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ファンタジークエスト  作者: 里山
二章 そして三ヶ月後また彼女は出会う

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21/52

くえすと18 美味しいよ!

あとがきに追記が増えましたん







 

 全くもう。ホントに兄さんは昔っから変わってないんだから。

 そう、私の兄は昔からあんな感じだった、親しい人相手にはとことんからかったり変なことをしたりするけどその実細かいフォローを入れたりしてくれる。それと人に努力を自慢しなさすぎる、だから周りの人は気づかない、気づくのはごく一部の親しい人だけ、だから兄の評価は綺麗に別れる。仕事を始めたばかりの頃私の学費等を稼ぐ為にアルバイトをしていた時だって飲み会の誘いに全く乗らない兄を上司や同僚が最初は“付き合いの悪い奴”だと陰口を言っていたらしいが、とあるきっかけで仕事が終わった後にアルバイトをしてるのが周りにバレてしまいその理由を吐かされ最終的には所属部署の皆から何かと心配される状態になってしまった。

 まあ後から会社の人に教えてもらったのですけどね、突然OLのお姉さんたちが家に押しかけてきたときは、兄さんがついに彼女を作りしかも修羅場にになったのかとワクワクしたのだが実際はアルバイトがバレて理由をごまかしきれそうもなかったので話したらしい、それで吹っ切れた兄が部内のOLさん達に色々と私のことを相談しちゃったらしく、お姉さんたちにどんと任せなさいと家に押しかけてくる羽目になってしまったわけである。お陰で兄さんの仕事ぶりやアルバイトの件が私にバレたんだけどまあ気づかないふりをずっとしていた。リリィさんもあんな風だけどさっきのリザードマンだって湧いた瞬間に撃ち抜いてるし兄さんの事をちゃんと見てくれてる……少し寂しいな、昔は私だけが知ってた兄さんの良い所だったのにな。

 そんな事を考えながらも私の薙刀は灼熱の朱を写しながら敵の体を引き裂きスキルの硬直を狙いすましたかのようなリリィさんの射撃がとどめを刺す。 

 ――ちょっとここで簡単な経験値配分の話をすると、このゲームは一風変わった経験値配分をしていてプリーストはもれなく敵の経験値の二割を貰えプリーストが二人以上の時はそれを人数で割った分が配分され攻撃職は敵に与えたダメージによって分配されます。ですのでトドメを誰が刺そうとボーナスなどは入らないです、ボスにいたってはラストアタックボーナスで経験値とアイテムが貰えたりしますけど。そういった経験値配分なので支援職以外は働かないと経験値はもらえないということに成ります。ですがこのゲームのプリーストと言うのは支援用の杖を持っているキャラクターという事になりますので本来攻撃職のキャラに杖だけ持たせても経験値は入るのですがそれだと“戦ったことのない高Lvの戦闘職”という不思議なプレイヤーが誕生してしまいます。そしてそういったプレイヤーは大体が使いものにならないのでPTではお荷物扱いされたりします。なのでこのゲームではそういったLv上げは余り行われないようです――


「アォォォ!」

 と私の隣で敵のヘイトを稼いでいたクリスが急に吠える、何事かと思いつつも目の前の敵に最後の一撃の突きを放ち粒子となって消えたのを見届けそちらに振り向くと。

「なんですかあれ?」

 もふもふのクリスの毛並みの先に見えるのはさっきまでクリスがヘイトを稼いでいた〈リザードマン・ファイター〉が二匹そしてその奥の溶岩の池が盛り上がり中から深紅の強大なゴーレムが現れはじめています。

「〈Lv50 クリムゾン・ゴーレム〉」

 そう呟いた私の横に二体のリザードマンに矢を放ちながら駆け寄るリリィさんと。

「やっぱこいつかーいつ見てもあつっ苦しいなぁ」

 そんなことを言いながらトテトテと走ってくる兄さん。

「ねえ超硬そうなんだけどアレって矢刺さるの?」

「さぁ? 今までアイツとやった時に弓使いなんて仲間に居なかったし」

「デスヨネー」

 ボケーッとその巨体を眺めながら言うリリィさんの言葉に「がうぅ」と力なくクリスも答える、多分噛み付き攻撃などの近接攻撃しかできないクリスもどうしたら良いのかわからないのでしょう。と言いますか凄いAIだなぁと横にいるクリスの頭を掻きながら思う。

「まあ危なくなったら俺も手を貸すからお前らだけでがんばってこーい」

 そう言ってやる気なさげに手を振る兄さんだが頼りになるのは事実である。リアルでもゲームでも私は兄さんの言うことなら信じられる。だからこそ、ここは精一杯楽しむ。

 薙刀を構え敵を見据える。敵の大きさは身長五メール弱、腕の一本は私の体とほぼ同じ、救いは人型ってところくらいですか。

「行きます」

 静かだが気合を込めた声とともに私は一気に加速する、後ろは気にしない、雑魚は兄さんがどうにかしてくれるしリリィさんが誤射するはずはない。そう、兄さんが“途中で溜めが入った後に更に連撃が入る技は使うなよ誤射されるからな”と言った以上“それ以外なら大丈夫”という事だから。

 ゴーレムが池の中から広場に出てきたおかげで二〇メートル強まで詰まっていた距離を一息で駆け抜けまずは足に一撃を入れて様子を見ようと通常の突きを叩き込むがガキィン! という音と共に弾かれる、そしてカウンターとばかりにゴーレムの右腕が振り下ろされる。それをバックステップで難なくかわした所に更に追撃をしようとしたゴーレムの顔にガガンッと矢がヒットし視線がそれる、リリィさんの矢は効いてる? あ、そういうことですか。 

「リリィさん5秒くださいっ!」

「りょーかいっと」

 返事と同時に放たれた矢によってタゲが完全に移ったのかゴーレムは私を無視してリリィさんの方へ向き直りその場で腕を振りかぶる、何をするのか不思議に思いつつ私は四次元ポケットからあるアイテムを取り出したところでゴーレムが唸りを上げながら腕を振りぬいた。

 ッゴ! っと言う空気を切り裂く音共にゴーレムの腕の先、拳の部分がリリィさん目掛けて放たれる。

「リリィさんよけてっ!」

 叫ぶとほぼ同時にゴゴーーン! と響き渡る着弾音、それに伴い湧き上がる砂煙を呆然と見つめる私の耳にゴガンッ! という着弾音が響きゴーレムが一歩後退する。慌てて周囲を見回した私の眼にクリスにまたがったリリィさんの姿がうつる。

「いのりさーん5秒たったよー」

「がおーん」

 のんびり叫ぶリリィさんとクリスに色々ツッコミたい気持ちを抑えつつゴーレムに向き直り先ほど取り出したアイテムをゴーレムと私の中間地点に放り投げ後を追うように踏み込み薙刀の切っ先でアイテムを切り裂きながらスキルを発動させる。

〈サウザンド・スプラッシュ!〉

 青白く光を放つ薙刀が十秒間に千回という速さでゴーレムを撃つ、先ほど弾かれた刃も今度は弾かれない、それどころかゴーレムの足を少しずつ削っていく。種を明かせばさっき切ったアイテムは武器に属性を五分間だけ付与するアイテムの一つ〈アイシクル・ポット〉と言って寒い地方のモンスターを倒すと比較的よく手に入るアイテムです。

 ガガガガガガガガガと響く音の隙間にズガガンズガガンと言うリリィさんの射撃の音が重なる、どうやらこの技の意図がわかってくれたらしい、この〈サウザンド・スプラッシュ〉は技の派手さとその説明から凄いダメージを与える物と初見では思うのだが実際は全然強くない、むしろ通常攻撃を何発か入れたほうがダメージは大きいはずです。しかしこのスキルには一つだけ他のスキルにはない素晴らしい効果があります、それは“このスキルがHITしている間の十秒間は動きが取れない”という事です。もちろん使用者も動けないのですが逆に動かないから間違って味方の攻撃が当たる可能性が激減するというわけです。

 え? そんな便利な技使いまくれば楽勝ですって? そこはちゃんと考えているようでこのスキルのクールタイムは他に類を見ない五分なのです。

 ガガガガンッ! と最後の突きを繰り出して硬直する私に耐性があるのか既に硬直から抜けだしたゴーレムの左腕が伸びる、まずい掴まれる、と思ったその瞬間私のすぐ横をゴバッ! っと空気を切り裂いて通過しゴガン! とゴーレムの足に突き刺さりそのままゴーレムの片足だけをノックバックさせる。

「え?」

 察しの良い人ならわかりますよね…前かがみになっているところ片足を後ろに急にはらわれた二足歩行の物体がどうなるか、そうゴゴゴゴゴという軋み音を発生させながらゴーレムが私目掛けて倒れてきました。

「ちょっとまってええええええええええ」

「あ、ごめーん」

 何やら後ろの方から軽い謝罪が聞こえるが今はそれどころではない硬直が解ける瞬間を今か今かとコンマ単位で待ち硬直が解けた瞬間目の前のゴーレムの足が払われて出来た何もない空間に向かって突進技を繰り出す、間に合えっ! という気迫とともに発動したスキルで十数メートルを一気に滑走して止まると後ろからズズズン! と言う響きが聞こえて来た。

 はぁ、と一息つく暇もなく踵を返した私は全力で倒れたゴーレムのもとに走る、その間にもリリィさんが遠距離から着実にゴーレムのHPを削っている。

「はぁぁぁぁっ!」

 と言う気迫とともに倒れたゴーレムを足場に一気にジャンプする私に合わせてリリィさんの攻撃が止む。そこにゴーレムの首筋目掛けて今私の覚えている最強の技を発動する。

「〈Lv63フラッシング・ペネレイト!〉」

 薙刀スキルは見栄えの面からかこのゲームでは殆どが連撃スキルに成っているのですけど先ほど使った技〈ペネレイト〉の系列スキルは単発の突進技なので当てやすい事で有名なのですが見た目が地味なのであまり好んで使う方は居ないです。まあ元々槍用スキルなのでしょうが無いのですが。でも私はその使い勝手の良さに惚れ込んで多様してきたためLvがかなり上がっているので便利です。じゃあなんで頻繁に使わないのかというと……スキルが発動した私の体はそのLv補正とジャンプからの発動で落下補正もついて凄まじい加速をしながら一瞬でゴーレムの首に刃が突き刺さりそのまま貫通し私の体がゴーレムにぶち当たってスキルがキャンセルされるまで突き進んだ――そう、このスキルは貫通属性の攻撃でLvが低いうちは刃の先がちょっと刺さるだけなのですけどだんだんとそれが深くなり刃と言うか柄の部分まで刺さるようになり最終的には重量が軽い敵の場合敵と一緒にスキル終了ポイントまで滑走することに成ります、そしてその一撃で敵が死んでない場合その状態から敵の攻撃を食らうことがあるのであまりお勧めされないスキルとなってるのです、あと使いドコロを間違えると崖から落ちたりして非常に危険ですので場所をちゃんと確認してくださいね、とwikiには書いてあります――そんなこんなで私はこの技を多用したくても知らないダンジョンなどでは多用できないのです、と光の粒子となって消えていくゴーレムの上からずり落ちたものの勢い良く硬いゴーレムに衝突したことで適用されたスタンエフェクトの星を頭の上にクルクル回し大の字に横たわりながら思う今日この頃です……。

「う~ん」

 と唸りながら大の字に寝たままぼーっとしてるとクリスがトテトテと近づいてきてペロペロと頬を舐めてくれます。

「あはっくすぐったいですよ」

「お、生きてる生きてる」

「だいじょうぶ~すっごい音したけど? それとさっきはごめんなさい足を壊そうと思ったんだけど弾いちゃった」

 そんな事を言いながら手をあわせて謝ってくるリリィさんに。

「いえいえ初見なんですからそういう事もありますよ」

 と返す頃にはスタンの効果も切れゆっくりと立ち上がる、ぱたぱたと巫女服をはたいていると――ホコリとかはつかないので気分なんですけど――クリスが私の薙刀を咥えて持ってきてくれた、それを受け取り頭をかいてあげると嬉しそうに「ぐるるる」と唸る。可愛いなぁそこでふと思い出す。

「あの! リリィさん」

「なに~?」

 何故かパンをかじりながらそう答えるリリィさん……攻撃受けてましたっけ?

「先程クリスに乗っていたいたように見えたんですけど、だれでも乗れるんですか?」

「あ~あれ? ん~どうなんだろう他に乗ってる人見たこと無いからわかんない」

「え? 兄さんは乗れないんですか?」

「あー……それはねぇ」

 そう言ってきまり悪そうに兄さんの方をチラっと見るリリィさんの目を追って見ると。

「……」

 更にきまり悪そうに遠い空の彼方を見上げて星が綺麗だなぁとか言ってる兄さんが一人……いやまだお昼ですよ兄さん。

「試しに乗ってみる?」

 とリリィさんから促される。

「良いんですか? というか大丈夫なんですか?」

「う~ん神のみぞ知ると言うかクリスしだい?」

 その言葉に一瞬怯むも別にリアルで怪我をする訳ではないし痛くもないんだからと。

「乗ります! いえ乗って見せます!」

 そう言って私は薙刀を兄さんに押し付けつつ――装備できないだけでPTメンバーなら武器を持ってもらうことは可能です――クリスに歩み寄る……あれ?

「あの、手綱も鞍も無いんですけどどうやって乗れば?」

 そう、馬と言うか何か動物に乗るときにだいたいついているものが何もついていないクリスを前に立ち尽くし問いかける私に。

「なんて言うかこう、とりゃーって感じで乗って毛をつかめばいいよ」

 凄いアバウトな返事が返ってきました。とりゃーって、はぁ、つまりは気合と根性ですねわかりました。

「とりゃー!」

 そんな掛け声とともに飛び過ぎないようにジャンプ一発クリスの背中に飛びつきしがみ付く、そこからもふもふの毛を頼りにポジションを調整しなんとか背中に座ることに成功する。

「の、乗れました! リリィさん乗れました! ほら兄さん乗れましたよ!」

 とはしゃぎながら兄さんの方に視線を向けるとさっきより落ち込んだ様子で。

「いいもんどうせ俺は乗れないもん」

 と何やら私の薙刀で地面に文字を書いていた……あのうあんまり変なことに使わないでくださいね耐久値減っちゃいますから。

「すごいね~、一回で乗れるなんて私も乗るように成るまで結構かかったのに」

 おお、そうなのですか飼い主のリリィさんでも難しいのかとクリスの頭を撫でながら感慨にふけっていると。

「お前はクリスがこんくらいの時から乗ろうとしてたからだろ」

 と兄さんの膝下くらい、つまり普通の成犬くらいの大きさを示す……いやリリィさんそれは無理でしょう。

「えへへ、いいじゃんお陰でクリスもこんなに頑丈に育ってわたしゃ嬉しいよ」

「どんな育成方針だよそれ、それにお前最初乗るとき伏せさせて乗ってたじゃないか」

「ふ、さすがアックスよく見てるわね」

「お前のことが心配なんだよ」

「アックス……」

 おぉ? 何やらいい雰囲気? とドキドキしながら眺めていると。

「あんたの場合、パンチラを逃すまいとしてただけでしょ」

「他に何を心配するんだいリリィさん」

 ダメですこの人早く何とかしないと……。



 



 何故だか冷たくなった妹の視線を感じながらリアルで言うところの大分市、ゲーム内で言うところの大分街に来ている。鹿児島は最南の街なのになんでこっちは普通に大分なんだ? と思ったんだけど他にいい名前がなかったんだろうな。

「おーなんか色々あるねぇ」

 さっきからキョロキョロと当たりを見回すリリィを道行くプレイヤーがコレまたチラチラと見ていく。そりゃ俺でも目隠しをしたコスプレ巫女さんがポニーテールを振り回しながら歩いていたらガン見しちゃうね。

「そうですね、アレなんか美味しそうですよ~甘夏ソフトクリーム」

「うわっ! ホントだ食べよう食べよう」

 そう言いながら女二人で走って行ってしまった。あ、ちなみにクリスは目立つし街中だとコレまたトラブルになりそうなのでアイテムカードにまた戻ってもらった。

「俺は何食べようかなぁ……おぉ、大分といえばコレかな、お姉さんこれ三〇〇〇〇マニー分ちょーだい」

「はいよー」

「ありがとー」

 ふっふっふ大分といえばこれだよなぁと揚げたての香りを放つそいつに齧り付く、外は衣がサクサクしていて中はジューシー、ゲームの中でもやっぱりコイツは美味いな! と感慨にふけっていると。

「アックス何食べてるの?」

「兄さん一人でずるいです」

 食べかけのソフトクリームを持ったままそうおっしゃる女性が二人……俺の分は無いらしいです、ずるいです。

「はぁ、お前たちの分もあるよほら」

「わーい流石アックス愛してる」

「兄さん大好きです」

「お前たちの愛は安いなぁ」

「んでこれ何? 天ぷら? にしてはなんか違う気も」

「良いからくってみろってイノリは知ってるよな」

「はい、でもこっちで食べるのは初めてなので」

 俺にそう促されリリィがおもむろに齧り付く、もっきゅもっきゅと言う効果音が聞こえそうな勢いで咀嚼して飲み込み一言。

「女将を呼べ!」

「黙れ」

 べちんと俺に頭をはたかれてからリリィが。

「何これ美味しい、鳥の天ぷら?」

「良くわかったな、とり天っていうんだ、流石普段いいもん食ってるだけはあるな」

「あんまりそれ関係なくない?」

「いやいや結構あるんだぜそういうのって」

「そう言えば昔から兄さん食べ物だけはお金かけてましたね」

「まあな」

「正確には私の食べ物だけでしたけど……」

 すっごいジト目で見られた。そういや昔それでこっぴどく怒られたな。と妹の視線をなんとかやり過ごしながら自分も食べようと袋に手を突っ込むと。

「あれ? 無い?」

「もっきゅもっきゅもっきゅもっきゅ」

「リリィさん? おいくつ食べているのかな?」

「もっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅ、ごくんっあー美味しかったぁさて食後のデザートに残ったソフトクリームをっと」

「まてまてまて俺の分まで食うなよ! てかイノリの分も食いやがって」

「いえ私は一つで十分なんですが」

「いやお前はいっぱい食べていいんだぞ、こっちで食べても太らないしな、だがリリィお前はダメだ! お前はいつも食い過ぎなんだよ! 返せよ俺のとり天」

「えー、いいじゃん私だって太りたくないからこっちで美味しい物食べたいんだよう?」

「お前はリアルで俺より食ってるのに太らないじゃねーか」

「アレは私の血のにじむような努力があってこそなんだよ!」

「ちなみにどんな努力してるんだよ」

「毎日腹筋三〇回」

「ふざけんなよっ! なんでそれでその体型が維持されてるんだよ! おかしいだろ! 何お前の胃袋異次元にでも繋がってるの?」

「乙女の秘密よ」

「凄いな乙女! あれか乙女回路がゼロか無限を刻んでるの?!」

「私はチェリー派だね」

「気が合うな」

「もう付き合っちゃえばいいのに」

「なんか言ったか?」

「気のせいです」

 何やらイノリの方から聞こえた気がしたけど気のせいのようだ。

「はぁ、もいいよもう……んでこれからどうする?」

 夕暮れの街並みを眺めながらそう切り出した俺に。

「ん~どうしよっか」

「私はそろそろ落ちて荷造りしようかと」

「そっか、んじゃまた今度な」

「はい、じゃあお疲れ様です」

「おっつかれさまー」

 軽く挨拶を交わして光の粒子となって消えていくイノリを眺めた後改めて聞く。

「んでどうする?」

「ん~流石にキツイから一回寝よっか?」

「でも明日平日だぞ? 時間大丈夫か?」

「それもそうだね、じゃあ落ちようかな」

「てかお前そろそろテストじゃないの?」

「そろそろっていうか今テスト期間だよ?」

「……え?」

「え? って、だから最近宿題見てもらってないじゃん」

「……え? それで大丈夫なの?」

「テストなんて日頃勉強してれば問題ないでしょ?」

「それはそうだけど」

「大丈夫だって中間テストだってあんたのお陰で点数伸びたんだし今回も期待してていいよ」

「そなの?」

「先月お寿司食べに行ったじゃんあれ成績上がったお祝いだよ?」

「あ~連れてってもらったなぁ問答無用で連れて行かれたから理由聞きそびれてた」

「あ~あれね、お父さんが“あいつのお陰で成績が上がったなんていうと調子に乗るから何も言わないでおこう”とか言ってたわよ、その割にはちゃんとご馳走するところが可愛いよね」

「専務を可愛いっていうのはお前と留美さんだけだな」

「あんたが言ってたら気持ち悪いしね」

「……お父さんって可愛いよね」

「やっwwめwwwてwwww」

 お腹を抱えて笑い出しましたよ。ふう、この位にしておいてやるか。

「んじゃ落ちるか」

「う…ん…ふぅ、やばかった」

 額の汗をぬぐいつつメニューを呼び出しログアウト待機に入るリリィを眺めながら俺も待機に入る。

「んじゃおやすみ」

「おう、おやすみ」

 そう言ってほぼ同時に光の粒子となって消え暗転する世界。



 体に感じるエアコンの風に目を開け枕元の携帯端末を手に取る。

「ちょうど0時か、あっちで15時間ってトコか」

 う~んとベットの上で伸びをするとコキコキとあちこちから音がする、フルダイブの唯一の欠点はダイブ中リアルの体が全く動かない事だろう、何故それが欠点かって? 寝返りが打てないので体が色々やばくなるのだよ、まあそれを解消するためにゆりが使ってるような高機能シートも売られてるんだけどめちゃくちゃ高い……まあこのベットも俺が前使ってたのに比べれば遥かに楽なんだけどな。

「取り敢えず小腹がすいたな何か無いかなぁ」

 フローリングの床をぺたぺたと歩きドアの隙間から家の様子をうかがう。だがしかしこの家は外からの音はもちろん部屋どうしの音も完全シャットアウトなので全然音が聞こえない。唯一リビングの廊下側だけが音が漏れる仕組みになっているが何の音もしないところを見ると留美さんも自室に戻っているようだ、ちなみに今日は専務は出張で外泊だ、なので俺は迂闊なことはできない。なぜならば専務に直接不審な行動を見られた場合だと身の潔白を説明するのは簡単だ、何もやってないのだからな! だけどこれが留美さんフィルターやゆりフィルターを通ると普通に部屋を尋ねただけで「昨日の夜茂さんがお部屋に来てくれたの」全く他意はないがどう聞いても俺が夜這いに着てるようにしか聞こえない、ちなみにゆりの場合「シゲっちが色々教えてくれるの」もちろん勉強ですよ? つまり専務早く返ってきてください……。

 そんな事を考えつつ慎重に足を進めリビングにたどり着く。ちなみに一階に専務と留美さんの寝室と客間やリビング等があって二階にゆりの部屋、俺は客間を借りてるんで一階に住んでる。なのでリビングは割りと近いが、まあ家自体が広いので近いといっても普通の家の廊下の端と端くらいあるんだけどねっと。静かにリビングのドアを開け電気をつけて再び締めようと後ろを振り向いた俺の目に飛び込んできたのは。

「おなかすいた」

 そう言って値段は高いのだろうけど見た目がウニクロちっくで野暮ったく見える不思議な白いパジャマを着て立ち尽くすゆりの姿が!

「………さいですか」

 そういってぺたぺたと冷蔵庫に向かうゆりさん十六歳テスト期間中の花の女子高生。気を取り直してドアを閉め俺も冷蔵庫にぺたぺたと近寄る、ちなみにこの家では皆部屋の中では裸足である、汚いと思う人もいるだろうがこの家でそれは通じない、なぜなら留美さんが毎日床掃除をやっているからである、それも匠の技レベルで。どのくらい凄いかというとゆりが偶にミニスカートを履いていると床に写ったパンツが見えるくらいといえばわかるだろうか! ちなみにパンツを見ようと床を凝視していると俺の足が腫れ上がったりするのであまりお勧めしない、更に補足としては学校のスカートは長いのでパンツ見えない……。

 ガサガサと冷蔵庫の中を漁っていたゆりがリンゴを握りしめ。

「これくらいしか直ぐ食べれるのないなぁ」

 そう言いながらそのまま丸かじりしようとする。

「まてまてまて、りんごの汁がパジャマに飛ぶだろ切って食べろよ」

「ふ、愚問ね」

「わかったよ俺がやるからかせ」

「さすが相棒ね」

「普通逆だろこれ」

「あらやだシゲっちがまさかそういう思考の持ち主だとは思わなかったわ」

「どうにかして自分を正当化しようとしてるな」

「気のせいよ」

「まあ良いけどな、結婚するまでには少しはできるようになっとけよ旦那に成る奴がかわいそうだから」

「料理好きな男を見つけるわよ」

「いるといいな、ほらできた」

「おー、うさぎさんだ、シゲっちは器用だよねぇシャクシャクシャク」

「ふ、昔莉乃にせがまれてな練習したんだシャクシャク」

「いいお兄ちゃんだな」

「ふ、それほどでも」

「変態じゃなければな」

「男は皆変態だ!」

「なにそれ、さも俺だけじゃないんだぜ! 的な」

「お前も彼氏ができたらわかるさ」

「いや私変態と付き合わないし」

「ふ、付き合ったあとに気づくんだよ! 男は皆変態ということにな!」

「もういいわよ、はぁシャクシャク」

「シャクシャク」

「しくしく」

「シャクシャ…ん?」

 何か今聞えたようなと音がした方、リビングの入口を二人で見てみると。

「お母さん何やってるの?」

「トイレ行こうと思ってお部屋を出たら声が聞こえたから来てみたら二人で楽しそうにお食事してるから……いいのよ私はのけもので、二人で仲良く食べるといいわ」

 そんなことを言いつつ悲しそうな顔をする留美さん……外見とのギャップが激しすぎる光景に頭痛を感じつつ。

「はぁ、留美さんも一緒に食べましょうよ」

「そうだよお母さん何遠慮してるのよ、遠慮しないといけないのはこの居候なんだから」

「お前は人の剥いたりんごを頬張りながらよくそんな事言えるな」

「だがリンゴはウチのだ」

「ごめんなさい美味しいです」

「わかれば宜しい」

「息ぴったりね」

「なんでそこで嬉しそうなのお母さん」

「おっきい息子ができたみたいで」

「いやそこは弟とかにしてくださいよ」

「弟だと結婚できないわよ?」

「誰とですか誰と」

「え?」

「え?」

「え?」

 そんないつもの夜が過ぎていく……いや、ゆりはホントに勉強大丈夫なのか?

サブタイもう無くていいんじゃないかな?

と皆様お思いでしょう、作者が一番思ってます。



追記

今更ながら外伝と言うかなんと言うかを一つアップするのを忘れていた事に気づいた訳でして……来週更新する時にでもこっそり放り込んでおきます。

特に読まなくても大丈夫なヤツです。


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