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仁義なき側室  作者: モーフィー
番外編
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道中で②

「――そう言えばガーウィン殿、王兵は確か、質実倹約をモットーに掲げていると言いますよね? 民の税金によって自分たちは暮らしているのだからと」

「ええ、そうです」

「おまけに婦女子に優しく、民の模範となっていて、どんなに恐ろしい敵にも正々堂々立ち向かう。子どもたちの憧れの職だと聞きます」

「恐れ入ります」


 変わらずガーウィンは謙虚に、そして素っ気なく言った。しかし、罠には着実にはまったとクリスティーナは心の中でほくそ笑む。しかし、下品な表情は表に出すことなく、寧ろ無邪気に若い王兵に微笑みかけた。


「それでは、私の勘違いだったのかしら? 数年前のあの『テューボスのダイヤ事件』って、実は王兵が裏に絡んでいると聞いたのですが全く違いますよね。王兵がそんなことに関わっているはずはないですわよねー?」

「何?」


 彫刻のように固まっていた彼の顔が動揺した。


 『テューボスのダイヤ事件』


 その事件を王国で知らぬ者はいない。

 数年前、最高峰のダイヤ、通称女神テューボスの涙と呼ばれる国宝が盗まれた。事件は難航を極めた。当時の目撃者はなく、テューボスのダイヤに何かしら関係があるものには完璧なアリバイがあった。それでも王国の警察の役割をもつ王兵は粘り強くダイヤの行方を捜し、ついにダイヤが裏組織に盗まれたという事実を掴む。

 民の声援を背に彼らは裏組織抹消を誓い、そしてそれを果たした。結果的に同時に市民は見えぬ恐怖から解放され、王兵達の株が上がった。


 けれどもクリスティーナは言外に匂わす。この事件は実はでっち上げで、王兵地位向上のため行った余興だと。


「そうよね。私、実際に模範的な王兵を見たらそんな下劣なことする人たちじゃないと分かったもの。私のお馬鹿な勘違いだわよねー」


 クリスティーナのだめ押しに、若い王兵長は冷や汗を流す。


 ビンゴである。


 『テューボスのダイヤ事件』の裏は、何年か前、彼女が細かすぎる情報網を駆使して、また直感力を悪用して偶然発見した事であったが、他国に流してしか利用価値のない情報であった。ブラックリストにいれていたものであった。まさかこういう形で役に立つとは思わなかった。


 この事件の裏がばれたら、王兵達は責任の信用は地に墜ちるだろう。


「まあ、ガーウィン殿。顔色が悪いわ。窓を開けましょうか」


 艶やかに黒い髪をなびかせ、外の風景を眺めながら鼻歌を歌うクリスティーナとは対照的に、明らかに頭に黒い雲が漂う彼は低い声で言った。


「おまえ、何が望みなんだ…?」


――まあ、言われればそういうふうになるわよねー。それにしても一気におまえ呼ばわりか。


「別に何にも。ただ、あなたがちょっとお姉さんの話し相手になってもらえばいいなあって。満足すれば、きっとこの口は誰にもこのことを言わないでしょう」


 茶目っ気たっぷりにウインクしてみれば、ごくりと、目の前の男が唾を飲んだ。まさにクリスティーナの思うつぼである。


 今のこの時の二人の姿、知らぬ者が見れば、情け容赦ない美しい魔女とそれに果敢に立ち向かおうとする一人の男という構図が描けるだろう。


 サディスティックなお姉さまと純朴な青年の秘密のお話という桃色のイメージを浮かべて興奮しているのはクリスティーナだけである。


「手短に言ってみろ。ただし、答えられないことは黙秘で通す」

「まあ、会話は言葉と言葉のキャッチボールよ。あなたも楽しまなくては」


 思わず漂ったぴりぴりとした空気に隣でぐっすり寝ていた侍女が感電したように身を震わす。


「私はね、陛下のことが知りたいの。どんな食べ物が好きで、何が趣味で、どんなことをしてお休みの間過ごしているのかしら。別に女一人がそれを知ったからといって国益とか損するものじゃないでしょう?」

「…先に後宮にいる側室方も陛下のことをあまり知らない。情報は皆に均等に与えられなければならない」

「それじゃあ、陛下が後宮に立ち入らないという話は本当なのね?」


 短い沈黙が肯定を意味していた。この若い王兵の沈黙は図星だということを覚えておこう。喋らなくても語ってくれるものだ。


「よほど女の人が嫌いなのかしら?」


 これは先ほどの問いかけよりも更にストレートに、陛下は男色ですか? と言ったつもりである。その意味を正確に受け取り、目の前に座った王兵団長、ガーウィンは先ほどまでかぶっていた上品な面をすっかりはずし、顔をしかめた。


「おまえ、自分が何言っているのか分かっているのか?」

「そのつもりだけれど?」


 性別の垣根も越えた愛も素敵だと思う。


 ため息を付いてガーウィンは言った。


「おまえが側室じゃなければ、絶対島流しだぞ」

「何か言ったかしら。ああ、私の口が今にも王兵達の『秘密』を叫んでしまいそう」


 青年は、これから彼女に会う人のためにも国のためにも『危険動物』という紙を貼ってあげたい衝動を抑えた。



続きます

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