍は、ため息を吐き、短髪の侍の首を切り落とした。
最強の侍【村雨】、彼の名は霧崎村雨。
こうして彼の【戦の無い静かな場所】を探す旅が始まった。
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「この穴何でござるか?」
流翠を下した後、村雨は山を超える為、山を登っていた。
そこに暗く、黒い穴の様な直径一メートルほどの玉があった。
「……怪しすぎるでござる」
そう思っていながら、玉を覗いていると、突然、玉から手が入り、村雨は玉に引きずり込まれた。
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村雨が気付くと、そこは【戦場】だった。
ダダダダダダダッと乾いた音が鳴り響き、雄たけびや、悲鳴が入り混じる混沌の世界だった。村雨は、ここがどこかは知らないが、少なくともここが自分のもっとも嫌う場所であるのはすぐに、理解した。
ここが、【未来の戦場】であることを、村雨はまだ知らない。
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機関銃を持った少女が一人戦っていた。
軍は少女達の村を捨て、戦線を下げた。
現在、村は、敵国の兵士から虐殺と言える攻撃を受けている。
普通はこんな状況なら誰でも逃げるだろう。
しかし少女は違った。
地下倉庫に隠れて難を過ごす大人達と違い、彼女は自分が生まれた村を守るため、自ら銃を取ったのだ。
しかし一人で戦うのは余りに無謀だ。
そのため少女は、罠を仕掛け、ゲリラ戦を取り、ありとあらゆる武器を使い、村を守ろうとした。
だが、限界が来た。いくらいくらいくら倒しても兵士は沸いてくる。
そしてとうとう兵士に捕まり、終わりがきた。
「何だ? 部隊はこんな少女に手間取ってたのか? 意外に可愛いじゃないか」
「本当だ。今晩から俺たちの夜の相手でもして貰うか」
「そりゃあ、いい」
ガハハハハハハハ。と笑う下種な男たち。
(臭い、汚い、キモイ。私なんでこんな事してるんだっけ? 私はただ村を……自分の世界を守りたかっただけなのに)
そう思っていた時、幼馴染の教会の子が言っていた事を思い出す。
『神様はな? みんなの事を見てる。だから、ホンマに助けて欲しい時、ホンマに苦しい時に願ったら、案外ひょいっと助けてくれるねんで』
神など信じていなかった少女だが、全て絶望したとき口からこんな言葉が漏れた。
「My god, my god, Why hast thou forsaken me?(我が神、我が神よ、どうして私をお見捨てになったのですか?)」
神を信じていなかった少女が、キリストが死に際に放った一言を口走るとは、案外分からない物である。しかし、この時、少女には、そんな事どうでも良かった。
(神が……、本当に神がいるなら、誰か、私を助けてくれ!)
少女がそう願うと、シャキンと何かが切れた音がした。
少女が目を開けると、少女の前にボロボロの服? を来た少年が背を向けて立っていた。
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「お主達、何をしている!」
村雨が吠える。村雨が戦場を駆けていると、金髪の少女を襲っている、可笑しな服と可笑しな【てつほう】を持った一団を見たのだ。
それを見て沸点が急激に低くなった村雨はその【てつほう】を自分の持つ刀【黒霧】で両断したのだ。
「(こいつ何言ってやがる!)」
「(しらねぇ! 殺せ!)」
(英語? つまりここは異国でござるか?)
そんな事を考えていると、まだ可笑しな【てつほう】を持った男が【てつほう】を打ってくる。
「(死ね!)」
「(お断りでござる!)」
村雨には【てつほう】の弾が【烏目】によって全て見えていた。
【烏目】の能力は全部で三つ。
一つはあらゆる攻撃を視覚的に捕らえ、それに対応する事ができるというものだ。
そして二つ目はあらゆる物の【目】が見える事。どんな物にも【目】という弱点が存在する。それを【烏目】はとらえる事ができるのだ。
故に、村雨は刀を幾度と振り、弾丸を全て切り裂く。
「(なにっ!?)」
男達が慌てるのを他所に村雨は、【てつほう】また一つ、また一つと両断する。
「(これは!?)」
今度は空から、強大な【鳥】が飛んでくる。よく見れば中に人が乗っている。すると【鳥】に【てつほう】を持たせているのか、【鳥】から弾が飛んでくる。何だあれは? と思いながら、村雨は【烏目】の三つ目の能力を使い、空へ跳ねる。
【烏目】の三つ目の能力は凄まじい跳躍力。それで、【鳥】に取り付いた村雨は【鳥】の【目】を見てバラバラにする。
「(あれはなんでござるか!)」
次は鉄の【塊】が進んできた。【塊】についている筒から巨大な弾が打ち出される。しかし、村雨にはまるで関係ない。あっさり弾を斬り、その後【塊】もバラバラに切り裂いた。
そしてしばらくして村を襲っていた軍隊は一人の怪我人も無く壊滅した。
「(なっ!?)」
分隊長は言葉を失う。今ここは戦場。その中で平気を全て切り裂かれたのだ。丸裸も同然である。
「(今一度問う、お主等何をしているでござる?)」
「(え、英語!? 俺らの言葉が分かるのか?)」
男達は驚く。それはそうだろう。先ほど何を言っていたか分からない人間が突然、自分達の言語を喋りだしたのだ。驚くなという方が無理な話である。
「(拙者、異国民から言葉を教わった。故に英語は話せるでござる)」
「(あんた? 何者だ?)」
「(拙者の名は【村雨】。通りすがりの侍でござる)」
「(さ、侍って。馬鹿な冗談はやめろ! 侍なんて当の当に絶滅したはずだろう?)」
そのとき村雨は思った。ひょっとするとここは、国どころか時代まで変わったのではないかと。
「(……日本はあるのでござるか?)」
「(あんた、何言って)」
「(いいから答えるでござる)」
「(あ、あるよ。もちろん日本人もいる)」
それを聞いて村雨は思った。そしてそれをそのまま口にした。
「(確かに日本人の全員が侍ではない。だが、侍は人種でも役職でもあらず、侍とは精神でござる。日本人が生きていて、日本があるなら侍は必ず存在するでござる。お主達が気づいていないだけでござるよ)」
これを聞き、男達は狼狽する。
「(な、んな、馬鹿な! 冗談だろ!)」
「(冗談であると思うのは結構でござるが、目の前にある現実はどうするつもりでござる?)」
村雨の言葉を聞き、男の顔はドンドン青ざめる。
「(ところで、これは今、戦をしているのでござるか?)」
「(そ、そうだ)」
「(なら、見逃してやるから、大将に伝えるでござる)」
「(え?)」
「(このまま、この村を襲うなら、首を洗って待っていろと。その首、貰い受けるでござる)」
このときの村雨の顔は、後に、男達が国に帰っても、時折悪夢に魘される原因になる。
「「「「「(ひぃぃぃぃぃ!)」」」」」
その村雨の言葉を聞くと男達は一目散に逃げて行った。
ふぅっと村雨がため息を吐くと、村雨の着物の裾をクイクイと掴まれる。
村雨が後ろを振り向くと少女は、泣きそうな顔で着物を掴んでいた。
その少女の姿を見た村雨は少女をそっと抱きしめた。
「(もう大丈夫でござるよ、怪我は無いでござるか?)」
村雨が優しく語り掛けると少女は、か細い声で尋ねた。
「(あなたは神様ですか?)」
それを聞き、村雨はニコッと笑いながらこう答えた。
「(いや、拙者は通りすがりの侍でござる)」
村雨の旅はまだ続く。