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仁義なき側室  作者: モーフィー
番外編
5/48

道中で①

 クリスティーナ出発当日、天気は良く晴れていた。舗装された石畳では花かごを手に領民が集まり、美しい令嬢の花嫁姿を今か今かと待ちわびていた。


 そのころ、クリスティーナは最上級のドレスを纏い、王都までの護衛と顔合わせをしていた。三人とも王の直接支配下にある王兵であるが、軽装姿の男達だ。


「右から、ニール、ヨーダン、ガーウィンだ」

「どうぞ、よろしくお願いします」


 大輪のユリのように美しい令嬢が優雅に礼をしても顔を変える者はいない。さすがは王兵である。


 クリスティーナは城の歓声を片手に意気揚々と侍女と供に馬車に乗り込む。彼らの一人が同じ馬車に乗り込み、後は後ろの馬車に乗り込んだ。


「クリスティーナ様、おめでとうございます!」

「王都へ行っても御達者で!」


 馬車から顔を覗かせた令嬢に領民は熱狂した。白い衣装に包まれた彼女はまるで女神のように気高く美しかったからだ。

 領主達、家族は領民達とは違い、その容姿の裏に隠された性格を知っているため、素直に喜ぶことは出来ないが、嬉しいことには違いない。


 クリスティーナも舞い降りる花吹雪にすっかり夢心地である。


「まるでお姫様みたいね…」

 小さい頃に見た絵本ではこうしてお姫様は幸せになりました、となるはずである。それは正しい。国王が素敵な殿方であれ男色であれ、周到に準備を重ねてきた私にはおとぎ話のように甘く、春画のように壁のない素敵な恋がきっとできるだろう。


「出発します!」


 クリスティーナのはやる心を知ったように馬たちは軽快に走り出した。




 ゴドフリー領から王都までは早馬なら二日はかからないが、側室の馬車となればそういうわけにはいかなかった。荷物やら侍女たちやらで大移動となっているし、早めに宿を取る故でもある。結局の所、進みは亀の足であり、七日は余分に見積もらなければいけなかった。



 国土の広い王国では一日ごとに馬車から見える景色は違う。馬車にいる間は物なれぬ景色をネタに侍女とおしゃべりをしたり、道々の特産品をつまんだりして過ごした。

 しかし、それも三日も続けば飽きてくる。見える景色が違うのが当たり前になり、ウエスト周りの配慮のため特産品はお預けとなった。


 つまり、馬車旅は結構暇なのだ。


 クリスティーナと共に興奮していた若い侍女も隣でうつらうつら船を漕ぎ始めたとき、クリスティーナの暇つぶしは、目の前の珍しいヘーゼル色の瞳を持つ無口の王兵に定まった。

王兵達は陛下の側室となる令嬢に情を育まないようにと、極力クリスティーナと口を利かない。クリスティーナとしても、別段それで構わなかったのだが、この暇な時間を潰すためには仕方がない。


 クリスティーナはトントンと窓枠を叩いて注意を引く。


「ねえ、あなた、ガーウィンと言ったわよね。国王陛下のお知り合いかしら?」


 彼はいきなり話しかけてきた側室に驚いたようだが、短く頷いた。


「陛下の護衛をしています」

「あら、そうなの」


 これは好都合だ。クリスティーナの頭脳の一部でもある情報網でどこを探っても全くつかめなかった国王のことが聞き出せるかもしれない。国王のことが早めに分かれば、それだけ次の準備に手が回せる。


「まあ、それでは王宮でもまたお会いになる機会がありそうですね。どうかお見知り置きを。――ねえ、陛下はどのような方なのでしょうか」


 しかし、赤毛の青年は美女の質問にもぶっきらぼうに応えただけだった。


「それは私の口からは何とも言えません」

「まあ、そんなことを。愚かしいことに私は陛下についてその賢政の手腕より他、知っていることが少ないのでございます。陛下の御身をお守りしているあなた様なら陛下の身辺のことを知っていることもあるのではないかと」


 陛下の身辺、つまり、陛下は男色ですか? とはストレートに聞けないので、一番遠回しの方向で聞いてみる。


「いいえ。そんなことはありません」

「御謙遜を。若いのに陛下の護衛をしていることが何よりの証拠でございます」

「私はただの陛下の下僕ですから」


――下僕? 彼は国王とそういう関係なのかしら


 何てことない言葉でもクリスティーナのフィルターを通せば桃色に染まる。


 この後、クリスティーナが何度、探りを入れても彼は短い返事を永遠に繰り返すのみである。浮かんだ彼と陛下の恋人説は彼のあまりにも素っ気なさ過ぎる口調によってすぐに消えた。想い人への口調は、隠してもどこかしら甘さが潜むものだからだ。


 会話によって、得られた情報は、このガーウィンという男が三人の王兵の長であるということ、それだけであった。


 それにはさすがに海よりも広い心の持ち主であるクリスティーナでも不愉快となる。情報が少なすぎる。どこかで切れ目をいれない限り円のように続く、このつまらない会話を進展させるには隠し持っていた爆弾を爆発させるしかないと思い至る。


 クリスティーナはおもむろに自分のつやつやとした爪に目を向けた。



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