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ファンタジークエスト  作者: 里山
第一章 Girl・ミーツ・おっさん
6/52

くえすと5 挫折。

「[いやぁあああああああああああああ!!]」

 腕、わたしの左腕どこ――ゴブリンが更に剣を振り上げる――イヤイヤイヤイヤやだやだやだ。

[演技派だなぁ、おーい大丈夫かぁ?]

 何やら頭の中で声がする。だけど私には理解できない。

「[うでがうでがっ! っきゃっ!]」

 何かにふっとばされ私の体が地面を転がる……目の前には右腕が転がっていた。

「[わた、わたしのじゃないよ、ほらわたしのうではここに、あれ? おきれない、なん……で、いや、いや……たす、たすけて]」

[おい返事しろっ! リリィっ!! それはポリゴンだ!お前の腕じゃない!! おいっ!! くそっ!!!!]

 薄れゆく意識の中でゴブリンの遥か後ろ、遠くで光が見える。あぁきれいだなぁと涙でにじむ視界が回転する。

 

 

「おい起きろ! くそっ! おい!リリィ!!!」

 だれかがさけんでいる……りりぃってだれだっけ、わたしのなまえはさゆりだ……よ?

「リリィ!!!」

「……だれ」

「おれだアックスだ!! 気をしっかり持てっ!!」

「わたしの……うでが、どこかいっちゃった」

「腕の一本や二本大丈夫だすぐ治るっ!!」

「そんな……むり、だよ。もどらないよ」

「大丈夫だ! コレはゲームだすぐに元通りだ!! リアルに帰れば腕はなんともない!!! 胸は減るけど!」

「……あ?」

 何か私の心を強くそれはもう強く叩いた言葉があった。意識が覚醒する、目の前に必死の形相で叫ぶアックスの顔が見える。

「おぉ? 気がついたか? 大丈夫か? 俺のことわかるか?」

「なんかまだぼーとするけど……私どうなったの?」

「あぁ、多分腕を切られてパニクったんだよ、すまん俺のミスだお前がゲーム初心者ってことをすっかり失念してた」

「ん~なんか思い出してきた。突然ゴブリンが出てきて私の腕が断ち切られて、それで私」

「だいじょぶか辛いなら思い出さなくてもいいんだぞ?」

「いや痛みがない分気持ちを切り替えれば大丈夫、そういう切り替えは慣れてるから……ただ」

「ただ?」

「いやなんかさ、こう遠くで光が見えた後、何かにふっとばされたような」

「あぁアレは俺がゴブリンごとふっ飛ばした」

「ほう……そうかそうか」

「なんだろう、すごく居心地が悪い気がする」

「いやいやそんな事はないぞアックスくん私は感謝してるよ助けてくれたんだしな……ありがと」

 まあホントに感謝してるがちょっぴし恥ずかしい所も見られちゃったのでごまかしも含めて意地悪しておこう。

「まあ取り敢えずコレを~ん~もう頭からかぶっちゃえ、おりゃあ」

 そんなことを思っていると、どばしゃあ! と何やら白い液体をかけられた……何これ罰ゲーム?

「ねぇ、いきなり本人確認もせずに何をかけてるのかな? かな?」

 怒りをあらわにした私の問に。

「あー回復剤だよテッテレー【ホワイトポーション】~♪」

「ぶん殴るわよ?」

 とコブシを握りしめ……あれ?

「腕がある?」

 無くしたはずの両腕が戻ってきていた。

「だから回復剤だって即効性があるやつだから意外と高いんだぞコレ? 飲んでもいいんだけど両腕分の欠損ダメージ直そうとしたら結構な量飲まないといけないからなぁ」

「そんなの少しずつ飲めばいいじゃない!」

「腕ないのに? どうやって? ぺろぺろ舐める?」

「あんたが飲ませればいいじゃない」

「俺が? お前に? 白い液体を? 飲ませるの? いやんセクハラよ」

「……あんたは一体何を言ってるの?……ってこの変態ぶち殺すわよ!」

「えー俺はただぁお前を抱きかかえて飲ますのが恥ずかしいなぁって思っただけなんだけどぉリリィさんは~何を想像したんですかぁ? おじさんわかんなーい」

「お前はヌッコロス!!!」

 うきーっ!! とアックスを追い掛け回しながらホントにこいつはいいやつだなぁとしみじみ思ったのはこの馬鹿には絶対に秘密にしようと思う。

 

 

 ぜはーぜはーとスタミナが切れた私は森の大地に横たわっている、その隣で。

「んじゃそろそろ日も暮れるし俺の小屋に行くか」

 と平然な顔をしてお馬さんを呼んでるアックスがいた。

「くそうコレで勝ったと思うなよ! 現実で若さというものを思い知らせてやる!」

「へいへい期待せずに待ってるよ、ほら」

 そう言いながら手を差し伸べてくる。

「ありがと」

 手を取り立ち上がる。

「そんじゃぁお姫様お先にどうぞ」

「うむ」

 よっこらしょとお馬さんに跨る。二度目なのでコツも掴んできたのかスムーズにいけた、どうよ! とアックスを見下ろすと何やら残念そうな顔が……

「……そか、見えなかったか」

「うん……お前上達早いな」

「なんかごめんね」

 なんで私は誤ってるんだろうな。そんな不思議な自問自答をしている隙に私の後ろにアックスが跨る。

「ほんじゃ出発進行」

「おー」

 ぱっかぱっかと駆け足程度の速度で走り出す、このくらいのスピードだともう酔わない程度には慣れた気がする。

「もうちょっと速くても大丈夫だよ?」

「ん? まあ森の中だし枝とかに当たっちゃうからな」

 ふ~ん、と空返事をする私は揺れる馬の上、アックスの腕の中で自分の手を軽くにぎにぎと動かして見る……うん、ちゃんと在る……脳裏に蘇る少し前の光景……果たして次にあんな目にあった時私はどうなるのか……腕ならばまだなんとかなるかもしれない……それこそ巨大な何かに噛みちぎられたら、高いとこから落ちたら? そんな事を考えていると。

 ぽむぽむと頭を撫でられる。びくんっと反応はしたが振り返ってアックスの顔が見れない……いや顔を見せたくない、私は今どんな顔をしてるのだろう。さっきはアックスが馬鹿やってくれたから笑顔で居られた筈だ……でも。

「おいお前の尻尾が元気ないぞ? アレか、あの日だな?」

 はぁ、こいつと来たら……ホントにもう。

「あの日とはどの日の事でしょうかアックスさん」

 できる限り明るく言ってみる、うん、がんばれわたし。

「それは……ほらあれだよあれ」

「あれあれ言われてもわからないですよ? もう呆けて来たんですか? 嫌ですよこの歳で下のお世話なんて……」

「苦労をかけるね婆さんや……じゃねーっ! 人がせっかくっ!、っあーもう」

「そう言えばさあ食べたものは出てこないの?」

「お父さんはそんなはしたない事言う娘には育てていません!」

「いや私はあんたがお父さんの方が嫌だよ」

「何気に酷いよねたまに……」

「そかな?」

「まあ良いけどさ、取り敢えず腹は減るけど他の生理的欲求は睡眠くらいじゃないかな?」

「ふーん、そうなんだ」

「そうなんです」

「ありがと」

「ん? いや礼を言われるほどのことか?」

 ほんと、ありがと……




「うわっなにここ凄いね」

「どうだ綺麗だろ?」

「うんちょっと感動」

 歩くような速さで湖畔をぽくぽくと馬に乗って進む、確かこの辺のはずなんだがぁとアックスが言いながら鍵を取り出し解錠のモーションをするとちょっと離れた場所にボワンと言う音と共に一件のログハウスが現れる。

「前のと一緒だね」

「レンタルって言っただろ」

 そういえば何か言ってたなぁと思い出しながらアックスに続いて地面に足を下ろす。

「でもなんで湖の近くばっかりなの?」

「ファンタジーっぽいから」

 くそう、私もちょっと思ってたから反論できない。

「まあ悪くないわね」

 だろ? と言いながらログハウスに入って行くアックスにお馬さんどうするの? と聞こうとして、まあ放って置いても大丈夫何だろうなと自己完結しつつ私も中にはいる……そして驚愕する。

「なんで暖炉に火をくべるですか?」

 なんでこの夏の設定の中こいつは濡れてもないのに暖炉を燈すのだ?

「ん? その方がファンタジーっぽいから」

 くそうまた反論できない! 頭を抱え悶える私に何かを感じたのか。

「あ~別にコレってつけても熱くはならないんだよ」

 などと不思議な補足をする。

「へ? でも昨日はあったかかったよ?」

「あれはお前が濡れてステータス異常になってたからだよ」

「な、なるほど……」

 わかったようなわからなかったような……

「要するに普通の時に火に近づいても熱くはないと?」

「まあそんな感じかな、逆に熱かった場合は何らかの状態異常かイベントの一環かって事かな、ただし家の中とか街の中以外だと熱いからな」

 ふむふむつまりは遠慮なく眺められるって事か! いやー炎って見てると落ち着くんだけどいかんせん熱いのがなぁと常々思っていたのだよ諸君……だれ? などと脳内で垂れ流しつついそいそと暖炉の前にぺたんと座り込む。

 ぼーーーーーーーーーーーっとしてるとやっぱりあの光景が浮かぶ……

「ごめん、ちょっと帰るね」

「帰る? あぁ落ちるのか、おう」

「落ちるって言うの?」

「回線が落ちるとかその辺からきてるんじゃね?」

「ふ~ん、まあ取り敢えず落ちるね」

「おう、またな」

「うん。……また、ね」

 光に包まれログアウトして行くわたしを見つめるアックスの瞳には私はどんな顔に見えたかな……ちゃんと笑顔でいられたかな。


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