くえすと3 レッツゴーお買い物!
「こんにちは~」
あれからしばらく北上しつつお花さん達各種を倒してきた私達は少し大きな街にたどり着いた。街の名前をアックスに聞いたところ「自分で街の人に聞けば? そっちの方が楽しいだろ」との事、そんな訳で私は街の外れに一人ぽつんと佇むお姉さんに声をかけようと近づく、というかこんな街外れに一人佇むお姉さん、一体彼女に何があったのだろう。後からアックスに聞いたところ「RPGとはそういうものだ!」とのこと。
「こんにちは~ようこそ薩摩の街へ」
何のひねりもないのかよ。と心のなかでツッコミつつも。
「どこか美味しいものが食べれるお店はないですか?」
と本題を聞く。まあそのなんだ、お腹がすいたのだ! 何やら最近のゲームとやらは時間が経つとお腹が空くらしいのだ、お腹が空いて攻撃力が落ちたりとかは無いらしい。ただ感覚的にお腹が空く、ひたすらにお腹が空く……
「それだったらこの道をまっすぐ行った突き当りに美味しい食堂がありますよ」
「おー! ありがとうございます!」
さあいざ征かん! と一歩を踏み出そうとした時にアックスが居ないことに気づいた。あれれ迷子? しかたないなぁとぱーてぃちゃっとモードになっているか確認をして。
[おーい迷子の子猫ちゃ~んどこですか~?]
「いやここだけど?」
突然後ろから声がした。
「うひょっは~!! びっくりしたー」
「そんなにびっくりせんでも……」
「半分はあんたの顔のせいだから」
「酷い言われようだな」
「んでどこに行ってたのよ」
「あ~これ買ってきたんだよ」
ぽいっと投げ渡された物を掴んで広げる。おーなんかフード付きの服だ。
「え、何これくれるの?」
「おう」
「わ~い、もう返さないよ?」
「いや頑張ったご褒美だよ」
「ありがと! 初めて男の人からプレゼントもらったよ~」
えへへ~と嬉しがってると何やらアックスが居心地悪そうだった。まさか私キモい?
「と、取り敢えずそれに着替えてこい。そこの店の試着ルーム使えるから」
顔を反らしながらそんな事を言われた。おかしいなぁさっきは可愛いって言ってくれてた気もするんだけどなぁと、ちょっとどんよりしながら着替えに向かう私の後ろで。
「あんな顔直視できるか…」
何やらアックスがブツブツ言っていたが街の喧騒で聞き取れなかった。
ジャジャーン! とお着替えが終わって登場した私に。
「おー似合う似合う可愛い可愛い。だからこれかぶっとけ」
ゴフっという音とともにフードが被せられた。ふぇ……可愛いって言ってくれたのにぃ、と涙目でアックスを見上げる。
「そんなへの字口をするな別にお前の顔を見たくないとかじゃなくてその、つまりだお前の顔は目立つんだよ、わかるな」
「なにげに酷いこと言われてるのは分かった……ぐすん」
「いやだから、あぁ、もうとにかく街の中ではコレ被ってるんだぞ? いいな」
「うん、わかったぁ……ぐすん」
「なんでも食べていいから泣き止みなさい……」
「マジデ! 嘘ついたら運営に通報するからね!」
「お前ホントわからんやつだな」
涙も鼻水も消えルンルン気分で食堂を目指す! いざ征かん美味しいご飯へ! ちなみにロングポニテはどうなってるかというとさっぱりなくなってしまっていた。どうやらフードや兜をかぶると特殊な物以外は髪はしまわれるというか無くなってしまうみたいだ。アックス曰く「まあRPGの伝統的手法だなぁ」と言っていた、あとフードは勝手に脱げたりはしないそうだ。フード等を触ったりできるのはぱーてぃメンバーだけらしい。
カランカラン♪ と音を立てるドアをくぐり抜けるとそこは。
「ごっはん♪ ごっはん♪」
美味しそうな香りでいっぱいだった♪
「おかしいなぁ俺の女子高生のイメージがどんどん崩れていく」
「そんな物はどうでもいいからさっさと席に着こうよ♪」
「へいへい」
近くの席に着きながらアックスを急かす、そこで気づいた。
「ねぇ、メニューってどうやって見るの?」
そうメニューの見かたがわからない、現実では自分の端末をお店のローカルネットに接続してそこからメニューを読み取り注文するという方式なのだけど当然ここにはそんな物はない。
「メニュー? あぁそれならっと、おねぇさ~ん!」
おい何お姉さんに声かけてるんだコレがナンパというやつか! とギョッとしたが呼ばれたお姉さんはと言うと。
「は~い少々お待ちを~」とてとて「おまたせしました~」
にこにこ笑顔でやってきた。何がどうなっているのだ!? っは! まさかコレが伝説の“ウエイトレスさん”というやつか! 説明しよう何故私がこんなにも驚いているかというとあんまりウエイトレスさんが居るお店に行ったことがないからだ! と言うか最近ウエイトレスさんが居るお店も減ってきているようだけどね。
「んで、どれ食べるの?」
「ほえ? あ~、うんえ~と」
若干フリーズしかかった私の脳を再起動させつつ『Menu』と書かれた物をガバッと開く。
「………」
がっでむ! 書いてあることが理解できない。字自体は普通に日本語だ、だが食材が何を表してるのかが理解できない、それに値段も良くわからない……大体〈フライングマウスカツの香味ソース添8000マニー〉ってもう何から突っ込んで良いのかわからない。ちなみに今の私の所持金はお花さんをいっぱい倒したけど1000マニー、この店の一番安いのが薩摩の天然水100マニーだ。さすがの私でも凄く高そうなものを勝手に頼むのは気が引けるし、そもそもどんな物かわからないものを頼む勇気がない。等と考えていたら。
「んじゃ俺は今日のおすすめを一つとそれに合う飲み物も一つ、んでお前何にする?」
何やらもう決めてらっしゃるし注文してやがる……
「えっと、う~んと、あ、アックスと一緒のでいい!」
「ん? あ~そっか、まあいっか、んじゃ今の2つづつで」
「はい! かしこまりました~今日のおすすめ二つに良い感じのドリンクですね」
と元気に復唱してウエイトレスさんは消えていった。ふぅいい汗かいたぜ。
「あ~ごめんごめん、どんな料理かがわかんなかったんだろ?」
「え? あ、うん」
何やら察したアックスが気遣ってくれたが、もうちょっと早く気付け! だから独身なんだよ! などとはさすがに叫ばない。ご飯の時は静かにと昔から躾けられてるのでそれはどこに行っても染み付いている。ただ食べてる時のお行儀は決して良くはない……なんでだろ。
「まあ食えない料理は出てこないから適当でいいと思うよ」
「つまり、あんたもよくわからないだけでしょアックス」
「ハハハハハそうとも言う」
はぁ、なんだろなぁ。
「そういや何かこの店の料理高いけどお金は大丈夫なの? てかさっきの料理っていくらなの?」
「ん、高いかな? え~と今日のおすすめはっと20kって書いてあるな」
「へ? kって千って意味だよね? ってことは2万マニーってこと!?」
「そだよー」
などと平然と言われた。あれか! 後から体で払ってもらうぜ! ゲヘヘとかいう展開か! 信じた私が馬鹿だったぁあああああ……いやまてよ?
「あのさ、いまお金いくら持ってるの?」
「おかねー? えっと」
とメニューウインドウを開いて数えている。
「手持ちは20Mちょいだなーあとは口座に200Mくらいかな? それがどうs「もういい黙れ」なにそれ酷い」
くそう余計なことを考えた私が馬鹿だった! なんだよ二〇Mってつまり二千万ってことだろ? はぁ、なんだそれふざけてるの?
「あのう何で怒ってるんでしょうか?」
「怒ってなどいませんわ、おほほほほ」
「おかしいどこかで選択肢を間違えたようだ」
何やらアックスがブツブツ言ってるが放おっておくことにした私は料理を待ちながらあたりを見回してみる。
周りには私達と同じ円卓というかなんというか丸いテーブルを二~四人づつで囲んで談笑したりひそひそ話をしたりしながらプレイヤー達がご飯を食べていた。
「そういやこんなにプレイヤーがいる場所はお前初めてだろ」
キョロキョロしていた私に気づいたのかアックスが聞いてきた。
「て言うかアックス以外のプレイヤー見たのも初めてよ」
「なるほどなぁまあそうじゃないかと思ってたけどさ」
「む! なんか引っ掛かる言い方ね、理由を聞いてもいいかな? かな?」
言葉に若干の刺を込めながら私は聞いいてみた。
「そのフードにも関係するけどさ、お前って人目を引きすぎるんだよ、だから俺と会う前に他にプレイヤーに出会ってたら絶対に一人じゃなかっただろうしな」
ん? と良くわからなかったので小首を傾げる、すると私の上のエモを見ながら。
「何でそこで不思議がるのかわからないけど昨日から言ってるだろお前は可愛いって、だからだよ」
おおう、真顔で何やら凄いことを言われた気がするぞ? でもその割には凄くぞんざいな扱われ方してる気もするんだけど? っは! あれか漫画とかでよくある可愛い子を見ると苛めたく成るってやつか! そうに違いないそうだそうだ。
「ふふ~んなるほどねぇ、そういうわけかぁつまりアックスは私を他の人に取られたくないからフードで隠してるわけだな」
と優越感に浸りつつほくそ笑む。
「いや、別に俺はお前が他の誰かと一緒にいたいって言うなら止めはしないけど。でも、えーとなんだその、お前が嫌な思いをしたりする物からは守ってあげたいというか、えーとなにいってんだ俺」
と机に突っ伏したアックスを見ながら、良い人なんだなぁと思う反面何か恥ずかしくなってきた。
「別にあんたと居たいわけじゃないけど一緒にいると便利だから当分は一緒にいてあげるわ」
自分でも頬が赤くなってるのを感じながら呟きを聞いたアックスが顔を上げつつ。
「ツンデレキター?」
ぼっ! と一瞬で顔が紅くなったのがわかる。
「っな!なにをいっt「お待ちどう様です~♪」
私の反論は遮られ口をパクパクさせながらウエイトレスさんをみる……そこで初めて気づく。
「あれ? ひょっとしてプレイヤーさんですか?」
そう、ウエイトレスさんにはNPCマーカーがなかったのだ。
「はいそうですよー」
「え、でも何で? ゲームの中で働いてるの?」
「ん、ひょっとして初心者さんかな?」
とアックスの方を確認するようにウエイトレスさんが見る。
「そそ、今日というか昨日から、しかもゲームも初心者という変わり者」
「へーまた随分と不思議なタイミングだね、発売日からも結構たってるし」
まだ一週間位だったような? と思ったが。
「まあもうこっちは五週間たったからなぁ正式サービスから」
「そうそう、だからここら辺って人減っちゃったんだよねぇ、みんな都会の方に行っちゃったからねぇ」
「そうそう、だからあとは俺みたいにやってないクエストやりにきてるやつとかだけだろうなぁ」
「えーと人があんまり居ないってのは解ったのですけど、それで何で働いてるのですか?」
「あーそうだったね、ん~なんて言うかウエイトレスをやってみたかったっから?」
「え、それだけ?」
「だってリアルだともうこんな感じのウエイトレスの仕事なんて全然ないじゃない、だったらコッチでやってみよっかなぁって」
「な、なるほど」
「まあ、そんな感じかなぁ、それじゃ私まだ仕事あるから、ごゆっくり~」
トテトテと他のお客さんに呼ばれて去っていくウエイトレスさんのひらひらの服を見て。
「もぎゅもぎゅ。おい、まさかやってみたいなぁとか思ってんじゃないだろうな」
何やら頬張りつつアックスが私の思考を代弁した。
「貴様! さてはエスパーだな!」
「いや誰でもわかるだろ。てか俺はさっき言ったよなお前は目立つって」
「えーでもちょっとくらいなら」
「別にやってもいいぞ但し俺はもうお前には関わらない」
と何やらシュワシュワ言ってる黄緑色の液体を飲みながら仏頂面で言われた。
「う~ケチいいじゃん少しくらいなら、いっただっきまーす……もぐもぐ、おぉ! コレ美味しいね」
「いやケチとかじゃないんだけど……」
ふぇ? ケチとかじゃないのか。まあ正直ご飯が美味しくてどうでも良くなっていたのだけど食べてるお肉が何の肉かちょっと気になり聞いてみた。
「ねぇこれって何の肉?」
そう聞いた私に何やら神妙な顔つきでアックスが答える。
「いいことを教えてやろう俺はどこに行ってもおすすめ料理といって料理を注文する」
おうふ。何やらこう深淵の底を覗いた感じがしたけどまあ美味しいからいいや。それでこのベリー系の味がするシュワシュワいってる黄緑の液体は一体なんだろうな……
もしゃもしゃごっくんと最後の“何かの欠片の焼かれたもの”を飲み込んだ私は。
「おいしかったぁごちそうさまです」
と挨拶をしてアックスの方を見た、アックスはもう食べ終わっておりもしゃもしゃ食べてる私をボケ~と眺めていたのだが。
「人の食べてるとこ見て楽しかった?」
「ん? いや~小動物みたいで可愛いなぁと」
「ほう、どの部分が小動物みたいだと?」
「お前はどうして自分で傷を抉るんだ?」
「趣味?」
「変態さんがいる」
うーむ、変態扱いされた。しかしなんでだろうな被害妄想が激しいのかなぁ。そんな感じで悩んでる私に。
「さっきケチって言ってたよな」
という声が聞こえた、そういえば言ったなぁと思ってると。
「んじゃちょっとだけフードとってみ? そうだなぁ席をたってフードを取ってそのままくるっと回って出口に小走りでテッテケテーって感じで外に出たらすぐに被れ」
え~なにその変質者的な動き。
「え~それ怪しくない? なんでクルッと回るの?」
「いいからその時皆の顔見てみろ面白いから、あとメニューの設定のとこにスクリーンショット撮影の欄があるからそこがちゃんとパーティーのみに許可になってるか確認してからな」
「すくりーんしょっと?」
「簡単に言うと写真を撮るみたいな感じだよ見てる物を保存できるんだ」
「なんでぱーてぃだけ許可?」
「え? お前見ず知らずのやつに自分の写真眺められて興奮する変態さんなの?」
想像してみた……気持ち悪かった、アイドルって凄いなと思った。
「ごめんすっごいヤダ……でもぱーてぃってことはあんたは撮れるんじゃないの?」
「いや別に俺は撮らないよ」
「なんでよ!」
「なんでソコで怒るのかはわからんが、だってこっちに来たらいつもじゃないけど普通に会えるじゃん俺は」
「そ、そだね……」
しかたないなぁ会ってあげよう
「設定終わったか?」
「え? あ。うん終わった」
「んじゃいくかー」
よっこいせと立ち上がったアックスに続いて立ち上がりフードを取る。ワサワサと出現したロングポニテが翻り周囲がどよめいた気がする、なんだろ? と振り返ったのが丁度クルッと回ったように見えなくもないのだが私的には普通に振り返ったら他のお客がポカーンとコッチを見て止まっていた。ん? と思ったが取り敢えず言われたとおりに出口に向かう。
「あ、ごちそうさまでした美味しかったです」
途中にさっきのウエイトレスさんがいたので挨拶をする。
「え、あれ? さっきの? あれ? え?」
と、良くわからない答えが帰ってきたがアックスがテクテクと速度を緩めずに歩くので「また来ますね」と言ってトテトテと小走りに外にでた。途端に路地裏に連れ込まる。
「うひゃぁなになになにっ! ぶふぉッ!」
フードを無理やり被せられた。
「にゃにをするかっ! この変態!」
がるるっ! っと噛みつかんばかりに唸る私をほっぽり出し通りの角から食堂の入り口を除いている。ウサギさんはね、寂しいと死んじゃうんだよ? と言う私の震える視線を送るが全く気づいてもらえず渋々アックスの横から私も覗きつつ尋ねる。
「何が見えるの?」
何気なく聞いたその言葉に何やら小難しい答えが帰ってきた。
「男の悲しい性」
サガ? 探さないとわからない県? 正直良くわかんないけどソコから見える光景は。
「さっきのエルフみたいな女の子は何処行った!?」「あれはNPCなのか?」「いや普通に飯食ってたぞ!」「くそっ! スクショ撮れなかった!」「あんな奴今まで何で晒されなかったんだ!」などと良くわからない事を叫んでる男たちがいた……なんか怖い。
「どうだ? まだフード外したいか?」
「いやこのままでいい」
フードを深々と被る。まあオンオフしかできないので深さは変わらないんだけどね。そのフードをぽふぽふと叩きつつ。
「まあ、それ被ってれば大丈夫だよ」
「うん」
ガランガランと扉に着いた鐘が鳴り響く。
ご飯を食べて小一時間街の中を観光して回った私達――主に私がはしゃぎまわっていた――は私の弓を新調しようと武器屋にやってきた。最初はプレイヤーが開いている露店やオークション等を見て回ったのだが弓なんて殆ど売ってなかった。売っていた奴も値段は高くはないらしいのだが――あくまでアックスの感覚でだけど――まあLv一〇程度の私が装備できるものがなかったので結局NPCのお店にやってくることになった。
「いらっしゃいませ」
NPCの店主に軽く挨拶して早速弓を見せてもらうが。
「種類無いね……」
「まあ弓だしな」
「じゃあ君に決めた!」
「いや一種類しかないじゃん」
「買うか買わないかを決めたんだよ!」
「さいですか」
「さいです」
テンプレート道理の言葉を交わしながら店主にお金を払おうとして。
「ふぇ……お金足りない」
「なんでやねん!」
ビシィ! とツッコミが来た。
「いやこいつな1500マニーするねん、でもなうち1000マニーしかもってないんよ」
「お前はいつからエセ関西人なんだよ」
「生まれも育ちも福岡ですたい! 山笠があるけん博多たい! 行ったこと無いけど」
「あれ昔幼女も褌で参加したらしいぞ」
変態だ変態がいる、そんな目をフードで隠しジリジリとアックスから離れる。
「ほう、その態度は何だね? せっかく買って上げようかと思ったのに」
「何のことでしょうかご主人様どうか犬と呼んでください」
「ほれ犬装備するが良い」
「ありがとうございますわん」
そう言いながら装備タブを開きメイン武器のところにセットする。
ガシャっという音と共に背中に新しい弓矢がセットされた。
「くくく! コレが手に入ればもうお前などに用はない!」
「そなの? あっちで他の服とか靴も新調しようと思ったけど?」
「お供致しますわんご主人様」
「おまえってプライドはないのか」
「ご主人様プライドではお腹は膨れませんわん、とお父さんが言ってたわん」
「お前の親父も凄いな。何やってる人なの?」
「ん~会社の専務?」
「すげーな」
「すげーだろ?」
「親父さんがな」
「そんな事いいからさっさと服を買いに行くわん」
一応私も女の子なので着るものには興味が尽きない。だがお嬢様ちっくなドレスとか何かキラキラした服とかは何故か好きになれない、なんていうかシンプルなのが好きなのだウニクロいいよねウニクロ。そんなことを考えつつトテトテと向かいのお店にダイブすると色々なものが並んでいた。だがしかし。
「ジャギ? あっちはラオウ?」
そう、どうみても世紀末の救世主が闊歩する世界に好まれそうなヘルメット? が並んでいたかと思えば。
「コスプレ衣装?」
そうどう見ても往年の名作アニメの衣装と思われるものが並んでいた。
「どう? 何か気に入ったのあったか?」
「あなた一体私にどういうものを着て欲しいと思ってるのアックス」
「え? あ~壁に飾ってあるのはあくまで見栄えのいいというかネタになるものというか、当り障りのないのは店主に話しかけるとウインドウで選べるぞ」
「そういう事は先に言いなさいよ」
ブツブツ言いながらも私はニコニコと私達を眺めていた店主さんに声をかける。
「すいません私が装備できる服ってどんなのがありますか?」
「はい、こちらになります」と流石ゲーム世界サクッと私が着れるLvの服が表示される。
「おお、凄いいっぱいある! スカートもあるのかー! ほうほう下着もあるではないか! ねぇねぇアックス~縞々は青と赤どっちが好き~?」
とラオウの兜を被ってポーズとってるアックスに聞いてみた。うぁほんとに山賊のお頭(よわそう)にしか見えない。
「お前は何を言ってるんだ?」
「え? なにって服を選んでるんだけど?
「縞々の服なんて装備してるヤツいたっけかなぁ?」
「普通に売ってるけど見たこと無いの?」
「あ~自分のキャラで装備できるものしか一覧には表示されないんだよ、もしくはメニューウインドウみたいに他プレイヤーに見えるようにもできるけどな」
「へ~そうなんだぁ、見てみる?」
「いいのか?女の子装備ってなんか派手なのとかもうそれ男装備でいいじゃんっていうのしか見たこと無いからちょっと興味あるし」
どれどれと可視化したウインドウに顔を近づけたアックスに。
「んでコレとコレどっちの縞々が良い?」
「ん~どれどr……」
「何その“もうおまえ死んだほうがいいよ?”て顔」
「いや違う“ダメだこいつもう諦めよう”だ」
「おかしいな生きてていい筈なのに更に残念な感じがするよ?」
「きっと気のせいだ」
「そか」
「うむ」
「んでどっちがいい?」
「青だな」
「青か」
「常識だな」
「そうだな」
「ニーソもあるよ」
「ニーソか……先にスカートを選ばないか?」
「その心は?」
「絶対領域とはスカートとソックスの絶妙なバランスにあると俺は常日頃から「だから結婚できないんだね」そんなばかなっ!」
何が「そんなばかな」なのかが解らないがまあスカート関係の言ってることはわかるのでトータルバランスで考えて見ることにする。試着が出来ると言うことなのでリストからいくつか選ぶといそいそと試着ルームに向かう。
「ちょっと待ってなさい私の華麗なコーディネートというものを見せてやるわ」
「おーあんまり期待しないで期待しとく」
どっちだよおい! と思いつつ『試着ルーム』と書かれたポータルと呼ばれる転送装置――青みがかった透明な円柱の柱――に入ると全面鏡張りの部屋に出た、おー、と周りを見渡しておかしなことに気づいた“鏡像が全面にひとりずつしか居ない”まあ確かにいっぱい写っててもわかりづらいしね。そんなこんなで画面をスクロールさせたりタブを操作して様々な装備品の中から私の琴線を刺激する素敵な服を選びだす。ふふふ、我ながら素晴らしい! この絶妙のバランス! コレでアックスも一撃死よ!
下着を含めた装備一式を着替えた私は素顔のまま外に出るのはどうだろうと思いぱーてぃちゃっとで呼びかける。
[だーりん着替え終わったわよ、ちょっと見に中に入っておいで]
[ハニー待ちくたびれたよ、それと気持ち悪いからダーリンはやめてくれないかい]
[うん、たしかに気持ち悪いな]
などと話してると目の前にアックスが現れる、どうやらぱーてぃメンバーは無条件で入れるようだ。
「ふふ~んどうよ私のセンス」
「お前さウニクロ好きだろ」
「え、わかる?」
「いやまんまそんな感じだもん」
「えへへ~てれるなぁ」
「いやあんまり褒めたつもりはないんだけどさ」
「なんでさ!」
「いやさ~ウニクロはたしかに俺も好きだよ? でもさここはファンタジーゲームの世界だぜ? 剣と魔法の世界でウニクロはないだろ?」
「くそ! 正論すぎて反論できない!」
「ふ、伊達に二十数年ゲームはやってないさ」
「いや、そんなドヤ顔されても、ただのゲームオタクってだけじゃん」
「なんかたまに酷いなお前」
「そかな? いつも酷いこと言ってる気がするけど」
そう言って小首を傾げる私。
「もういいよ、取り敢えずこんな事もあろうかと俺が適当に見繕っといたからコレ着てみ」
何やら服の山を手渡された。
「んーわかったぁ」
ぽちぽちと装備を変え始めた私に背を向け。
「俺がっ!! 外にっ!! 出るまで!! まって!!!」
と何やら叫びつつバタバタとポータルに飛び込む独身男がいた。
「ん~良い人なんだけどなぁ何で独身なんだろ? まあなんとなくわかるけど」
ぽちぽちと装備を変更しつつ呟いた私の指が止まる。
[へろーへろーゴミムシくんちょっとこっち来て貰えないでしょうか?]
[な、なにかなマイスイートエンジェル……なんか怖いけど?]
みょーんと現れたアックスに。
「コレは一体どういうファンタジー世界なの?」
問うてみた。
「ふ、オンラインRPG定番のコラボ衣装ものだよ! 素晴らしいな旧世代のアイドル衣装というものは! そしてやはりお前にはこういうのもよく似合うな! 俺の見立ては間違いなかった!」
「なんだろう褒められてるんだけど何か釈然としない気もする。まあ確かに可愛いけどさぁこのチェック柄の上下とかスカートとニーソの絶妙のバランスとかさぁ」
くるくると回ったりしてると隣でアックスがすごい形相で睨んでた。
「あんたまさか、すくりーんしょっとか言う奴撮ってないでしょうね」
「ふ、何を言ってるんだね撮らないわけがないじゃないかっ!」
「……はぁまあいいけどさぁ変な事に使わないでよ?」
「へ、変なことって何かな?」
なにやら凄い動揺したアックスが聞いてくる。
「ん~ほら掲示板とかに貼ったり?」
「そ、そんな事はしないしない」
何やら安心してるみたいだ。
「まあ一人で使う分にはいいけどさぁさすがにコレはどうよ?」
「っちょ! 何も使わないぞ! ほ、ほんとだぞ? ふぅ、あぶないあぶない。んでなんだっけ? あぁこれはただ俺が見たかっただk「死ねこの変態、変態、変態」なんだろう何かに目覚めそうだ」
おおう、今背筋がゾワッとした気がする、何これVR凄い。
「気を取り直してこんなのでいいんじゃね?」
凄い切り替えの早さだなこいつ、などと感心しながらアックスの手元を見るとさっきより少ない服の山があった。
「はぁ、今度変なの着せたら通報するわよ」
「大丈夫だって、お前の信じる俺を信じろ」
「何処にいるのよ私の信じてる俺って?」
「俺は! ここにいる!」
「着替えるよ」
「まてまて今出ていく!」
みょーんと消えていく後ろ姿を眺めつつ。
「はぁ……信じてはいるんだけどなぁ。まあ毒を食らわば皿までって感じかなぁ」
色々諦めつつぽちぽちと装備を変更する。
「ほほう、なるほど確かに可愛いなコレは、ちゃんとフード付きとはいろいろ考えてるなぁ」
色は全体的に薄茶色で胸の下で切ったような上着、下はひざ上のひらひらしたスカートに黒ニーハイに服に合わせた色合いの薄茶色のショートブーツだった。ほうほうとひとしきり感心しもう一度アックスを呼ぶ。
「おーさすがはリリィだな、何着ても似合うなぁ。ちょっと残念だけど」
「何が残念かはあえて聞かないけど私にかかればこのくらい当然よ!」
「さすがスレンダーさには自信があるだけあるな。もうちょっと肉付きよくてもいいのにな」
「つう☆ほう」
「可愛く言うな逆に怖い」
「それにしてもあんたにしちゃ可愛いわねコレ」
「ふふん。その昔のネトゲのハンターの衣装をアレンジした服なんだぜ! スカートは俺の趣味だけど」
「それはパクリって……まあいいけどさ、スカートはあんたの趣味なんだ」
ふ~んとひらひらのスカートをつまんだりくるくる回ってみるとまたもやすごい形相でアックスが立っていた。
「また撮ってるの?」
「おうよ! 浪漫だからな」
「んー男はよくわからんなぁ。下着も撮る?」
などと言ってみたのだが。
「お前は何もわかっていない! ふとした時に見えるのが良いのであって露骨に見せていたらそれはもう水着ではないか!」
なぜか凄いオーバーアクション付きで怒られた。凄いとオーバーが被ってるけど気にしないくらいに凄いオーバーな感じだった。
「その理論だと堂々と着替えるのはオッケーってことじゃないのかな? アックスくん」
と言うと。
「あ、あれはだなそのなんて言うか……こう」
ふむ。こいつはやはり童貞だ。
「はいはい紳士紳士」
「そう! 紳士なんだよジェントルマンなんだよ」
「ただし変態という名のね」
もうそれでいいです、としょんぼりしつつポータルから店内へともどるアックスに続き私もフードをかぶりつつポータルの光りに包まれる。
店内に戻った私たちはNPC店主さんにお金を払い外に出る。おおう足元がスースーするぞ!
「おおう、足元涼しい」
「あぁ、あんまり暑いのと冷たいのは遮断されるけど風が吹いて涼しいとかは環境音の分類みたいで服装によって再現されるぞ」
顔とかにも普通に風あたってただろ? といわれ今更ながらに気づいた、そうセミが泣いてるってことは夏の設定らしく木は生い茂っていかにも夏って感じの雲とかも見えるけど体感的にはちょっとあったかい程度で風が気持ちいいな、と思っていたがそんな事になっていたとは、原理は全くよくわからんけどな!
「だから俺のこの服も見た目ほど酷くはないんだぜ?」
と山賊ルックなボロ雑巾のような服をつまみながら言うアックスさん二十八歳独身童貞。
「あのさぁ、あんたもうちょっとまともな装備ないの?」
「何を言うこの素晴らしい装備を!」
「せくはら?」
「だから、コレはだな高レベルダンジョンでも通用する様々な耐性が付与された由緒正しい「ボロ雑巾」ちがーーーーう!」
「え~でもぉわたしぃかっこいい騎士様みたいな人と一緒に歩きたいなぁ」
「他をあたりなさい」
スタスタと歩き去られた。なぜだ一考すらされなかったっ! おかしいお父さんには偶に聞いていた私の必殺【おねだりあたっく】なのにっ! まあ、あんまり効果ないんだけどね。
む~、と唸りつつ去りゆく背中をやっぱり山賊にしか見えないよなぁと思いつつトテトテと追いかけ横に並び黙々と歩く。
「はぁ、お前の求める騎士様ってどんなやつだよ」
ふ、勝ったな! にぱぁっと満面の笑顔でアックスの顔を見上げる、もちろんフードをかぶっているためほとんど口しか見えていないアックスにどう見えるかは置いといて。
「白馬の王子様っ!」
「お前変なところは乙女チックだよな。ふ、流石処女だな」
「心も体も清廉潔白!」
胸を張って答えた私に。
「なんかごめんなさい」
「え、何で私謝られてるの?」
何故か顔を逸らして謝られた……何でだってばよ?
「まあ次の小屋についたら倉庫から何か探してやるよ」
「え? ほんとに! わーい王子様っ王子様っ!」
「いやそれは無理だってば」
何やら聞こえるがそんな物は無視してルンルン気分で通りを歩く私は重大なことに気づいてしまった。
「大変だアックスさんっ!」
思わず立ち止まり振り向きざまに叫ぶ。
「どうしたリリィさん」
「私達は今ドコに向かってるんだ!?」
そんな私の叫びに。
「そんな事だろうと思ったよ、ほらあそこにおっきなお屋敷があるだろ?あそこのご主人が丁度今から行く阿蘇方面のクエストくれるんだよ」
さくっと答えてくれるアックスさんマジ使えるガイドブック。
「くえすと?ふ、知ってるぞあれだな平たく訳すとお使いだな!」
「そうそう“リリィのはじめてのおつかい”ってわけだ……なんかあれだな」
「どれだな?」
「えろいな」
「死ねばいいと思うな」
そんなもう定番となりつつあるお喋りを繰り出しつつクエストを受けに行く。まあ簡単に言うと荷物を届けてほしいという簡単なクエストだった、のだが。
「荷物って、私には馬にしか見えないんだけど?」
「まあ馬だな」
「やっぱりか……んでどうやって持ってくの?」
「持ってくって言うより乗ってく?」
いや、さっきは白馬の王子様とか言っちゃったけどさ、いきなり馬に乗れって言われても、ってあれ?
「ねぇ一頭しか居ないんだけど?」
「ん? 二人乗っても大丈夫だZE」
ほほう、なるほどそれならアックスが乗れればなんとかなりそうだな。
「アックスは乗れるんだよね?」
「ふ、任せなさい伊達にレベルカンストしてなかったZE」
なんか変な喋りだけどまあ大丈夫そうだ。
「んじゃ早速行きますか~」
「おー」
と勢い勇んだのはいいのだが。
「どうやって乗ればいいの?」
「そこに足をかけててりゃーって感じかな? システムのアシストかかるから乗るだけなら大丈夫だと思うけど」
なるほど流石ゲームだ至れり尽くせり。
「そんじゃぁよっこりゃしょっとっーー!」
掛け声一発勢い付けてまたがってみるが何やら後ろで、ブフォッ! と変な声? がした。
「どうしたの?」
「いやいやいやなんでもないですよ?」
目をそらされた。ん~と思って考える……ぁ~。
「やっぱり青だよね」
「……お、おう」
「コレがあなたが望んだチラリズムね」
「なんか格好良く言われてるけど責められてるの俺?」
「いや~べっつに~。もっと見たい?」
「お父さんはそんな破廉恥に育てた覚えはありません!」
「はいはい紳士紳士」
「はぁ、まあいいけどさぁ、んで前と後ろどっちがいい?」
「ほえ?どういうこと?」
「えーとだな、俺の前に座るか後ろに座るかだ、ちなみに後ろに座ると俺の背中しか見えないと思う」
「つまり私がちっこいといっているんだな!」
「いやお前はでっかいほうだと思うけどさ、あぁ背がな「どういう意味の補正かな? かな?」黙秘します、でだ、前だとちょっと窮屈かもしれない」
「何で窮屈なの?」
「んー漫画とかで見たことないか? こう後ろから手綱握るからお前に抱きつくような感じになるんだよ」
あーなんか見たことあるな! ん~。
「ちなみに後ろだとお前が抱きつかなきゃならない」
私が抱きつく→おっぱいが当たる→またちっさいいわれる→私が悲しい。
「前が良いっ!」
「お、おう何でいきなりそんなに怖い顔になってるかわからんが。まあいいや、んじゃ俺も乗るかなっと」
そう言うやいなや軽やかな動作で私の後ろにまたがる。
「んじゃ失礼しますお姫様」
「うむ苦しゅうない」
アックスが手綱を握り馬に支持を出す。
「んじゃいくぞ~はいよーシルバー」
「いやシルバーじゃないしっておおう!」
何やら古典的な掛け声とともに走りだした馬はそれはそれは。
「何これすご~い!! はや~い! ゆれる~おもしろ~い!」
馬上から街の景色が後ろに流れて行く様は車に乗っている時とは違いすごく爽快だった、バイクってこんな感じなのかなぁと車で通学してる時にたまに見るバイクの事を思い出す。
「バイクに乗ってる人の気持ちが何となくわかるかも~」
雨の日にバイクに乗ってるのを見て何で車に乗らないんだろう? と思った事もあったが成る程コレを知ってしまうと納得してしまう。そんな私の問とも言えない言葉に。
「あ~確かに感じは近いなぁこんなに揺れはしないけどな」
と上から答えが帰ってきた。
「アックスってバイク乗ってるの?」
「おー乗ってるZE」
「へ~今度乗せてよ」
「機会があったらな」
楽しみだな~と思ってみたがよくよく考えると現実のアックスの顔どころか本名も知らないのに何を約束してるんだろうとちょっと面白くなった。あ、顔は一緒なんだっけ?
「あははは」
「どした?」
「ん~たのしいなって思っただけ」
「そっか最高だろゲームって!」
「うん!」
そう、この時はあんなことが起こるなんて思わなかった……ずっとこの楽しい時間が続くと思っていた。