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仁義なき側室  作者: モーフィー
番外編
39/48

真実①


 結局、ガーウィンは不機嫌になっているクリスティーナにグチグチと言われ、更に言葉による折檻を受け、もう少しで男としての印も奪われそうになった時、ようやく部屋から脱走した。


 外ではティボルトが疲れた顔して待っていた。


「どうして、助けてくれなかったんだよ!」

「もうやられたのか?」


 宰相はもっている慈愛のオーラを総動員して親友に接する。先ほどのドレス姿が目に焼き付いているせいか、そのように振る舞えばまるで聖母のごとく見えた。


「もう男じゃなくても、おまえは立派な親友だ。あの婚約者殿にここまで立派に立ち向かってきたことは国中に銅像を建ててもおかしくない偉業だ」

「幸運なことにまだ大丈夫だ。――どうして、呼んだのに来なかったんだ!」

「誰だって自分が可愛い」


 その言葉にガーウィンは病んだ笑いを浮かべた。


「なんで俺が出てこられたか分かるか? 女装姿を見て男にしておくのはもったいないと、あいつの気が変わったからだぞ」


 今度はティボルトの顔色が変わった。その時、部屋から声が聞こえる。


「ティボルト殿ぉ。ガーウィンと一緒にいるのかしら? ガーウィンは調子が悪いようだからなんだったら、一緒にお茶しません?」

「…と、今から俺は仕事に戻らなければいけない。大丈夫だ、宰相殿。俺は君主だからといって臣下ばかりに仕事を押しつけるような王ではない。おまえはここでお茶でも飲んでゆっくりしておけ」

「ガーウィン、もしかしておまえ、クリスティーナ殿にふきこんで…」

「王命だ」


 そう言われれば臣下のティボルトは逆らえない。少しでも時間を長引かせようするガーウィンである。呆然としているティボルトからマントを取り羽織る。


「それじゃあ、――幸運を祈る」

「ティボルト殿、そこにいるのは分かっておりますわ! 疲れているでしょう? どうぞ遠慮せずに中に入ってくださいな」


 親友の必死の訴えを無視して国王は立ち去った。





 国王が寵妃であるクリスティーナ姫を遠ざけてまで、この数日間犯人逮捕の指示に当たったため、抵抗にあう前に首謀者を捕らえることが出来た。


 王は直々に王兵達を指示して、財務大臣の館を包囲した。そして、誰も逃げられない状態で本城へ突入する。何が起こったか分からない者や武器を持ち戦おうとする者。とりあえず、それぞれに相応の対応をする。


 資料押収や重要人物逮捕を捕らえ、城まで連行した。


 件の老大臣は自室で飄々と王兵達を出迎えたという。老体のため自分で立ち上がることが出来ないので輿で運ばせ、一室に監禁した。





 それから城は大にぎわいであった。国勢の維持に関わる多くの役人達が王の一言で拘束された。引っこ抜けば予想はしていたが反乱の根は広く深く王宮に張っていた。その多くの者は荷担していると自覚すら持っていなかったのだ。こんなことをよくも察知させなかったと感心するものの敵の力量を恐ろしく感じた。


 騒ぎは城だけではない。何かの糸が切れたように城下町でも混乱が起こった。豊かさ故、普段は穏和な国民だがあちらこちらで争いが起き、朝だけで死傷者はいつもの倍にのぼったと報告された。分からない恐怖に耐えかね多くの者たちが城の中庭に押し寄せた。




「――ガーウィン、大臣尋問と国民への粛正、どっちを先にする?」

「大臣の方だ」


 お茶会での暗殺事件の後、ティボルトはクリスティーナの部屋に連れ込まれ、次の朝、息も絶え絶えに生還した。反対にクリスティーナの肌はいつもよりもつやつやしていた。朝議に顔を合わせて、ティボルトがずっと側室と共にいたことを知っていた貴族達は何かあったのかと盛んに噂し、ガーウィンも少し気になり親友に確認を取ってみた。


 けれども、ティボルトはガーウィンが問いかけても数日間、口を利いてくれなかった。けれども仕事はこなさなくてはいけないのでなぜか筆談で会話をした。筆談の間でも何本もの羽ペンが時々込められる筆圧により駄目になったため、どんなに恐ろしいことがあの部屋で起こったのだろうと震えんばかりである。口は利いてくれなかったが、まだ男ではあるらしい。


 ようやく口を開いてくれた今日の日は親友の存在の大きさを改めて知った。


「大臣はとりあえず、身体を悪くしていると言うことから、それと配下の者がどういうことを起こすか分からないから、監禁はしているが手荒なことはしていない」


 ガーウィンは頷き、扉の警護に当たっていた王兵に合図した。


 大きく扉が開かれる。


 部屋の内装の豪華さは犯人を監禁するのには相応しくない。ベッドには今回の事件の首謀者である老大臣が寝ていた。しかし、ベッドで死んだように寝ている大臣は見れば、かすかに胸が上下することを無視すれば枯れ枝の束にも見える。実際、大臣の調子が悪いため、尋問は今日まで先延ばしになってきたのだ。それを示すように、病人特有の匂いが部屋を占めている。


「…財務大臣殿。オサリヴァン卿」


 乱暴に呼び起こすことはせず、ガーウィンは老人の肩に手を置く。隣でティボルトは突然の攻撃に備えて、身構えている。


 何度か呼びかけていると老大臣は落ちくぼんだ瞼をうっすらと開いた。


「…陛下」


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