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ファンタジークエスト  作者: 里山
第一章 Girl・ミーツ・おっさん
5/52

くえすと4 さぁ逝こう。

 十分後

「きぼちわるい…」

「いや何でゲームの中で酔うんだよ」

 呆れながらも私を気遣いゆっくり馬を歩かせるアックス。

「おかしいなぁ車とかで酔ったこと無いんだけどなぁ」

「あれじゃないか? はしゃぎ過ぎとか。ほら子供の遠足とかのバスでさはしゃぎまくって気分悪くなるやつ居るじゃん?」

「ほう……わたしがお子様だと言いたいわけだな」

「ん~天真爛漫な深窓のお姫様?」

 気持ち悪くて思考が追いつかないがなんか適当な言葉を並べてごまかされてる気がしないでもないけどこの際どうでもいい……

「う゛~~」

「あ~もうっ、そうやって下向いてるから気持ち悪くなるんだよ、ほら上向け、それにもう街も出たしフードもとっていいぞ」

 そう言うやいなやアックスは私のフードを外し頭を無理やり前に向けさせる。

「おぉ風が気持ちいい……あ゛~すこし楽になってきた~」

「前を向いていれば気持ちも晴れるっともんさ」

 ん~っと背伸びをしたり深呼吸をしていると気分も落ち着いてきたがそのたんびに後ろのアックスがもぞもぞ動く……なんだ? 変なことでもしてるのか?

「ちょっと何やってるのよ?」

 体全体をひねりアックスの顔を睨みつける。

「いや、お前のポニテが動くたんびにこうなんていうか、わさわさと」

「あ~、それはどうもご迷惑をお掛けしました」

 そう私は謝れる子だ! 偉いぞ褒めろ。まあそれはいいとしてコレはダメだなと、もそもそとフードをかぶろうとすると。

「いや被らなくていいよ、ただでさえ街でずっと被ってるんだからさ、そこまで邪魔ってわけでもないし、それになんかこうわさわさしてて気持ちいいしな」

 ダメだこいつただの変態だと思ったがたしかに私の尻尾はわさわさしていて気持ちがいい、なんて言うか毛の長い犬を抱っこしてる感じ?

「んじゃお言葉に甘えてこのままで」

「おう甘えとけ」

 しかし何か甘えっぱなしだよなぁ、と心のなかでちょっと反省しつつ何でアックスはこんなに親切なのかな? と不思議に思う。私が女の子だからだろうか? その割にはエッチな話は極力回避するな……変態だけど、コレが変態紳士というやつなのかな? 本当のロリコンは犯罪を犯さない的な? などと首をひねっていると。

「どうかしたか?」

 そんな声が頭上で響く。

「ん~アックスは何でこんなに親切なのかなって思ってさ」

「ふ、実はこの世界で親切にしてリアルでお前に近寄ってあんなコトやこんなことをしようとしてるんだよ」

「そういう事言う人はそういう事考えてる人のこと嫌ってるでしょ」

 違う? という私の無言の問に。

「いやだなー俺はそんなに出来た人間じゃないZE?」

「そんな思考の人はそもそもその歳で童貞なわけないじゃない」

「何を言っているのかなそれすらも嘘なのだよ、ふふふふふ」

「ねぇ気づいてる……あんたさっきからヘルプエモが出っぱなしよ?」

 という私の指摘を受け更にヘルプエモを出しつつ。

「なんのことでございましょう」

「はいはい、んじゃ現実でいつか会おっか? オフ会って言うんだっけ?」

「いやいやだからそう軽々しくそんな約束しちゃダメだって」

「あんだがさっき現実で私に近づくためって言ったんでしょ?」

「あれは嘘ですごめんなさい。俺にはそんな甲斐性はないです」

「はぁ、もういいわよ。んでアックスってどこに住んでるの?」

「え? 今は熊本だけど?」

「お~近いじゃんんじゃ暇な時にうちに来なさい」

「ちょっとマテコラ何でそうなる」

「何でって私まだ高校生だからそっち行くのメンドクサイし?」

「だったらなおさらダメでしょこんなのと会っちゃ」

「なんで? 友達でしょ? 友達に会ったらダメなの?」

「いや、あれ? 友達なの? あれ?」

「私はそう思ってたけど?」

「えっと、あれ? 友達なら……会っていいのかな? あれぇ?」

「それに私の家だったら親もいるし大丈夫大丈夫」

「まてーい! 親ってあれかお父さんとかか!」

「お母さんもだけど? あんた会いたがってたでしょ?」

「いや、それはお前のお母さんだからそりゃ会って見たいさ」

「んじゃいいじゃん、綺麗だよお母さん」

「いやお父さんはいいのか!?」

「大丈夫じゃないの? ダメなときはあんたが死ねばいいし」

「まてええええ! どういうことだってばよ?」

「死の定義について解説しないとダメなの?」

「いやいい多分知ってる」

「おおさすが社会人」

「いや関係ないし」

「取り敢えず今度メールするね、確かお友達機能にメール機能ってあったよね?」

「あったけどさ……おかしいななにか大変なことになっている気がするんだけど?」

「気のせいじゃない?」

「俺女の子の家とか行ったこと無いんだけど?」

「やったね私が初めての人だ」

「なんだろうコレが……恐怖?」

「え? そこ恋いじゃない?」

「恋して欲しいの?」

「まさか」

「なら言うなよ」

「ごめんなさい」

「分かればよろしい」

「んじゃそういう事で」

 そう私が締めくくった後でも何やら「おっかしいなー」とか「なんでこうなった」とかブツブツ言っていたがやがて静かになった。理由は簡単お腹が空いてきたわけですよ。

「おなか空いたね」

「だなぁ、そんじゃなんか捕まえて食べるか」

「え? 何かこうアイテムとかを食べるんじゃないの?」

「んーそれもいいんだけどさお前のレベル上げも兼ねてそこら辺のうさぎとかを捕まえてみようかなと」

「捕まえられるの?」

「おう、戦闘モード設定のところに捕獲モードってのがあるんだよ、材料とかを集めるときに使うモードなんだけどな、まあもらえる経験値は少なくなるけど」

 なるほどなーと聞いていたが。

「あれ? 私が捕まえるの?」

「じゃないとレベル上げも兼ねてるんだし」

 なにいってんだ? という顔で見られた。

「でも私お花さんしかまだ倒したこと無いよ?」

「よかったなお前の初めてだぞ」

 っく! 根に持ってやがる! なんだよ女子高生の家に遊びに来るのがそんなに嫌なの? それとも私はやっぱり友達じゃないのかなぁ、小学校以来の男友達だと思ったんだけどなぁとしょんぼりしつつ先に馬から降りたアックスをじ~と見つめていると。

「そんなにしょんぼりしなくても何事も練習だろ? それとも降りられないのか?」

 何やら勘違いされた。流石だなこいつ。はぁ、とため息ひとつ吐いて心を入れ替え。

「ふ、そう言いつつまたパンツが覗ける絶好の位置を探すアックス君を残念に思っただけだよ」

「っちょ! おまえ人がせっかく! あーもういい一人で勝手に降りろ!」

「言われなくてもおりますよーっだ、とぅっ!」

 といっては見たものの乗ってるものがお馬さんなのでゆっくりノロノロと降りる、やっとこさ地面に足をついてお馬さんに「ありがとう」と言いつつ撫でてあげ振り返ったら。

「何その微妙な表情。ひょっとして見えなかったの?」

「べ、別にそんなお前のパンツなんて見たくないし」

「まあだれもパンツのこととは一言も言ってないわけだけどさ」

「お、俺も言ってないしそんなこと」

「ふーんじゃぁ今度からパンツルックにしようかな」

「そのままの君でいて」

「パトレイバーは名曲揃いだよね」

「お前さ実はおばさんだろ?」

「失敬な! ピッチピッチの16歳でございますよ!」

「はいはいぴっちぴち、ぴっちぴち」

「むきょぉぉ! ウチに来た時見てろよ! 私のスレンダーなバディで悩殺してやるからな!」

「それもう歳関係なくね?」

「いいの! 私の生肌で歳を感じなさい! 現実の私は凄いんだから!」

「いやそう言ってもさそのキャラってリアルの体型じゃないのか?」

「こ、これはそのあの」

「え、まさかそのスタイル作り物なの? まさか」

「ち、ちがうもん!いじったのは胸だけだもん!」

「え?」

「え?」

「胸ちっちゃくしたのかひょっとして? そういや何か書いてあったな胸ちっちゃくすると動きやすいって、でもそっかぁそれよりおっきいのかぁそれは楽しみだなっ♪」

 めちゃくちゃいい笑顔でサムズアップしたアックスめがけて私のスクリューアッパーが炸裂した。

「胸だけが女の全てじゃないんだからね!」

 ボロ雑巾をまとったボロ雑巾のように地面に倒れているアックスを踏みつけながら言い放った私に。

「いやまて今の流れで何故俺は殴られた……っは! まさか更にぺったんk「死ね! 今すぐ死んでしまえ」

 顔面をゲシゲシと踏みつけるが。

「すばらしいこんな光景がまさか自分の目で見られるなんて!」

 何やら喜ばれている……こいつ変態か! と思ったがヤツの視線の先を追って理由がわかった……そう、その目は私のスカートの中を見ていた。駄目だほんとに変態だったどうしよう……

「はぁ、もういいわよ。そうですコレでも盛ってるんですよ! わるい?」

 もうなにやら色々疲れた私は地面に仰向けに倒れ伏すアックスの横にちょこんと座り込みイジケ始める。

「いや別に悪くないけど? てかぺったんこでも別にいいけどな俺は」

 むくりと起き上がりそんな事をのたまったアックスに。

「はぁ? あんたあれだけおっぱいおっぱい言っててなにいってんの? おっきいほうが好きなんでしょ?」

「ん~まあ手頃なサイズが好きっちゃ好きだけど要はその子に似合ってるかどうかじゃないのか?」

「そうは言うけどぺったんこだよ? コレより小さいんだよ?」

 自分の胸を指差しつつ言う私に。

「ん~少なくてもおっきければいいわけでもなければ胸のサイズで女の子の価値が決まるわけでもないんじゃないのか?」

「ん~じゃあさ胸のおっきなお姉さんと私だったらどっちと付き合いたい?」

「ん~人にもよるけどお前かなぁ」

 あらやだこいつひょっとして私に惚れてるの?

「じゃあ胸のおっきな私と今の私は?」

「胸のおっきな方」

 即答だった考えもしなかった……

「はぁ、なんとなくあんたがわかってきたわ」

「それはよかった」

 何故そこで笑顔なのかがまたわからない。

「もういいからご飯つかまえよう、おなかすいたぁ」

「そだなぁ、んじゃあそこら辺のリスかウサギいってみよっかぁ」

 そういうアックスの声をバックにキョロキョロと周りを眺めた私の視界に飛び込んできた物は。

「おっアイツは! わが宿敵」

「そういや初めてあった時になんか襲われてたな」

「あの時は邪魔が入ったが今回は逃がさない!」

「それはあっちのセリフじゃね? それだと俺がお前から見て邪魔者に聞こえるんだけど?」

「あれは逃げてるふりだったのよ! あそこから私の華麗な逆転劇が始まるとこだったの」

「んじゃ今度からは生暖かく見守ってるよ」

「ごめんなさい、助けてくれると喜びます」

「ほうほう、それはどんな感じで?」

「わーいありがとうお礼にパンツ見せてあげる」

「だから何でお前はパンツ見せたがるんだよ」

「亀仙人は喜ぶじゃん!」

「俺は亀仙人じゃねぇ!」

「でもパンチラは喜ぶじゃん」

「それはそれ」

「その言葉便利だね」

「すごいよな、んじゃま、さっさとご飯取ってこいよ」

「あいあいさー」

 トテトテと走って私の射程まで近づく。Lvも上がってスキルも上がり五〇メートルくらい離れても当たるようになった私は。

「くっくっく! こないだの私と思うなよ!〈ダブルシューット(Lv2)〉!」

 ふ、この手応えコレは当たるっ! くわっと開かれた目がテッテッテと走り去ったおっきなリスさんが居た場所にズガガッ!! っと刺さる矢を目撃する。

「あれ?」

「あれ? っじゃねーよ」

「でも私悪くないよ?」

「そうだな」

「じゃあアックスのせいだね」

「ソウデスネー」

「……ごめんなさい教えてください」

 ぺこりと頭を下げる私マジ良く出来た弟子。

「よく出来ました。お前が今まで倒してきた敵と何が違うか考えろ!」

「お花さんとリスさんのちがい……っは! もふもふ!」

「なんでやねん」

 ぺしっと頭を叩かれた。

「おかしいなぁ、叩かれたよ?」

「いやもうお腹空いてるんでギャグいいですから」

「もう、付き合い悪いなぁ」

「どっちかって言うと俺付き合いいいほうだと思うけど?」

「私もそう思う」

 ほんとよく付き合ってくれてると思う。

「あれでしょ! 動くんでしょ!」

「いやそんな、どう私凄い? みたいな顔で言われてもさ」

「かわいい?」

「だんだん自分に自信持ってきたなこいつ」

「えへへへ♪」

 頬を掻きつつ照れる私……多分数年ぶりだけどねこんな顔してるの。

「まあその通りで、今度の相手は動くわけだ、つまり相手の動きを読まないと当たらない」

「ほうほうどうやって読むの? スキル?」

「ん~どうなんだろな? そういうスキルもあるのかもしれないけど俺は知らない」

「む~今度調べてみる」

「そだな自分で調べるのがやっぱりいいよそっちの方がなんか楽しいしな」

「なんとなくわかるけど知ってる人から教えてもらうのも同じ気もするけどな」

「コレだからゆとりは」

「いやここ数十年教育関係は何も変わってない気がするんだけど」

「近頃の若いもんは」

「それって自分がもうおっさんって言ってるようなものよ?」

「通報内容女子高生がいじめるっと」

「さいてー」

「やめてそんな虫を見るような目で見ないで! 感じちゃう」

 はぁ、もう放っておこう。気を取りなおしてもう一度狙いを定める。……ん~っと、動くってことはつまり動く先に矢を打てばいいわけだからぁさっきの矢の速さがあの位だから、ん~ともうちょっと先かな……んで走って止まって走って。

 ……ここだ!

 〈ダブルシューット!〉パヒュっ!

 放たれた矢をじっと見つめる………ズガガっ! という音共に「キュー!」という断末魔が聞こえた。

「よっしゃあああ!!」

 どうよ見たかアックス!! ガッツポーズ付きで振り向いた私に彼はこういった。

「おースゴイスゴイんで戦闘モードの設定は?」

 ぁ……と思い振り向いだ先で我が宿敵は光の粒子となって私の経験値に変わっていった。

「ふ、私はウサギが食べたかったのよ? 知らなかったでしょ?」

「うん初耳だ、ウサギだけに」

 ウサミミかわいいよね。こほんと咳払いしてウサギさんを探す。程好く見つかるウサギさん

「よし君に決めた!」

 そう言って矢を番えようと……あれ?なんか随分近いなぁと今度はさっきとは逆に距離を取ろうとして。

「どこいくんだ?」

 アックスに止められた。

「いやさ、なんか近いなぁと思ってさ練習がてら遠くから打とうかなと」

「そか?さっきと同じくらいじゃないか?」

「え? でもあんなに近くに見えるよ?」

「ん? あーそっか近くで見たことないのか、ちょっとついてこいよ」

 手招きしつつアックスがウサギさんの方に近づいていく……大丈夫なのかな?

「近づいても大丈夫なの?」

「あいつはノンアクティブだから攻撃しない限りは襲ってこないの、さっきのリスもそうだけど」

 ほうほう、なるほどなるほど、りりぃおぼえた、ビシッ! と指差し確認。

「ってデカッ! 何これもふもふしたい」

「まあ小学生くらいのサイズあるからなぁ、あぁ触るなよ? 攻撃判定になるから」

 その言葉に若干顔を引くつかせつつ撫でようとしていた手を引っ込める。

「コレは凄いね最初にコレ見てたら思わず抱きついちゃってたかも」

「そしたら頭からかじられてたな」

 想像してみた……いくら痛みがない世界だといってもすっごいヤダなぁ。

「そういやサービス開始直後とかは結構女の子とかがかじられててなぁ」

 何やら遠い目をしてアックスが呟く。

「まあ過ぎたことは置いといてさくっと殺っちゃうか」

「そだね、ご飯だご飯」

「お前結構たくましいな、普通このもふもふしたのを間近でみたら女の子だったら“こんな可愛いの殺して食べるなんてできなーい”とか言うんじゃないの?」

「ぶりっ子でお腹は膨れないんだよアックス君」

「真理だな」

「悟ったのだよ」

「お前は一体何なんだ」

「なんだかんだと聞かれたら」

「答えてやるのが世の情け」

「いい奴らだよねR団」

「そうだよな親切だよな」

「そんじゃまぁご飯を確保しますか」

 言って私は距離を取るためにテケテケと走り出す、距離をとったところで振り向くと、ウサギさんの近くにアックスはまだ立っていた。

[何してるの?]

 叫ぶの面倒なのでぱーてぃちゃっとを使って聞いてみる。

[いやどうせ食材とりにここまで来るならここにいてもいいかなと]

[間違って当てちゃうかもよ?]

[信じてるよ相棒]

[良い言葉ね]

 相棒か……友達のほうがいいんだけどなぁと思いつつ弓を構える。視界に移るのはこっちを信じきった目で見つめるアックスと近くをピョコピョコ跳ねるでっかいウサギさん。

 

――信じてるよ相棒――


 その言葉を胸に矢を解き放つ。

 〈ダブルシューーット〉パシュッ! と放たれた矢を見ること無く私は相棒に確信のサムズアップを送るそれに彼がサムズアップを返そうとした時。

 ズガガッ!! っという音を立て獲物に矢が命中したグヒャアアアという二十八歳独身男性の悲痛な叫びとともに……いや痛くないか。

[俺の信頼を返せこのクソアマっ!]

[え? フリじゃないの?]

[お前は売れない芸人かよ!]

[おっかしいなぁ完璧な阿吽の呼吸だったと思うんだけど]

[俺もびっくりだよ! 俺の信じた相棒が芸人だったなんてな!]

[へいへいありがとうありがとう、んじゃウサギさん仕留めるよ~]

 気を取り直して弓を構える。なんかすっごい離れてるアックスが見える。

 も~そんなに信用ないかなぁと心でぶつぶつ愚痴りつつ、さすがにもう一回殺ったら怒られるかな、などとは考えたりもしたけれど流石の私もお腹空いたのでウサギさんに狙いを定める。

「ぴょんぴょんぴょん、ぴょんぴょんぴょん、なんとなくわかったかなぁ」

 頭の中でタイミングをとりつつ弓を引き絞る「ぴきゅーん! そこか!?」何やら頭の中で稲妻のような何かが閃いたことにして何故か疑問形で確信の言葉を放つ!

〈ダブルシューーット!〉パシュッ! っと放たれた矢を眺める。

「おーあったるっかなぁ、ぴょんぴょんぴょん、ぴょんぴょん、そこっ!」

 完璧の読みだった!ズガガッ!という効果音とキューという雄叫びとウサギさんがアクティブモードに切り替わったエフェクトが確認された……


「え?」

[お? 削りきれなかったみたいだなぁそっちいくぞー]

「[なんとおおおおおおおおおお!!!]」

[まあ後一発何でもいいから当てれば多分倒せるはずだから]

「[言うほど楽じゃない! あたれぇぇぇぇ!]」

 叫びつつ矢を連射するがこっちに向かってぴょんぴょんぴょん跳ねてくるためすっごく当てづらい…… 

[そういやレベル上がって範囲攻撃覚えてなかったか? ダメージ少なくて“何これ使えない”とか酷いこと言ってたヤツ]

「[あ! えっとえっと]」

 そう言えばなんかあった!確かスキル名は、名前を思い出しつつ狙いを定め叫びとともに解き放つ。

 〈サテライトアローーーーー!!(Lv1)〉

 ウサギさんの前方十数メートルに狙いをつけスキルを発動、それと同時に狙いは上空へと強制的に変更され放たれる一本の矢。だが私はその先は見ていない、回れ右をして全力で逃げる! そうコレが外れればウサギさんの餌になりかねないからだ! [お願いあたってえええ]と心で叫びつつ走り出した、数秒後ズガガガガガ!!!! と私の後方で着弾音が響いた――音とエフェクトはド派手なこのスキルは上空から十数本の矢が降り注ぐ範囲攻撃なのだけど一本一本の攻撃力は今のところ通常攻撃の四分の一くらいしか与えられない、何発も当たれば威力は高そうだけどランダムに降り注ぐ矢がそう上手い具合にあたってくれるはずもなくお花さんすら倒すのに一苦労する――やったか! と振り向いたその先には、ぽてっと倒れこんだウサギさんがいた。

「あたったぁぁぁ」

 そう言いつつその場にへたりこむ私。

[ご飯ゲットだぜー]

 脳天気な声が頭に響く。今なら殺意の波動に堕ちる格闘家の気持ちが理解できそうだった。 

「[人が死にかけたんだぞ!!!]」 

 怒りを露わにした私の叫びに。

[そういやお前まだ死んだこと無いんだっけ?]

 あ、そう言えば、みたいな軽い感じで変な返事が返ってくる。

「[えっと]」

「ん~いっぺん死んでみる?」

 ウサギさんを担いで近くまで戻ってきていたアックスの声が意味することが一瞬理解できずにウサギさんの亡骸を見つめてしまう。 

 

 

 

 もっきゅもっきゅと焼けたウサギさんのお肉を頬張りながら。

「この世界で死ぬとどんな感じなの?」

 と私が問う。

「ん~取り敢えずキャラはモンスターと一緒で消えちゃって意識は地縛霊みたいな感じで死んだ場所にふわふわ浮いてて蘇生アイテムとか蘇生スキルで起こしてもらうまでその場で待つか街の教会で復活するかだな」

 その問いに同じくもっきゅもっきゅとお肉を頬張りながらアックスが答える。

 時刻は昼過ぎ。あのあと近くの川まで移動して遅めのお昼ごはんとなった、お馬さんはなんかそこら辺の草をモリモリ食べてる。

「ふ~ん、そうなんだぁ痛みとかはないんだよね?」

「ないない、だからヒットポイントに気をつけてないとどんだけやばいのかがわかりづらいぞ」

 ほうほうと相槌を打ちながらなんかよくわからん飲み物で喉を潤す。しかしアックスが料理できるとは思わなかった。なんでも暇だったから料理スキルも上げてみた!(ドヤッ 訳:お友達が居ないんで一人寂しくゲームで料理してました(ドヤッ  すごく残念なやつである、まあ私的には良い人と巡り会えたもんだと思うホントに。たぶん私も暇つぶしの一環なんだろうなとちょっと寂しくもあるが。

「そんじゃさ、あたって砕けろってことでちょっと強そうなのに挑んでもいい? どうせ私が死んでもアックスなら一人で倒せるでしょ?」

「そだなパーティプレイの練習もしたいし俺も戦闘に参加してみるか」

「ぱーてぃプレイとな! それはどういうプレイ?」

「ん~俺達二人でだと、まず俺が敵の前衛系のヘイト稼いでってえっと注意を引き付ける訳だ」

 と私にわかりやすいように解説を始めてくれた、親切だなぁ流石歩くマニュアル(特典として簡単なお役立ち情報も完備)

「そんでお前は離れたところから相手の後衛、魔術師とかアーチャーとか僧侶系をべしべし射つわけだ」

 ほうほうと相槌を打ちながら質問をしてみる。

「はいアックス先生」

「なにかねリリィくん」

「重要度的にはどんな感じで射っていけばいいのでしょうか?」

「良い質問だねリリィくん、このゲームの魔法系は詠唱途中に攻撃して詠唱を上手く妨害できるとキャンセルされるから詠唱してる奴をまず射つといい、慣れてくるとまずは回復系のやつを優先して倒していく感じになってくるかな」

 なるほどなるほど、それで相手を回復させないようにするんだな。りりぃおぼえた、ビシッ! とアックスを指さす。

「たまにやってるそれは何だ?」

「おぼえたものの確認作業?」

「お前はゴミ捨て場出身か」

「失敬な出身で人を差別するのか」

「まあ簡単に言うとそんな感じだ他に質問は?」

「スルーされただと?」

「ないようなので授業は終わります」

「ありがとうございました~」

「んじゃいってみるかーっとその前に」

 何やらアックスがポチポチとメニューをいじったかと思うとアックスの腰の刀が安そうなものに変わる。と言うか今まで装備していたのと違い凄く偽物臭い感じになった。

「なにそれ、何で刀変えるの?」

「ん、俺が一撃で倒しちゃったら意味ないだろ、だからさっきついでに買っておいた安いヤツに変えたんだよ。まあコレでも本気で切ったら一撃なんだけどな」

「なるほどなー、て言うか力抜いたら威力変わるの?」

「変わるよ。弓だってそうだろ」

「あー、りりぃおぼえた」

 びしっと指差し確認。

「そんじゃ気を取り直してレッツゴー」

「おー!」

 日が傾きかけてきたので川べりでの食事兼講義を終え新たな課題へと取り組むべく私は大きな一歩を。

「どっちに行くの?」

 踏み出せなかった。

「阿蘇地方を目指すからあの森林というか何というかとにかくあの森だ!」

 ビシッ! と刺されたその方角には、森というか木の山? というかなんかよくわからないことになってる世界が広がってた。

「あの辺りって現実で言うとドコ辺なの」

「宮崎と熊本の中間だから高千穂とかそのあたりなんだろうけど、なんかもうよくわからない事になってるからなぁ」

「まあ実際あそこら辺ってよくわからないよね」

「お前は酷いこと言うな」

「私は正直に生きるのですよ」

「正直すぎるのは生きていくのが難しいぞ」

「いいもんお嫁さんになって三食昼寝付きの生活するもん」

「お前を嫁にする奴は大変だな」

「今なら予約できるかもよ?」

「まだだ俺はまだおっぱいを諦めたくはない!!」

「なんだろう今すごい失礼な断られ方した気がする」

「気のせいだろ」

 う~む結構いい物件な気もするのだけどなぁ、と私を嫁にもらうとついてくる特典を考える……お母さんが美人お家がちょっとお金持ち。あれ? 私ってひょっとして取り柄がないんじゃなかろうか? いやそんなはずは……そうだ! スレンダー! だがコレは諸刃の刃! などとうんうん唸ってると。

「お~し、このあたりから敵がちょっと強くなるから注意しろよ。まあそれでも全滅したりはしないからそこら辺は安心しろ」

「ん、わかった、お馬さんはどうするの?」

 私達の後ろをポクポクついてくるお馬さんを振り返りつつ聞いてみる。

「そいつは敵に襲われたりしないし勝手についてくるから大丈夫だ」

「ふむふむ、それじゃあいきますか」

 おー! と軽くコブシを振り上げ気合を入れて森へと踏み入れる、まだこのあたりは木もまばらでどちらかと言うと林と言ったほうが良いかもしれないがめんどくさいから森でいいと思う。

「へーすっごいねーってあれ? そう言えばセミ鳴いてないね?」

 朝の五月蝿いセミを思い出しながらそう問いかける。

「あー、ここの森はなんか神秘的な感じを出すためとか言って年中静かだよ」

「なるほどねぇ」

 言われてみるとシンと静まる森の感じが何やら緊張感を与えてくれる。

「それはそうとちょっとその木のあたりに立ってみてくれないか?」

「え、突然なに? 別にいいけどさ」

 と何やらアックスに頼まれる、なんだろな?

「こんな感じ?」

「そうそうそしてちょっと微笑む感じ、ん~ほら猫かぶってた時のスマイルスマイル」

 む、あのスマイルは意外と難しいのだぞ、それに気を許した相手に対して使うと非常にこっ恥ずかしいという悲しい特性もあるがまあいいか。

「こうかしら?」

 ふ、どうよこの鍛えぬかれた微笑! とアックスの方を見ると何やら真剣にこちらを見つつちょこちょこと場所を移動しながらたったり座ったり時には岩に登ったりする。というかいつまで私はこのままなのだ?

「何をしていらっしゃるのかしら? ってあんたすくりーんしょっと撮ってるわね!」

「ふ、当たり前じゃないか我ながら素晴らしい一枚が撮れたぞ」

 と何故かドヤ顔で言われた。私は溜息を吐きつつあることに気付く。

「はぁ~あ、さっきしゃがんでたのってまさかエッチな奴撮ってたんじゃないでしょうね!」

「お前の怒りのツボはどこなんだよ。何で自分では率先して見せようとするのに勝手に見ようとしたら怒るんだ?それに今回のはそう言うんじゃないよ、まあ落ちたらお前にも送っておいてやるから見てみろよ、なかなか凄いぜ」

「何が凄いんだか。はぁ、もういいわ、さっさと行くわよ」

 諦めと呆れを織り交ぜた溜息をひとつ吐き私は北の方を目指す……が。

[ストップ]

 なにやら呼び止められる。

[何故この距離でぱーてぃちゃっと?]

 そう訝しんだ私にアックスはやや斜め前方指差し動作だけで支持を出す。

[む~あっちを見ろと……お?]

 何やら人っぽい? のが数人動いている。更に目を凝らすとスキル補正がかかりはっきりと〈Lv20ソルジャー・ゴブリン〉と見えるしかもマーカーはアクティブを示していた。

[何あれ何あれ!?]

[いや見ての通りのファンタジーにお約束のゴブリンだけど]

[そうなんだろうけどさ、それにしても凄いねキモイね怖いね!]

[その割には楽しそうだな]

[まあねーやっぱこれぞファンタジーって感じだしね!]

[んじゃまあ俺が引き付けるからアイツらのタゲ、あー目標が俺になったら合図出すからそしたら後ろの〈アーチャー・ゴブリン〉からまず倒して行け]

[おーけー! あれ? でも私死んでみるんじゃなかったっけ?]

[意気揚々と死ぬなよな……まあ多分タゲがそっちにそれたりしたら死ぬだろ]

[ほほう、それは楽しみだな]

[楽しみなのかい]

[おー!]

[んじゃ行くぞ俺が引きつけたらなるべく敵に見つからない所から攻撃しろよ]

[あいあいさー]

 そう言いながらアックスがダッシュしていくんだけど、何あの速さキモいんですけど。そんなこんなであっという間に敵の前に到達するアックスそして。

「ウォオオオオオオオオ!!」

 と吠えた……どうやらアレはスキルらしく敵の注意が全てアックスに集中する。

[今だ撃ちまくれ]

[さーいえっさー!]

 既に狙いをつけていたため素早くスキルを放つ。

〈ダブルシュート〉囁くようにスキルを発動する、パシュッ! と放たれる矢は放物線を描いて〈Lv19アーチャー・ゴブリン〉へと突き刺さる、うむ相手も弓使いなだけあって全然動かないしコレはウサギさんより楽だぞ。と次々に矢を放つ。何度目かの攻撃の後に断末魔を上げながら光の粒に変わる敵が見えたのと同時に私のレベルが二個ほど上がった。

[おぉおめ~]

[ありがと!]

 などとのんきに言葉をかわしつつ次の目標に視線を向ける私に

[次はこの右のソルジャーをいってみようか]

 アックスは難しそうなことを言ってくる。

[でもそんなに動いてると当たんないよ、それにあんたに当たっちゃう]

 アックスに当たったとしてもダメージ自体はないのだが“のっくばっく”とかいう衝撃のような物が発生し体制を崩してしまう為敵の攻撃を受けやすくなってしまう、ってばっちゃ(アックス)が言ってた。

[大丈夫、俺が今から隙を作るから俺の合図に合わせろ]

[わかった]

 何をやるのかは良くわからないが私はじっと敵とアックスを見つめ弓を引き絞る……その時ずっと敵の攻撃をかわしていたアックスが刀を下段に構え。

[今だっ!]

 そう叫んだ。

〈ダブルシューット!〉すかさずさっきLvの上がったスキルを解き放つ。そして見た、アックスの下段から振り上げる剣がゴブリンの上段から振り下ろされる曲刀を弾き返し一瞬ゴブリンの動きを止め、そこにズガガッ! と私の放った矢が命中するのを。

[ナイス!]

[おおう、私ってやれば出来る子?]

[はいはい出来る子出来る子、んじゃ今の要領で色々試すぞ]

[りょうかーい]

 そうのんきに答えた私の耳にガササっと何やら音が聞こえる。とっさに振り返れば……奴がいた〈Lv20ソルジャー・ゴブリン〉どうやら他にもいたようだ。

[うわーいこっちにもソルジャーでてきた]

[それはご愁傷様です]

[やっぱ無理ですかね]

[意外と早かったな]

[私が死んでも代わりはいるもの]

[さよなら~]

 そんなアックスの全く心のこもってないお別れの挨拶を聞きながら果敢にゴブリンに立ち向かう私。

「[よっしゃーどんとこーい、だがただではやらせはせん! やらせはせんぞっ!!]」

 隠れてる必要がなくなったので色々叫びつつ軽やかに逃げながらぺしぺしと矢を射ち込んでいたがいかんせんLvが10近く違うわけで……ゴブリンが振り上げた曲刀が私を襲う、おおう痛みがないとはいえ痛そうだななどと考えていた私の目に断ち切られた私の左腕が見えた時。

「いやぁああああああああああああああああっ!」

 絶叫が森に響いた……



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